第5話 ある店にて
虚幌須市は、厘月町第一みもみじ商店街。
今や同市内で第三区画まで拡大した屋根付き商店街において、最も古いその場所は、街のシンボルとしてすっかり景観へと溶け込んでいた。
屋根付きの通りの一角に、ひときわ人混みができる。
突発的集合と思えるが、通行人はそれをうっとうしがることなく横目に通り過ぎていく。ここは日常的に混み合っているというのだ。
原因は、飲食店「バードナー」にあった。
鶏をかたどる木目調の看板は、筆文字のひとつでも書いておけばそれなりに格式高くも見えるだろう。
しかし、看板には不釣り合いなゴシック体のカタカナで「バードナー」と書かれている。
「――らっしゃっせー」
店内に、客を出迎える店員が、ファストフード店のような気軽なあいさつを放る。
それもそのはず、バードナーは鶏料理専門のファストフード店だ。
注文はタッチパネルにて行い、店内音楽は一貫性のない流行曲が占め、客層もそれに応じたものとなる。
「ぼ、ボクもこういうとこはよく来るけど……大丈夫かな? ヘンな人に聞かれたりとか」
「今一番ヘンなのは俺たちだろ。無用な心配だ」
2人がけのテーブル席。
奇抜なマスク姿の人物と、髪も肌も真っ赤な人物との姿があった。
……周囲は一目で察する。関わってはいけない部類の人間だ、と。
もっとも、一定数の変人が紛れ込むこともファストフード店では常識だった。
不用意に詮索などするべきではない。
マスク姿の人物は、腹部の破れた全身タイツを着て、迷いなくタッチパネルに向かっている。
「それより、礼を言ってなかったな。さっき助けてくれたことは感謝する。ありがとう」
「いいんだよ! トリニティこそ、仲間になってくれてありがとう!」
「……なに勘違いしてる? 事情次第、って言ったよな」
「えっ?」
セーラー服を着た人物――つまるところ学生然とした少女、名を「アルウゥス」と言う、その実人間らしからぬ赤さを呈したナニか。
対して、テーブルを挟んで座るマスク姿の変態――ご当地ヒーロー『商店戦士トリニティ』は、目の前のアルウゥスが「宇宙人」であると睨んでいた。
少女の風貌を見れば、ひとつ仮説としてありうるものだ。
加えて、トリニティにはほかに推測する材料がある。
「貝釣大学で助けられたとき、マジモスの記憶が俺に流れ込んできた。理屈は知らないがな……」
「ま、マジモスの記憶って?」
トリニティの思いがけない言葉に、アルウゥスはしなやかな赤い眉を困ったようすに下げる。
「アルウゥス。お前はどっか別の惑星で、人体実験の被験者にされて、そこから逃れるためお仲間と宇宙へ繰り出した。……けど途中で裏切り者が出た。宇宙船を破壊して逃げ出したそいつらを追って、お前とマジモスも地球にやって来たんだ。そうだなッ?」
「ま、まあだいたい……」
アルウゥスはトリニティの威圧によりやや怖気づいて、消極的に肯定する。
視線を落とすとテーブルの下で、巨大バエのマジモスが小首をかしげている。
「ああ、目的はもうわかってる。問題はなぜ裏切りが起きたのか? 地球に移住するなら何も、強硬手段をとる必要もなかったはずだ。あと大学の化石骨とやら、それを手に入れてどうす――」
「ちょっと待って! 大事な前提が抜けてる。そ、それに信頼がないのはしかたないけど、大事なことはボクから説明させて!」
アルウゥスが弱腰ながらもトリニティに迫る。
ただし、アルウゥスの制止には正当性があった。
問題にすっかり順応してしまったトリニティは、当事者意識を振りかざして話をぐんぐん進めようとする。
それには当然、前提だとか本質だとかの、話の骨子を置き去りにする危険性が考えられる。
「あ、ああ。わかった」
アルウゥスの意図に気づいたトリニティは引き下がった。
「お待ちでえす」と、店員がその間に注文の品を持ってきてくれた。フライドチキンの各種詰め合わせとセットドリンクだ。
「摘まみながらでいいか?」と、言うが早いかトリニティはバスケットに手を伸ばした。
「――ボクには『使命』があるんだ。地球の生態系を守る、って」
「ふぁあ? 宇宙人が守らなきゃならんくらい、地球は終わってるって話か?」
「そうじゃなくて! ……すべてのキッカケは、『ある物質』を使った研究だったの」
アルウゥスは一呼吸を置いて、重々しく語り始める。




