魔法のクリスタル・ストローで僕が見る世界は、他の人には見えない。
【あらすじ】
僕は魔法のクリスタル・ストローを持ってる。
それは、僕だけに、素敵な世界を見せてくれる。
なぜって?
その理由はきっと・・・・。
僕は魔法のクリスタル・ストローを持ってる。
端の、小さい吸い口から中を覗くと、色とりどりの光が見える。
「ホラ!中を覗いてみて!」
友人トオルに見せてあげた。
「わぁ!ホントだね!キレイな光が見える!だけど白っぽい光だよ!」
「ホント?おかしいな」
ストローを返してもらう。
僕と同じものが見えないだって?
不安になって別の友人アキラに貸した。
「ねぇ?色とりどりの光が見えるでしょ?」
アキラはしばらく覗いていたけど
「う~~ん、僕には赤い光しかみえないな」
首をかしげた。
他の友人は
「真っ暗で何も見えないよ」
「そんなものに光が見えるわけがない」
僕と同じものを見てる人は誰もいない。
なぜ?
僕には色とりどりの、虹色の、素敵な幾何学模様が見えるのに!
大きくなったり小さくなったり
突然消えたり突然現れたり
グルグル回転したりジワジワ溶けて消え失せたり
融合したり分離したり
とにかくすごくキレイなんだ!
なぜ僕と同じものを誰も見えないの?
きっと、僕だけが選ばれたんだ!
他の人には見えないものを見ることができるんだ!
「神様は僕だけに、この世界の秘密を教えてくれるために、この魔法のクリスタル・ストローをくれたんだ!」
トオルは不思議そうな顔をしたけど感心したように
「スゴイね!いいなぁ~僕もその美しい模様を見てみたい!」
アキラも尊敬のまなざしで
「僕には赤色しか見えなかったのに!君はその先が見えるんだな!」
他の友人は
「嘘つき!何も見えるわけないよ!」
「普通に考えて、ただのストローだろ?頭がおかしくなったとしか思えないね!」
分からないヤツには分からないさ!
僕の存在の偉大さを理解できないヤツは山ほどいるけど、気にしない。
この魔法のクリスタル・ストローがあれば、僕の能力は世間に証明できる。
世間には二通りの人間しかいない。
この魔法のクリスタルストローが『見えるヤツ』か『見えないヤツ』か、だ。
そして虹色が見えた者にしか次の段階へ進む資格はない。
虹色のもっとその先、究極の美の世界。
神々の物語を。
見ることができ、その謎と答えを理解できるのは、僕だけかもしれない。
ゾクゾクするほどの感動に身を震わせた。
でも、一人では孤独だ。
共に歩む仲間が欲しい。
あっ!
憧れのクレア先輩だ!
「クレア先輩!このストローを覗くと何が見えますか?」
ドキドキしながらストローを手渡した。
クレア先輩は戸惑いながらもストローを目にあてる。
「う~~ん。そうね、小さい穴の向こうに、茶色い床が見えるわ。
・・・・・あっ!!ごめんなさいっ!」
カシャッッーーーーンッッ!!
返そうとした手と手がぶつかりストローが床に落ちて割れてしまった。
僕の大切なストローは粉々になった。
光り輝く虹色の世界、僕だけが見える、僕の能力の証拠、自信の源が粉々になった。
何てことだ!
壊れてしまった!
あの虹色の世界が、至高の物語が!不朽の名作が!
この世界を変えるほどの偉大な傑作が!
あぁっっ!!!
どうしようっ!!!
残ったのは絶望だけ!
この先どうすればいいんだ!!
クレア先輩を憎む?
トオルやアキラに慰めてもらう?
『見えないヤツ』はあざ笑うだろう。
いい気味だと!
そんなもの始めから無かったんだと!
ただの、偏見だと。
ただの、妄想だと。
何の役にも立たない独断だと。
・・・・・・・・・・・
成長して大人になった僕は、今は、数本の、魔法のクリスタル・ストローを持っている。
そして時を経るごとに、その数は増え続けているんだ。