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相性のいい相手が現れるということ

「魔力の相性が合う二人の、魔力が少ない側は特殊な魔法を使える。転移魔法使いのミレーナの護衛をしていたヴェルメリオは、魔力の相性が合った者を知っている。ミレーナは、片割れの可能性が高い」


 カイと分かれ、泉に戻る途中、もう一つの問題にロキはため息をこぼす。


「でも王女の魔色石なんて誰が試せるんでしょう」

「ミレーナの転移魔法は魔色石を使うらしく護衛は全員ミレーナの魔色石を持っていたそうだ。王女の魔色石を持っていることに尋ねたらそう答えたと兄が言っていた。俺も自分とサクラの魔色石を握った状態で、サクラの魔力を使えることを知らないときに片方だけの魔力を使うというのは難しい。意図せずミレーナの魔力を使って、そこで気付いたのかもしれない」

「じゃあ、相手は護衛?」

「ミレーナの魔力量は7だ。それより高いとなると護衛の魔導士というのが一番可能性は高い」

「でもミレーナ王女がもしそうなら、大変なことですよね?」

「ヘルシリアにとっては最悪だろうな。政略結婚は不可能になったと言っても過言ではない。隠すはずだ」

「王女以外ならすごく喜んだんでしょうね」

「そうだろうな。本当に王女以外なら、だ。唯一王女だけは望まれていなかった」

「ロキはよかったんですか?」


 ロキの方から試してきたので大丈夫なのだろうとは思ってはいるが、王子なら大なり小なり政略結婚というものはあるだろうに、それが難しくなったのはロキもだ。


「俺は魔力が高すぎて逆に扱いづらい存在だったから別に結婚できなくなったならそれはそれで構わない。むしろ都合がいいと思われてるかもな」

「魔力が高くて氷魔法を使えたら子どもがとか言われないものですか?」


 率直に言ってしまうサクラにロキは苦笑をこぼす。


「妖精の血は濃くて気まぐれなんだよ」


 その言葉にサクラは首を傾げる。


「魔力が低い者と結婚しても、妖精の血が勝って必ず魔力が高い子どもが生まれる。現に王妃、俺の母の魔力量は4だ。そして気まぐれに俺のような桁違いの魔力を持った者がたまに生まれる」

「そういうところも妖精伝説を信じられる理由ですか」


 泉に戻ってくると、そのまま街の方に行くのではなく一度氷鹿(ケライス)のところに行くと、ロキはその体を貫く氷の棘に触れる。

 氷の棘が溶けると、支えを失った氷鹿は倒れる。

 しゃがんで氷鹿の遺体に手を合わせたロキに、サクラもその隣にしゃがみ同じように手を合わせて目を閉じる。


「さっきの見習いさん、強くなりたいってことですよね? 氷鹿の角とか皮を使えば強い魔法使えるんじゃないですか?」

「自分が保持する魔獣以外の魔獣の欠片を使って戦う者は滅多にいない。危険だからだ。たとえばサクラが魔水竜の鱗を使えば魔水竜(アグワ)の魔法が使える。しかしそれを扱いきれるかとなれば話は別だ。さっき自分の魔法なのに人の魔力を使うだけでコントロールが難しくなっただろ。自分の魔力でもなく自分の魔法でもない、完全に借り物を扱うわけだから更に難しい。ましてや魔力には限りがあるから、慣れた頃にはもう使えなくなってる」

「……なるほど」


 A級やB級の魔獣の一部を兵に配れば最強の軍ができるのでは……なんて安直な考えはばっさりと否定された。


「下級の魔獣の欠片はそこまで扱うのは難しくないが、たいしたことにも使えないしな。入手が難しくない者もいるが、普通は簡単に入手できるものでもない。たとえあいつが氷鹿の欠片を使いこなせて戦えるようになっても使いきったらそれ以降はまた戦えなくなる。根本的には何も解決してない」

「じゃあ私がこれを持っていても護身用にはならないんですね」


 氷鹿の角を手に、サクラは少しがっかりする。

 やはり薬にできないか調べてみるか、それとも氷ほどではないがひんやりするので熱さまし的な用途で使えないかと、そちらを考える。


「……絶対そういう使い方するなよ。角持ったお前の腕が凍る画しか想像できない」


 サクラはそれを想像してみる。


「ちょっとかっこいいですね」

「…………」


 言葉を失われた。


「腕をこう、凍らせて尖らせて武器にして戦うっていうの前世の物語でよく見たんですけど、今思うとあれすごい諸刃の剣ですよね。無事だったんでしょうか」


 地面に絵を描いて言う。


「こういうことか?」


 左腕の上を右手を滑らせると氷で覆われていき、サクラが想像した通りの先が尖った氷に覆われた状態になる。


「すごーい! ロキなんでもできますね! でもそれ冷たくないんですか?」

「冷たくはあるが、別に頑張って耐えているというほどじゃない。指に火を灯らせることが可能なのと同じだな」

「じゃあロキは凍傷にならないんですね」

「魔力さえあればたぶん大丈夫じゃないか?」


 腕を覆っていた氷が溶けて水になるが、下に落ちずにロキの手のひらの上に集まると、氷の花になり、散っていく。


 サクラはマジックショーを見たような気分で拍手する。


「ロキは神殿でも軍でも劇団でもすぐに雇ってもらえそうですね」

「今のは失敗だ」

「そうなんですか?」

「先代の賢者が氷のスイレンを作っていたが、俺にはあんな芸当はできない」


 そういえば家で作っていたときもすぐに散ったなと思い出す。

 サクラは意図的なものだと思っていたが、技術的な問題で保てなかったらしい。


「最初は大きいサイズで作ってみればどうですか?」

「それでもできなかった」


 サクラは少し考えると、傍らに置いていたカゴからスイレンを一輪取る。


「ロキはスイレンの構造をわかってますか? 絵だって見本を見ながら描いた方が上手く描けるじゃないですか。何事にも観察が大事ですよ」


 サクラは花弁をプチプチと抜きながら話す。


「外側からばかりこの形を見ていて、内側がどうなっているかなんて考えたことがなかった。思えば俺のスイレンは花弁がおかしな重なり方をしていたな。だからばらけたのか」

「それができたら一人前ですか?」

「盾と矛と花を同時に出せるようになったら一人前だと言われた」

「花もですか?」

「攻撃と防御をしてまだそれくらい余裕を残せるようになったらという意味だと思ってる」

「合格基準が高いですね」

「一人前という意味では、もうそうだと思うが、俺はそこで止まってしまっている気がする。賢者は魔導士の長、強いことが最低条件だが、俺はしょせん魔力が高くて少し器用なだけ。本当に強い魔導士にはまったく敵わない。魔導士になれるかどうかを分ける才能は魔力量だけ、あとは努力次第と言われるが、それはなれるかどうかというラインでの話で、魔導士の中でも強いようなやつはセンスのようなものが見える。そもそも俺には発想力というものが欠如している気がする」

「ロキは意外に自己評価が低いですね」

「事実を述べているだけだ。できることまでできない、あるものまでないと卑下するつもりはない。俺の魔力量は世界中探しても五本の指に入るだろう。魔力が高い割にはコントロールは上手い方だ。属性も五つ使える。なんでもできるはずなのに、それでも俺は魔導士に勝てない」

「でも氷魔法って最強じゃないですか? 相手を凍らせて凍傷になりたくなかったら降参しろって言ったら勝ちですよ」

「……どうしてお前はそう拷問的な使い方なんだ」

「数々の拷問に引けを取らないえぐさですよ。凍傷になって壊死した足とか想像したら私なんでもしゃべってしまいます」

「その拷問お前にしか使えないのでは」

「……え」

「普通の人間はそこまで想像できない」


「……知らないって、幸せ」

「……それなのに自分の凍った腕を想像してかっこいいと言うお前が本当にわからない」


 ロキは心から思う。


「氷って綺麗でかっこよくて……えぐいですね」

「……まあ、殺傷能力は高い魔法だな」


 サクラは前世見たアニメや漫画の氷使いたちの印象がだいぶ変わってしまった。


「そういえばこの世界って銃はないんですか?」

「銃?」

「こういう武器です」


 手で拳銃のジェスチャーをするが首を捻られる。


「えーっと、持つところがあって、筒状になっていて、弾が発射する仕組みで」


 サクラは詳しくない銃を地面に絵で描いてなんとか説明しようとする。


「こんな感じか?」


 サクラの説明を聞いて、ロキは氷で作ってみる。


「それです! さすがロキ、上手!」

「どうやって弾を発射するんだ?」

「私も詳しくないんですが、火薬を……」

「火なら出せるが弾が発射されるとは思えないな」


 氷で作った弾を筒の前から詰めるが、ロキは何をどうしたらこれが危険な遠距離武器になるほどの威力で発射されるのだろうかと不思議だ。


「爆発させればいいんでしょうか」

「手の中でか。諸刃が過ぎるな」

「……風魔法で空気銃の方が可能性ありますかね」

「火魔法と風魔法で試行錯誤してみるか」


 その後二人で、ああでもないこうでもない、これも無理それも駄目と色々やってみるが、どれも武器と呼べるような成果は出なかった。


「……何してらっしゃるんですか?」


 先に戻っておいてと言われたのに、そんなことをしている間にカイが帰ってきてしまった。


「どうだった」

「何も」


 まあそうだろうなと全員思っていたのでがっかりということもない。


「そうだカイ、お前炎犬(フラーモ)の欠片を持ってるよな」


 カイは嫌な予感がするというように表情を少し渋いものにした。


「ええ、まあ、牙を少し」

「一つ貸してくれ」


 はっきりと渋い表情になった。


「駄目に決まっているでしょう」

「ちょっと勢いよく火を出したいだけなんだ。こう、瞬間的に高火力を」

「何がだけですか。それが駄目だと言っているんです」

「俺は魔獣具は使ったことはあるし、そもそも炎犬の魔力に振り回されるようなことはないんだから大丈夫だ」

「駄目です」

「もし怪我をしてもサクラがいるわけだし」

「何がしたいんですか。俺が代わりにしますよ」


 そこでロキは銃の説明をする。


「カイができても意味ないだろ。俺しか銃を作れないんだから」

「ロキ様はもう十分強いんですからいいじゃないですか」

「探求心」

「……ヴォルフ卿と同類じゃないですか」


 そう言ったらロキはちょっと嫌そうな顔をした。


「正直私は成功しないような気がするんですが」

「失敗して次を試したい」


 成功しないだろう、という言葉にまったく気にした様子のないロキに、カイはもう仕方なく渋々炎犬の牙を一つ渡す。


「なんだか不思議な装填です」


 まず牙を入れ、その次に弾を詰める引き金のない氷の拳銃に、サクラはそんな感想をこぼす。


「俺は奇怪なものを見ている気分です」


 カイは銃のオリジナルを知らないので成功するのか失敗するのか以前の心境だ。


「これでもしものときも大丈夫だろう」


 三人の前に水の壁ができて、ロキの左手だけが出ている状態になる。


「これはちなみにどうなれば成功ですか?」

「弾が発射されて木や地面にめり込むくらいの威力があればっ」

「ロキ様!?」


 それは爆発したような大きな音はなく起こった。


 何が起こったのか三人はすぐには理解できなかったが、三人とも失敗したことだけはすぐに理解した。


 念のための水の壁はおおいに役立ち、それによって砕け散った氷の破片はロキの左手だけを傷付けた。


「風魔法を間違えたな。駄目な方に火力を上げてしまった上に砕けた氷に勢いを付けてしまった」


 水壁の魔法を解き、火に焼かれ氷に裂かれた左手を直に見て、ロキは他人事のようにそう言う。


「何を呑気に! すぐに治療を」


 カイが言い終わる前に、サクラに両手で左手を握られ、その勢いにロキは目を丸くする。


「サクラ」


 薬を広げた両手で包まれた左手は、気付いたときにはもう痛みなどなかった。

 どんな状態だったのか思い出せないほどに綺麗に治っていた。


「サクラ、もう治っている。ありがとう。それ以上魔力を込めるな」


 握りしめるサクラの両手に右手を重ねてそう言えば、サクラはハッとした顔でロキの顔を見て、そっと手を放す。


「……私にはこんな怪我手に余るんです。経験もない。どうしたらいいかわからないんです。あまり信じないでください」

「これが、手に余る、か?」


 ロキは苦笑をこぼして傷一つない手を見せる。


「サクラ様、絶対ロキ様か俺のそばにいてください。少し用があるだけでも迷惑だと思わないで、むしろ一人で離れる方を迷惑だと思ってください。自分の価値を自覚してください」


 真剣な顔に声で言われ、サクラは頷くしかなかった。


「できそうな気がするんだが、もう一回試していいか?」


 炎犬の牙を拾ってそんなことを言うロキにカイは盛大にため息を吐いた。


「……サクラ様、あなたが怒ったらたぶん諦めます。俺では無理です」

「私から銃の話を出した手前怒れないんですが……」

「今度は自信がある」


 自分に求める基準が高く、できないことはできないと言うロキがそう言うので、二人はその自信を信じてしまい怒りづらくなる。


 まず牙を粉々に砕く。


「強度をもっと強くしたいな」

「温度が低いほど氷は硬いって聞いたことがあります」


 サクラの助言に、ロキは初めて氷ができている最低限の温度の低さ以下を意識する。


「サクラの魔力をもらえないか、指輪の量でいい」


 サクラはリュックに押し込んでいた小箱を取り出すと、その中の指輪を一度握りしめてロキに渡す。

 ロキは右手の人差し指に指輪をはめると、その指先に水球を作り、花を咲かせ、凍らせ、また水球に戻す。


「……やばいな、低い魔力楽しすぎて遊んでしまいそうだ」

「それは何よりです」

「……サクラ様、自分の魔力は有限だというところをまず言いましょう」


「だがやっぱり内側だけ魔色石の指輪にしてよかったな。俺にピンクの指輪は似合わない」

「「…………」」

「傷付いた」

「ピアスならいける気がします!」

「ロキ様は多少似合ってなくても容姿で許されますよ!」


 ロキはあまり慰められなかった慰めを冷めた目で流す。


 一つまみの炎犬の牙を風で包み筒の奥に入れ、氷の弾を詰め、そしてハリギの林の方に銃口を向ける。


 発火する音と風を切る音、何かにぶつかる音は確かに聞こえたがかすかなもので、三人は成功したのか失敗したのかよくわからず首を捻る。

 サクラが前世でドラマなどで聞いた銃声のような音はまったく聞こえなかった。

 三人ともまずロキの左手を見て、無事であることは確認した。

 今回は砕け散ることもなく氷の銃はそこにあった。


「もう一発撃ってみるか」


 炎犬の魔力はまだ残っていたようだったので、今度は水壁がない状態で撃ってみる。

 さっきと同じ音がして、今度は何が起こったのかわかった。

 三人は銃口の先で揺れたハリギを見に行く。


 木の幹に空いた穴を覗き込んで、三人は無言になる。

貫通はしていなかったが、半分は通り過ぎていた。


「……これ、人体貫通するな」

「……サクラ様の国は全員この武器扱えたんですか」

「……全員っていうか、まあ、撃つだけなら、全員」


 魔法使いのような特殊能力は必要なかった。


「……氷鹿退治の報酬、やっぱり金貨九枚にするか」

「……それがいいかもしれませんね」

「……ただでさえ病気で困ってるのに、穴を空けてしまいましたね」


「これ、どうするか」

「ロキ様しか使えないですから危険な武器を作ってしまった心配は無用では? 使い終わったら溶かしてしまえばいいわけですから盗まれる危険もありませんし」

「いや、これ、全然魔力使わないんだ。普通は自分の魔力が届く範囲までしか攻撃できない。だから魔導士の絶対条件は魔力が高いことで、それが覆るのは魔獣を持っている場合だけだ。でもこれは手の中で魔法を使ってるだけで遠距離攻撃を可能にしてしまっている」

「でも氷魔法を使える人はそんなに多くないんじゃないですか?」

「たぶん土魔法でも同じことできる」

「……誰にも話さないようにしましょう。見ただけで再現できる人はいないと思いますが、教えてしまったらできる人はいるでしょうから」


「いろいろ試してみたいな。飛距離や威力調整とか」

「コントロールはできるんですか? オリジナルの銃は素人は的に当てるのが難しい武器でしたが」

「魔法でコントロールしてるからか狙ったところに当てられる気がする」


 引き金を引くという動作がないからか、反動がないからか、とサクラが予想していたら、泉の中心に氷の的ができて、それに弾が命中して砕けた。


「ほら」

「「…………」」

「あのくらいの量だと五発が限界だな」


 銃は水になって手の中から消える。


「……魔法使いってみんなこんなにすごいんですか?」

「……この人がすごいんです」

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