第28話★ 因縁を手繰る
「マジモスう!」
アルウゥスがなさけなく声を荒らげる。
トリニティとアルウゥスは、焦燥しながら森の中にダイブする。
森の中で後を追うと、マジモスはすでにムキムキの人型形態だった。
そのからだに、赤黒い色の数本のヘビ(?)がまとわりき、宙吊りに緊縛されていた。
「キモ……」
見てはいけない現場を前に閉口するトリニティ。
鶏マスクの下から、汚物に対する冷視線を向ける。
アルウゥスも困惑している。
……マジモスのせいではないが、圧倒的に絵面が汚いのだ。
「あッ、園治! 危ないッ!」
叫び、瞬時にからだをピンクに光らせるアルウゥスは、トリニティの斜め前方に脊柱を降らせた!
脊柱は起伏が激しい地面へと突き刺さる。
直後ッ!
森の奥から別のヘビ(?)が飛び出した。
トリニティを木々の隙間から急襲するヘビ(?)!
そこへ、アルウゥスの生成した脊柱が車止めの役割となる。
ヘビ(?)は進路を断たれ、方向転換を余儀なくされた。
「サンキュー、アルウゥス! よくわからんが戦うしかねえ……こい、マジモスッ!」
トリニティが呼びかける。
マジモスは声に応じ、逆エビに縛られた首から下を切り離して、巨大バエの形態でトリニティのもとへ飛行する。
「いくぞ!」
来るのか行くのか、前後不覚めいた発言を受け流し、マジモスはトリニティの武器へと変身する!
鶏足と鶏冠、肉垂をあしらったマスクをマジモスが丸ごと呑み込む。
すると、よりグロテスクな紅玉の瞳・鋭い触角・鬣のごとき剛毛をかたどる。
トリニティのダウンジャケットの上から肉片が張りつき、専用の衣裳のごとくなる。
肩と腰には真っ赤な手足の意匠が絡みつく。
腹部のカサブタからは、蠢く触手が伸び、円環の模様を形作った。
その装いはまさに戦闘特化の触手スーツだ。
「とりあえずダマになってるやつからぶっ叩くッ!」
「変身」したトリニティが手を突き出したところに、上空からアルウゥスの武装が落下する。
アルウゥスの脊柱戦棍。
手に振り回し、逆エビ緊縛された元マジモスの人型肉体ごとヘビ(?)に打撃をくり出す!
脊柱、ムキムキ肉体は衝撃にくだけ散った。
その肉片には、ところどころヘビ(?)がかじったのだろう肉のえぐれが見受けられた。
ヘビ(?)は形状を留めているもののダメージを受け、引き返すように森の中へと消える。
「あッ、おい! 逃げるんじゃねえ!」
「違う……園治、来るよ!」
一瞬の静寂。
――切り裂いて、赤黒い色のヘビ(?)の大群が一斉にあらわれる!
木々といった障害物を正確に避け、トリニティを目指してくるヘビ(?)には、はっきり知性が存在している。
それすなわち、マジカルパウアーを任意に行使できるということ。
トリニティは触れられないよう森の中を全力疾走し、武器で、次々湧き出るヘビ(?)を払いのけた。
「足場が悪い! ってか、こいつヘビなのかッ? 特徴は一致してるが、どう見てもミミズだろ!」
苦戦するトリニティ。
彼から距離を取りながら、アルウゥスは敵を観察している。
「……こんなに同じのがいっぱい。やっぱりヘンだ。もしかしてあの仔の?」
アルウゥスがつぶやく裏で、トリニティの視界に新たなヘビ(?)が躍り出ていた。
他のものの倍以上もある太さに、妖しい漆黒のきらめきをまとったキングサイズのヘビ(?)だ。
トリニティと正面に向かい合う。
ひときわ巨大なヘビ(?)の顔面には菱形をした◇のみが存在する。
中からは、タコの脚のような奇妙な歯がびっしりのぞいていた。
「おお、絶対こいつだッ! 巨大ヘビ! やっとお出ましになったか。お仲間諸ともぶちのめしてやるよ!」
「――園治ッ、これは後継生物じゃない!」
そのとき! アルウゥスが吠えた。
トリニティの聴覚は難なく聞きとらえたが、すぐに言葉の理解にはつながらない。
追ってアルウゥスは大声を発する。
「これは、マジカルパウアーでつくられた『触手』だよ! だからッ……『倒して』も大丈夫ッ!」
「なに――」
アルウゥスから思わぬ指示が出たことで、トリニティの思考がかき消える。
脊髄反射で、発言の真意を訊き返しそうになった。
トリニティは、森のみずみずしい緑の中、妖艶に咲く真っ赤なアルウゥスの顔をみた。
――その得意げな表情を目にする。
「やっちゃえ」と、訴えかけてくる。
(そういうことかッ……)
迷いを払ったトリニティに、天啓のごとき閃きが生じる!
自身を追ってきた「触手」。
そのすべてが、森の中の同じ方向から伸びている。
森は暗いが、おそらくその起点を同じくしているのだろう。
「……俺は、こいつを殺る!」
明確な殺意が起こる。
トリニティは第二みもみじ商店街を焼かれた日から、その感情を少しでも抱くことにためらいがあった。
たとえセーメンティスやアルウゥスの体を弄んだ狂人の話を聞いても……。
感情は義憤と憎しみに留め、殺意とまではいかないよう、自省していた。
(殺していい、排除していい命なんて無え……けど! 関係無え!)
――たとえアルウゥスに赦されたとしても、トリニティの心にはこの殺意に対する責任をとる覚悟が充分にできた。
トリニティは森の奥、「触手」の起点へと駆ける。
突然の肉迫に驚いた「触手」がUの字に引き返して彼を追う。
極太のキングも迎撃姿勢をとる。
しかし、トリニティはそのことごとくをかいくぐり、突っ走る!
ついに、えぐれた丘の足元から「触手」が伸びている――起点を発見した。
地面に埋まっているようすだ。
トリニティの頭部に癒合したマジモスが光り輝く。
トリニティの手に、ケラチンの塊が刃状をしてあらわれた。
トリニティは刃で「触手」の根本を掘り、地中から株らしき組織を露出させる。
「終わりだッッ!」
トリニティは刃で、株らしき組織を両断する。
「触手」は根本から裂け、森の中でのたうち回る。
しばらくは息があったものの、数分後には大小すべてが絶命した。
ひと仕事終えたトリニティ。
アルウゥスと合流し、2人して無事を確認すると一度もとの道路に出た。
「おつかれさま。えっと……さっき、園治が倒したのはね、ク・コロっていう後継生物のマジカルパウアーなんだ」
「ク・コロ? ……なんか聞き覚えがあるような」
「うん。『舟』を破壊してマ・ラを逃がし、テラ・ケルのからだに『触手』を植えつけた張本人だよ」
とぼけたことを言うトリニティに、アルウゥスは神妙な顔で告げる。
それは、これから始まる本当の戦いをトリニティへと宿命づける、ある種の呪文のような言葉だった。
「ああ、そりゃ……サイアクだな。あと、アレもな?」
憂鬱を態度ににじませたトリニティは、アルウゥスを連れてまた森の中へと入る。
周囲を見渡すと、「触手」の死骸が血生臭く転がっている。
2人は「触手」の根本があった場所まで来て、足を止めた。
「これ、たぶん不法投棄だよな。なんで後継生物だけで面倒なのに、見つけちまうかなぁ……」
「すごいゴミの山だね。園治、これどうするの?」
家電製品や大型の家具が、隆起した岩の下で平らな山を形成する。
不法投棄されたと思しきゴミの景色。
それらは森林の中まで捨てに来ていることもあって、激しく劣化して、苔生してもいた。
最近になりテレビのニュース番組でよく観るようになった、注意喚起の内容を思い出すトリニティ。
本心では今すぐ「触手」のマジカルパウアーを使った後継生物を探しに行きたい。
しかし、ご当地ヒーロー……否、虚幌須市民としてそれはできない。
「まずは通報する。けど、俺ができることは……今はないかもな」




