第39話 場外戦ふたたび
空間歪曲移動した先には闇が続いていた。
否……それが闇であるのか、闇すらもない虚無の中なのかすらトリニティたちには判断つかない。
視界の一面を黒が支配する。
「おい……アルウゥス、大丈夫か? やわらかい?」
「う、うん……えへへ。園治、その怖いのはわかるけど、急に抱きつかれると……ッ!」
「穴」は、平成お色気マンガ時空にでもつながっているのか。
ありえない。
目を覚ませと、爆発的閃光が起こる!
ペルウィアの手元からの光だ。
懐中電灯か何かを点けたのだろう。
光が闇を打ち消す。
また、トリニティとアルウゥスの間で巨大バエのマジモスがセクシャルに挟まっている姿が暴かれる。
「「うわあッ!」」
マジモスの豊満な肉体に驚く2人。
さらに光は目前、ナゾの骨の山をも暴き出していた!
「「ぶうわあああああッッ!」」
「フフッ、無様ネ。あとうるさい」
失笑するペルウィア。
光を手に、骨の山へとずかずか近寄る。
ぐるり1回転し、この場所を判明させる。
――――
闇の中、浮かび上がったのは鍾乳洞の風景だ。
巨大な岩々の隙間に、乳白色の柱が立っている。
天井からしみ出したのだろう、水滴が一粒一粒とゆっくり落ちる。
その下に、地面から生えたような形の鍾乳石がするどく、鉱物をふくむ滴を受け止めていた。
また、トリニティたちのいる場所から少し離れた岩場の先。
さああ、とやや勢いのある音が聞こえる。
見ると、幅約1メートルほどの水の流れがあった。
おそらく、地上の雨を土地が長年ろ過してできた地下水道だろう。
――――
天然の鍾乳石と地下水が作り出す、力強い自然景。
それは、先に通った鈴ノ口鍾乳洞の人工照明によるライトアップではありえない、美しさをもっている。
ただし、この場所はやはり観光地として、整備されてはいないらしかった。
「人間のノリに乗って『突破口』とか言っちゃったケド、実は『糸口』くらいのものネ」
「そりゃ俺のせいなのか?」
「そう。だからたいした話じゃないし、巻きで行くワ」
覇気のない声で返事すると、ペルウィアは早口で語り始める。
「もう察してると思うケド、ここは鍾乳洞のもっと深いところ。少し前から、HCCがこの場所で登録のないマジカルパウアーをいくつも探知してた。ただ数が多すぎて、アルウゥス1人で戦える見込みがなかったし、機が来るまで待つつもりだったノ」
「登録がない……ってことは、ペルウィアがHCCを(母星から地球へ)持ってきた時点でまだいなかった――」
「そう。たぶん、『地球産の後継生物』ってやつネ」
アルウゥスの疑念を、ペルウィアがりっぱな推測に仕立て上げる。
彼は、骨の山の中から鳥類の指骨らしき骨を手にとって、弄んだ。
よくよく観察してみると、骨の山に積み重なっている遺骨は種族・部位・大きさも関係ない、乱雑なパズルの様相を呈している。
中にはスライム状……とは言い過ぎかもしれないが、形状不確かな骨(もしくは結石?)すら混ざっていた。
「結局この状況からして、すでに逃げられた後だと思う。しかたないことネ。問題はここがどういう場所だったのか? ワタシは、マ・ラのゼミナーリウム――繁殖場だったと考えているノ」
「繁殖場? マ・ラがここで、地球の生物とヤッてたってことかッ?」
「ヤッてた、とは仔作りのこと?」
「ああそうだよ! にごして悪かったな!」
事実確認をしたかったに過ぎないトリニティをからかい、ペルウィアは愉快そうに笑う。
「それは変だよ……ク・コロは、マ・ラの居場所は鍾乳洞だ、って言ってたんだよ! もしここが繁殖場だとしたら『居場所』なんて言い方はしないと思う」
アルウゥスが指摘する。
居場所と聞けば通常、住まいを連想するし、トリニティたちもそうだった。
ではク・コロが虚偽を言ったと仮定しても、目的はほとんど無意味な時間稼ぎしか思いつかない。
相手は後継生物とはいえ、はたしていたずらに撹乱などするだろうか?
「居場所と言ったノ? ク・コロが? ……あれはダメネ。アルウゥス、去年2月にク・コロがマジカルパウアーを使っていたでしょ」
「う、うん。隕石を掘るために、って言ってたよ」
「そう。つまり、それ以前にマ・ラのもとを離れたということヨ。そして一度も戻らなかった……」
ペルウィアの含みをもった言い回し。
そしてすべてを言う前に、アルウゥスは意図を汲んで言葉を返した。
「……そっか。マ・ラとク・コロが一緒にいたころは鍾乳洞で暮らしてて、ク・コロが離れた後に棲処を移したとしたら、何も間違ってない。ただ(ク・コロの)情報が古かっただけなんだ!」
「そうネ。そして最近まで、ないしは今も、鍾乳洞は後継生物を殖やす繁殖場となっている」
「……話が長え。つまり、ここにマ・ラはいないし、振り出しに戻っただけってことだろ」
宇宙人型後継生物たちの考察にしびれを切らし、トリニティが言及してしまう。
最終章。
宿敵の本拠地への旅に始まり、仲間同士の衝突と和解、事態解決へ。
物語であれば、様式美のクライマックスにいたるお膳立ては、完璧だったはずだ。
にもかかわらず! 宿敵不在!
収獲なし!
一同は鍾乳洞を観光しただけに終わったのだ……。
「諦めるのは早いッ! まだナゾが残ってるヨ。マ・ラはどうやってここに来ていたのかナ?」
みずから「糸口」とは名ばかりの絶望的事実を示しておきながら、ペルウィアは居直って叫ぶ。
「そりゃ、当たり前にどっかで地上とつながってるんだろ。そうでなくともマジカルパウアーでマジカルな感じにマジカルできるだろ」
「投げやりに答えるな! 移動の方法じゃなくて、移動の回数の話だヨ。いくら方法があっても、こんな暗ければ手間もかかりそうな場所に、デカいカエルは何度も来たがらないでしょ?」
「そういやマ・ラってカエルなのか……」
物思いにふけるトリニティをよそに、ペルウィアの発言意図を、アルウゥスは推しはかった。
「確かに、アクセスのしやすい場所が怪しいよね。でも……マ・ラは、人間が暮らすような環境が好きなはずだし……それこそ、双成町の住宅街みたいな! ボクはそう思うなあ」
「双成町にいる、っていうのはワタシも同意だワ」
マ・ラに詳しい尻の大きな宇宙人たちが、捜索の方向性をいっせいに決めてしまった。
トリニティもここまでの長ったらしい話に辟易する。
そして深呼吸の後、宣誓するように口を開く。
「住宅地ってのは考えたくないが……双成町にいるとしたら好都合だ! 双成町は俺の庭だ、マ・ラだろうと何だろうと絶対見つけ出せる!」
トリニティの強気な発言が、議論に決着をつけた。
3人は巨大バエのマジモスを中央にゆるやかな円陣を組み、覚悟が決まった表情でうなずき合う。
「じゃあとりあえず、トリニティとアルウゥスは双成町で足の調査。ワタシはHCCで、監視とデータ精査の頭の調査」
「ああ。わかった」
「それじゃあ……作戦開始ッ!」
アルウゥスが号令する。
ペルウィアは悠然たる笑顔を貼り直し、トリニティたちを「穴」の純白にかがやく出口へとみちびく。
岩陰にかくれた「穴」へ、ペルウィアが先んじて入っていく。
残り全員もその後ろに続いた。
場所からはすべての明かりが消え、完全なる闇へと沈没した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時刻は、午前10時を少し過ぎたころ。
「穴」という超時空的現象を使って、暗い洞窟の中を一瞬にして出ると、トリニティの体内時計は軋みを上げていっきに朝日差す景色に順応する。
時差ぼけにも似た感覚が全身を駆けめぐった。
「どこだ? ……川か?」
トリニティが日光にくらむ視界をゆっくり開くと、まずアスファルトの色。
次に、大きな透明な水の流れが、きらきらと光を弾くようすが認識できる。
河川らしい場所の上を見ると、護岸ブロックが敷き詰められ、そのまた上にフェンス越しに人の行き交う道路があった。
「おいペルウィア、ここどこだよ……」
「えっとぉ……ごめんネ、(『穴』の)出口をつくる場所、間違えちゃった! 双成町ではあるんだけどネ」
臆面もなく開き直るペルウィア。
トリニティが急いで近くの護岸ブロックの斜面をのぼる。
道路に出る。
それは主要な自動車道路から見た、脇道のような場所であり。
民家を越え、歩いて5分程度のところに、第二みもみじ商店街の屋根付き通路が広がっている。
「……確かに。ペルウィアでも凡ミスすることあるんだな」
むしろ、これから調査を始めるうえでこの場所は中継地点として都合がよかった。
ペルウィアは苦笑いしているが、何か深い考えがあっての判断なのかもしれない。
からだをピンクに発光させ、自身らの来た「穴」を抹消したペルウィアは、トリニティの鶏マスクへ向き直った。
「気を取り直して。ワタシは動物園にいるから、マ・ラのことで何かわかったら――ゼッタイにッ!! 行動する前に連絡してネ?」
「わかったよ……。ク・コロのこと、悪かったな」
ペルウィアの威勢に負け、トリニティはついに謝罪した。
それから、各人はざっと揃って、各人に背を向ける。
互いのために。
互いの仕事を手にとって。
屋根付き商店街の方角へ歩くトリニティの姿は、まさしく「戦士」の勇ましさと自信をかもし出していた。




