第35話★ 因縁を奏でる 後
トリニティはふたたびマジモスと合体し、強敵ク・コロに立ち向かう。
最初、万全の状態で立ち向かったが、際限なく湧き出す青い「触手」に道を阻まれ、ク・コロに攻撃が届きすらしなかった。
続く分身作戦によって勝利への突破口を見出すも、ク・コロとの純粋な実力の差にトリニティは打ちのめされた。
絶体絶命。
その折、テラ・ケルがあらわれた!
3度目の正直――、
だが、闘いの神が祝福したかのようにク・コロは、いわば完全体のトリニティと直接対決しているにもかかわらず、圧倒的な強さを維持している。
「ぐうッ!」
トリニティは思わず情けない嗚咽をもらしてしまう。
脊柱戦棍の打撃をはなっても「触手」の腕に払い退けられる。
不意打ちに、肉色スーツの意匠である2本の腕をバンッ! ロケットのように飛ばしても同じ。
こちらの戦術がことごとく無意味化される中、ク・コロの青い色と赤黒い色、2色の「触手」のまるで計画性ない乱暴はすべてトリニティへ命中する。
速度、パワー、何もかも敵わない!
「こんな、歯が立たないなんて……ボクだって、力にッ」
「アルウゥスッ、こちらも油断できませんよ!」
トリニティの後方からマジカルパウアーによる支援を行うアルウゥス。
熱中のあまり、自身が生まれたての青い「触手」たちに囲まれていると気づかなかった!
ク・コロはトリニティの相手をしながら同時に「触手の苗」を、新たな戦力という布石をまいていたのだ。
アルウゥスの危険を予知し、彼の前にテラ・ケルが赤黒く染まった「触手」を差し向ける。
テラ・ケルの「触手」は獰猛さをして、青い「触手」に食らいつく。
残酷な共食い(?)が、アルウゥスを救った。
「ありがとう……。園治と戦いながら、ボクたちも狙ってくるなんて。ク・コロひとりでできる芸当なのかな? からだに植えつけた『触手』が思考を拡張させてるのかも」
加勢したテラ・ケルのそばで、アルウゥスは思索する。
見るかぎり、からだの「触手」に戦略を依存しているク・コロ。
その偏りに、慢心に、形勢をくつがえす糸口があるのではないか。
「でもッ! だとしたら、やっぱりあの『触手』もク・コロの一部だから傷つけられないよね……。でも、あの色ってッ」
しかし。
トリニティをサポートする、「触手」の攻撃を避ける、ク・コロの弱点を探る……。
ダメだ。
忙殺されて考えがまとまらない。
苦悩するアルウゥスを、テラ・ケルが「触手」で抱え上げる。
「フハハぁッ! ク・コロ、やはりその『触手』では、お得意の『苗床腹パン』ができず残念ですねえ!」
「あ? うっせ、外野は黙ってろ!」
「何を言っているのテラ・ケル!」
高笑いしたかと思うと品のない挑発をブッこむテラ・ケル。
素直に怒鳴り返すク・コロ。
わけがわからず取り乱すアルウゥス。
後継生物もれなくパニック!
そんな中で1人、トリニティだけはマジモスと『トリニティ』、二重のマスクの下で冷静な考えをめぐらせていた。
(腹パン……ク・コロは『触手の苗』を植えつけて『触手』を孵化させる……。テラ・ケルは腹パンされて『触手』を植えつけられたってことだよな。うん? じゃあ、そもそもク・コロはどうやって自分に『触手』を……)
降ってわいた小さな疑問が、水面に落とした絵具のようにぼんやりとにじむ。
けれども、新鮮な色彩をもって広がっていく。
具体をともなった感情が、トリニティの観察眼にも宿る。
ク・コロとテラケル、交互に観遣る。
巨大オオカミ。
四肢に、DNAの二重螺旋を模して2色の、青い色と赤黒い色の「触手」が絡み合う。
心なしか赤黒い色のほうが大きく見える。
そして、巨大ヘビ。
言わずもがな「触手」が、鏃めく鱗の下から飛び出している。
「触手」自体の体長は、巨大オオカミのからだから飛び出す個体と大差ない。
一方でその色は、青い色の1色のみだ。
(色の違い……そこまで気にしてこなかったが、何の違いだ? 『触手の苗』から出てくるやつは青しかいなかった。じゃあ、赤いのは……ッ、そうかッ!!)
トリニティの思いつきは、実際はただのこじつけかもしれない。
妄想の産物に過ぎないのかもしれない。
ふと――気がつくと、トリニティの空いた左手にふたたびケラチン質の刃が出現していた。
それは命を斬り取る形をしていた。
マスクをかぶった狭い視界の中が、わずかにピンクに発光している気がした。
「……そうかよ。相棒。俺の、好きにしていいんだな!」
トリニティはク・コロによる猛攻の寸隙――予備動作という免れられぬ隙、自然法則が彼に微笑んだそのときをとらえる。
そして! 左手の刃を一閃――、
ク・コロの青い色と赤黒い色、2色の「触手」の片腕を斬り飛ばしたッ!
「なッ――」
アルウゥスは、ポカンと口を開けて固まってしまった。
自身が「ク・コロ(と一体になっている『触手』)を傷つけずに戦う方法」を模索していた矢先の、トリニティによる攻撃だったためだ。
それも致命傷になりかねない攻撃だ。
ク・コロの、切断された2色の「触手」からぶしゃあと音が立ち、鮮血が噴き出す。
「ク・コロ、『触手の苗』を飲んだだろ?」
トリニティがささやく。
連動し、ク・コロの攻撃からは苛烈さが抜け落ちた。
「その『触手』は正真正銘の寄生虫だ。お前からの栄養分だけじゃ生きられない。わかったぜ!」
するとク・コロの「触手」は、切断された「触手」に群がった!
左肩から左脾腹にかけ開いた穴まで入り込み、湧き出す血の源泉をも食らいつくさんとする。
まさしく、飢えと渇きから逃れるように。
「そ――そっか! 『触手の苗』をお腹に植えつけられたテラ・ケルは、『触手』も栄養を共有して……からだの一部になってるけど。ク・コロは違うッ、『触手』を斬っても本体にはほとんど影響しないんだ!」
遅れて、テラ・ケルに抱えられたままのアルウゥスも、トリニティの結論へとたどり着く。
いやに説明的な言葉を発するが、とうに流れは変わっている!
「や、やっちゃええ、園治いいッ!」
ク・コロが自身の体に「触手の苗」を取り込んだと知ったときから、気がかりだった。
なぜ、複数回に分けて、あるいは何度も「触手」を生み出す必要があったのか?
取り込んだ青い「触手」のすべてが生存できるわけではなく、栄養の分配を受けられない個体は死に絶えてしまった。
生き残るには他の動物を捕食し続け――酸化した血の赤黒い色に染まるしかなかったのだ。
導き出した結論が、おのずとトリニティたちに真実を悟らせた。
「オオオぉン! 図に乗ンなよッ、ひよっこぉ!」
トリニティのケラチン刃がためらいなくク・コロの両腕に擬態した寄生虫を斬り捨てていく。
錯乱するク・コロ。
餓狼の咆哮!
それを合図に、新たに「触手の苗」を出現させ、ひと口で飲み込む!
全身の穴という穴から真っ青な寄生虫がぶわっと湧く!
がッ、ムダだ、トリニティは一刀の下に鏖殺するッ!
「『殺す』と決めたッ、『守る』と決めたッ人間を舐めるなよ!」
瞬間、トリニティは右手の脊柱戦棍の骨盤を振るう。
一撃はク・コロの腹にめり込む。
そして、遥か上空に打ち上げたッッ!
「ガぁッ!?」
みなが落ちた陥没穴の上空にて。
あわれな胴体のみとなった巨大オオカミ――ク・コロが身をよじる。
トリニティも垂直20メートルに飛び上がる!
ク・コロを捕捉し、下降蹴りを食らわせる!
「終わりだあぁッッ――!」
トリニティとク・コロがともに穴の底へと落ちる。
2体のからだが発するマジカルパウアーの激しいピンクの光は空中に軌跡を作って、燃える隕石のごとく見える。
隕石は地球の重力をじゅうぶんに受け、ゴオオオ! 爆発的な音を上げながら、地面へと衝突する!
肉隕石の落下により、陥没穴内の積雪が舞い上がった。
場所はスノウドームと化す。
えぐれた大地でトリニティは見下ろす。
最後の蹴りが闘志をくじき、ク・コロを沈黙させた。
◆
「……やりすぎたか?」
「いえいえ。悪い犬を躾けるには、これくらいでちょうどよいでしょう」
陥没穴の中心、隕石のごとき下降蹴りの落下地点にて。
トリニティの後ろからテラ・ケルが近づく。
表情に乏しい平らなヘビ面ながら、内心笑みをつくっていることがわかる。
巨大ヘビの「触手」に抱えられたアルウゥスが降り、トリニティに向き合う。
「園治……約束、守ってくれてありがとう」
「ああ! ついでに、お約束のほうも守らせてもらおうか」
頭のマジモスを脱ぎ、もとの鶏マスクを露にするトリニティ。
アルウゥスと2人で、決着の場所に叫んだ!
「「俺たちの勝利だッ!」」




