よんにちめ
8/7 夜
今夜の夜ご飯は…。思えば、今夜の夜ごはんというのは、頭痛が痛いと同様であるな。まあ、今夜の夜ご飯は、ゴーヤとジョールベーコンというブタの首肉のチャーシュー、そしてウーシの乳からできる熱するとよく伸びる素材を加えたものと、米である。
この米は、初日に炊いたものを冷凍したものであるが、いざ解凍してレーンジデンシでチンすると、カピカピになる。明日は、水を少し加えてからレーンジデンシでチンすることにしよう。毎回米のお供とともに、ガリガリと齧るのは空しい。
一人だとガリッという音が、部屋によく響くのだ。
ちなみに、買い出し時に購入した酒も、夜ご飯の際に嗜んだ。
今回の風呂の後のお供は、もともと冷蔵庫に入っていた、先人の残していった遺物。ついさっき買ってきて冷蔵庫に入れたての物よりも、断然に冷えている。うまい。
これまた買い出しで買ってきた、砂肝ジャーキーなるものと共にいただく。
私は焼き鳥では、砂ずり、別名筋胃、砂肝が大好きである。これだけで、焼き鳥10本は軽く行ける。しかし、私の好みは触感によるものであるので、ジャーキーとなると、その触感が失われ、美味しかったが、空しかった。
さあさあ、暇になってしまった。外にでも出てみようか。
真っ暗闇の中外へと出て、休憩所にある自販機を目指す。なにかしら飲もうかと思ったのだ。
道中、異世界にこれまた異世界からやってきた外来生物であるカタツムリのクリーチャーや、超巨大なナメクジのモンスターなどを見つけた。昼間に雨が降ったからこそ、普段は見られない軟体動物が見られたのだ。雨の日の好きなところはそこである。逆にこれ以外は特に好きなところはないので、雨の日は嫌いだ。
さらには、事務の横で、鳥さんがゆったりと夜を過ごしていた。
カタツムリやナメクジの大きさに異世界の恐怖を思い出していたが、鳥さんはその夜唯一の癒しとなってくれた。
洗濯物を取り込み、床につく。4日ほど過ごし、生活にも慣れてきたころであるが、うかつに巨大な固有生物を見ると、恐怖はぶり返してくる。ああ恐ろしい。
なにやら、普段聞こえる家鳴りも、頻繁に聞こえてくるようだ…。精神状態が相まって、家鳴りはまるで心霊現象にまで昇華する。これが日本の夏…。
しかし、きっかり8秒間隔で聞こえてくるこの家鳴りは、余りにも異常すぎる…。
電気をつけて辺りをよく確認すると、洗濯物から水が垂れていた…。なんでやねん。
どうやら、洗濯機が少し壊れていて、普段から水が洗濯槽内に少しづつ漏れ続けているため、その水滴が洗濯して脱水まで終えた洗濯物に垂れ続け、多量の水を含ませたのであろう。
この4日間で初めての現象だ。非常にビックリした。
時は午前3時。垂れていた水滴のせいで、すっかり目が覚めてしまった…。
無理やり寝よう。おやすみ。
8/8
おはよう。
今日も朝から、バナナとミカンとカモミールティーを嗜む。
支度をして、現場へと直行!
今日は、ミーティングで指揮する英雄から少し離れた場所にいたため、話が全然聞こえなかったが、勇モーションタグの取り付けの話であろうことは予想できた。
今日もまた、ウーシを捕縛する任につく。
午前中から早速ウーシの捕縛が開始される。昨日編み出した『対岸の火事理論』を、早速試し、検証する時が来た。
そして、しっかりと撃沈した。
まずおさらいとして、この理論を用いる弱点は、①近づいてくるウーシは、本当にのんきな個体なので、一区画に1匹いるかいないかであうこと。1匹いただけで上出来であること。②それでも確実に鼻輪を掴めるわけではないということ。掴んでも振りほどかれる可能性があること。③英雄にすら、隣の区画のウーシを捕まえようとしていることを悟られない状態なために、英雄が隣の区画に介入してウーシが逃げてしまうことがある。の3つである。
そして、幼体のウーシには①と③が、成体のウーシには①と②と③の全部が適応される。
まあ、それが弱点というものなので、当然ではある。
幼体のウーシは、比較的好奇心旺盛なために、①の弱点は看破できそうであるが、それでもなかなかにのんきな個体はいない。好奇心旺盛であるために、警戒心も高いのである。ただ、②に関しては基本的に幼体のウーシには関係なかった。3匹ほどしか捕らえられていないが、それでも鼻輪を持つ手を振りほどかれることは無かった。③は後にまとめて説明する。
成体のウーシは、①として、基本的に警戒心が高い。特に、縄を持った人間が近くにいると、捕縛されることが分かっているために警戒するのだ。そして、鼻輪を掴めても圧倒的に振りほどかれる。英雄にも忠告されたが、鼻輪を掴むのは、かなり危険である。英雄だからといって、楽々と鼻輪を掴んでいるわけではないのだ。下手をすれば手を痛めるとの事。現に、私は今両手とも人差し指中指薬指を痛めている。掴んでも、後ろに下がられて持っていかれたのだ。
そして③。これが一番の弱点である。英雄が区画内でウーシを捕縛しているのを横目に、英雄が干渉してこないであろうギリギリの2区画ほど隣で、じっと座ってウーシが近づいてくるのを待っているのだから、暇なのかな手が空いているのかな休憩中なのかなと、タスクが与えられてしまうのだ。
「縄が無いからこっち投げて。」「縄足りなくなってきたから解くの手伝ってきて。」「ほい縄、さあ捕まえよう!」一人でのんびりと牧場でウーシを捕まえているのではなく、これは牧場実習である。確実に何かしらのタスクは課せられる。
さらには、ずっと待っていてもウーシが寄ってこず、英雄たちの仕事が区画に追いつくこともざらにある。
この弱点の全てをかいくぐって、何とか一人で捕縛できたのは、幼体のウーシも併せて、6頭程度であろうか。そしてそのうちの1頭は、出荷予定の個体であるから捕まえなくてもいいよと言われて泣く泣くリリースした。
それに、午前の捕縛作業では、支給された英雄の装備の一つである鉄板入り長靴が、区画内で脱げてしまったのだ。これは重大な出来事である。
装備要求値は全体的に不足しているため、もちろんサイズの値も不足している。
ウーシの糞尿や発酵した飼料、土やその他諸々、これらの混ざった区画内の床材は、ひどい場合だと足がとられるのだ。まるで沼、湿地帯である。
そして、案の定これに足をとられ、片足の装備が脱げて、靴下で床を踏みしめたのだ。
偶然にも、床材の合間にある木の敷居部分を踏みしめたゆえ、べったりと床材が付くことは無かったが、それでも、ウーシや英雄たちが踏みしめた部分である。汚れないわけはない。
これには、私の精神も思わずビックリ、区画内に入ることをためらってしまうようになった。
時はお昼休憩。
今日もまた、英雄の一人が、近代的な移動手段を用いて、私を宿舎の方に送ってくれた。しかし、カバンやスマホを休憩所の方に置いてきてしまったので、結局は取りに戻ることとなってしまったのは、申し訳ない。
そして今日もまた、テレビジョーンにて、高校野球を眺める。今日の朝試合にて、この異世界より送り出された選りすぐりの猛者たちは、名だたる強豪の率いるチームに、点すら取らせてもらえず、初戦で敗退したとの事。
球状の土回収して、大阪観光でもしてさっさと帰って来い。春夏2連覇相手は無理よ、もう誰も泣いてなかったね。と、共に弁当を喰らう英雄は話していた。しっかり結果はチェックしていたようだ。
さて、午後も同様に、勇モーションタグの取り付けである。
午前のトラウマ、床材靴下ふみふみがあったので、なかなか区画に入りづらくなってしまっていた。よって、私は完全に区画の外からのアプローチとなった。それでも、何とか3頭ほどは捕縛でき、合計の戦績は、10頭いかないか程度。
計二区画分の頭数である。
捕縛を行った場所は、約二十区画×2。
さすがに、英雄の足元にも及ばなかった。
私にも投げ縄のスキルがあれば、もう少しは貢献できていただろうか。
あるいは、捕縛に携わり始めて3日目の牧場実習生は、その程度なのであろうか。
投げ縄で捕縛が成功したのは、1頭だけ。投げ縄が難しすぎる。
カウボーイは、どれほどの研鑽を積んだのか。
疲れたというか、精神的にダメージを負った。
捕縛をする際に土を飛ばされて、それが服に付いたり靴の中に入ったりして汚れた!などは良いのだが、靴が脱げて踏んでしまったのは超悲しい。ぴえん。
そして、今日になって気づいたのだが、靴下にも草や土が付着してしまうことが往々にしてあったので、なぜ作業着と共にいったん手洗いしてから洗濯機に入れなかったのであろうか。おかげで、洗濯物に、たまに草などが付いていることがあった。敗北である。
宿舎でゆったりと夕食を食べ、風呂に入ってから、この文章を書いている。
今日は、風呂場のどこかでアシダカ軍曹が巡回中であるし、午前中に靴を洗っていたら、ネズミの幼体であろうモノの水死体があった。
帰り際には、ハンミョウや、なかなかに珍しいこの異世界特有であろうヤモリも見かけたが、ヤモリの捕獲には至らなかった。
あの程度のヤモリも捕獲できなければ、ウーシなど到底捕縛不可能。気を引き締めてゆこう。
というか、よく寝よう。
異世界にこれまた異世界からやってきた外来生物であるカタツムリのクリーチャー:アフリカマイマイ
超巨大なナメクジのモンスター:アシヒダナメクジ
異世界固有であろうヤモリ:オキナワヤモリ