第4話★ ヒーロー、オンステージッ!
「いくぞ!」
力を得たトリニティが、巨大生物に向かい全力疾走する!
「ブホッ! コ・キユ、舐める、よくないラ?」
牡ウシ頭が獰猛な雄叫びを上げる。
すると、ミノタウルスめいた全身がアルウゥスやマジモスと同様に激しいピンクへと包まれ、周囲に色濃い霧が立ち込めた。
間もなく、空中に直径10センチ超の氷塊が出現!
それを飛礫として、すさまじい速度でトリニティへと発射する。
「危ないッ!」
アルウゥスが紅炎の髪を振り、さらに激しくピンク色に発光する。
トリニティへと放たれた氷礫が今まさに衝突しようとした時、上空から槍状の物体が落ち、彼を守った。
落下物とは骨盤の付いた脊柱だった。
頸椎の先端が、地面に突き刺さる。
「ボクの脊柱だよ! これを使って!」
「ハハ、人生イチ物騒だな、そのセリフ」
トリニティは地面から脊柱をズボッと抜き、戦棍にして構える。
牡ウシ頭は氷礫を雨あられと打ち込む。
すでに氷の一つ一つが人間の頭部大まで成長し飛来するのだ。からだにかするだけで骨折、最悪は部位欠損も免れないだろう。
襲いくる凶弾に、トリニティは手の脊柱をフルスイングし、骨盤の部分でものの見事に撃ち落としてみせる。
だが牡ウシ頭の攻撃は絶え間なく続いた!
アルウゥスのデカい骨盤であっても、人間をたやすく屠る氷礫を防ぎ切ることはできず、こなごなに砕け散った。
「おらッ、こんな程度で終いじゃねえよなあッ!」
しかし、トリニティは巻き舌で牡ウシ頭を挑発。
足元には、アルウゥスが次々と脊柱戦棍を出現させる。
これを振り回し、1本やられたら次、またやられたらその次と、無数の脊柱と骨盤によって弾雨を無効化した。
「こいよ、臆病者」
「ブホオオオ! コ・キユ(を)舐めるラああぁッ!」
挑発に乗り、牡ウシの額に血管が浮き上がった巨大生物は、氷礫の発射をやめ一気に攻勢へと転じる。
四足歩行で、ウシらしく真っ赤な標的へ全速前進!
その禍々しい角の先で、あるいは鋼鉄の頭突きで――ヤツを仕留める!
トリニティは負けじと骨盤の向きで何本かの脊柱を投擲するが、牡ウシの頭はそれらを軽々無に帰し、止まらない。
「どうする、アルウゥスッ?」
「大丈夫、ボクたちは強いよ!」
アルウゥスが激励する。
トリニティは己の一瞬の思考にしたがう。
右腕を向かい来る巨大生物へと掲げ、力を込めた。
トリニティの頭部に癒合したマジモスと、アルウゥスのからだが一層光り輝く。
トリニティの腕は、周囲にあらわれた肉片を層状にまとわせ、まさに巨人の腕へと相成る。
寸刻、牡ウシ頭の突進目がけッ拳で殴り付けた!
ドオンッ、ォォン……衝撃音に地表がうねり、空気が轟く。
「ぐううぅッ!」
トリニティの拳はかろうじて原型をとどめたまま、ミノタウルスのからだを受け止める。
だが、トリニティの装備する巨人の腕は内骨格をミシミシと言わせ、粉砕のカウントダウンを告げていた。
「砕かれる……その前に!」
トリニティが全神経を腕に集中させると、すでに牡ウシ頭より一回りも大きい腕がさらに肉片をまとう。
それは巨大風船――否、腐乱しガスを溜め込んだクジラの死骸の物々しさを体現する。
臨界点を超えたトリニティの右腕はッ、爆発した!
爆風と、ふたたび地鳴りを起こすほどの爆音がいっせいに襲いかかり、巨大生物は大きく体勢を崩す。
「隙ありッ――!」
トリニティは左腕による追撃を繰り出す。
脳天を衝いた一撃に、巨大生物は悲鳴を上げ! ついに、昏倒した。
「……やったのか?」
達成感めいたものを覚えながら、トリニティは慎重さからアルウゥスに訊ねる。
アルウゥスは激しい輝きを体内へと収め、こくりとうなづく。
はにかみ笑いを見せる。
トリニティも安堵し、脱力した。
トリニティの頭部と癒合していた巨大バエのマジモスが離れ、トリニティは元のご当地ヒーローの姿へと戻る。
2人が目を離した間に、目を回した巨大生物の周囲を数名が取り囲んでいた。
大慌てで探し物をしているようすだ。
ひと仕事を終えたトリニティは声をかける。
「どうした?」
「ああ! 吾々は隕石資料館の学芸員です。お昼休みに行っていたのですが、何者かが化石骨を強奪しようとしていると聞き……飛んで来たら、なんですッ? おたくら解体業者ですかッ!」
「悪い。んで、その化石骨は無事なのか?」
「それが見つからないんです! 30センチはあるんですよ。見つからないはず……」
涙交じりにぼやく学芸員の男。
彼の後方で、突如アルウゥスが「あっ!」と驚いた声を発する。
一同目を遣った。
資料館跡から大学キャンパスに向かう道中だ。
黒のキャップをかぶり、チュニックを着た小柄な人影。
腰のあたりから、長い何かがはみ出している。
「アレです! 化石骨はみ出してる! あの人を追って!」
「待てえッ火事場ドロボー!」
学芸員たちがヨタヨタとした足取りで追跡するも、当該人物の人相を見ることすら叶わず逃げられてしまった。
「ねえ、トリニティ」
彼らの背を見送り、アルウゥスが語りかける。
「偶然じゃないと思うんだ、ボクたちが出会ったのって。これからも、ボクと一緒に戦ってくれない?」
「……それは事情次第だ。聞かせろよ、宇宙人」
トリニティは致命傷の上にできた、肉色のカサブタに熱を感じた。
熱く、疼いている。
これは昂りか、それとも恐怖か――。
2人は戦場の後始末を大学へと押しつけ、町の中に消えた。




