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性癖全開!キャンティマロン~◎セイシをかけて、勝手に戦え!◎~  作者: 石鬼 輪たつ
第1章 VS.アルウゥス 厘月町・厘月いんせき公園編
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第9話★  正義のために

(どうする……トリニティッ!?)



 動けないトリニティ。

 そのとき胸元むなもとから、突如何かが飛び出した!


 ――意匠かざりのはずのうでだ。

 

 2本のアルウゥス色をした腕は、ミセ・ヤリの両前脚(まえあし)へとからみつき、手でつかまえ、動きをふうじようとする。



「……おや。何のマネかね?」



 拍子ひょうし抜けするミセ・ヤリ。

 みじかい時間、からだをピンクに光らせマジカルパウアーを行使する。


 直後、トリニティから伸びた2本の腕の()()萎縮いしゅくし、ミセ・ヤリの足首をつかまえる握力あくりょくを失う。

 もう一方も同じようにちぢめられ、拘束こうそくが完全に解けてしまった。



「アルウゥス、ムダなことはするなッ!」


「ぼ、ボクじゃないよ! マジモスが……」



 意表いひょうを突く拘束がアルウゥスによるものだと思い、叱責しっせきしたトリニティ。

 だが、本人によって否定され混乱する。


 アルウゥスいわく、マジモスもその意思によってマジカルパウアーを行使することができるらしい。「マ、マジモス?」


 それでも理解しがたい。

 先の行動には何の意味が? 


 たんなる無策か。予想通り、意表を突いたものか。それとも――、



「どうして、(トリニティの)両腕りょううでを同時に小さくしなかったんだろ? ……そうだ、さっきの砂粒すなつぶもヘンだよ。もしそうならッ」



 アルウゥスがぶつぶつひとり言にふけったかと思うと、卒然そつぜん大声でトリニティに呼びかける。



「わかったよ! ミセ・ヤリは()()()()()()()()しか大きさを変えられないんだッ!」


「なッ……」



 真実をあばかれたミセ・ヤリが動揺の色を見せる。



「なるほどな。ってか、マジカルパウアーの内容知ってて、なんでそれ知らなかったんだよ!」


「力を使ってるのは初めて見たから……ごめん!」


「まあいい。それなら、子どもに手を出す前に――かずでぶちのめすッ!」



 トリニティのまよいを払った言葉を聞き、歓喜かんきするように頭のマジモス部分が輝きはじめた。


 無数の触手しょくしゅが、トリニティの体正面に生える。


 シルエットはイソギンチャクだ。


 しかし、触手の先端には固く握りしめたこぶしが形成され、内部には強力なパンチをうむ筋肉が詰まっている。


 トリニティが走り出す。

 2度目の肉迫にくはく


 抵抗のためミセ・ヤリが足元のすなり上げ、「巨大化した」砂粒を飛ばす。


 ――けれども1粒(ひとつぶ)だけ。

 それはどんどん大きくなる。

 トリニティの身長を超え、乗用車ほどまで達する。



「ヒヒイィン、つぶれろぉ人間――ッ!」



 ミセ・ヤリのいななき。

 トリニティに避けるすきなどない。

 これで――、


 ドンッッ! 

 衝突音。ダイナマイトが炸裂さくれつでもしたか。


 違う、乗用車じょうようしゃ大の砂粒が、アルウゥスいろ肉塊にくかいとぶつかったのだ。


 肉はもろいはず。

 しかし出現したそれは、スロープのような傾斜けいしゃを利用して、巨大物と正面衝突をするのではなく上方へとすべらせ、空高く打ち上げていたッ!



「終わりだ、ミセ・ヤリ」



 トリニティが告げる。


 次に繰り出されるのは、無数の拳によるパンチ。


 むちちに近い殴打おうだ慈悲じひなき制裁せいさい


 鉄拳てっけんは、はじめアルウゥスの細くかよわうでをコピーした非力なものだった。

 ミセ・ヤリも応戦しようと、触れた触手を手当たりしだい小さくして無力化していた。


 時間が進むと、マジモスが新たに生成した肉片を触手に貼り付け、バウムクーヘンの要領ようりょうで、大きくかたく強く成長させた。


 雨と降るパンチがミセ・ヤリの体を破壊せんと突く――。


 ついにはミセ・ヤリが意識混濁(こんだく)し、マジカルパウアーを使えなくなる。

 ミセ・ヤリは血みどろになっていた。


 だが、関係ない。

 闘争心を折れていないのではないかと、トリニティは一方的になぐり続けた。


「――めて」アルウゥスがうわ言のように漏らす。



「もうやめてッッ!」 



 髪を振り乱してアルウゥスが叫んだ。


 さんと光り輝く。

 すると、トリニティをおおっていた無数の触手が、ミセ・ヤリへの猛襲もうしゅうとともに()()()()のだ。

 一瞬にして。


 トリニティはまったく理解が追いつかない。

 能力を解除した……?


 言わずもがな出血多量で、からだ全体をれ上がらせるミセ・ヤリも思考停止を余儀よぎなくされる。


 だが、わずかコンマ数秒の間に、動物的本能が彼を突き動かした。


 ――今がチャンスだ!

 ミセ・ヤリがたましいのいななきを上げ、目前のトリニティへ頭突ずつきをする。


 吹き飛ばした。





「……ぅあ? ……な、にが、起こって」



 無警戒だったトリニティ。

 地面に倒れ、甘い脳揺のうゆれに浮遊ふゆう感を覚える。


 そう、巨大ウマに頭突ずつきされたのだ。

 ヤツの大きさは約3メートル、体重も車ほどあるだろう。……よく死ななかったものだ。



「そう、じゃないッ、俺は!」



 トリニティはヤツ――ミセ・ヤリに、トドメをそこねたと思い出す。


 痛みにしびれるからだを無理やりに起こした。



 ――ああ、最悪の光景だ。

 目のレンズがそれをとらえるや否や、直感するように言葉がトリニティの思考をよぎる。


 ミセ・ヤリが、元のサイズに戻した女児の服をくわえてトリニティに見せつけているのだ。



「フーッ! フーッ! さて、ここからどうする? ニンゲンッ!」


「その子をはなせ、ミセ・ヤリ……何もしないでくれ!」



 人間の弱さをにじませながらトリニティが切願する。


 意外にも、ミセ・ヤリは願いに応じた。



「フフフ、あわれだな。それでいて凶暴ときている。……オレサマはキサマのようなけものとは違う、暴力で制圧などしないさ。子どもも好きなんでね」



 ミセ・ヤリは女児を口から放す。


 解放された女児は泣いている上にさらに号泣を重ね、公園の外へと走り去る。


 公園の植栽しょくさいと歩道とのかげから、身をかくしていた女児の母親があらわれる。

 2人は抱き合う。

 

 公園にいる得体えたいの知れない集団から、ただちに遠ざかっていく。



「――オレサマは、お前に()()()! 動けばただでは済まないぜ?」



 血と挫傷ざしょうにまみれたミセ・ヤリだが、途方とほうもない余裕をかもし出している。


 トリニティはもう、その場から動かない。動くことができない。

 闘志も反骨心もせてしまった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 巨大ウマの後継生物、ミセ・ヤリは堂々(どうどう)と、厘月りんげついんせき公園を後にする。


 マジカルパウアーによって巨大化されたいくつかの砂粒すなつぶはそのままだ。

 元から公園のオブジェとして存在したジャガイモ的隕石(いんせき)と合わせ、今後は隕石群として見なされるだろう。


 元の、にわとりしたマスクへ戻ったトリニティが立ち尽くす。

 そばに、意気消沈したアルウゥスとマジモスもいる。


 敗者はいしゃつどいだ。

 ただし、3者のいずれにも目立った外傷は見当たらない。



「なぜ俺の攻撃を止めた? ミセ・ヤリがもっと人間と敵対的だったら、子どもが、ころされてたかもしれないんだぞ。なあ、アルウゥス」


「……止めなかったら、ミセ・ヤリの方が死んじゃうと思ったから」


「はあ?」



 トリニティは、アルウゥスの先の行為は判断ミスだと受け止め、これについて反省をうながす姿勢しせいだった。

 ――当人の弁明いいわけを聞くまでは。


 トリニティには信じられないものが、正面から返ってきたのだ。



なに言ってんだ。後継生物こうけいせいぶつを『ぶっ倒して』、人間を守るのがお前の役目なんだろ?」


「ボク、『倒す』なんて一言ひとことも言ってない! 後継生物かれらもボクにとって大切で、守る対象なんだ。兄弟きょうだいだから。人間と、お互いに傷つけ合うことがないよう後継生物を『()()()()』――それがボクの使命だよ」



 アルウゥスは真剣な表情で、事実をつつかくさず述べる。



「……そうか。ああ、そうかよ。お前にしたら、俺が勝手に……ころそうとした、悪役ヒールなんだな」


「ちがッ――」


「地球を守りたい? マ・ラが遺伝子いでんし撹乱かくらんをしてる? 思えば、いかにも侵略しんりゃく者らしい他責的な言いわけだよな。元はと言えば、お前らがことわりもなく地球に来て、マ・ラを逃がしたせいなのに。……どうせ、マ・ラに裏切られなくても後継生物(お前ら)は、いずれ地球を都合よく利用するつもりだったんだろッ!」



 トリニティは声を荒らげる。

 だが、これまでのすごんだ雰囲気はなく、純粋じゅんすいな怒りがあふれ出したような形だ。



「俺にとって、後継生物(お前ら)は等しく侵略者だ。絶対にこの町、いや地球から排除はいじょする!」


「ま、待って、お願い! まだボクたちは答えが出てないだけなの。今、地球にいられなくなったらボクたちは……。トリニティ、ボクを、信じて!」


「うるせえ」



 切羽せっぱまったようすのアルウゥスを、トリニティは冷え冷えした声音で制する。



「助けられたおんもある。だから、今日はもう戦わない。……()()()()、いいな」



 それから口をつぐんだトリニティは、アルウゥスに背を向けた。


 真っ赤な髪に真っ赤な肌の宇宙人が――愛する虚幌須うろぼろす市民と、何ひとつ変わらないなみだを目に浮かべていると知って。


 アルウゥスは、浮遊ふゆうする巨大バエのマジモスを抱きしめる。


 ゆっくりと、トリニティのいるらされた公園の外へと歩き出す。



「……ありがとね、トリニティ。バイバイ」



 アルウゥスは最後に微笑ほほえみを浮かべ、ふたたびトリニティと地球の「てき」へと、戻っていった。


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