オモイノタネ 1
はじめまして、風紙文といいます。
初めての投稿作品なので、拙い部分が多いですが、思いのこもった、「オモイノ」シリーズ最初の一歩。ぜひご覧になってください。
俺は生粋の不幸体質だった。
忘れ物、寝坊は当たり前。行列は俺の前で終わり、傘を持って無い日に限って雨が降り、持っている日には降らない。どこまでも運に見離され、そんな人間だった。
ガチャン
そう、あの時までは、
ガチャン
今はと言えば…。
ガチャン
「スゲェ、またアタリだ」
「だろ?」
無遅刻無欠席で、忘れ物などした事は無い。行列は俺の番で終わり、傘を持って行けば雨が降り持ってなければ降らない。
そんな人間になっていた。
それもこれもみんな、コレのおかげだ。
それは遡る事三週間前…。
その時まだ俺は、不幸だった。
ガン!
「痛っ…」
「わぁゴメン! 大丈夫?」
「は、はい…大丈夫です」
何故階段を昇っていただけで頭の上にバケツが落ちてくるんだ? 空だっただけマシか。
はぁ…不幸だ。不幸としか言い様がない。何で俺はこんな不幸なんだ。
今までを振り返っても、幸の数の倍はあるな…不幸。
「アッハッハ、やっぱりお前は不幸体質だって」
「騒ぐな。傷に響く」
俺はただ、いつも通りのメンバーで弁当を食べに屋上に向かっていただけなのに…。
…チクショウ。
「…ただいま」
と言っても返す声はない、学生寮に一人暮しだからな、ただ何となく言ってみただけだ。
鞄を机の上に放り投げ、ベッドへ仰向けに倒れ込む、
ガッ!
「痛ってぇ!」
顔に痛みを感じた。俺はベッドから起き上がり、毛布を捲り上げると、痛みの原因を見つけた。
「…しまった。急いでいたせいだ」
今には珍しい、けたたましく鳴るタイプの目覚まし時計に顔面を直撃したんだ。
寝坊で遅行しそうになって時間を確認してその場に、ベッドの上に置いて上から毛布をかけたのがまずかったんだな。
「痛って…」
最近はこういう痛み系が増えたな…。とか考えながら、ふと窓に目をやる。
そこで見た物を見て、思い出した。
「…水、やんねぇとな」
流し台まで行き、コップに水を酌んで、窓枠に置いてある植木鉢に水を注いだ。
これは今噂の、『発明の種』と呼ばれる物。発売当初は人気が高く、並んでも買えなかった程。二度の売り切れと、三度の目前売り切れを経て、やっと購入できた。
それは、見た目はただの植物の種、それを付属の説明書通りに鉢に入れた土に植え、毎日欠かさず水をやる。すると、自らが望む物が出来上がる。自分が望むものが、何でもだ。
そんな夢のような種が、今まさに、俺の目の前に……。
…なんてな。
そんな漫画やアニメみたいな話を信じて買う方がおかしいっての。何で人気なのかも分からないぜ。
…でも、俺はこれを買った。
少なからず、信じたかったんだ。
こんな物でも、すがりたかったんだ。
願わくば…この不幸体質をどうにかする何かを…とな。
そして、これを買ったのがもう一ヶ月前になる。
種は今や…蕾だ。
ちなみに説明書には、二~三週間で花が咲きます。と書いてあるんだが…。
…何だ?
俺のは他より遅いのか?
まさか、ここでも不幸ってか?
…ふざけるなよ。
まさかこのまま咲かず終いで枯れてしまうとかあり得ない…よな?
…いや。有り得やがる。それだけ俺は不幸だった。
…くそ、そうと分かりゃこんな物買わなかった。
…あぁ、あの頃に戻れれば…。
その時、コップの中の水が全て土の中に染み込みんだ。
瞬間、蕾が輝きだした。
「な!」
予想外の発光に、思わず目を瞑った。
何だ?
コレも、不幸の何か…か?
ガチャン
…今だな。
俺はすっと、右へ動いた。
「お? どうしたんだ?」
その行動を変に思ったソイツは数秒前俺の居た所に動く。
ガン!
「痛って!」
ソイツは頭上にバケツをくらった。
…うん、予想通りだ。
「わぁゴメン! 大丈夫?」
「痛ってぇ…」
まさにあの時と同じだ。
ただ、くらった人間が俺じゃないだけだ。
そこにあったのはレバーだった。
半円で作られた土台に、レバー部の棒が立っているだけ。簡単と言えば簡単な作り、しかしもっと言うならば、異質な作りだ。
しかもだ。さっき光った蕾を見ると、無くなっていた。 その代わりにか、レバーの土台部分に赤い花の模様がついていた。
「これが…俺の欲しかった物だってのか?」
何だよ…コレ。
カサ
鉢の上に白い紙があった。手に取って見ると、それはこのレバーの取扱説明書だった。
あの時ああしていレバー
このレバーの名前らしいその文字が一番上に大きく書かれていた。
…ダシャレかよ、と思いつつも説明書を読み進めていく。
「……」
…マジかよ。
でもあの種がコレになったのは事実だ。だったら、コレも本当にそうなのかもしれない…。
…試すアテは、沢山ある。
まずは記憶に新しい所からだ。
結果。俺の頭にバケツが当たる。その出来事は無くなった。
やっぱり…このレバーは本物だ。
説明書通りに試したら、過去が変わった…いや、俺が変えたんだ。
あの時ああしていレバー。コレは自分が過去に行き、過去を変えられる道具なんだ。
あの時ああしたいと思い、レバーを下げるとその過去に移動する。後は俺の行動しだい、すでに知っている過去でやり直したい、ああしたいと思ったように行動するだけだ。
凄い…凄いぞ、コレは。つまりその過去を知って行けば、それが今になる直前に行って先に行動すれば
その通りになってしまうんだ。
過去を俺の思い通りに出来る。凄い道具を手に入れてしまったものだ。
あの種は本物だったんだ。望んだ物が手に入った。
…もっと種が欲しいな。
…そうだ。発売日に行けばいいんだ。
俺が並ぶより前に行って並べば必ず買える。その過去を何度も繰り返せば買い放題だ。
とか考えながら帰路についていた。
基本的に寮までは直線だが、唯一三又に別れた道がある。直進が一番の近道なので迷わず真っ直ぐ進んだ。
そこで、奴に出会った。
「…貴方。発明の種の発明を持ってるね?」
…なんだコイツ?
今の季節は夏、生徒は皆夏服だが。奴は長袖長ズボンに帽子を被り、長いコートを着ていた。その衣服全部が灰色で、声の限り…俺と同じぐらいの女の人だ。
「発明? 何だよソレ」
多分レバーの事だ。だから知らないふりをしてみる。
すると、
「そんな訳無いわよ! アンタから反応が出てんだから!」
少女とは違う、別の声が聞こえた。まるで機械を通して発した怒り声が、何故か女の人のコートの中から聞こえた。
「な…何だよ、今の…」
「…あの人、驚いてるよ」
そう言ってソイツが取り出した物は、黒くて四角い箱。弁当箱みたいだ。
「ダレが弁当箱か!」
「うぉ!」
その四角から先ほどの声が聞こえた。
「な…何だよ、ソレ?」
「ソレって言うな!」
また怒った。
「アタシにはビーケっつう名前があんのよ!」
…ビーケ? 変な名前だな…。
「変な名前だな…とか思ってんじゃないわよ!」
「うぉ! 何で分かった!?」
「分からいでか! アタシには人の心を読むっていうサブ機能が付いてんのよ!」
「こ…心を読む?」
そんな非現実な…まさか、アイツも発明なのか?
「ビーケだ、つってんでしょうが!」
「…ビーケ。少し黙って。話が進まない」
「でも!」
「…いいから」
「う…わ…分かったわよ」
女の人の言葉で、ビーケという箱は黙った。
「…改めて。貴方は発明を持ってるね?」
「し…知らないな…」
「…ウソ」
「何でそんな事言え…」
…分かった。あの箱が無言で俺の心を読んでるんだ。さっき発明ということも思ってしまったし。
「…発明を持ってるからって、何だってんだよ?」
「…回収に来た」
回収?
「何で回収なんてしてんだよ」
「…話すと長いよ?」
「構わねぇ、話せ」
「…分かった」
女の人は話し始めた。
それは、発明の種誕生秘話だった。
ある所に発明家の男と、心理学を学ぶ女が居ました。
2人は結婚し、子供にも恵まれて幸せに暮らしていました。
子供が大きくなったある日、2人は互いの力を集結させた最高傑作を作り上げた。
それはたちまち街に広がり、2人は更に幸せになった。
…ところがある日2人は気づいてしまった。
あの作品には、重大なる欠点がある事を。
しかし、既に全国に散った作品を集めるのは最早無謀な事なだった。
手は一つだけあった。出会った矢先から発明を分解するというもの。
しかしコレにも欠点はあった。
なので2人は、その願いを子供に託して、ある研究を始めたのだった。
「…おしまい」
「……」
欠点って…何だよ。この発明はこんなに上手くいってるじゃないか、誤作動なんて起こしたことないぞ? まさか、回数制限があるとかか?
「そんな訳あるかぁ!」
箱がまた怒りだした。
「いい!? その発明には大きなメリットの分、大きなデメリットもあるの」
デメリット?
「そんなの、今の所なんにもないぞ?」
「それがすぐに出る物じゃないだけよ。でもすぐ出る物もある。アンタ、エリを見てどう思う?」
エリとはおそらく、女の人の名前だ。
「どう思う、って…何か物静かな…」
「好きで物静かだと思ってるの?」
「違うのか?」
「まずはアタシの事から言わないとね。アタシの正式名は…」
「探し物は何処にあるのかナビゲーター」
エリと呼ばれた女の人がぼそりと言った。
「ちょっとエリ! 何で言っちゃうのよ!?」
「…長そうだったから」
探し物は何処にあるのかナビゲーター?
「探したい物を思い浮かべて尋ねると。それがある場所までナビゲートする。移動してようが、隠れてようがアタシにはムダよ」
「…さぁ、発明を渡して」
エリは一歩ずつ近づいてきた。思わず後退りする。
マズイ…コレを取られたら、俺は昔に元通りだ。
どうすりゃ…ん? 昔に元通り?
…そうか。
ガチャン
「あ…」
俺は鞄から取り出したレバーを下げた。
これで大丈夫。アイツとはオサラバだ。
適当に戻った放課後の少し前、俺は思った通りに行動して、二回目の三叉路。
あの時直進したからアイツ等に会ったんだ。遠回りにはなるが、俺は右の道へと進んだ。
これでアイツに会う事は…、
「…逃がさない」
アイツが居た。
何故こっちにいる?
くそ…。
ガチャン
今度は左だ。
「…発明を」
ガチャン
あえて真ん中に…。
「…渡して」
ガチャン
ガチャン
ガチャン
ガチャン
ガチャン…
…もう何度目か…何処へ行こうと、アイツは俺が行く道の前に居た。
ふと、尋ねてみる。
「なぁ…何でそこまでして追い掛けるんだよ」
「アンタが逃げるからよ」
「…まだ話しが途中だったから」
…そういや、好きで物静かじゃないとか言ってたな。
「コレが、アタシの持つデメリットなのよ。アタシが喋る分、持ち主は静かになってしまう、その上に、感情にも乏しくなるのよ」
「な…」
何だよ…ソレ…デメリットの方がすごいじゃねぇか…。
「相応の対価よ。コレでアタシを使えるならプラマイゼロなのよ」
「…貴方のそれも、既にデメリットが発生している」
このレバーも?
「この先の未来で、貴方が変えた出来事がもう一度。その身にふりかかる」
もう一度…ふりかかる? 今までに変えた俺の不幸が?
「何でだよ…折角変えた過去をもう一度あじわうってのか!」
「そう…」
「何で…何でだよ…コレも不幸の一環か?」
「…そうじゃない」
「え?」
「…人の人生は、必ず幸せと不幸せが付き物。幸の後には不幸が、不幸の後には幸がやって来るもの。全ての人において、それは決められた出来事」
「…じゃあ何だ? この不幸がいずれ終わって、幸せが舞い降りて来るってか?」
「…必ず。それに貴方のそれは不幸でも何でもない、ただの失敗、本当に不幸な人はもっと大変」
「……」
俺のはただの失敗…か。
確かにそうかもな、俺がもう少し早く起きれば寝坊や遅刻はしない。もっと気づけば、忘れ物もしない。早く並べば、行列も俺の前でなんか終わらない。
全部、レバーで行ってみて分かった事だ。
レバーはただ過去へ行かせるだけ、その後は俺が頑張ったから。無遅刻無欠席で、忘れ物もしなくなり。行列も楽しめた。
ならこれからは…俺が自分で進まなければいけないのか。
これからは過去じゃない、レバーは使えない。
やり直しがきくのも決して悪くない、だがそれはつまらなくなる。先が見えないから人生は楽しいんだ。
「…分かったよ、ほら」
俺はレバーを差し出した。
「ありがとう…」
そう言った女の人がコートの中から取り出したのは、ドライバーだった。入っていること事態おかしいが、そのドライバーは妙な形をしていた。普通ならプラスかマイナスだが、それの先端は星形だった。
「…無かった事にするネジ回し。コレで発明を分解できる」
そう言って女の人はレバーを裏返した。
そこにはネジがあった。プラスでもマイナスでもない、女の人が手に持っているドライバーが調度合うような特殊なネジが。
「…分解」
ネジにドライバーを差し、右に回した。
瞬間。レバーが光に包まれた。光が消えると、レバーは種の形になっていた。
「…分解完了」
種に戻ったレバーを握りしめて、女の人は去っていった。
「…貴方の人生は…いつか幸せになる」
そう、言い残して。
ガン!
「痛っ…」
「わぁゴメン! 大丈夫!?」
「はい…なんとか…」
「お前またかよ、やっぱり不幸体質なんだって」
「…かもな」
「でも前よりはいいじゃねぇか、寝坊も遅刻も無くなったし、忘れ物も無いだろ?」
「まぁな」
「何かあったのか?」
「あぁ、もう少し頑張ってみようかな…って思ってさ」
「はぁ? 訳分かんねぇよ」
「お前ももう少し頑張れば分かるさ」
あれから俺は、頑張って生きている。
相変わらす不幸だけど、遅刻や忘れ物等の自分のせいで起こっていたものは一切無くなった。
それでも不幸だけどな…。
コレはいずれ来る、幸せに向かっての、ただの一歩に過ぎないのだ。
謎の少女と、発明のナビゲータ、ビーケによる。発明を回収するショートストーリー
出来上がり次第、次を投稿いたします。