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居残り

「じゃあ小テストするぞー」

「「「えーー!」」」


 6時間目が始まるとすぐに、世界史の先生が告げた。


「大丈夫だ。まだ2年になって授業は数回しかしていない。この小テストは1年の内容で作ってあるし、比較的簡単だ。ある程度は把握しているが、1人1人がどこまで出来るのかを確認するためのもんだ。点数が悪いからと言って何かペナルティがあるわけじゃない」


 生徒たちを安心させるように語り掛ける。ペナルティがないということが、気持ちを楽にさせたのだろう。プリントを受け取った生徒はのびのびと取り組み始めた。



 (じゃあ、この話は放課後にするから)


 結城さんの言葉が繰り返し脳内を再生する。プリントを受け取ったはいいが白紙のまま手付かずの状況。

 理由は明白。昼休みの、屋外階段での出来事で小テストどころではない。


 (探してた理由が、話したいからって何だよ)


 一方的に絡まれているこの状況では、当然答えに辿り着くことは不可能。その答えを放課後に出してはくれるのだろうが、こちらとしてはモヤモヤとする他ない。


 (その本人は真後ろにいるんだけどな。って、なんか全然音しないんだけど……)


 小テスト中は、先生も黙っているため教室にはシャーペンの走る音しかしない。むしろそうじゃないとおかしい。だが、後ろからは全くと言っていいほど走るどころか物音一つしない。


 (まさか寝てる?……いや、ありえるな)


 今日、結城さんは2年になってから初めて朝から登校してきた。

 そんな彼女のことだ。寝ていても何ら不思議はない。先生が俺の席から、反対側に当たる廊下側に視線を移すのを見計らうのと同時に、若干首を捻り後ろへと視線を向けた。


「何?」

「…………」

「カンニングでもしたいの?」

「…………間違いました」

「意味わかんない」

「俺もそう思います」

「前向いたら」

「はい」


 彼女は頬杖をついていた。そして、普通に起きておりただジッとしていただけだろう。

 無表情のまま前を向けと言われ、俺はそれに従うだけだった。


「はーいそこまで。後ろから回収してくれ。すぐに答え合わせをして返すから、それまでは自習だ」


 先生の合図で小テストの終わりがきた。


「え、ちょっとまっ」

「白紙じゃん。何してんの?」

「いやこれは違くて、そのっ」

「あー言い訳するつもり?やめた方がいいよ、覗き魔さん」

「のっ、覗き魔?」

「違うの?授業中にわざわざ後ろ向いて、用もなくまた前向いて。そんなの、覗き魔と一緒でしょ」


 めちゃくちゃ馬鹿にされている。そもそもの話だが、この人が発端でこんなことになっている。だが、言い返すことは俺には出来ない。

 

「ふぅん。何も言えないの?覗き魔さん」

「まだ言うつもり?それだけは勘弁してくれ」

「ハイハイ」


 そう言うと、彼女は満足したのか一瞬ニヤッとして俺の元を離れ他の生徒の分も回収し始めた。


 だが、ここで1つ疑問に思った。結城さんは小テスト出来たのだろうか?と。彼女が勉強が出来るかどうかは、俺には分からないが起きていたし、シャーペンを使っていたようには見えなかった。


 (実は勉強出来る……とか言わないよな?)


 嫌な想像が鮮明に見えた。それだけはなしで、そう願うしかなかった。


ーーーーーー

 放課後、教室で俺はシャーペンを走らせていた。それぞれが、部活に行ったり下校したりで学校自体が静まり返っている。

 今だに残っているのは俺と、そして


「ほんと何してんの?小テストで白紙って。先生が真っ青になるのも無理ないって」


 呆れたようにしながら、結城さんが話しかけてくる。


「ペナルティはなしって言ってたのに。あまりの出来の悪さに、こりぁだめだって言って慌てて補習のプリントを取りに行った時は流石に笑いそうになった」


 最後の授業を思い出したのか、今だに余韻に浸かっている。


「ねぇ、今どんな気持ち?」


 そう言うと、ギシっと椅子の音がなった。そして、俺の左肩口から生えるかのように腕が伸び、やがて口元へとそれは辿り着く。

 マイクだった。手のひらをグーにしている。これに向かって話せということらしい。

 俺は、シャーペンを走らせながら口を開く。


「まぁ、先生が慌てた原因が俺だけじゃなかったのは、せめてもの救いだったかな」

「面白くない」


 結城さんはすぐに腕を引っ込め、自分の席へと体勢を戻した。


「そっちが聞いてきたんだろ?見切るの早すぎだろ。てかよく俺を馬鹿に出来たな?」

「別に。小テスト何てどうでもいい」

「今回のはそうだけど、次からのは中間にも影響は出るだろ。真面目にやったら?」

「さぁ、やったところででしょ」


 先ほどまでとは違い、声のトーンも雰囲気も初めて彼女を見た時と同様の物に感じた。そんな彼女が少し気になった俺は、一旦手を止め後ろを見た。

 その美貌は外へと視線を向けていた。窓から涼しい風が入り込み彼女の艶のある髪が流されている。目線は遠くの夕日を見ているようだが、それは果たして彼女に映っているのだろうか。

 ハァ。と1つため息を吐いた俺は、椅子の方向を真後ろへと向け、途中で止めていた補習のプリントを結城さんの机へと移した。

 そして、再びプリントへと意識を向ける。


「ッ!?…何してるの?」


 驚いているのは分かった。けど、わざわざ付き合うつもりはない。


「どうせ俺が終わったら、それを写す気だったんだろ?そうなったら君が終わるまで俺も帰れない。だからこうした方が早い。感謝していいよ、もう半分以上は終わってるから」

 

 俺は残りの問題を解きながら、結城さんに補習のプリントをするよう促した。


「何それ。意味わかんない……フフ」


 言葉に棘はある。だが、それは攻撃的なものではなかった。笑ったような気がしたから。

 

 そこからは、シャーペンを手に取り俺の解答を見ながら、夕日の差し込む2人だけの教室でたった1つの机を共有した。

 

 

 


 




 

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