第15話 同胞・同盟
「おまたせ。ボーボードリ、だよ」
「俺は猟師になったおぼえはない……まさか、な。ハハ、あのクジャクなんてことは」
トリニティは、にこにこのセーメンティスと目を合わせる。
……血の色を知っている目だ。
不思議と、トリニティの中に嫌悪感はなかった。
衣食住のすべてにおいて、人間以外の動物の命をいただくことは現代社会でありふれている。
今回は、それが職業従事者の手によるか、自身の手によるかの違いでしかない。
ただ――セーメンティスにおいては、事情が違うのではないかと、疑問に思った。
「……いいのか? 姿は違えど、クジャクは異母兄弟になるんだろ。それを食うって」
「共食い、みたい? クスクス。トリニティは、鶏肉の形した人間、食べない? 人間の形した鶏肉、食べない?」
「意味が、わからないこと言うなよ……」
「セーは、どっちも食べる。生き物は、形がちがうだけ、の、遺伝子の集合。家族じゃないなら、生き物は、セーのおもちゃだから」
冗談のひとつもなしにセーメンティスは主張する。
「遺伝子を操れる」という超常的力をもつ者の見ている世界は、トリニティが知る世界とは、根本的に異なっているのだ。
まさに、後継生物と地球人の生態と同様に。
トリニティは今をもって、嫌悪感と怖気を覚えた。
……それでも、もう後戻りできない。
「いただきますッ!」
大声とともに合掌するトリニティ。
眼下に出された皿へ、箸を伸ばす。
ごまだれのかかった白い肉を1切れ、頬張る。噛みしめる。
トリニティは、通常個体のクジャクを食べたことなどなかったが、マジカルパウアーの仕組みについて聞いた後では、後継生物の個体はなんとなくオスの臭みがより強いように感じた。
10分もしないうちに、彼はセーメンティス手製の料理を完食する。
後継生物の味を、食えるという事実を、余すことなく脳と血肉へ刻み込んだ。
「ごちそうさまッ!」
「よかった。また作る」
「あとこれは棒棒鶏って言うんだぞ」
「そう? お店は、セーに、ボーボードリって教えた」
セーメンティスは粋な中華屋あるあるを話す。
いっとき場は和んだが、すぐにもまたセーメンティスは、どこからともなく物騒なしろものを取り出した。
「ごはん終わった、トリニティは……これ、注射して」
注射器だ。
中身は、赤みがかった液体が1うがい薬分ほど入っている。
「セーのマジカルパウアーは、細胞、強い負荷かかる。だから、これ、セー特製の栄養剤」
「ああ、なるほどな。……普通に医者へ行っていいか?」
人知を超えた存在を、知に肉に受け入れたのに、まだ疑うのか?
――それは、トリニティにとってある種の民間療法を実践する感覚だったため、許容できていた。
もっともらしい説明をされ、安全性の不確かな液体を、さらに医療器具によって受け入れる行為は、別ジャンルの恐怖があった。
「ダメ。アルウゥスのカサブタ、見られたら、解剖。標本、見世物、アイスマン……」
「それはそれで怖え……わかったよ! 好きにしろ」
トリニティが諦め半分に了承する。
彼の腹部へ、セーメンティスは注射器の針を刺した。
クジャクとの戦いで、遺伝子操作のマジカルパウアーによる影響をもっとも受けた部位だ。
注射針を通じて、液体がトリニティの体内へ……組織へと浸潤していく。
「これから、もっと楽しくなる、ね。クスクス」
セーメンティスはほのかな笑みを浮かべる。意図は知れない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
トリニティが、清栗駅にてセーメンティスと手を組んだ日から、はや2週間が過ぎる。
11月を迎えた。
トリニティは、それまでに2体、月初めに1体。
合計3体の後継生物を殺害した。
いずれもコミュニケーションを取る時間も与えず――と言うより、敵はまるで言語や配慮というコミュニケーションを知らないようすだった――発見しだい斬り殺した。
当然ながら、マジカルパウアーの被害にさらされる市民を1人も出すことはなかった。
(これでいい。俺がしたかったのはこういうことなんだ。この力があれば、俺は……無力な象徴じゃないッ、本物のヒーローになれるッ!)




