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背中

時彦は、クリケットのユニフォームを着用したきりあを見つめていた。明るく闊達な性格のきりあに対して、時彦は内向的であった。それは小さな時に痛めた心臓のせいだと、時彦自身は諦めていた。今は静かにしているしか手だてが無い。自分に何が出来るのか不安になってしまう時もある。そんな時、声をかけてくれるのは第58学寮の学友たちだ。

「時彦、瑠璃ちしゃのサンドイッチ残さず食べて。心臓には、最高にいいんだから」

きりあは毎日、時彦の為に瑠璃ちしゃを摘んだ。

「ありがとう。ぼくなんかのために」

「何故?そんなこと言うの」

「だって……」

「ぼくと、時彦は学友だよ。当然のことじゃないか」

「ぼくは、きりあがクリケットのセンチュリーになることを願って、応援するよ」

「ありがとう。きみの分まで頑張るから」

2人は時々、途切れる会話で何度もありがとうを言い合う。そんな時、きりあは時彦を自分の胸に抱きたい衝動にかられる。けれど、血の繋がりの無い時彦を胸に抱くことは、はばかられた。だからきりあは、何時も時彦の背中を見つめていた。決して、抱くことの無い背中。一見、華奢に見えて、その実翼が有るように思える。だから毎日、時彦に瑠璃ちしゃを捧げる。時彦は時彦で、きりあの動いている時の背中が好きだ。特にクリケットのバッツマンで、出場し高得点を得た時のきりあの背中はとても大きく見える。 有貴也と命も互いの背中を感じている。有貴也と命は同郷の出で、そのせいか団結が強い。勿論、他の学友といてもそうだが。特に2人でいる時はその旨、倍になる。きりあも、時彦も、結亜もびっくりすることが多々あった。有貴也は、土、日にダンスの練習をしに央樹まで出かける。学友はそれを皆で見送った。命は、その淋しさに耐えられないと言うように有貴也を背中から抱きしめて泣いた。今生の別れではないのに。有貴也が土、日に皆といたら、どんなに楽しく嬉しいかと思うと抱きしめてずにいられないのだった。有貴也はそんな時、命の涙を手巾で拭って笑顔で言う。

「央樹まで逍遥に行こう」

そう有貴也が言っても命は、有貴也と一緒に央樹へは行ったことがなかった。有貴也の邪魔をしてはいけないことを知っていたから。有貴也は、時彦に話す。

「命の大胆さがきりあにあれば今頃、時彦の背中を抱いてくれたのにね」

時彦は微笑みながら言う。

「命は命。きりあはきりあ。同じくはいかないよ」「そうだね。でも、時彦はずっと待っているんだろう?きりあが抱きしめてくれるのを」

時彦は頷き、有貴也は時彦の肩に自分の手を置いて2人の距離を少しだけ縮めた。有貴也は時彦の内心を知っている唯一の人間だった。何時も時彦の傍らにいて、時彦の切なさを和らげる。有貴也は願わずにいられない。学友の愛の行方が真っすぐであるように。

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