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エルベの事件 1

「こんな朝早くから慌ただしいな」


 宿を出てすぐ感じた街の様子に、ロキは少し不思議そうに言う。


「何かあったんですかね」


 アズールは、宿の人は何も言ってなかったけどなーと思いながら街を見渡す。


「すごい魔導士がいたのと何か関係あるんでしょうか」

「なんにせよさっさと出ていくに限りますね」


「炎犬が運ばれてきたんじゃないか? 民間にC級の魔獣倒せるやつがいればそれは騒がしくもなる」


 ロキがカイを見て言うと、アズールとサクラも……ああ……と納得した様子になる。


「……ギルドは騒がしくなるかもしれませんが」


 街全体ではならないだろうと否定する。


 街を歩いていたら妙に視線を感じて、それがあまり好意的なものではないように感じたので、サクラはフードを少し下げて四人は自然と足早に街の外に向かう。


「ヴェルメリオさん!」


 叫ぶような大きさの声に、四人は聞こえてきた方を見る。


「……本当にあの人そうでしたね」


 人違いではなくロキの思った通りだったことに、アズールが街の入り口にいる青年を見ながらそう言う。


「だから何度も言ってるけど人違いだって」


「人違いらしいよ」

「どう思います?」

「あの魔力量の者がもう一人いることになってしまうと大事(おおごと)だな」


 サクラ、アズール、ロキが足を止めて傍観の姿勢を取るのでカイも急かさずそれに付き合おうとしたのだが、街を出ようとしていたのに対して街に入ってきたところだったのもあり、ちょうど向き合う形で、カイはそれはもうばっちりとヴェルメリオと目が合ってしまった。


 一応会釈をしたらなぜか笑顔になられて、カイは嫌な予感がする。

 思わず一歩下がった。

 ヴェルメリオの右手はまるで知り合いに会ったかのように上がった。


「カイ!」


 三人もカイを見たがヴェルメリオと話していた男性も振り返ってカイを見た。


 男性の視界から外れたタイミングで手を合わせて拝まれ、その仕草と表情に頼むと念じられているのはカイもわかったが、何を頼まれているのかがわからない。

 初対面で無言で意思の疎通を図ろうとしているのが無謀だ。

 カイは無難に同じように手を上げ返した。

 さながら偶然会った知り合いだ。


 乗った、助けた、優しい……とロキ、アズール、サクラはそんなカイに思う。


「いいところに、ちょっと助けてくれよ」


 それが自然かのようにカイの隣に来る。


「どうしたんだ?」


 友人という関係性だと解釈して付き合った。


「この人がしつこいんだよ。ただのギルド員だって言ってるのに納得してくれなくて」


「フードを被った男女の二人組?」


 一瞬本当に人違いだったのかという顔になった男性は、しかしカイと一緒にいる二人を見てむしろ確信的な表情になった。

 まさか矛先が自分たちの方に向くとは思っておらず、ロキとサクラはよくわからないまま思わずヴェルメリオとカイの後ろに隠れる。


「魔法使い、あんたたち魔法使いだろ! 昨日、雑貨屋で、子どもと魔色石を交換した、ピンクの」


 その言葉にサクラはカイの後ろから顔を出す。


「ああ、はい、あの子のお父様ですか?」


 まさかそこで話が展開されるとは思っていなかったヴェルメリオは少し驚いた様子でフードの二人を見た。


「いや、伯父だ。すごい魔法使いなんだろ! じゃあそんな人たちと仲いいってことはやっぱあんた魔導士なんじゃないか!」


「……そんなことある?」


 目が合った人に助けを求めたらまさかの墓穴を掘るかのような行動になってしまった。


「……無駄に茶番に付き合わされたんだが」

「お互いのために諦めるのはまだ早い」

「何がお互いのためだ」


「あの、私はその子にも言ったように魔法は全然で」

「すごい魔法使いと言った覚えはない。それは勝手に子どもが勘違いしただけだ」


 二人が否定したことにヴェルメリオはすぐに反応する。


「茶番に付き合わせて悪かった。俺は言ったようにこの街のギルドの人間で、だからカイの名前を知ってたんだ。昨日登録しただろ。そういうわけで俺はただのギルド員だし、この人たちもすごい魔法使いなんかじゃないってことで。それじゃあ他当たってくれ」


 カイの背を街の外の方に押して手を振り、自分はギルドの方に行こうとする。


「王女様から称号を贈られるほどの魔導士が、子ども一人助けてくれないのか! それとも働くのは貴族のためだけで平民なんかどうでもいいってことか!」


「俺はそんなものを王女様から賜った覚えはない」


 怒りの声に対し、冷たいほどに平淡な声で返す。


「いや俺たち巻き込んでおいて勝手に帰ろうとするなよ」

「お互い帰りましょうってなっただろ」

「どう見てもこの人諦めてないだろ」

「俺めっちゃ帰る雰囲気出したのに!?」

「知るか」


「魔導士に何の用なんだ? 個人的に頼み事をするのはそれは自由だろうが、一般人が魔導士に依頼することは不可能だろう。彼がそうかそうでないかは別として、当人に意思がないならそもそも追求する意味がない」


「ヘルシリアって国の魔導士部隊とか抜けても魔導士で居続けられるんですよね? じゃあなんで魔導士に依頼することが不可能なんですか?」


 ロキの言葉に対してだが、サクラはカイに尋ねる。


「それが許されるのは特定の立場だけです。そして何かあれば招集される。完全に引退した者は証明プレートを返却しなければいけない。貴族の護衛や一線を退いて違う部署に移っただけという者に一般人が依頼をすることはまず不可能です」


「魔導士の数とは国の戦力の数だ。どこにいるかわからない、協力しない、衰えた、そういう者は魔導士の称号を返却もしくは剥奪となる。まあ、本物だとしたらこんなところにいるのは何かの任務中、他のことはできないだろう」


 ロキがそう補足する。


「ねえ、前提としての人違いもう少し信じてくれない?」

「人違いだから拒否してるのか?」

「それはどういう意味」

「この街もギルドが自警団を兼ねているんじゃないのか」

「そうだよ」


 茶番の延長で初対面なのにちょっと友人っぽくなってるの面白いなと二人のやり取りにロキとアズールは思ったりした。


「じゃあギルドの人間ならむしろ魔導士より話を聞くべきだろう」

「いやもう自警団は動いてる。この人の子どもが誘拐されたらしいんだが、それが魔力が多かったからじゃないかってこの人は思ってるらしくて、今まで自警団の人がそういう注意喚起をしなかったから頼りにならない、一目見るだけで見抜いた魔法使いのような人じゃないと駄目だ、ギルドで今この街に魔導士がいると聞いた、で、今ここ」

「ギルドの人間だと言ったな」

「……おかしいな、なんか尋問を受けてる気分になってきた」

「この人はギルドで魔導士の話を聞いた。お前はギルドの人間。人違いならなぜ本物の話をしない」

「俺がその魔導士の話してたわけじゃないし」

「では魔導士が街にいると聞いて驚かないのか? この人の話で初めて知ったんだろう?」

「驚かねぇよ。うちのギルドマスター元魔導士だぜ? 昔の同僚が尋ねることくらいあるだろうよ」


 それにはカイとロキだけでなくサクラとアズールも引っかかる。


「自警団は動いてて、ギルドと自警団は兼ねてて、ギルドマスターは元魔導士……じゃあその人に任せときゃいいじゃん」


 アズールがなぜこんなことになっているんだ?と首を傾げる。


「だから気付けなかったからだよ!」


「一目見るだけで見抜いた魔法使いの意見を言わせてもらっていいか」


 全員の視線がロキに向く。


「魔力が多い子どもに忠告しただけだ。別に見通していたわけではない。その上でギルドマスターがそういうことをしなかったのは当然だとも思う」

「日頃から気を付けろと言ってくれていればこんなことにはならなかった! 今日だって妹からあんたたちの話を聞かなければすぐには誘拐に気付けなかった」

「魔力が多いかどうかなんて魔導士でも全員が見るだけでわかるものじゃない。魔力が多い人は気を付けましょうなんて言ったって本人もそれがわからない。街の人全員検査でもするのか? そもそも」

「今回は特例」


 ロキがそう言うとヴェルメリオは怪訝な顔になる。


「それがわかっててなぜ忠告した」


「なんで特例なんですか?」


 サクラがカイに尋ねる。


「魔力が多い者は魔法使いに育てれば確かに価値はあります。ですが誘拐犯におとなしく従いますか? 魔法を教えてしまえばより反抗される危険も高くなります」


「そりゃそうだ」


 自分も魔力が多いと言われるが魔法を使えなければ他の人と何も変わらないとアズールが納得をこぼす。

 魔力が多いことを誘拐理由にするなら、魔法使いに育てなければいけない。


「魔力の多い子どもの売り買い自体は珍しいことじゃない。身寄りのない魔力の多い子どもを探して売って稼いでいる人間もいるくらいだ。帰る場所がなければ子どもは従う。魔法を教えてもらえて、生きるに必要なものを与えてくれるんだから。そういう場合は当人に反抗の意思がない。むしろ感謝してる場合がほとんどだ。クソみたいな環境から金持ちの家でまともな生活送らせてもらえるようになるんだからな。別に奴隷のような扱いを受けるわけでもない」

「……珍しいことじゃないと言うのはさすがにどうなんだ」

「ヘルシリアじゃ、珍しいことじゃない」


 その言い換えにヘルシリア国民三人は複雑な顔になる。

 カイの反応からしてアマルテアではそういうわけではないらしいとサクラとアズールは受け取った。


「……じゃあどうして息子が」


「他国で売るんだよ。ウェナヴィアやカノルサのような奴隷制度のある国で売れば魔力が多いっていうのは単純に見目がいいとか労働力があるとかそういう値が高くつく一つの基準でしかない。さっきカイが言った魔法を教えてしまえば反抗される危険が高くなるというのは、魔力が多いということを魔法使いになったとき強力になるという価値で見ているまともな人間の思考だ。いるんだよ、自分が持ってる奴隷が一番魔力が多いっていう狂ったマウント取りたがる金持ちが」


 ウェナヴィアもカノルサもヘルシリアの北にあるユークラントから更に海を渡った先にある国だ。

 その海からこちら側を南洋、向こう側を北洋と言い、南洋で奴隷制度のある国はない。

 そこまで遠いわけではないが海を挟んでいるということもあってヘルシリアやアマルテアの国民にとって奴隷制度というものはある国があるのは知っているが……という程度のものだ。


「奴隷!? お前それをわかっていながら!」


 男性がヴェルメリオに掴みかかる。


「この街単体では注意してなくても港ではちゃんと見てる。魔力が多い人間、特に子どもの渡航は相当調べられる。ユークラントの港はもっと厳しい。ヘルシリアとユークラントは友好国だからそこで保護されればちゃんと連絡も入る。魔導士でも魔力が多いかなんて見るだけでわかる者ばかりじゃないと言ったが、どちらの港街にも見ただけでわかる魔法使いがちゃんと配置されてる」


「この街のギルドマスターが元魔導士ならちゃんとわかってくれているだろう。連絡もスムーズに通るはずだ」


 カイにもそう言われ、ヴェルメリオを掴んでいた手を放し一歩下がる。


「それでも心配だって言うのはそりゃそうだろうけど、だからって手当たり次第俺たちに助け求めたってどうしようもない。自分の街の自警団信じて待ってるのが最善だ」


「……さっきの言葉、申し訳なかった。魔導士は平民を助けてくれないということじゃなかったんだな」


「いやだから人違いなんだよそこは」

「ならヴェルはこんなところにいては駄目だろう。ギルドに戻って早く働けよ」

「ねえそれ人違い信じてくれてんの? どっちなの?」

「呼ぶための名前が必要だからとりあえず」

「せめて名乗らせてくれない? 俺その人じゃないって言ってんのよ。むしろその名前だけはおかしいんだよ」

「俺も名乗ってない」

「お前はそれでギルドに登録してんだから本名がなんであれギルドの人間がそれ以外の名前で呼ぶのおかしいだろうが!」


 サクラとアズールはプライベートのカイはこんな感じかと少し垣間見た気分になる。


「それでは今度こそお互い帰りましょうということでいいのか?」

「そうですね、帰りましょう」


 帰るという表現はおかしいのだが、ロキはさっきのヴェルメリオの言葉に倣い、カイもそう続ける。


「待った、まだ聞いてない。なぜこういう事件のことをわかっていながらわざわざ忠告した?」


 さっき答えられなかった問いをヴェルメリオは最後に再度ロキに問う。


「この魔色石、いくらだと思う」


 昨日買った魔色石を一つ、ロキはヴェルメリオに投げる。


 ヴェルメリオは受け取ったそれが手の上でうっすら赤色に染まっていくのを見てからロキの方を見る。


「大銀貨一枚」


「……え」


 十倍の値段を言ったヴェルメリオにサクラはそんな声をこぼす。


「銀貨一枚だ」

「はあ?」


「そんなに安いんですか?」


 小声でアズールがカイに尋ねる。


「アマルテアならそのくらいだ。ただし魔色石の産出量がアマルテアとヘルシリアでは大きく違う」


「アマルテアでは庶民が気軽に買える値段ということと魔法使いが多いことから魔色石というものが庶民にも広がった。しかしヘルシリアでは魔色石が少なく、魔色石を知る者も少ない。なのになぜか最近ヘルシリアでも魔色石が流行りだした。昨日はアマルテアと近い街だから、アマルテアから仕入れてきて同じくらいの値段で売っているのかと思ったが」


「あの、子どもも同じ店で……子どもたちの間で丸く加工されたその石を交換するのが流行ってるんですが、それは銀貨三枚です」


 魔力が理由だと思ったことと子どもの特徴を説明するのに使うのとで持ってきていた水色に染まった魔色石の玉を出して言う。

 サクラはそれを借りて昨日男の子にもらったのと見比べる。

 確かに同じものだった。


「……流行ってるってなんだ」


 ヴェルメリオに意味がわからないという顔をされて、何も疑問に思っていなかったその人は急に怖くなってくる。


「店員が魔法使いだった」

「……この街に妙に魔法使いが多いのは俺も思ってた」


 ロキとヴェルメリオの言葉に驚いている男性に、カイから魔法がすごく使えるという意味ではなくあくまで魔力が意図的に扱える程度の可能性はあるという説明がされる。


「ヴェルが魔導士でも全員が見てわかるわけじゃないと言ったが」

「お前も俺をそう呼ぶわけね……」

「魔力量を調べる方法はある。アズール、魔色石をサクラに」


 アズールは昨日の夜から持っていて青く染まっている魔色石をサクラに渡す。


「サクラ? サラじゃないのか?」

「名乗る度に変わった名前だなって言われるので」

「ああ、なるほど、確かに」


 珍しくない名前で登録するというのはよくある話で、ヴェルメリオはすぐに納得する。


「サクラ、魔力を込めてみろ」


 ロキに言われたとおりにするが、サクラの手の上の魔色石は変わらず青いままだった。


「なんで? トールのときは色変わったのに」


 一応アズールはロキを偽名の方で呼ぶ。


「魔力が多い側だけが塗り替えられる。その魔色石の性質を利用して魔力量を測ることができる。つまりサクラはアズールより魔力が少ない」


「だから魔力が多い人間は不用意に魔色石を人に渡さない。普通手に取って渡せば少なからず魔色石は色が滲んでいる。なのにトールから渡された石は透明だった。意識して魔色石から魔力を抜いて渡したってことだ」


 サクラはそれを聞いて昨日ロキが店で魔色石を拾わなかった理由がわかった。


「それでお前はその魔色石をどうやって返すんだ?」


 ヴェルメリオは手の中のうっすら赤色に染まる魔色石に、ふっと笑うと透明にしてロキに投げ返す。


「店員が測っているのを見たのか?」

「いや、店員の魔力量が六だったから少し気になっただけだ。魔力が多いと言われるのは七からだ。言っておくが、追いかけて忠告しに行ったわけじゃない。一応、忠告しただけだ。俺も確信的にこういう事件が起こると思ってたわけじゃない」

「仕方ない、一応その店確認するか」


「お互い帰りましょうってなっただろ」


 今度はカイが言った。


「確かめる必要あるだろ」

「ただの旅人にはねぇよ」


 思わずそんな口調で言ってしまってから、カイはサクラとアズールの方をちらっと見て咳払いする。


「こいつがいなかったらどうしようもないだろ。俺は店員見たって何もわからないんだから」


 ロキを指差すヴェルメリオにカイはその手をどける。


「俺は別に構わないが。確かに少し気になるところではある」

「私も構いませんよ」


 この旅が二人の自由な旅である以上、二人がいいならいいということになる。

 だが財布を持っているのがカイで二人の自由を叶えるための予定を立てるのもカイということで二人はカイを見た。


「昼を過ぎたら今日中には宿に行けませんよ」


「では昼までなら付き合っても構わない」


 カイの言葉を受けてロキがそう言い直す。


「……お前らどういう関係性だ?」


 一番年上のカイが二人に敬語で、二人の立場が上で顔を出している二人がお付きの者かと思えばカイが敬語ではないアズールはサクラに対しては敬語ではないというおかしな四人にヴェルメリオはそうこぼすが、それは流される。


 男性にはギルドで待っているように言えば今度は引き留められるようなことはなく、五人は雑貨屋に向かう。

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