リアムの日常
リアムを拾ってから半年。
そろそろ雪が降りそうだ。
最初の頃は、声もかけられないほどドンヨリしていた彼だが、言葉を重ね、少しずつ口数も増え…増え……増……
いや増えてはないな。
相変わらず静かだ。
ただ、前よりちょっとだけ、眉間のしわが薄くなった気がする。「深刻」から「普通に暗い」程度には改善したと言えるだろう。(喜んでいいのか?)
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■ 掃除:リアムはホコリに敗北する
「あれ? 掃き掃除、まだ終わってない?」
「……終わったと思ったのだが――」
そう言って、眉間に皺を寄せてリアムが振り返る。その後ろ、部屋の隅に、ホコリの“かたまり”が鎮座していた。
いや、そこだけ残して「終わった」は無理がある。
「えーっと……“ここは見なかったことにしよう”って精神で避けたでしょ?」
「避けてはいない。ただ……どうしても追い込めなかったというか……」
ホコリ負けたイケメン、爆誕。
「ホコリを追い込むっていう概念、初めて聞いたよ……。なんかファンタジー生み出さないで?」
「……これが意外と動くのだ。ほら、風が」
「風のせいにしない!」
結局、私が片付けた。
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■ 薪割り:リアムは斧に勝てない
「薪はどう? 割れた?」
「……割れなかった」
「……一本も?」
「……砕けた」
「砕けた!?」
見れば、薪が粉砕されて散っている。
いや待って、そんな力あるの?
なんなの、特殊能力? 斧って薪を砕けるの? この世界魔法なんてあったっけ? ちょっと想像が追いつかない。
「すまない……」
「別に責めてないよ。ただ、薪割りに“ごめん”はいらないから」
そう言いながら後ろで見守る。
リアムは真剣に木と向き合っているが、その顔がまた暗い。
薪割りごときにそんな悩む必要ないよ。
「……何事も、難しいものだな」
「そうだねぇ。リアムはできなさすぎて、逆に愛嬌あるから大丈夫だよ」
「愛嬌……?」
「ほら、次!」
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■ 洗濯:リアムは布をしぼれない
ある日、桶の前でうずくまるリアムの姿があった。
「どうしたの」
「……しぼれない」
ふむ、しぼれない、とは。
見れば、彼の手の中のシャツが、水をたっぷり含んだ状態でだらーんと垂れている。まるで洗濯される側の気力まで奪い取られているかのようだ。
「リアム、あのね、布っていうのは力任せじゃなくて……」
「そんなつもりはないのだが」
「しぼる方向が違うの」
私は布の端を持って手本を見せる。ぎゅっとしぼると、水がざーっと落ちる。
リアムは小さく「ほう……」と感嘆した。
いやそこに感心しないで。
洗濯の仕組みに感動する金髪イケメン。
……これは可愛いと言っていいのか。ちょっと複雑だ。
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■ パン屋の手伝い:リアムは粉まみれになる
パン屋の作業は……言うまでもなく惨敗だった。
「粉が……暴れた」
「暴れるかー!」
リアムの髪に粉が積もり、顔も白く、もはや誰だかわからない状態だ。
パン捏ねももちろん成功しない。
こねてもこねても……彼の手だけがベタベタになる。
「これは……どうすれば」
「水を入れすぎた結果ですねー」
「……すまない」
「謝る前に次を学ぼうよ! だいぶ“すまない”が口癖化してるよ!」
「……気をつける」




