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性癖全開!キャンティマロン~◎セイシをかけて、勝手に戦え!◎~  作者: 石鬼 輪たつ
第1章 VS.アルウゥス 双成町・清栗駅編
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第10話  小さきヒーローの迷い

 虚幌須うろぼろす市は、妊婦の下腹部にあたる双成そうせい町。


 隣接りんせつする厘月りんげつ町の3分の1というひかえめな広さをしている。


 だが、そんな中にさまざまな施設をもかかえる。

 中学校・高校が計四つ。

 主要道路に立ち並ぶ高層オフィスビル群。

 さらには、市内最大規模の歓楽街かんらくがい

 

 まさに混沌こんとんとした町だ。



 ある日の、夜闇よやみが立ちこめた20時。


 双成そうせい南西(なんせい)()()みもみじ商店街。


 大路おおじは、買い物目的の中高年層から、部活帰りの中高生を主とする若年層まで、まだら模様の人混ひとごみが形成されていた。


 これから少しずつ若年層が姿すがたを消し、夜の活気かっきへと化粧けしょう直しする。



「いらっしゃい!」



 商店街のはし、くたびれた店にて。

 雰囲気ふんいきにそぐわない溌剌はつらつとした声で、店員があいさつする。


 にわとりマスクをかぶり、無地のポロシャツを着ている。

 そんな人間は『商店戦士トリニティ』の他にいない。


 だが、身長や体格は本人と同じものの、傍目はためにはコスプレイヤーか、本物の変態ヒーローかを見分けることはできなかった。



「注文はスマホからたのむ。き出しはかきピーならタダ、普通のやつなら500円かかるが俺のオリジナルコースターも付くぞ。どっちにする?」


「あっ、え、じゃあかきピーで……」



 トリニティらしき店員は、一見いちげん客相手に、こういうキャラだからとあらい言葉(づか)いで注文方法を説明する。


 店は、カウンター席4つにテーブル席1つのぢんまりした居酒屋いざかやだ。


 地元の客がさわがしくする日もあるが、ほとんど落ち着いている。



「あの、つかぬことをいても……この店は、どういうコンセプトなんですか?」



 客が問いかける。


 遠方から来て、おもむきある店のたたずまいにかかれて入ったのに。

 出迎でむかえてくれたのが小粋こいきなマスターでも、クセのあるふるダヌキでも、可憐かれんおんな主人しゅじんでもなく。

 鶏マスクの変態……というのだ。


 賛否さんぴ云々(うんぬん)にかかわらず事情の一つもきたくなる。



「フツーの居酒屋だが?」



 鶏マスクの常識的な回答が、一見いちげん客をますます混乱させてしまう。



「にいちゃん! 安心しな。()()()は町の平和を守るヒーローってヤツでさ!」



 しゃがれ声。

 どこからッ? と、一見いちげん客がびっくり顔を向ける。


 奥のカウンター席に2人、先客のオッサンが並んで座っている。


 声の主はその1人、メンデルの法則ほうそくを思い出させるシワシワでずんぐりむっくりした初老しょろう男性・阿部あべだ。



「『トリノニツケ』つって、商店街の見廻みまわりしてくれたり、色んな店を手伝ってくれたりしてるんだ。本当にいい子でさあ」


阿部あべさん、違いますよ。トリニティです」


「そうそう、トリニ()()!」



 先走りやすい性質たち阿部あべに、となりから身なりのいい細身の中年男性・はやしが口をはさむ。


 はやし阿部あべと、としの離れた飲み友だちだった。


 一見いちげん客はへえとうすら笑いし、注文の品をもって来たトリニティを一(べつ)した。



「そういえば()()()()()、今はいくつバイトしてるんだっけ?」


はやしさん、今は()()()()()で……」


「ごめんごめん。わかってるって。おじさんだから、その呼び方ちょっと恥ずかしくてさ」



 はやしが声をかけるも、トリニティは気まずそうに指摘してきを返す。

 はやしは飲み干したビールジョッキのふちを指でつつきながら弁明した。



「えっとー、今日は居酒屋ここさかな屋で。他は駅のプリン屋と、第一(商店街)のケータイショップの隣のラーメン屋、それと金物かなもの屋のじっちゃんが集めた秘蔵VHS(ブイエッチエス)倉庫2棟(ふたむね)の掃除と……」


「オーケー、オーケー! 充分じゅうぶんわかった。あと、最後のはよそで言ったらダメだよ」



 金物屋の店主の体面に関わると、あわててはやしがトリニティの言葉を制止する。



「でもさ、はたらきすぎは体に毒だと思うよ、俺は!」



 あから顔をした阿部あべがふたたび口を開く。



「まだオヤジさんも元気だし、トリニテー(あんた)だって若いんだから。おカネめて欲しいものがあるにしても、何も急ぐことはないよ。時間をかけられるってのが若さの特権なんだ」



 トリニティに対する物言いに、耳をそばだてた一見いちげん客もそうだよなぁと同意してうなずいている。



「それに、仕事なんて死ぬまでやることになるんだから」


「いや死ぬまでは仕事させる気なんですねッ! リタイア組だからって調子のって……」


「ガハハ! 何なら一緒に死んでやるぞ。それまで俺らのために頑張れ、若人わこうど!」



 ツッコミを入れたはやしの肩を、高笑いして阿部あべでさする。


 阿部あべは今年の春、ころんでき手の骨を折ってしまい、40年近く続けてきた中華料理店をたたんだ。


 トリニティも本人、店ともに長い付き合いがあり、彼の複雑な心境も理解していた。


 冷酒の入ったぐいみを、つたない手つきで口まで運ぶ阿部あべの姿は、陽気な老人といたましい高齢者のいずれにもうつる。


 トリニティの知る、元気になべを振っていた彼はもういない。



「……めかし町に、4つ目の(みもみじ)商店街をつくる計画があるだろ? いまかせいでる分は、その資金にててる。オヤジにも許可は取ってるし」



 トリニティは、子どもが言い訳するようなたどたどしさで説明する。



「俺が欲しいものは、カネですぐ買えるようなものじゃない。仕事も、手段じゃない。なんつうか……無理はしてないよ。俺はヒーローやってるだけだ。――って、説明になってないか!」



 マスクの下で勝手に赤恥あかっぱじをかいたと思い、笑ってごまかそうとするトリニティ。


 他の3人はいずれも口元だけ笑わせ、彼のようすをながめ続けた。



 深夜となり、居酒屋アルバイトを終えて帰路につくトリニティ。

 夜道に自転車をる。



(ヒーローやってるだけ……だから俺は、やっぱ、アルウゥスのやり方は許せない。『後継生物こうけいせいぶつ』は町の人の脅威きょういにしかならない! それを保護だの繁殖はんしょくだのさせるなんざ……言語ごんご道断どうだんだッ!)



 彼の、気がかりになっていたもの。

 後継生物と戦うための力「マジカルパウアー」をもつアルウゥスを、こばんで本当によかったのか、というまよい。


 今のトリニティには、脅威たる後継生物と戦う手段も、実力じつりょくもない。


 だから、たとえ信用にあたいしない存在と手を組むことになるとしても。

 詭弁きべんろうしてでも。


 彼はアルウゥスの持つような力に頼らなければならなかった。

 そうでなければ無力な……小さき幻想ヒーローだ。


 しかし! もう後悔しない。

 

 無力なままでも、住民の安心の象徴ヒーローになればいいと、彼は決心する。

 象徴として、後継生物てきを倒し、町を守ってゆけばいいと。


 そう、決めたのだ!



(今は、俺なりの戦い方を考えよう)



 トリニティは、双成そうせい町中央の鉄道駅、その北口に面するアパートの1室に到着する。


 彼の自宅だ。

 もっとも、男の1人暮らしにしては広すぎる1LDK。


 居間のクローゼットから、()()()()()を手に取る。

 草野球チームから練習用にとプレゼントされた品だ。

 傷はまだ少ない。



「とりあえず素振すぶりしとくか……」



 考え足らずのにわとり頭をして、変態トリニティは外灯だけが明るい夜闇よやみへとふたたびり出した。

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