出会う
始業式から2日後。
午前の授業が終わると同時に俺は教室を後にした。これは1年生の頃から変わらない俺の日常。そして、昼休みも残り5分になったため教室に戻り、余った時間は音楽を聴こうとイヤホンをバックから取り出し音源を掛けようとした時、
「今日の部活だる〜」
「分かる〜〜。まじ午後から雨降ってほしい」
「無理無理。天気予報今週ずっと晴れだったし」
「最悪じゃん!もうこの際サボっ?!」
コツコツコツ。
賑やかだった教室が静まり返り、ローファーの足音だけが教室中に響き渡る。一瞬にして静寂に包まれたため、俺もチラッと音のする方を見た。イヤホンはしているが、音楽はかけていないためハッキリと足音は耳に入ってくる。
その音は、こちらに近づいて来ており理解した。彼女が俺の後ろの席の主であるということを。
ワインの様な深い赤色をしたセミロングの髪。スラリとしており、女子の中では身長は高いと見えるスタイル。極め付けは圧倒的に整った顔面。彼女からの雰囲気は、同年代から見れば良くも悪くも大人びて見えるだろう。
(確か、担任は結城って言ってた様な……女子だったのか)
そんなことを思いながら、俺はスマホに目を移し音楽を掛け1人の世界に。刹那、結城さんという名前の女子がこちらを見た様な気がしたが、気にすることはなかった。
結城によって異様な雰囲気に包まれた教室。そんな彼女の元に、1人の女子生徒が歩み寄って行く。
その女子生徒もまた、結城に引けを取ることはないほどの容姿にスタイル。頭にはカチューシャを付けており、尚且つ金髪というアクセントは彼女にしか似合わないだろう。制服は着崩しておりオシャレにすら見える。この点に関しては結城も同様。
「久しぶり、嶺。始業式は2日前だけど、寝坊した?」
女子生徒は、何も気にすることなく結城の後ろに回ると背を窓際に預けながら話しかける。
「橋上さんすげー。よく話しかけれるよな」
「男子の俺たちですらビビってしまうほどの雰囲気なのに……」
「さすが橋上さん…女子でも結城さんはちょっとね……」
「橋上さんはあれさえなければ、もっと仲良くなれるんだけどね」
「言えてるわー」
周囲は2人の女子生徒を見ながら、ヒソヒソ話を始める。普通、綺麗な子が2人も揃えば温かい視線を向けられてもおかしくないが、とてもじゃないがそんな光景はなかった。
事実として嫌悪から侮蔑、負に近い感情が2人の元に辿り着く。
「まぁ、寝過ぎてしまったかもね。気付いたら2日過ぎてた」
「フフッ、人ってそんな寝れるの?」
「寝れるんじゃない?試してみれば?」
「そんな馬鹿なこと絶対しない」
だが、2人は周囲を気にすることなく言葉を交わす。
「あっやばい。5時間目始まる。それじゃ」
そう言って橋上が、窓際から背を離し席に戻ろうとする。
「悠、次の授業何?」
「あー現代文………寝るなよ?」
「あーそれは2度寝入るかも」
「2日以上寝るつもりじゃん」
「いやそれは冗談だって」
「フフフ…あっ、それと新しい教科書とかはロッカーに入れられてるから」
「分かった。ありがとう」
その会話を最後に2人は離れ、それぞれの準備を始めた。初めこそ周囲の生徒達も注目してはいたが、今ではもう窓際の最後方から関心をなくしていた。
結城のそばから離れる際、チラッと1つ前の席に座る男子生徒に橋上が視線を移したが、もちろんそんな事には誰も気づかなかった。
(いや2回目………チラ見多すぎだろ。1回目の結城さんって人のも恐らくそうだし、この人は確か橋上さんだったよな。昨日、他の奴らがそう呼んでるの聞こえたし)
が、実はそうではなかった。
耳にイヤホンをつけ1人の世界に入っていた俺は、理由もなくただ窓越しに外の風景に目線を移していた。
でも、窓は反射する物。後ろの結城さんという女子と話していたであろう、橋上さんという女子がチラッと俺の方を見て来たのが分かった。
(………何で????)
2人の美人から、視線を向けられた俺は疑問符を植え付けられるだけだった。
俺の存在自体、他のクラスメイトからすれば"こんな奴いたな"と将来言われるぐらいの人となりのはずだが。
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