誰か説明して
――目が覚めたら、美少女になっていた。
いや、まずそこからして考えが追いつかない。
枕元で揺れるピンクブロンドの髪、鏡に映る赤い瞳、小柄で華奢な十歳の女の子。
なんで? 昨日まで普通の会社員だった私、どこ行った?
ていうか、なんでピンクブロンド? この配色、どう考えても「普通」からは程遠い。目がチカチカする。
もう一度鏡を見る。うん、完璧美少女。
……うわあ、これ絶対乙女ゲーム。なんとなく知ってる。アプリで落とせるアレだ。絶対アレの配色だ。髪がピンクは主人公の特権だ。
はい、私その子。おめでとう私。どなたですかあなた。
十年間の記憶はある。記憶の中の私は、確かに私の意思で動いていた。これは、魂が飛んできたとか、神様が云々とかそんな話ではないはず。強いて言えば、前世を思い出した、これだ。
世界は中世ヨーロッパ風、私の住処は王都。貴族も平民もいるし、貧富の差もある。
母は代筆業で細々と稼ぎ、父は不在。だけどなぜだか生活は普通に成り立っていて、服も質が良い。礼儀作法にはうるさいし、たまに見せる仕草が妙に“貴族”っぽい。そして美人。私のピンク髪は母譲りらしい。じゃあ赤目は父親か?
それはさておき、これもう確定じゃない?
「父親実は貴族です。娘さんは今後きらびやかな世界へ~」ってパターン。
私は真剣に考えた。
絶対に嫌だ。
だってそうなったら、絶対逆ハーレム展開とか、婚約破棄とか、悪役令嬢とバチバチとか、一歩間違えたらお花畑のイタい子認定……想像しただけで胃が痛い。
--というわけで私は、運命を自力でぶっ壊すルートを選んだ。
十二歳、パン屋のおばちゃんの弟子になった。
母は説得した。それはもう、十二歳の思考じゃなかった。
学校に行きつつパンをこねる女子、かっこいい。
いや、かっこよくはないけど安全だ。
読み書き計算大事。手に職大事。どちらも真面目に取り組みましたとも。社会人経験バンザイ。算数数学は神童レベル。人付き合いもトラブル回避。周りを見て先読みし、危ない橋は渡りません。
バリバリの職人ルート、恋愛フラグなんて入る余地なし!
そして十六歳のある日。
アパートの前に停まる、立派すぎる馬車。
……うん、もうこれ父親だよね? 迎えに来た貴族パパだよね?知らんけど。
私はパン屋に全力疾走した。
パン屋のおばちゃんは驚いてたけど、事情を話すと「アンタが嫌なら逃げな!」と背中を押してくれた。
そのまま王都を脱出。
十八歳で、地方の小さな村でパン屋を開業した。
大変だった。十代の小娘が自分のパン屋開くとか、本当にどうかしている。やり遂げた私を、誰か褒めてほしい。
ここまで来たらもう、フラグ完全回避でしょ!
と思ったのに。
なぜ私はいま、森の外れで倒れている金髪の青年(超絶イケメン)を見下ろしているんだろう。
誰か説明して。




