第24話 正体
頭痛に苦しむトリニティへ。
スーツ姿の、身長2.5メートルもある巨人テラ・ケルは無機質な笑顔のまま、腹話術の形式で回想する――。
◆
過去、地球から遥か遠い惑星にマ・ラと、後継生物が生まれました。
それはご存じでしょう。
当時、セーメンティスの母・メルケース博士は、後継生物へ非道な研究を行っていましたが、アルウゥスの母・ブリダナ氏によって告発され、社会全体を敵に回しました。
結果、後継生物は解放され、隔離施設へ移されたのです。
施設は「安全」なものの、それは「自由」を引き換えにしたものでした。
そして、隔離施設にてテラ・ケルとペルウィアは出会いました。
ペルウィアは後継生物解放よりも以前に、マジカルパウアー「穴を生み出す力」を使い、研究者の手から逃れていたのです。
2人は意気投合し、たがいに「舟」を使って後継生物の「楽園」を作るという夢を語り、計画を立てたのです。
「……セーメンティスの母親が、ひでえ実験を主導してたのか。それで、今までの『穴』は、全部ペルウィアのマジカルパウアーだった、と。そういうことはもっと早く教えてくれよ」
「トリニティ様、お静かに。続けます」
2人は調査の結果、母星に最も似ているテッラ――地球を頼ることを決め、手始めに月面を基地にしました。
ペルウィアが「舟」と後継生物のワープを。
テラ・ケルは彼らの監視を、それぞれ担うことに。
もちろん、後継生物は事前にペルウィアが説明した方法で、マジカルパウアーの使用ができないようにしていました。
ところが、あろうことかマ・ラは「自由」を得たいがために仲間を扇動し、あテラ・ケルへけしかけたのです……!
「そうか……けど、マ・ラもセーメンティスみてえにモルモットにされてたんだろ。それでやっと解放されたと思ったら、今度はオスしかいねえ檻ん中に閉じ込められたと。逃げようとする気持ちはわからなくもない」
「モルモット? トリニティ様のおっしゃることはともかく、まずは事実のみを明らかにいたしましょう」
けしかけた、と言うのはマ・ラの腹心の1匹、ク・コロによる襲撃です。
テラ・ケルは、致命的な重症を負いました。
「舟」の唯一の弱点は、マジカルパウアーを使うテラ・ケル自身に「生体活動の停止」が働かないこと。
何らかの理由でマジカルパウアーの使用が滞ると、力が弱まってしまいます。
「ああ、それでマジカルパウアーが使えるようになって、マ・ラの一味は強行突破したのか」
「いいえ……それだけであれば、アルウゥスたちがマ・ラを足止めすることも可能でした。突破されたのは、セーメンティスが急性の『マジカル症』を発症したためです」
「マジカル症」。
脳内の睾丸力から生成される伝達物質が過剰になる――、
通常、マジカルパウアーを長期間行使しないことで発症する、後継生物特有の発作のようなものです。
発症すると、力の行使への執着、幻覚などを引き起こします。
「どこがマジカルなんだよ! ただのあぶねえ禁断症状じゃねえの」
急性の「マジカル症」を発症したセーメンティスは暴走し、マジカルパウアーを使わずにはいられなくなり……。
アルウゥスのからだへ、致死量の力を使おうとしたのです。
アルウゥスの身の危険を感じたペルウィアはとっさに指示し、セーメンティスへ一片の肉片を飛ばしました。
ねらい通り、彼の注意は肉片に移り、それからマジカルパウアー最大出力によって――、
「この、巨大な肉の塔ができ上がったのです」
◆
「そして塔は、弱体化した『舟』の天面を突き破りッ……穴の開いた宇宙船がどうなるか、トリニティ様もご存じでしょう。この収拾に追われ、足止めもできず逃げられてしまったのです」
テラ・ケルのむかし話が終わる。
トリニティはあらためて眼前の、肉色の塔を見通す。
趣味が悪いオブジェクトでしかなかった肉色の塔は、やがて「アルウゥス色の巨大な塊」へと置き換わっていった。
「……今の話で、聞きたいことがある。なんで、セーメンティスは暴走した? 『舟』の能力と、『マジカル症』が禁断症状みたいだって点がどうも噛み合わねえんだ」
トリニティは即座に疑問をぶつける。
「あとテラ・ケル、お前だ。俺がマジモスの記憶で見たお前は、明らかに(地球人らしき)今の姿じゃなかった。いつ変わったんだ? ……これで最後だ。説明してくれ」
「では、セーメンティスの件から。『舟』が弱体化した影響で『生体活動の停止』が解除され、彼の睾丸力は大量の伝達物質を生成、急性の『マジカル症』を引き起こしたのです」
「それはわかってる。俺が聞いてんのは、なんでその大量の伝達物質が作られたのかってことだ!」
らちが明かずイライラしているトリニティ。
見かねたアルウゥスが話に割り込んでくる。
「園治! マジカルパウアーの『通り道』は覚えてる? ミセ・ヤリと戦ったときに話した……」
「ああ。一回でも触られたら、次からは相手へ接触しなくても能力を使えるってやつだろ」
「そうだね。話してなかった……ううん、ボクから話してもいいのか悩んでたけど」
アルウゥスはトリニティの焦りを増幅させてしまうことを承知で、慎重に前置きする。
まるで傷口、あるいは腫れ物にでも触るように。
「『通り道』にはマジカルパウアーの影響以外にも、伝達物質を離れた場所へ届ける力がある。この力の実験のために……セーメンティスはむかしキャンティマと、睾丸力を含む脳の一部を摘出されたんだ」
「――は? 摘出ってッ」
「うん。取り出されたの。今は、ボクたちの母星にある」
アルウゥスが告白する。
その信じがたい内容を、トリニティが予測することなどできただろうか?
ただただ残酷な、事実摘示のための言葉にトリニティは、あ然とするしかなかった。
「(母星にあるセーメンティスの)キャンティマは、後継生物が『舟』に乗ってからも絶えず伝達物質を作り続けていた。でも『舟』の中にいるセーメンティスのからだはそれを処理できず、伝達物質は知らない間に蓄積していったんだ」
改めて、キャンティマは、アルウゥスたち人類種に固有な、精巣と卵巣が対になった内生殖器だ。
マジカルパウアーの元となる物質、つまり――精子をつくる器官だ。
それが何千、何万……途方もない遠くの惑星から「通り道」を通って、地球にいるセーメンティスの脳内へ伝達物質を送り続けていた。
そして彼を暴走させ。
ひいてはマ・ラ一味の脱走劇の舞台装置へと仕立て上げてしまった。
アルウゥスはそう告白したのだ。
ただ、その言葉たちはトリニティへすぐに届かなかった。
1分ほど沈黙が続いた。
「……なるほど。セーメンティスは、『舟』に乗った時点で、いつか爆発するのは決まってたのか。――なんで、そんなやつを乗せたんだよッ!」
怒気をはらんだトリニティの声は、あてどもなく「舟」の中に漂う。
セーメンティスの潜在的な危険性について、当時からアルウゥスや誰かが正確に把握しているとは考えづらい。
それはトリニティも理解していた。
自身が理不尽な怒りを抱いていることも、わかっている。
「悪い、取り乱して。……理解できた。ありがとう」
「トリニティ様。その、私の件についてですが、本当にお知りになりたいですか?」
「なんでだよ。隠しだてはナシだって言っただろ」
「はい……それでは、まず服を脱がせてください」
テラ・ケルは凛々しい顔を一切変えることなく、スーツのジャケットを脱ぎ捨てる。
トリニティは話題の落差に気分が悪くなり、ツッコミどころではなくなる。
アルウゥスとペルウィアは真剣な表情を浮かべ、身長2.5メートルの大男の脱衣をながめる。
男がベスト、続いてシャツを脱ぐと――人間の肌色、ではない爬虫類らしき鱗が見え始めた。
青みを帯びた、鏃のような鱗が敷き詰められた胴体。
胸元では、鱗と人間の肌色とが二色の層をなしている。
凛々しい顔は、フェイスマスクだった。
ゆっくりと頭から脱いだ。
――テラ・ケルは巨大ヘビになった!
それも長い胴体の4か所が食い破られ、内側から青いナゾの生き物がはみ出したヘビ。
……だが、シルエットはトカゲだ。
はみ出した生き物が四肢のように見える。
結局こいつは何だ?
「キんモッ! それどうなってんの!」
「これが私本来の姿……ヘビの部分だけですが。私を打ちのめしたク・コロは、『舟』から脱出する直前、私にマジカルパウアーを使いました。この手足は、彼の力で生み出された『触手』です」
ため息交じりに巨大ヘビのテラ・ケルは、自身をトカゲのように見せている元凶の青い「触手」を四方にグネグネと揺り動かす。
「触手」は3、4体で1束となり、手足の役割を分担している。
ミミズらしき胴体の先端には、鋭利な歯の生えた口唇が開いているものの、それらはテラ・ケルに反抗したり、目の前のトリニティたちに食らいついたりする気配がない。
まるで理性――自制する意思をもっているようだった。
「『触手』に内臓を食らわれ、一時死の淵をさまよいましたが……今ではこの通り、体の一部として御しています」
「そうか。さっきの寄生虫云々ってのは自虐のつもりだったか。悪かったな……」
額の平らなヘビ面ではにかみながら、テラ・ケルが経緯を話した。
彼の姿を見て、ようやくトリニティは頭の中にあるマジモスの記憶すべてに整合性をとることができた。
複雑怪奇な話にいったんの決着がつき、ホッと胸を撫でおろす。




