『創世神』と吸血鬼のハーフの四つ子は、水の学園七不思議を信じない。
初めてのホラーです。血描写あるのでお気をつけて
「なぁ、知ってるか? この学園って出るらしいぜ」
六限が終わり、放課後になる。ラインは自分の机に伏せながら周囲の話を聞いていた。すると、周りの席から何度も「出る」という言葉が聞こえる。
夏に近づき、蒸し暑くなった学園は吸血鬼の彼にはしんどいものだ。すでにアレスたちは屋敷に帰っていて、ラインもそろそろ帰ろうと思った。
そんなラインの背中を、後ろの席の生徒が叩く。
「なぁ、お前は知ってるか? うちの学園の水にまつわる七不思議」
「なんか聞いたことあるけど……俺は全然信じてないな」
「まぁそう言うなよ。実はな? 昨日、うちのクラスの生徒が見たらしいぜ」
見たって何だよ……というような顔をしていると、その生徒は顔をラインの耳元に近づけ、
「何ってそりゃあ……幽霊に決まってるだろ」
と、当然のように言って来た。だがしかし、そんなものを易々信じるわけにはいかない。
「じゃあ具体的に何の幽霊を見たって言うんだ」
「男の霊と女の霊だったらしいぜ。しかも俺らと同年代くらいだってよ。めっちゃ怖いよなー」
「まあどうせなんかの勘違いだろ。俺は帰る。またな」
呆れたような顔をして教室から出る。夕陽が差し込む廊下は寂しく静かだが、今怖い話を聞いたから怖い! などと脆弱な精神ではない。
「帰るか。あいつらも待ってるだろ」
◆◇◆◇
「ラインお兄ちゃんただいま! 遅かったね!」
「ちょっと七不思議の話をされてな。水についての」
屋敷の扉を開けて居間に行くと、レンゲが元気に抱きついてくる。そんな妹を優しく抱きしめていると、後ろからセツナが現れる。
「私もそれ今日聞いたよ。エリシアがしつこいくらい言って来てさ。おかげで七不思議全部覚えちゃったんだけど」
そんな不満を口にする。セツナから聞いた七不思議はこうだ。
一つ目は学園の裏にある古い井戸、二つ目は学園三階に上がる階段に突然現れる水道、三つ目は井戸の近くにある古い貯水槽……などと言った場所で女の霊が出るというものだった。
「ま、こんなので怖がるなんてバカみたい……いや、怖い人もいるに決まってるよね、うん」
呆れたように両手を上げようとしたが、末妹の怖がっている姿を見てすぐに言いなおした。
「じゃあ今日僕たちで確かめに行ってみる?」
「まあ良いんじゃない?」
「別に行っても良いけど」
アレスの問いにそう答えたセツナとラインだが、レンゲだけはずっとラインにくっついていた。
「レンゲはうちに残ってるか?」
「いやいやそれじゃあもっと怖いじゃん! 私も一緒に行くよ」
こうして、七不思議を暴く計画が始まった。
◆◇◆◇
時刻はもう午前0時を過ぎ、次の日になっている。月と星の光が目印になりそうな暗さの中で、四人は学園に侵入した。
「とりあえず、中のから行くぞ」
学園の校舎に侵入すると、明かりも何もない真っ暗な空間が広がっていた。
「ら、ラインお兄ちゃん……」
「アレス、ちょっと……」
そうして、レンゲはラインに、セツナはアレスの腕にしがみついたのだ。
「セツナ、お前怖いのか?」
「うっさい怖くないし。ほら、とっとと三階行くよ!」
セツナはアレスの腕を引っ張りながら淡々と階段を登っていく。それに連なるようにラインとレンゲも進んで行くが、突然、叫び声が聞こえた。
「セツナ!? 大丈夫か!?」
「に、兄さん……これ」
アレスの指差す先には、階段の曲がり角だ。しかし、いつもはないはずの水道がそこにあり、さらに水が溢れ出ていた。
「ねぇ……何してるの?」
後ろから女の声が聞こえた。おそらく聞いたことのないもののはず。さらにその女の足音は何も聞こえなかった。その上、今はその女から水の滴る音が聞こえてくる。
そのおぞましさに、四人は身動きを取ることが出来ない。
「レンゲ、しっかりつかまってろ。アレス、窓だ!」
「うん! セツナ、しっかり掴んでて」
二人は同時に右側にある窓に背中から飛び込み、ガラスを割って地面に落ちていった。
「うぐっ……レンゲ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫……い、今の声って」
「ちょ、変なこと言わないでよ! ゆ、幽霊とかいるわけないじゃない!」
「幽霊の存在を神である僕たちが否定するのはちょっとあれだと思うけど……さっきのは一体」
ゆっくりと身体を起こし、周りを見渡す。暗くて最初はよく見えなかったが、段々と目が慣れていきその空間が目に入ってくる。
「井戸と……貯水槽……」
「ちょっと、やめてよ……」
「セツナ、落ち着いて」
セツナは全身を震わせながらアレスにしがみついている。流石にこの状態で調査を進める気には慣れない。
「仕方ない。帰るか……レンゲ! 離れろ!」
「う、うん!」
突如何かを察したようなラインがそう叫び、レンゲはアレスとセツナに抱きつく。すると、ラインは足や手を動かせなくなり、段々井戸に引っ張られていくのだ。
「な、何だよこれ……手足が掴まれて……あぁっ!?」
抵抗も虚しく引きずられ、ラインの体の半分が井戸に入ってしまう。
「お兄ちゃん! ちょっと!」
それまで怖がっていたセツナが走り出し、ラインの足をギリギリで掴む。グッと引っ張るが、井戸の中にも引っ張られているためセツナも落ちそうになる。
「危ない!」
「大丈夫!?」
「「「せーの!」」」
アレスとレンゲもラインの足を掴み、三人で引き上げる。流石の団結力といったところか、段々とラインの体は井戸から出て来る。
「くっそ……俺の手を掴みやがって。仕方ない。血式・紅!」
左手に凝縮させた血液が爆発し、ラインの両腕は吹き飛びさらに井戸は大破してしまった。
三人に引き上げられ、地面に尻もちをつく。
「はぁ……危ねぇ……ありがとうみんな」
吸血鬼の再生力で両腕を再生させながらラインは兄妹たちに礼を述べる。
「まて……逃がさない……ぞ」
女の声は井戸から聞こえた。井戸を見ると、真っ白の大量の手が出て来てラインたちに向かって来た。
「早く逃げるぞ!」
「私に任せて!」
レンゲが片手にライン、もう片手にセツナを抱え、肩にアレスを抱える。その状態にも関わらず、化け物みたいなスピードで全ての手を避け……
「あともうちょっと! 行くよ!」
学園の正門をひとっ飛びして外に出ることに成功したのだ。
「は、速すぎ……でもありがとう」
「早く屋敷に帰るよ」
◆◇◆◇
屋敷に辿り着き、四人とも居間にあるソファーに倒れ込む。バカにしていた七不思議を見たのだ。驚きと恐怖が隠せず動揺している。
「や、やっぱりエリシアが言ってた七不思議は正しかったってこと?」
「そう言うことになるよな。ていうか、女の霊しか出なかったな。俺は男の霊も出るって聞いてたのに」
セツナの問いにラインがそう答えると、レンゲが不思議そうに言葉を紡いだ。
「……ラインお兄ちゃん? 何言ってるの? うちの学校の七不思議は全部女の人の霊が出るって話だよ?」
「僕も女性の霊ってことしか知らないな。一体、兄さんは誰から聞いたの?」
アレスとレンゲだけでなく、セツナも「何言ってるの?」というような目で見てくる。
「誰からってそりゃあ俺の後ろの席の……」
そこまで言って、ラインの顔が一気に青ざめた。
「俺の後ろの席って……なんだ? 俺が一番後ろだろ……」
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