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焼かれた村の真実

「絵本?」


 夕食の場でロキが本の話をしたらオルバは首を傾げたが、説明をしたら納得したような顔になった。


「それは甥のルディが置いていったものでしょう。今は魔導士をしていて王都にいるんですが、以前はここを手伝ってくれていて、たまに帰ってきては顔を出してくれるんですよ」


 魔導士、という言葉に全員が食事の手を止めてオルバを見た。


「……その魔導士複雑な立場だな」


 アズールはぼそっとこぼす。


「ルディはどこで本を?」

「オンド村だと思います。ルディの母親がその村の出身なんですが、漣鳥(リプル)とスイレンの話を聞いたことがあります」


「……オンド村?」


 カイが考え込むような顔になる。


「知っているのか?」

「業火が焼いた村の名が、そうだったような」

「……おかしいな、ただの自由な旅のはずが何かを目的にしているかのように繋がっていく」


「十年ほど前に魔獣によって一度焼けたんですが、王女様の援助で復興したんですよ。義姉の家族も一時期はカステルで暮らしていたんですが、今は村に戻っています」

「焼け野原になった、という噂で止まっているのはなぜだ。王女が尽力したならもっと大きな声で言えるはずだろう」


 オルバは少し目が泳いだあと、躊躇するように、口を開いた。


「カステルに来たときはまだ火傷が治りきっておらず、私が治療をしたんですが、そのとき子どもがおかしなことを」

「おかしなこと?」

「水神様……あ、オンド村では漣鳥(リプル)を水神と祀っているんですが、水神様が村に現れて泉の水で火を消したと」

「おかしなことでもないだろう。A級の魔獣なら可能だ」

「いえ、それが、水神様は真っ赤な目の男の子の腕にとまったというんです。それがいかに神秘的だったかという話を何度もしてくれて」

「それは、おかしいな」


「それってもしかしてヴェルさん? じゃあ村を焼いたっていうのはただの噂で」

「そうなると問題だ」

「え?」


 険しい顔をしているカイにアズールは戸惑う。

 すごく強い人がいい人だったのならそれはいいことなはずだ。

 個人的にも、もはや知り合いなのだから再会したとき戦うようなことになれば複雑で、ロキやカイも戦いたくないようなことを言っていたのに、なぜ……と。


「ヴェルメリオが焼いていないなら、他の誰かが焼いたことになる」

「それは、魔獣が」

「漣鳥がヴェルメリオを認めて力を貸したのなら、村を助けたのはヴェルメリオということになる。その手柄を奪うだけならまだしも、ヴェルメリオを犯人にする必要はない。他に犯人がいるから、その罪を着せる相手が必要だった」

「でも村は魔獣によって焼けたって」

「村に魔獣を呼んだ誰かがいる。噂の登場人物はヴェルメリオと……」


「……王子」


 唖然と呟いたサクラはロキを見る。

 オルバが俯いたのをカイは見逃さない。


「その子どもは、王子が焼いたと?」

「……いいえ、ですが村の人はみんな王子様を嫌っているようでした。子どもも、お姫様は綺麗だった、水神様と遊んでいた、男の子以外で水神様に触れられたのはお姫様だけだった、やっぱりお姫様は特別なんだ……と、王女様のことはたくさん話してくれたんですが、王子様のことはまったく」

「でも王子が犯人なら普通隠しませんか? そもそも噂に出さないっていうか」

「出すしかなかったのかも」

「……なんで?」

「ヴェルさんが触れたところは焦げてた。もしあれで腕や足を握ったら、手の形に火傷ができる。魔獣に襲われたなんて言い逃れはできない。普段は見えない場所でも、王子様なら隠せないよ。他国のお姫様と結婚したりしたら? 自国の村を焼いて子どもに止められたときにできた火傷ですなんて、絶対言えない。元々噂を作っておけば、もし誰かに見られてもそういう理由だって、同情されるだけ。だから、ヴェルさんが村を焼いたというだけじゃなくて、わざわざ近くを通りがかった王子が襲われたって噂にした」

「……まさか、本当に王子が?」

「ヘルシリアの王太子は子どものときからユークラントの第一王女と結婚が決まっているからな。自国の令嬢が相手ならまだしも、隣国の姫が相手では見られたときにそんなことは言えるわけがない。かといってじゃあ結婚はやめようとも言えない」

「ヴェルメリオを処罰しようにも漣鳥を手にしたことで迂闊には殺せない立場になってしまったんですね」


「……あなたたちは、いったい」


 オルバは四人のそんなやり取りに呆然とする。


「あ、漣鳥の棲む泉のスイレンのことは何かご存知ですか? 特別な花だと思うんですが」

「あ、それは、漣鳥がいなくなったことで泉が枯れてしまったらしく、義姉の家族がカステルの泉に花が絶えてしまわないように種を蒔いていました。今は巫女の力で泉は戻ったそうですが。私も忙しくて様子を見にいけていないんですが、そういえばそろそろスイレンの時期ですね。咲いていましたか?」

「ええ、では同じ花なんですね! オルバ先生はあのスイレンに解毒の効果があることは?」

「いや、でもそれはただの伝説、迷信のようなものだと思いますよ。オンド村で毒キノコを食べて亡くなった人の話を聞きましたから。本当に解毒なんて夢の効能がある薬草なら、村の巫女くらいは知っているでしょうし」


「残念だったな。毒消し草はファンタジーだったらしい」


 この世界の医者も夢の効能、と称したということはそういうことだ。


 王太子が村を焼いていたかもしれないなんて話を横に置いてまでする話だろうかとオルバとアズールは思ったが、ロキもカイもこれ以上深く話すつもりはないようで、食事を再開させてしまった。


「もしかして、オンド村の人たちはスパイダーリリーを食べていたんじゃないですか?」


 オルバは目を見開いた。


「さっきお前毒草だって言わなかったか?」

「そうなんです! スパイダーリリーを普通に食べていたって言うんですよ!」

「……食ってた」

「……食べてましたね」

「……しかも普通に」


「毒抜きして食べることはできます。でも」

「ええ、特別なことはしてないって言うんですよ。私が毒草だって言ったら、オンド村の人間は毒に強いのかもしれないなんて笑っていて。でもキノコで死んだ人はいるって」

「スイレンと一緒に食べていたんじゃないですか? スパイダーリリーを使った料理には必ずスイレンも使われていた。だから村の人たちは特別なことをしているつもりがなかった。そうすれば食べられたという先人の知恵が受け継がれて、なぜという疑問は気にならず毒のはずのものを食べているというのはあることです。私の国でもフグの卵巣の糠漬けという料理があります。猛毒のはずが、二年以上漬けることでなぜか食べられるようになるんです。理由はわかりません」


「……フグの卵巣」

「……サラの国はとんでもない珍味食いですね」

「お前海に行ったこともないはずだろ!?」


「いえ、花を食べるなんて習慣はこの国には。スパイダーリリーも食べるのは球根らしいですし」

「……そういえば食用花の習慣がないんでしたね」

「もしかしてお茶じゃないでしょうか。スイレン茶の話を聞きました。オンド村では日常的に飲んでいると。だから本当に彼らは特別なことはせずスパイダーリリーを食べていたんですよ。それとは別に日常的に解毒効果のあるお茶を飲んでいた」

「なるほど!」


 医者同士が盛り上がっているのを邪魔しないように三人は静かに食事をする。

 一応聞き耳は立てているがなぜそんなに嬉々とした表情をしているのかはわからなかった。


「あ、でもそれなら毒キノコを食べたときも大丈夫なはずですよね」

「解毒効果が薄いんでしょうか。スパイダーリリーはそもそも毒抜きして食べられる植物ですし、少量なら人間が死ぬほどの毒ではなかったと思います」

「高濃度に抽出できれば解毒薬にできるでしょうか」

「煎じてみましょうか。あとチンキ、いっそ普通に食べてみるっていう手も」

「単純にスパイダーリリーの毒には効いてそのキノコの毒には効かなかったって可能性もありますよね」

「あ……そっか」


 がっかり……と項垂れると、サクラはやっと食事を再開させる。


「レインフラワーの葉でも食べてみようかな」

「庭のレインフラワー有毒なんですか?」


 ぼそっとこぼした言葉にそう返されて、オルバは、あっという顔をするが、すぐに違うところに引っかかる。


「ヘルシリアのレインフラワーは全部有毒だと思いますが」

「そうなんですか!?」

「あ、そういえば他国の出身のようなことを」

「私の国ではレインフラワーの毒はまだはっきりしたことはわかってなくて。あの、甘茶……えっと、レインフラワーに似た花で作った甘いお茶があるんですけど」

「ヘルシリアでは聞かないですね。無毒なレインフラワーもあるらしいのでそれを使ったものでしょうか」

「庭のレインフラワーすごくアマチャ……えっと、植物自体もアマチャと言うんですが、それに似ていて、他で見るレインフラワーはもっと花が詰まっているじゃないですか」

「ああ、あれはアデオナのレインフラワーですよ。商人に苗木をもらいまして、嘔吐薬に使ってます」

「解熱薬には」

「試したことはないですね。ヘルシリアのレインフラワーは解熱薬にしますが。でも確かに甘いですね」

「甘いんですか! あの、少し分けて頂いても」

「ええ、構いませんよ。ご自由に採って使ってください」

「ありがとうございます!」


 さっそく夕食後庭に出たサクラは、ついてきたロキに申し訳ない気持ちになる。

 少し用があるだけでも絶対離れるなとカイに言われたのでこのくらい一人でいいよとは言わなかった。


「私も銃使えるようになれないでしょうか」

「使えても俺たちのそばを離れるなとは言われるぞ」


 意図を読まれて結論を言われる。


「ちなみに習得にどのくらいかかると思いますか?」

「お前が天才なら五年」

「……私が天才なら今もう少し何かできてます」

「旅が終わってもアマルテアに一緒に来てくれるんだろう? ならお前が戦えるようになる必要はない」

「アマルテアで王子様にいつも守ってもらうわけにはいかないじゃないですか」

「俺の側近はカイだけじゃない。ちゃんと強いのを二人ほど貸してやるから問題ない」

「ロキの側近にはちゃんとロキの側近させてあげてください。王子の側近なんて名誉ある立場から平民の村娘の護衛になんて降格させられたらかわいそうですよ」

「……治癒魔法使いの護衛が名誉ではないなら何が名誉だ。だいたい俺とお前は魂において同格だ」

「そんなあってないような慣習はいいんですよ」

「もうどうでもいいからおとなしく守られておけ」

「めんどくさくならないでください」


 ロキがフードを深く下げたのでどうしたのだろうかと不思議に思ったタイミングで背後から声をかけられてサクラは振り返る。

 後で来ると聞いていたマクエルがいた。


「お金を持ってきたんだが」


 マクエルが布袋を持って揺らすと硬貨がぶつかり合う音がする。


「早かったな」

「……安かったからな」


 苦笑をこぼす。


「皆さん体調の変化はありませんか?」

「ああ、今のところはまったく。改めて、本当にありがとう。長雨が明けるまでカステルに滞在するって言ってたが、その間ここにいるのか?」

「はい、泊めていただけることになって」

「それはいい、毎年長雨の時期は何かしらあるから医者が二人いると安心だ」

「私は個人的に診る程度ですからあまりあてにされても困りますが」


 ロキは袋の中の金貨の枚数を数えて、確かに十二枚あることを確認すると一枚取り出してマクエルに返す。


「ハリギを一本駄目にしてしまって、それはその分ということで、悪いな、病気で困っているということだったのに」

「……は? いや、駄目にしたって、ハリギの病気について教えてもらったんだから、差し引き余裕で金貨一枚以上だろう」

「それに関しては診断にまったく自信はないので」


サクラもそこに関してお金を取るつもりはない。


「……本当にいいのか?」

「本当に駄目にしてしまったんだ」


 別に少しでも安くしてあげようという配慮ではなく、と暗に言えば、マクエルはそれを受け取る。


「そうだ神殿のやつらがあんたたち探してたぞ。魔獣を倒したのは誰だって。もう街を出たって言っておこうか?」

「いや、別に構わない」

「わかった、次聞かれたら答えておくよ」


 マクエルは再度礼を言うと、ギルドにも顔を出してくれと言って帰っていった。


 レインフラワーの葉を摘んだカゴを持って中に戻ると、摘んだ葉は洗ってハリギの葉と一緒に天日干しの準備をしておき、ウミスイレンは小瓶二つにチンキを作り、残った花弁は煎じる。

 煎じ薬を小瓶に移し、木箱に入れ、サクラが近くで本を読んでいたロキを見ると、ロキは声をかけられる前にもう本を閉じてサクラを見返した。


「何をしてほしいんだ?」

「氷を、少し」


 木箱の上にロキが手をかざすと、氷の塊が箱の中に三つ作られる。


「これでいいか?」

「ありがとうございます」

「今日はもう終わりか?」

「はい。あ、ラナの様子を見てくるので氷水をお願いします」


 手拭いを入れた桶を持ってきて頼むサクラに、ロキは桶の中に手を入れると氷水を出す。


「氷魔法使いは存外役に立つな」

「氷と水と火を出せる魔法使いほど有用な人はいませんよ」

「お前ほど使ってくれると魔法使い冥利に尽きる。王宮にいた頃は俺は無価値だった」

「それは宝の持ち腐れですね」

「貯水湖が必要な国ではなかったからな」


 冗談めかして言われるが、いざそういう国だったとして、それはそれで幸せでもなさそうだとサクラは思う。


「砂漠の国だと神様になれそうですね」

「……結婚の申し込みが山ほどある」

「すごいわかりやすい政略結婚ですね。裏がない」

「妖精の血に興味があるそうだ。ネロが生まれてからは余計にそういうものが増えたらしい」

「一代限りじゃないですもんね。ロキほど桁違いじゃなくても水の性質で魔力が多い子どもが三人生まれたとしたら国にとってすごくいいことですし」

「……本人前にしてそんな直接的に言うなよ」

「ロキ襲われないように気を付けて」

「…………結婚しなくていいから一夜だけと姫に頼まれたことがある」

「…………」

「……向こうも、国のために必死だから、それは伝わるから、なんというか嫌悪感的なものはなかったが、しかしこちらも王子としてわかりましたと言うわけにはいかない」

「……もしかして媚薬とか作れるんじゃないかなとかちょっと思ってましたけど、ロキの医者としては媚薬の解毒薬を研究した方がよかったでしょうか」

「なんで媚薬作ろうとしてるんだよ」

「え、興味ないんですか?」

「……お前はあるのか」

「治癒魔法使いを前にしたら普通考えませんか」

「魔女を前にしたときと間違ってないか」


 同じようなものではという顔をしたサクラに、お前は自分をなんだと思っているんだとロキは呆れたような視線を送る。


「私の予想では炎鹿の角が」

「炎鹿なんて存在しないが」

「……えぇ」

「本気でがっかりするな」

「じゃあ鹿の角とアカヤジオウの根とトリカブトの球根とハルコガネバナの実とアマチャの葉で」

「お前はどこに本気を出している」

「甘味を付けることでプラシーボ効果も狙いました。媚薬はプラシーボありきみたいなところありますからね」

「プラシーボ?」

「小麦粉を粉薬だと偽って渡したのに症状が改善されたりする効果のことです」

「思い込みか」

「でも実際に治ることもありますからただの気分の問題でもないです。だから私は神殿で祈ってくれたりするのもバカにはできないと思っています。この世界には魔法がありますから、魔法使いが呪文を唱えて治りますよって言ったり、巫女が占ってあなたの病気はこれからよくなっていくと出ていますと言ったり、そういうのにも意味があると思います。もちろん効果があると断言できるようなものではありませんが、それだけでよくなる可能性があるのも確かなので、やる意味はあるかと」

「信じる者は救われる、という考え方か。そういう考え方はバカにする者も多いが、お前にそう説明されるとバカにする気にはならないな」

「魔法があるような世界でもそういうものですか」


「治癒魔法使いが甘いお茶を媚薬だって言って出せば全員プラシーボ効果で効くんじゃないのか」

「……え」

「何なら水に砂糖入れるだけでお前は媚薬にできそうだ」

「……楽しくない」

「お前はどこを目指してる」


 ため息をこぼしたサクラは、しかしすぐに表情を明るくさせるとロキを見た。

 ロキは嫌な予感がして眉間に少ししわが寄る。


「ロキには甘い水を出したところで効かないじゃないですか」

「ただの砂糖を入れただけの水だとわかっているわけだからそれは効かないだろうな」

「つまりロキに効いたら本物!」

「おいさっき俺のために解毒薬を作ると言ってくれた医者はどこに行った。俺の医者がなぜ俺に毒を盛ろうとしている」

「ウミスイレンの研究頑張りますね」

「そんな理由で頑張るな!?」

「興味ないんですか?」

「……相手がいればそれは多少興味もあるかもしれないが、相手もいないのに媚薬を手に入れて俺にどうしろと」

「それもそうですね」

「ところでサクラ、誰より作った本人に効くことが本物の証じゃないか?」


 仕返しの笑みを向けられて、サクラは少々引き攣った笑顔を返す。


「……あいにくと私も相手がいないもので」

「それは残念だな。相手ができたらぜひ言ってくれ、研究費用は俺が出してやろう」

「でも強精薬って男の人にしか効かなくないですか?」


 今までなんとか耐えていたアズールがさすがにそこで咳き込んだ。

 カイがちょっとかわいそうなものを見る目でアズールの背をさすってやる。

 実は近くに二人ともいた。

 というかサクラが二人にお茶を淹れたのでサクラは二人が近くにいることを知りながらこんな話をしていた。


「……一見無垢な少女なんだがな」

「……カイさん一見って言うのやめてくださいよ」

「ピンクの瞳に可憐な容姿で不思議な雰囲気をまとっていつも植物の匂いに包まれて花なんて摘んでいればさぞかし村では同世代の男たちの視線を集めていたことだろう」

「幻想見るような目しないでくださいよ」

「現実を見ろ」

「サクラは変人だと思われてる自覚あったみたいですけど」

「手当てされて勘違いする者はいなかったのか」

「いましたよ。でもサクラは医療者へのそれは錯覚だからって」

「鈍感なわけではなかったのか」

「……なんで俺見るんですか」

「こんなにわかりやすいのに伝わっていないようだから」

「俺はそういう幻想見てたわけじゃないですけど、でも見ていたものは錯覚だって言われたらそうかもしれない、とも思います。サクラって、存在がぼやけてるっていうか、不安定っていうか、それが儚く錯覚してるような気がする。だってあいつ話してたら全然儚いとかそういう感じじゃないじゃないですか」

「そうだな」

「だから俺、一緒に旅なんてついてきてあれですけど、どうにかなりたいって全然思ってないんですよ。王子様と一緒にいるサクラは、存在がはっきりしてる。変ですよね、旅に出てからの言動は絶対世界から浮いてるのに。なんていうか、王子様と一緒にいるサクラとは目が合うようになったっていうか、この世界にちゃんと存在してる気がする。だから、二人は一緒にいてほしいって思うんです。たぶん、心から」

「目が合っていなかったから、気付かなかったわけか」

「かもしれないですね。でも俺もう気付かれないまま消えてほしいですけどね。自分の感情に自分で言うのも変な感じですけど」


 そんなアズールにカイはなんとも言えないという顔をする。


「……妹でも紹介しようか?」

「……絶対どうにもなれない伯爵令嬢すすめるなんて悪魔か」

「アマルテアはヘルシリアと違って魔力が高くて腕がいい魔法使いの平民が貴族と結婚することも養子になることも珍しいことではないが」

「……アマルテアは夢がありますね」


 そういうことを聞くとどうしてもヘルシリアには夢がないと言っていたヴェルメリオを思い出して複雑な心境になる。

 アズールはヘルシリア国民なのだから夢はヘルシリアにあってほしい。


「俺は子どもの頃に婚約者に、泣いて婚約解消を求められたが」

「……え」

「まあ嫌だよな。魔力が2の男なんて」


 魔法大国ではそういうことが起こってしまうのかと、まったくの他人事ではあるがアズールはちょっと恐ろしくなる。

 それはヘルシリアの貴族はアマルテアを見習わないだろう。

 たとえそれが国力の低下に繋がるのだとしても、魔力が低い者は魔法の価値を高めることは恐ろしいことだ。


「だからカイさんまだ結婚しないんですか? 子どもの頃からの婚約者いるのに二十三で結婚してないの変じゃないですか?」

「いや婚約者はいないが。解消したから」

「……え」

「ロキ様の側近になって復縁を迫られている」

「……いくら政略結婚でもその人と結婚するの嫌ですね」


「そういえば、ヘルシリアの王太子はなぜ結婚しないのだろうな。子どもの頃から婚約者がいて、今二十三だろう」

「そういえばそうですね」

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