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性癖全開!キャンティマロン~◎セイシをかけて、勝手に戦え!◎~  作者: 石鬼 輪たつ
第1章 VS.アルウゥス 厘月町・厘月いんせき公園編
7/10

第6話   宇宙人のざれごと

「すべてのキッカケは、『ある物質』を使った研究だったの」



 アルウゥスは一呼吸を置いて、重々(おもおも)しく語り始める。



「ある物質は、ボクの惑星ほしの人類が生まれながらにもっていたもので。精子の頭・尖体せんたいから発見されたのと、功労者のオルキス博士はかせちなんでオルキス・ポテンティア――こっちの言葉で言うと『睾丸力こうがんりょく』と名づけられた」


「こうがッ……メシ食ってる人間に切り出す話か、それ?」



 トリニティはチキンにかぶりつく手を止め、アルウゥスをじっとりにらみつける。

 トリニティのにわとりマスクは下半分が外され、地肌じはだの色と油でぬめったくちびるがのぞいている。



「飛ばす?」


「……続けろ、はぐっ」


「その、睾丸力こうがんりょくには、体の中で存在する場所によって働きが変わる、性質せいしつ転換てんかん性が認められた。精子尖体(せんたい)内だとただのタンパク質だけど、精液中にもれ出した途端とたん()()()()()()()()()してしまう酵素こうそに……そしてのう内では、神経しんけい細胞のような性質をしめしたの」


「神経細胞? はあ、小難こむずかしいな。それが今回のことにどう関係してるって?」


「それこそがすべてのキッカケ……脳内で神経細胞のようにふるまう睾丸力こうがんりょくは、ある変わった()()()()を合成することがわかったの。この伝達物質が体内で使われると――」



 そのときアルウゥスは実演とばかりに、また真っ赤な体をピンク色に発光させた。


 体内からあふれる光を皮膚ひふかし、トリニティのはじめて見たものよりおだやかな色合いに映る。


 それから既知の通り、アルウゥスの指が示した宙空ちゅうくうへ、アルウゥスいろ肉片にくへんが出現する。



「ボクたちは人間の常識外にある力を使うことができる、ってわけ!」


「なるほど。わかったようなわからんような……まあ、聞く分にはビッグバンの話と大差ない。そういうもんだってことで」


「この力は『マジカルパウアー』って言うんだ」


「……それはホントにお前らの惑星ほしの言葉だよな? そのへんにいる洒落しゃれ好きなオッサンにつけてもらったわけじゃないよな?」


「もちろん! マジカルは超常って意味で、パウアーは力……あ、ポテンティアの力とはちょっと意味合いが違ってて!」


「いいから。好きにしてくれ……」



 概念の名称など誰かの気まぐれ。そう結論付け、あきれたトリニティは思考を切り替える。



「とりあえず話はつながった。アルウゥスやさっきのウシは、脳に睾丸力こうがんりょくをうんたらって件で、あるいはマジカルパウアーの件で()()()()()にされて、泣く泣く母星から逃げてきたと」


「ボクとウシが……モルモット?」


「ただ、俺が知りたいのはその先だ。裏切ったのはどんな連中だ? なぜ裏切った? それが地球を守るってことと、関係してんのか?」



 トリニティがどすのいた声で、頭にある疑問をわがままにまとめてアルウゥスへとぶつける。


 実際彼の関心事は、アルウゥスや大学に現れた巨大生物たちが、虚幌須うろぼろす市を守るヒーローとしての自身にとって「てき」か、いなか、それだけだった。


 ところが今までアルウゥスが話した内容では、その境遇きょうぐうを理解できたとしても、トリニティの「敵」たりえる存在かどうか断定することはできないはずだ。


 ……にもかかわらず。

 裏切った、などと言うからにはトリニティがアルウゥスを「敵」と認識していないことは、明白だろう。

 おかしな話だ。



「ボクがくのも変なんだけど……本当にいいの? その()()()()()()()っていうノだけで、ボクのこと、信じちゃっても」



 当人も、おかしいと感じたらしい返事を、トリニティへと投げかける。


 トリニティはチキンをむ口を止める。それからまっすぐに、おろかしいほど純朴じゅんぼくという表情で答える。



「まあ、今はそれしか頼りになるもんがねえし。後でもし今日のことが間違いだったってわかっても、俺が決めたことだ。それにお前はちゃんと『信じて』って、俺に言っただろ? じゃあまずは信じてやらないと……何も始まらねえし」


「……フフ、そっか。トリニティは、そういう人なんだッ」



 アルウゥスはつい1時間ほど前、自身が瀕死のトリニティを助けた際の出来事をほんのり思い出す。


 小さく、愉快そうにアルウゥスが微笑ほほえんでいる。赤いほおにまたべにす。


 トリニティの言葉は要領を得ないものだが、当事者と、第三者にすら「アルウゥスに味方する」という意志をハッキリ伝えるには充分だった。


 ――そしてそれが今、彼らにとって最も重要な意志だった。



「ありがとう……」



 感謝の意を口にしたアルウゥスは、バスケットからフライドチキンを手に取り、身をほぐしながら、慎重しんちょうに語りはじめる。



「ボクたちは仲間のつくった『舟』に乗ってやって来た。それを破壊して、1年前……地球に逃げ出したのは、あらゆるものと交配できる力――『万能ばんのう生殖能せいしょくのう』をもつカエルの『マ・ラ』だよ」


「はいはい、今度はマ・ラね。マ?」


「えへ……偶然なんだよ? 地球人の雄性ゆうせい生殖器――ペ○ス――おち○ぽと同じ名前だなんて」


卑猥ひわいに言い換えるな! くそっ、やっと用語として理解してきたところなのに」



 苦言をていする、トリニティは「てき」の親玉おやだまマ・ラの名前が気に入らないようすだ。



「1年前、ってことはもしかして厘月りんげつ町の()()()は……」


「マ・ラはそのマジカルパウアー(ちから)で、あるはずのないおちッ……外生殖器をつくり、異種交配することで生まれた遺伝子総体ゲノムを改変するッ! そして仔もまたマジカルパウアーを使えるようになるんだ!」


「生まれた仔も、ヘンな力を使えるように……」


「そう。人は、彼らをマ・ラの力の後継者――『後継こうけい生物せいぶつ』と呼んだ!」


「少なくとも地球人は呼ばねえし初耳だ! あー…………要するに? アルウゥスもあのウシも、後継こうけい生物せいぶつとやらで、マ・ラはそれを地球でもやそうと……めちゃくちゃヤベえじゃねえかあッ!」



 ついにトリニティが事態の核心へといたる。



「うん。マ・ラは地球のものをなして、すッごく大きな遺伝子撹乱(かくらん)を引き起こしている。このまま何もしなかったら――」


「それ以上言わなくていい! わかってる」



 トリニティは声をあららげて、アルウゥスの言葉をさえぎる。


 遺伝子いでんし撹乱かくらん。それは一般に、ある近縁の在来生物と外来生物との交配こうはいによって遺伝子の地域的特性が損なわれること。俗に言う「交雑こうざつ」だ。


 ところが「万能ばんのう生殖能せいしょくのう』」を有するマ・ラにおいては、影響が上記の交雑だけに限らない。

 マジカルパウアーという超常の力の拡散かくさんをも引き起こし、単なる自然環境破壊にとどまらない「不可逆的破壊」をまねく可能性すら考えられる。


 トリニティの言う通り、地球は今めちゃくちゃヤベえ状況なのだ!


 これまで彼らの難解なんかいでスピリチュアルで感情的な猥談わいだんに聞かないふりをしていた店内客たちも、少しの動揺を見せ始めている。



「それがボクの使()()なんだよ。一刻いっこくも早くマ・ラを、他の後継生物たちを捕まえなきゃ」



 真剣な表情で、口と手を油まみれにしたアルウゥスがつぶやく。声は情熱にあふれている。


 反対に、マスクで顔を隠したトリニティは憂鬱ゆううつな心情を吐き出した。



「けどな……俺1人で地球の面倒をみるのは、無理だ。俺は、たかがご当地ヒーローなんだぞ? 現実的じゃない」


「今はそうかもしれない。でも、トリニティは絶対、地球を守るヒーローになれるッ! それだけの力がある。足りなければ、ボクが貸すよ!」



 アルウゥスのはげましには説得力があった。

 トリニティは反論の余地なく、納得させられる。



「……あらためて。トリニティ、ボクと一緒に戦ってくれませんか」



 アルウゥスは紙ナプキンで油まみれの手を拭い、トリニティに向かって差し出す。


 トリニティの、「味方する」と誓った手が、震えた。


 目の前にいる年端としはもいかない少女は本気で、自身トリニティを地球規模のヒーローにしようとしている。

 自身がえんじてきたフィクションでもキャラクターでもない。

 

 地球生物の守護者に。



(――ひるむな! 今はアルウゥスの力を借りる方が確実なんだ。この力で俺は……)



 沈黙の中、トリニティはアルウゥスの手を取った。

 しばらくしてから口を開いた。



「地球も大事だ。けど、俺はあくまで虚幌須市このまちのヒーローとして戦う……それでいいな?」


「うん! これから一緒だよ、トリニティ!」



 トリニティの手をにぎり返すアルウゥスは、心底うれしそうな笑顔を浮かべた。

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