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猫時々彼  作者: mia
本編
13/58

8.紫陽花のキミ(2)

 今年も夏が来た!と慌てるmiaです。


 着替え終わった祥子が玄関に向かうと、既に英がドアのそばで待っていた。

 祥子が姿を見せた途端、英が落ち着きなくうろうろし始めたのには理由が二つある。


 1つは祭りに早く行きたいから。


 そしてもう1つは、


 ――思いっきり頬を叩いたものね


 冷ややかに見下ろす祥子に、英は身を震わせる。

 祥子の気が変わるのを恐れているのか、灰色の瞳は反省の色に染められ、かつ潤んでいる。


 今更撤回するのも気まずいじゃない


 「…行くわよ、英」

 靴を履いた祥子がそう言うと英の尻尾が真っ直ぐに伸びた。

 「にゃあっ!」

 何を言っているのかは分からないが、上機嫌なことは鳴き声の調子で分かった。


 

 思ったとおり、屋台が並ぶ華宮神社の周囲は大勢の人がいた。

 あまりの混雑に圧倒されていた祥子は、はぐれないようにと英を抱えていた。

 英を抱っこする時「変な所を触らないでよ」と釘を刺しておいた為、英は微動だにしない。

 遠目からだと猫のぬいぐるみに見えても無理がないほどだ。


 だから言ったのに…


 事情を知る祥子は段々気の毒になってきた。

 「…ねえ、本当にこのままでいいの?お祭りに行きたかったんでしょう?」

 「にゃ!」

 てっきり落ち込んでいると思っていたのだが、予想と反して弾んだ声が返ってきたことに祥子は驚く。


 紫陽花祭に行くとは言ったものの、彼と屋台を巡るのは拒否した祥子。

 もし生徒に見られでもしたら、学校でどんな目に遭うかは安易に想像できる。

 そのことを話した祥子に彼はあっさりと

 『猫になって行くから問題ないよ』

 その言葉通り、彼は英に戻って祥子の準備が済むのを待っていた。

 彼はただ、祥子と祭りに行ければそれで良かったのだ。

 そうと知らない祥子は腕の中で大人しくしている英を複雑そうに見る。



 屋台を巡り歩いてしばらく経った頃、相変わらず人込みが激しい中をひたすら歩いていた祥子は突然横から声を掛けられた。

 「お姉さんひとりなの?俺らと一緒に周ろうよ」

 語尾に星でもつきそうな軽い言葉を受け、その星を流した元凶に顔を向けると20代後半の男が2人いた。

 祥子が苦手とする、同年代でいかにも軽そうなタイプだ。


 面倒臭いのに捕まった


 「お姉さん綺麗だね。かなりモテるでしょ?」

 げんなりとする祥子に、流れ星2人組(祥子が名付けた)は善人そうな笑みを顔に貼り付けて近寄ってくる。


 寄ってこないで


 祥子は顔をしかめて牽制しようと試みる。

 「猫の散歩のついでに来ただけです。長居する気はありませんので」

 はっきりと断った祥子は流れ星2人組を振り切って早足で歩き始めた。

 だが、

 「そんな冷たいこと言わないでさ。ちょっと付き合ってくれてもいいじゃん」

 流れ星A(祥子が適当に名付けた)が馴れ馴れしくも腕を掴んできた。

 「離して!」

 当然のごとく振り払おうとした祥子は英を抱えていた腕を緩めてしまい、英は地面に足をつける羽目になった。

 「あっ」

 軽やかに地面に降り立った英は素早い動きで人込みの中に紛れて行ってしまった。

 「英…!?」


 どこに行くのよ!


 慌てて追いかけようとしたが、流れ星Aに腕を掴まれたままでは不可能だ。

 「…いい加減にして。断っているのが分からないの?」

 「気が強いところも良いね。俺の好みだわ」

 流れ星Bは無遠慮に祥子の肩に手を回す。


 やめて


 背筋をぞっとするものが這う感覚に、祥子は言葉を失う。

 行き交う人々は祭りにはよくある事だと思っているのか、あまりの人の多さに気づかないのか、誰も助けてくれない。

 祥子は悔しくて情けなくて、唇を噛んで俯いた。


 助けてよ

 誰でもいいから

 誰か……!


 「ねえ」


 祭りの喧騒の中でも、聞き逃すことは無かった。


 この声は――



 流れ星(本物)を実際に見たことがありません。

 語尾に星を流す男の人はよく見かけるんですけど。

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