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激動の時代

「もう少し僕に感謝してくれてもいいんだよ」

「……なぜ?」


 サクラとアズールを家の中まで見送ってさあ馬車に戻ろうかというところでそんなことを言われ、レイは心からそう返す。

 普段からむしろ自分が助けてあげる方が多いし、今回のことでも特に感謝する点が見当たらない。


「僕のおかげで最後に話す時間が作れただろう」

「……なんのお節介だ」


 二人並んで馬車までを歩く。


「でもあの君があそこまで心を許すなんてね」

「……相変わらず盗み聞きが好きなやつだな」

「耳がよすぎて聞こえてしまうだけだ」

「これだから身体強化魔法使いは嫌いなんだ」

「まあそう言わないでくれよ、特殊体質は特殊な魔法使いには誰もがあるものだろう」

「……そういう話は同類でしてくれ、俺に言われても知るか」


 レイの知り合いは特殊な魔法を使う人にはそんな特殊体質はなく、四属性の魔法しか使えないはずの人が逆に特殊体質で、それを思い出して隣に懐疑的な視線を送る。


「でも人に散々未成年の婚約者はどうとか言っておいて君も」


 笑顔でバンバンと背中を叩く騎士に、レイは身体強化魔法使い相変わらず加減狂ってると痛む背中に思う。


「何の話だ」

「は? 女性の瞳の色を花にたとえるのは」

「魔法使いのそれはただの能力の比喩的な称賛だ」

「……そんな廃れた文化」

「魔法使いにとっては魔力の相性は魂の相性というのが最も重要視される文化だ。瞳の色は魔力の色なのだから、誰かとの運命を証明するものを使って口説くのはずれているだろ」

「今時貴族だって瞳の色の花や宝石贈って告白するよ。だいたい直前に瞳の色を花にたとえるのは告白に等しいって君が言ったんだから、あの子も」

「ダイヤモンドは石だろう。彼女が花で俺の瞳の色をたとえたから、俺は意趣返ししただけだ」

「誰がわかるんだよ!」

「そうか、伝わっていた気はするけどな」


「この顔で、そんな紛らわしいことをするんじゃない」


 顔を掴まれて、両頬をぐっと押し潰される。

 今度は力をちゃんと加減された。


「……勝手に盗み聞きしていたくせにうるさいやつだな」


「誰かさんがこんな事件起こしてしまったからもうここにはいられないし、国に戻ることになるだろうから僕が口説いておけばよかったな」

「……お前、婚約者がいる身で」

「医者としてだよ!」


 恋愛的な意味ではなく。


「やめておけ、無理だ」


 確信的なその言い方に、不思議そうにレイを見る。


「村を出ないって? でも彼女、村を出るつもりみたいで」

「あの子は魂の片割れがいる」


 目を見開く。


「はあ!? いや、まさか、こんな村でどうやって出会って、それに、じゃあ相手はどこだよ。あの男の子か? まさか、そんなはずはないだろうし」

「魔力を使った痕跡が二種類交じり合ってる人間なんて魂の片割れがいる存在だけだ」

「……君の魔力感知が素晴らしいのは知っているが、しかし」


「どこの誰かは知らないが、どいつもこいつもなぜ魂の片割れなんて存在を放置してどこかに行くのか」


「……耳が痛い」


「しかし面倒な時代に生まれてしまったらしい」

「ん?」

「魔力の相性が合う存在や高位の魔獣に好かれる者や特殊な魔法使いがたくさん現れる時代は激動だと歴史が言っているだろう」

「ああ……そしてそういう者たちは関わり合う」


「まあ俺には関係のない話だ」

「魔獣使いが何言ってるんだ」

「B級持ちはいつの時代も何人もいる」

「君のは特殊だろう」


「俺は復讐してさっさと死ぬから関係ない」

「……こいつ荒らすだけ荒らしてさっさと退場する気だ」



 ***



 結局夜の間あまり痛みが強くなることのなかったユヴァが日が出てきたあたりで痛みを訴えはじめたので、朝食と薬をと一度馬車を止め、さあまた走りだそうと馬車に乗ろうとしたそのとき、背後を通り過ぎた気配に、レイはバッと振り向いた。


 同じタイミングでレイを見たフードを被った男と、無言で数秒向き合う。


「アルド?」「トール?」


 お互い隣から同時に名前が呼ばれ、二人は何もなかったかのように視線を逸らし、一人は再び歩き出す。


「どうしました? 今の二人がどうかしましたか?」


 騎士は尋ねてから、一度二人の方を目で追い、確かにただの旅人の雰囲気ではないなとは思った。


「いや……とんでもない化け物が出てきたなと、思って」

「……?」


 *


「どうされました?」


 フードを少し上げて、カイは隣の主に問う。


「魔導士だ」

「……え」


 もう遠くなった馬車を思わず振り返る。


「まさかこんなところに魔導士がいるとは思わなかった」


「……それは向こうの台詞ですよ。こんなところでとんでもない魔力の持ち主に会ってさぞ驚いているでしょう」

「魔導士でも他人の魔力量は曖昧にしかわからない者も多いようだから、それはわからないが」

「気を付けてくださいよ、感知が得意な人はたまにいるんですから。アマルテアの第三王子の魔力が桁外れに高いことは他国でも有名なんですから、気付かれますよ」

「ああ」

「ちゃんと聞いてますか? あなたはいつも」


「今の魔導士、バイオレットブルーカラーの簾石のような瞳の色をしていた」


 カイはドン引きという顔をする。


「……やめてくださいそんな宝石の中でも希少なものを男の瞳の色にたとえるのは。ただでさえあなたは顔が綺麗でめんどくさいのに」

「お前の瞳の色は藍輝石のようだよ」

「誰がいつ俺にもしろと言いましたか」


 笑っているロキにカイはため息をこぼす。


「楽しそうですね」

「そうか?」

「ええ、とても」


「やっと会えるからな」

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