私の平和?
ディードが去ったあと、パン屋にしんと静けさが戻った。
……いや、戻ってない。リアムがいた。
「離せ……」
「殿――いや、お前! 落ち着けって言ってるだろうが!!」
「しかし……」
うん、全然落ち着いてない。
なんだろうね、リアムって。
なんか、親鳥についてくるヒナとか、母犬に甘える子犬とか、そういう?
「リアム、とりあえず座ろうね?」
「座らない」
「座れよ!?」
「ミアの隣に?」
……どうした?
ダリルさんとギルバートさんはぐったりしていた。
二人の拘束を解いたリアムは、私の目の前に来て止まった。
ほんと、表情に乏しいのは相変わらずだよね。
とりあえず、お店の中では何だから、家の方のリビングに入ってもらいお茶を出した。
パン屋をさっと片付けて、私もリビングへ。その間ずっと、リアムは後ろで私を見ていた。
……後追いかな?
*
「……三年は長かった……」
「ミアさん、すみません……っ。彼、ずっと気にしてて……いや、気にしてたというか……押しかける気満々で……」
リビングに入って落ち着いても、ダリルさんとギルバートさんの様子は変わっていなかった。
「押しかける?」
私の声に、リアムの青い瞳がぴくっと動く。
「――ミア」
「はい?」
「ただいま」
「あ、はい、おかえり」
遅い挨拶かな?
「でもリアム、すぐ王城に戻るでしょ?」
「もう全部やった」
「え? 何を?」
「兄上も、カイルも、国も、済んだ」
…………え、ちょっと待って?
三年で何をどうしたら全部“済んだ”になるの?
何が“済んだ”の?
この人、何を言ってるの?
ぽかんとしていると、ダリルさんが泣きそうな顔をした。
「ミアさん……本当に全部やったんですよ……! お優しすぎるユリウス王子殿下を――変えられてしまって、もうすぐ立太子の儀が執り行われます。カイル王子殿下は他人に頼る癖を叩き……矯正されて、ユリウス王子殿下の補佐ができるまで扱き倒されて……」
ちょっと待て。ところどころおかしくないか!?
ユリウス王子殿下を“変えられて”? 癖を“矯正されて”? 扱き“倒されて”? 言い直したところって、“叩き直す”とか? 変わってなくない?
文面バグ!? 聞き間違い!? それとも私が間違ってる!?
ギルバートに至っては、泣いている。
「宰相を泣かし、法官長を脅し、徴税官長を締め上げて……最終的に、机の下で震えていました……」
被害者が増えてる……っ!?
何をやらかした、リアム!?
そんな二人を横目に、リアムは当然のように言った。
「だから、帰って来た」
いっそ清々しい。
……いやいやいやいや!!!
「帰って来た、じゃないのっ!」
「来た」
「王子様だよね!? ここ田舎の村だよ!? 帰る場所と違うよ!?」
「ミアと……いたいんだ」
――素直か!?
え、その顔やめて? 上目遣いって、教育にないよね? 教えたの誰だ!?
ダリルさんもギルバートさんも、生暖かい視線を送らない!!
私の平和を返して……っ!?




