第7話 あらわる、新たな後継生物!
超能力に目覚めた異星巨大生物「マ・ラ」、その力を受け継ぐ「後継生物」たちとの戦いが、ヒーローのいる町で表面化し、はや1週間が過ぎた。
後継生物は、必ずしも民間人の前に姿をあらわし悪事を働くわけではなかった。
その多くは人目に付かない場所で息をひそめ、自然の中にまぎれている。
大学祭へあらわれた、牡ウシ頭の怪物コ・キユ以来、後継生物の目撃についてトリニティが見聞きする情報は一つとしてなく。
時間だけが流れていた。
ただし、時折なんの前触れなく彼らは人間と接触する。
その理由はたいてい人間にとって理解できない、衝動や欲求によるものだ。
10月下旬。
季節は、まだ秋の中にあっても、日ごとに風が痛い寒さを帯びてきた今日の日。
以前、学園祭が開かれた貝釣大学の近くにある「厘月いんせき公園」が舞台だ。
いんせき、と名にあるが子どもたちからジャガイモと呼ばれるオブジェが、唯一の隕石要素。
残りはベンチとスプリングの動物、すべり台のみ。
公園と名乗ることすらおこがましい。
もっとも、公園は惨めさに反して、歩いてすぐの場所に第一みもみじ商店街がある。
商店街で買い物する子連れの親にとって、地域の目がある、安心できるキッズパークだった。
16時を回り、公園は商店街へ行った親を待つ子どもで賑わっていた。
「キャハッ! おウマさんしゅごーい!」
子どもがエキサイトし叫ぶ。
スプリングの動物の鞍上でこうなら、ジョッキーとして将来有望だが――無論、そうではない。
本物のウマが公園内にまぎれ込んでいる。
緑がかった毛色の見慣れない、巨大ウマだ。
巨大ウマに乗る子どもは小学生未満の体つきをしている。
だが巨大ウマの3メートルほどはある馬体へ吸いつくように乗りこなし、公園の砂場をパカパカ行進する。
「姫よ、どうかな? オレサマの英雄的なステップは」
ウマがしゃべった! 否、ウマはしゃべるものだ。
「ずるいぃ! 次おれが乗る!」
「いいや、ぼくが乗るねッ!」
「ガキはすっ込んでな。美しいオレサマは、美しいレディーしか乗りこなせないのさ」
きどった口調の巨大ウマは、群がる子どもたちを前脚で追い払い、気に入った女児とともにダートを駆け回る。
巨大ウマが鼻歌まじりに自身の優雅さを見せつける。
しばらくすると、周囲の木々に並ぶ巨大ウマの高さから公園を見渡した女児が、「おかあしゃん!」と声を上げる。
買い物を終えて迎えにきた母親を見つけたのだ。
「おウマさん、あのね、もうお家帰りたい……」
「そうかい? 甘美なひとときをありがとう、姫よ」
巨大ウマは女児に感謝をのべ、女児の母親がいる公園出入口へ歩いていく。
そこで背に接するように頭を向けると、なんと女児が頭に掴まり、地面へと着地したのだ!
危険すぎる!
ところが、女児と巨大ウマはそれこそウマが合ったようすで、少しの緊張も見せなかった。
娘の扱いを見て、すなおに巨大ウマへ礼を言うべきかと女児の母親は戸惑った。
「あ、ありがとうございます……ほら、クロちゃん、遊んでもらったお礼は?」
「ありがとう、おウマさん! さっきね、おウマさんに乗ってたら、すごく大きくてカッコよかった! クロもおねえさんになったら、大きくなる!」
「あぁ、なんて無垢さ! 荒んだ心が洗われる……やはりレディーは最高だ。いやしかし、姫よ! 願いのために老いを待つ必要なんてない。あなたは今すでに完成しているのだからッ!」
巨大ウマは女児に首を垂れ、瞬間、巨大な体を激しいピンクに発光させる。
「これはほんのお礼です、吾が姫!」
巨大ウマが発光しているのは、決定的な「マジカルパウアー」行使の証だった。
対象は、目の前にいる女児。
わずかな時間のみで――厘月町内すべての建物を超える身長の巨人となるッ!
女児のスニーカーの両足が公園から道路へとはみ出し、すぐにも交通障害を引き起こした。
「クロおおぉッッ!」
今まで冷静だった女児の母親は半狂乱になり悲鳴を上げ、娘の足にすがりつこうとする。
女児は活発な子どもだった。
足元に母親がいるとも知らず、また自身に何が起こっているのかわからないまま動き回る。
母親はついに蹴飛ばされ地面に尻を打ってしまった。
「すっげえ! 母ちゃん、おれもおウマさんに大きくしてもらうー!」
「バカ言わないで! 逃げなきゃッ!」
公園で巨大ウマとじゃれ合っていた子どもたちは事態を楽観視していた。
巨大ウマや巨人化した女児へ不用意に近づこうとする。
商店街から親と近隣住民が駆けつけ、力づくで引き剥がす。
街中で逃げ惑う住民。
巨人は見失った母親を探して、ミニチュアの厘月町を徘徊する。
一帯はひといきに、深刻なパニックとカオスの災禍にのみ込まれた。
「――そこまでだよ、ミセ・ヤリ!」
厘月いんせき公園にいるウマの背後で、意気揚々とした声が響いた。
巨大ウマが視線を遣る。
何人も避難していなくなった公園中央――空間が楕円形に歪み、真っ白に輝く粒子とともに3つの影が、音もなく出現していた。
赤い肌と、鶏マスク、巨大バエ……トリニティたちだ!
「て、テレポートしたのか、俺……?」
赤い肌のセーラー服ケツデカ少女のアルウゥスに導かれ、自宅を出た変態マスクのトリニティ。
すると玄関先から、突如厘月いんせき公園にたどり着いていた。
場所がどこなのか……景色から推測できたものの、そこに自身がいる理由については見当がつかず困惑する。
対して後継生物たちは、彼をよそに戦いの空気を作り出していた。
「あぁ、オレサマの名を知っていて、さらにその面ぁ……見覚えがある。あの『舟』にいたな?」
「うん。ボクはアルウゥス。そして、君はミセ・ヤリ、マ・ラと一緒に脱走した仔だね」
「昔の話はそこまでだ。オレサマはヤツと違うさ、人間サマとウマくやってる。今日はうずきに耐えかねて、加減を間違えたが……なに、ただ姫の願いを叶えたまでさ」
「これは度が過ぎてるッ。そもそも、フツーは人間にマジカルパウアーを使っちゃダメなんだよ。いや、ボクたちがここにいることすら……だから、君には大人しく捕まってもらうよ!」
「早まるなよ、兄弟! 人間とやり合うつもりはないぜ。姫は……まあ、(オレサマが)満足したら元に戻してやるから」
「ふざけるなッッ!」
挑発的な物言いのミセ・ヤリに、怒りを露にしてトリニティが食ってかかった。
「黙って聞いてりゃ、手前勝手なことをベラベラと……侵略者がッ! 地球に、お前が叶えられる願いなんて一つも無え。もし、あったとすればそれは『今すぐ出ていけッバカ野郎』だッ!」
「言うねえ人間!」
「アルウゥス、マジモス――いくぞ!」




