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1日目ぇ!

8/4 18時過ぎ

やってきましたスーパーマーケット。

牧場職員さんの車に乗せてもらい、近くの港町へと戻って、これから食料の買い出しをするところである。夕方に徒歩で40分かけて登り切った山道を、車で6分ほどで下りきる。なにか悲しい。

ちなみに、「帰りは、経費で出すのでタクシーで帰ってきてね」とのこと。

さらに、食費も支給してくださるとの事なので、ありがたく頂いた。朝昼晩3食自炊する場合は、2000円×6日分。朝晩は自炊して昼は弁当を利用する場合は、1500円×6日分。

通貨は日本と同じだったのが、異世界では救いの綱である。非常にありがたい。

私はもちろん1500円×6日分を選択した。お昼休みが何分あるか分からないのに、昼ご飯の自炊は難易度が高いと踏んだのだ。まあ、昼をインスタントラーメンなどの安いモノで済ませて、その分の食費を違うものに回すのも手の一つではあろう。だが、私はお弁当をとった。

一通り食材を買った。どうせならご当地料理でも作ってみようかと見よう見まねで適当に食材を選んで入れたら、買い物かごが満杯になってしまった。計8000円強、もはや一週間は過ごせる量を買いためたことになる。いや、これで一週間過ごせなかったら、次は自費の登場だ。これは避けたい。なるべく懐に入れたい。

先人方は、だいたい自炊を冷凍食品で済ませていたようであるので、安く済ませてあとは酒か懐に入れるかの選択をとったのであろう。

そう、酒。

飲酒禁止となったはずであるのに、先人たちが残して行って「冷蔵庫に余ってるから、こういうのは自由に飲んでいいよ」と言われたものの中に、諸々のビールが残っているのである。これは…ないなかしむ飲。

それはさておき、スーパーマーケットの前に、クレープのフードトラックがあったので、しれっと購入した。

異世界にもクレープはあるし、エナジードリンクもあるのだなぁ。


牧場へと舞い戻ると、辺りは薄暗くなってきていた。

お風呂にお湯を張りながら、買ってきた食材を冷蔵庫に詰め込む。冷えているビールを横目に見ながら…。

今日はもうすでに飛行機で飲んでいる。飲むわけにはいかないが、それでも視界に入ってしまえば揺らぐのが成人済みの弱点でもあり特権でもある。

ぐっと唇を噛みしめ、風呂を確認する。蛇口から水を入れてお湯を張るタイプの風呂であるためなかなか入りづらいのか、まだ1/3もお湯は入っていなかった。しかし、こういうタイプは逆に、安心しているとお湯があふれてきて大惨事になるものでもある。油断は大敵だ。

お湯が張り終わるまで、もうしばらく時間があるから何をしようかとあの手この手を考える。そんな間もなく、私の手は持って来ていたタブレットへと手が伸びていた。

このタブレットは、WiFi存在下でしか使えないのがネックであるが、私は異世界に行くにあたって、さも当たり前化のように、なんとびっくり、チート能力を持っている。

その能力とは、WiFiテザリング。ギガ無制限のこのスマホから無尽蔵に発せられるWiFiは、タブレットでの動画配信サイト視聴や、ノートPCでのこの物語の執筆をも可能にしている。

WiFiがなければ小説家になろうのサイトすら開けないであろう。

しばらくすると、ある変化が現れた。外からゴオオオオと重低音が響いてくるのだ。

これは、ガスでお湯を沸かして水道へと送り込む機構の作動音であろう。

私は夕方、さんざん不可解な鳥かセミかも分からぬ生物のサイレンのような鳴き声を聞いているのだ。こんな簡単な音などすぐ分かるに決まっている。

しばらく動画配信サイトにて動画を眺めていると、気づけば3動画目に突入しようとしていた。ここで、私は思い出した。お湯を入れっぱなしであったのだ。

急いでお風呂を見に行くと、お湯は溢れる寸前であった。

危なかった。

先人が、入浴剤も置いていってくれていたので、私はありがたくそれを使わせてもらった。非常にいいお湯だったが、熱かった。次はお湯の温度を少し下げようと思う。


風呂を出ると、辺りはすっかり真っ暗。足の踏み場すら分からない状態であった。こうなったら、明日の予習をするしかない。

明日の朝の集合場所まで、暗黒の中、歩みを進める。光源は、スマホのライトとペンライト。こういう時に、ペンライトは役に立つ。光が強いなと感じたら、色を変えて目に優しい色を探し出す。

ゲコゲコ、クークー、リンリン、モーモー、あのサイレンのような音。

夜の牧場は、視界がないが、音にあふれている。

ここで育てているウーシという生き物は、夜は30分ほどしか寝ないらしい。それゆえに、どうせ寝るのは短いんだからと睡眠中などということは問答無用で、ライトで照らして安全確認をしている夜勤の牧場の職員がいた。謎の明かりをつけて行脚している私のことをどのように思っていたのであろうか。

しかし、遠い。

目的地にたどり着くだけで、5分ほどかかってしまう。

まあ、そこは夜で足元に気を付けながらなので、良しとしよう。明日の自分に期待である。


宿舎に戻り、寝る準備…の前に、牧場の方が用意してくださったかつ丼を頂いた。

大盛りであったため、少々米を残してしまったが、往々にしてかつ丼の主役はかつ。かつだけ食べ切ればそれでよしとしよう。

外は真っ暗なために、電気をつけていると、窓の外に虫がびっしり張り付いていそうで非常に恐ろしい。さらには、数々の虫の鳴き声。窓にぶつかっているかのような音。古い宿舎ゆえの家鳴り。

一人ぽつんと眠るには非常に心細い。

しかし、この一晩を超えれば、だいたいこんなもんだと慣れ、普通の生活を送れるようになるというもの。

さらに、私は虫に対して強い耐性があるときた。

事務の外の張り込みをしていたアシダカ軍曹に挨拶をかわし、布団へと入る。

不思議なことに、布団に入ってしまえば、聞こえていた物音がほとんど消滅してしまった。せいぜい、家鳴りがある程度。

光の有無で活発度が変わるのか?いや、事務はまだ明かりがついているため、そのようなことは無いだろう。いったい何なのであろうか。

まあいい。もう寝るのだ。うだうだと考えていたら眠れなくなる…。そうこうしているうちに、布団に入って1時間が経過した。もういい加減寝よう。

おやすみ。



8/5 6:30

おはよう。

さあ、長いであろう一日の始まりだ。

バナナをほおばりとヨーグルトをすすり、そして優雅にカモミールティーをたしなむ。

十中八九昼にはお腹がペコペコになるが、それはまあ、ご愛嬌。

朝食を終え、作業着に着替え、集合場所へと向かう。作業靴は、自分で持ってきたものではなく、牧場側が用意してくれた物を使ってみようと思う。

装備的には、足装備の防御力に極ぶりしている状態だ。他は紙同然。この靴には鉄板が入っており、ウーシの踏みつけ攻撃や蹴り技から自身の身を護る、この靴を造った鍛冶屋の一家直伝の知恵である。

業務は、まずはミーティングから始まる。この牧場を守りし英雄たちの会合とでも言おうか。

英雄の到着を待っていると、集会所の扉が開け放たれた。

私はペッパー博士のエネルギー剤を摂取していた所であったので、英雄の放つその圧に押され、エネルギー剤を吹き出しかけた。

この牧場は大まかに3つの区画に別れ、それぞれを英雄の長が統治している状態だ。集会所へと現れた英雄は、その区画の中でもウシの繁殖を主とする英雄の集いの者であった。

その英雄は、ある程度の区画の場所を説明してくれた後、まだ会合が始まるまで時間があるからと、自身のテリトリーへと連れ出してくれた。下手すれば集会にまつろわぬ者となり、英雄の長から制裁を喰らうのではないかと私は恐れたが、異世界には珍しく軽トラを自在に扱い、ほんの8分ほどでテリトリーをまわることが出来た。

時間は経ち、ついに会合が始まったが、その会話は非常に聞き取りづらかった。隣にいた私ですらデシベルが小さすぎて体が聴覚の情報以外をシャットダウンしだすような始末であった。

さらには、異世界特有とまではいかないが、独特な単語があった。

配られた資料も用いて、かろうじて分かったのは、もうじきにセリがあるとのことだけ。

セリ…競り…?まさか、もうじき戦いが勃発するというのか…。

ちょうど私が牧場実習を終えて一泊して帰る日に、その戦があるとの情報なので、巻き込まれると死が待っている可能性すらある。

さらには、足の防御力は英雄たちと同等の装備であるとはいえ、基礎ステータスは比べ物にならないほど低い。戦に巻き込まれれば敗北どころか、存在ごと消されかねない。末恐ろしい限りである。


会合が終わると、3つの区画のうち、私が配属されるのはどこか一切の言及がなかったので、とりあえず、会合を指揮する英雄の下へと向かうと、クイッっと手招きされた。どうやら、ついて来いとの事なのであろう。

まずは、英雄の案内の元、3つの区画を見て回らせてもらった。そしてどうやら、幻の4つ目の区画にいる英雄も併せて、全員仲がいいようだ。一つの牧場にまつろう者として、英雄同士助け合って一つの牧場を形作っている。となれば、容易に競りにも勝ることであろう。会合にてシレっと何事もなかったかのように、「競りがあります」と伝えていた余裕は、この自信によるものであろう。

英雄の担当区画になると、「見といて」と待機させられ、英雄は単身で5頭ほどいるウーシの群れへと立ち向かっていった。どこからともなく取り出したる英雄の装備、縄を用いて、ウシを簡単に捕縛。そして、近くの壁へと括り付けて動きを完全に封じた。この捕縛されたウーシたちは、私の世界での牛と同様に、これから削蹄の作業が入るという。ゆえに、削蹄担当の英雄の手を煩わせないように、自身が捕縛しておいたとの事なのだろう。

また、削蹄の基準は、月齢と競り前の準備によるらしい。このウーシたちは、月齢によるものである。

つぎに、ウーシたちを養う飼料を造る錬成場へと赴いた。

飼料には、この異世界で作られている酒の粕を加えているらしい。これにて、ウシの特異性を発現させているらしいのだ。なんともこだわりが強く、なおかつ無駄がない。

そして次は、ウーシの排泄物や飼料のカスなどを含んだ土壌を再錬成し、作物などに最適な土壌へと作り変える錬成場。堆肥場へと赴いた。

ここでは、数段階に分けて再錬成を行い、最終的にはそれらを袋詰めし、各地へと売り出しているらしい。この工程には機械の力が使われており、袋詰めされた堆肥を積み上げたり、それらをミイラのようにビニールで巻いて保存することが機械化によって効率的に行われていた。

一通り区画を回り終わると、削蹄のために捕縛されていたウーシたちが、削蹄場へと移動されていた。

削蹄を行う英雄は、ウーシを特異能力で生み出した檻に入れ、縄で保定し、得物である削蹄刃を用いてテンポよく削蹄を行っていった。途中、ウーシの抵抗があったが、逆にウーシ側が流血していたので、ダメージを返報する能力も持ち合わせているのか、それともウーシが自分で自分を傷つけてしまったのかは定かではない。

その後、休息を挟みながら、与えた飼料にヴァイタミンというウシに必須の栄養素を与えるタスクをこなした。


そして、時は昼休憩である。

やはり、英雄たちとは違いステータスがクソザコな私は、頻繁に休息しなければならないようだ。

用意してもらったお弁当は、これで500円なのかと思うほどには豪華なものであった。ただ、同じく弁当を喰らっていた英雄は、「毎日同じ弁当なんだよな」とこぼしていた。

さて、昼の休息も終わり、英雄の用いている弁当も食べてステータスは大幅回復した。だが、歩き詰めであったために、そして英雄の装備である靴の装備要求値が高かったために、私の左足は鉄板と骨の親和性の破綻を引き起こし、崩壊寸前であった。

満身創痍の歩行様式のままに、午後の作業が始まった。

さっそく、ウーシを移動させるから後ろから追い立ててくれとの依頼が寄せられた。

しかし、追い立てるとは、英雄の圧があってこそ成り立つものである。私のような貧弱な一端の冒険者には、少し荷が重いような気がした。だが、ウーシは逆に英雄へと立ち向かい、弱者から遠ざかろうとする性質があるようなので、追い立てはなんとか成功した。

その後は、小柄なウシに生育用の飼料を与えたり、粗飼料と生育飼料の2種の飼料を均等にいきわたらせるために混ぜたりと、タスクをこなし、牧場実習初日の作業は終了した。


宿舎へと戻り、手元にあった食材から料理を制作し食べ、風呂に入った後にこれを書いている。明日の課題は、足装備の問題と、痛めた左足の回復であろう。





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