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魔火竜 4

「サクラ、こっちから逃げるのか?」


 抜けてきた森の方に戻るサクラに、アズールは一度背後を振り返った後、サクラを見て聞く。

 レオがいない今、場所がわからないオンド村に逃げるのも漣鳥の湖に逃げるのも難しいので、縄張りを抜けるルートをわかっている戻る選択肢は悪くはないのかもしれない。


「カイさんとヴェルさんを探す」

「は!?」


 サクラは真剣な顔だった。


「私はロキと魔力の相性がいいとわかったとき、ロキがすごい魔力の持ち主で私が治癒魔法を使えることを知ったとき、世界がロキを生かそうとしているようだと思った。なんでこんなにこじつけみたいになんでも運命論にしたがるのかと思ったけど、今までもそうだったなら、私は今までの人たちが運命という名前にしたがったそれを、信じたい」


「……サクラ」


「ごめんね、アズール」


「そもそもお前の相乗りだ。俺に文句言う権利ねぇよ」


 アズールは笑って言う。


「そもそも、旅に出てなかったら」

「別に俺誘われてねぇよ。なんとなくちょうどよかったから一緒に来ただけで。それに、旅は道連れって言うだろ」


 サクラはアズールの方を向く。


「アズール」


「てか王子様もカイさんもいないと、俺らこれから割と絶望的だしな。犯罪者みたいなもんだし」

「……確かに」


「もしそういう運命ってもんがあるなら、ヴェルさんだって、まだ生きてるはずだ」

「うん」


 ***


「ゲホっ……ゴホっ」


 飲み込んだ水に苦しみながら、カイは重たい身体を無理やり起こす。


 我ながら、相変わらずしぶといなと、苦笑をこぼし、そして顔を上げ、目の前に魔獣がいてぎょっとする。


「……鷲獅子?」


 ああ、だから生きてるのかと、思った。

 見下ろすその目に敵意はない。

 

 鷲獅子を認識すると、カイはハッとして周囲を見渡す。


「ヴェル!」


 倒れているヴェルメリオを見つけて、這って近付く。


「ヴェル、ヴェル……ヴェル」


体を揺すって名前を呼ぶ。


手が震える。

名前を呼ぶ声も震えた。


「なんで、鷲獅子は、俺じゃなくてお前を助けるはずだろ……俺はお前のついでで、だから、俺だけ助かるはずない」


 相変わらず、しぶといなと、そう思ったのを……思い出して、表情が強張る。

 魔力は2で、魔法なんて使えなくて、自分には自覚がなくて、でも、さすが身体強化魔法使いだなと、それは、幾度となく言われてきた。

 魔獣具の暴発にだって、何度も耐えられてきたのは、そのおかげで。


「…………っヴェル」


 ***


「ロキ様!」


 ロキの魔力の底が見え始めると、魔火竜は降りてきて、その爪で直接ロキを薙ぎ払う。

 レオは思わず叫んだ。


 火から守ってくれる水壁はまだ残っていて、だから、二人とも、まだ大丈夫だと思っていた。

 もう限界で、まさか最後に残った力を自分たちの方に回してくれているとは夢にも思わなかった。


「……魔力がないと、無力だなぁ」


 竜に爪で軽く払われただけで、もうボロボロで、ロキは地面に倒れて動かない自分の体に、そんな言葉をこぼす。

 吐いた血が視界に入る。

 もっと剣も真剣にやっておくべきだったかと後悔して、竜が相手では関係ない後悔だなと笑う。


 やりたいことが、たくさん残っているわけではないが、ただ、もっと旅を続けたかったなと、そんな心残りだけが出てくる。

 せっかく楽しい旅だったのに。

 道端の草を見ているだけでも、サクラと一緒なら楽しくて、少し前を歩くカイとアズールは急かすこともなく付き合ってくれて、そんな旅で、よかったのに。


 多くを望んだわけではなかった。

 それなのにどうして許されなかったのだろうかと、ロキはそんなことを思う。


 顔に影が落ちて、もう体は動かないので、目線だけ動かす。


 なぜかずっとそばにいた子どもの魔火竜は、なぜかまだそこにいて、本能で悟っているのだろう、勝てるはずのない成獣の魔火竜に一緒に立ち向かってくれるようなことはないのに、なぜかロキのそばも離れない。


 そんな幼い竜は、もう透明になってしまった魔色石の短剣をなぜか咥えてきて、ロキの前に落とした。


 目をパチパチとさせたロキは、理由に気付いて、苦笑をこぼす。


「お前、まさか本当に俺のことを仲間だと思っていたのか」


 魔獣は魔色石の中に入ると治る。

 確かにロキはそう言った。

 その短剣を持って。


 幼い竜は、頻りに首を傾げて、前足で短剣をロキの方に近付ける。


「俺は魔獣じゃないから治らないよ。飛んで逃げることもできない。俺は人間だから、軽く払われただけでもう動けない」


 幼い竜は、じーっとロキの目を見る。


「来世は……竜もいいな。ああ、いや……でも、それだと、サクラと話せなくなってしまうか」


 ロキは、笑って、目を閉じる。

 まさかこんなにすぐ、来世の希望を知れたことに感謝することになるとは思わなかった。


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