No.93 地獄からの生還
何気に15000とかまた超えるかと思ったんですけど12000字以下で済みました。
…いや、いつもの私からしたら多いんですけどね。
これに関しては一気に話さないとダメな気がしたので10000字超えさせていただきました。
しばらく刀を持っていた右手を見つめていたななみお姉ちゃんはやがてこっちに目線を向けた。
〘………〙
〔……なんでしょう?何か言いたげですが…〕
〔さァ……〕
その言葉が聞こえたのかななみお姉ちゃんがため息をつく。
〘…実況さん。終了宣言。〙
〔……ヘァッ!?ヤッべ衝撃強すぎテ忘れてたゾ……〕
〔終了宣言待ちだったんですね……〕
解説さんの呟きのあと実況さんが咳払い。
〔アーッと……戦闘終了……地獄の如き激戦と…理不尽な想定外を経て……最後の戦いを制したのはまさかまさかのプレイヤー側……〕
コメント:
:え……っと……
:やばい困惑収まらん……
:実況の宣言にも困惑が強く現れてら……
:いやそりゃそうなるって……
:こっちも割と困惑ヤバいんよなぁ…
〔アーッと……すまねぇ、ななみちゃん……二度手間になるんダガ一旦通信切っていイカ…?〕
〘んー…いいよー?〙
〔ワリィな、ちょいと整理させる時間クレ……〕
〔こっちも普通に見せてるだけで整理しきれてないので……〕
〘あははー…整理できるまで配信のチャット応えたりしながら待ってるからごゆっくりー。〙
その言葉の後に音声通信用のウィンドウが閉じる。
〔〔………はぁ〜……〕〕
コメント:
:草
:いや草
:クソデカため息で草
:草超えて森生える
:まぁため息つきたい気持ちは分からなくもない
:まぁねぇ
:規格外すぎてため息でもついとらんとやってられんね
:ねー
:てかスルーしてたけどななみちゃん、本気モード切れてたね
:あ、確かに
:言われてみれば
:やっぱ本気モードと通常モードのギャップやべぇわ
:それ
:あんな可愛いのにあんな強いんだもんな…
その原因となったななみお姉ちゃんはというと、いつの間にか座り込んでるユウさんの前にいた。
〘ユウさん、大丈夫ー?できるだけ抑えたつもりだけどー。〙
〘……なんとか…〙
〘そんな事言いつつ凄く顔色悪いから説得力弱いよー……無理はしないんだよー?アリナさんとロキさんはー?〙
〘私は大丈夫…〙
〘私もですね。〙
〘……目に見えるほどの異常は出てないねー。やっぱりユウさんで一度濾過されてるからかなー…〙
コメント:
:濾過……
:ろ過ねぇ
:濾過……なのか?
:んー…?
:分からん
:一応濾過って不純物を取り除くことだったと思うけど…
:厳密には混合物から固体の粒子を液体や気体から取り出すことやで
:あ、そうなんだ
:てか姫“で”濾過されてるってことは濾紙のような役割を担った姫はその不純物を全部喰らったってことに…
:あー……
:……姫、大丈夫だといいけど
〘他人の記憶なんて言ってしまえば記憶保持者当人以外にとって不純物の塊だからねー。濾過でいいと思うよー?〙
〘記憶……あれがななみちゃんの記憶……?慟哭というか、罵声というか、よく分からないものが混ざってて……水の中にいるみたいな音だったから聞き取りにくかったけど……〙
〘……そっかー。ちなみにだけど、何か見えたのー?〙
〘いや……音だけ……〙
〘…そっかー。それならよかったー。〙
コメント:
:慟哭……?
:罵声……?
:どういうこと……?
:あと“よかった”って…?
:……聞いても深くまでは話してくれないだろうから…謎が残るなぁ、ななみちゃんって…
:だねー…
:いつか話してくれる時が来るといいけど難しいかな…
:まぁ難しいだろうねぇ
:今回も大分渋ってた感じだったからねぇ
〘女の子の秘密を……じゃなくて、人の秘密を軽率に暴こうとしないほうがいいよー?眩き光放つ鍵穴の奥にて積み重なる呪いに果てはなく、暴こうとすればやがて底知れぬ昏き闇に呑まれ堕ちる……秘密の中に隠されている人の闇に飲み込まれて発狂しても知らないよー?〙
言葉とともに若干の怖気。警告……なんだけどほんの少しだけ脅しが入ってる?
……ななみお姉ちゃんってこういう警告のような脅しのようなどっちとも取れるようなの結構怖いんだよね…
なんていうか…心の奥底まで直接響いて感情の動きを促す、っていうのかな。そんな声だから。
〔……うし!なんとか整理ついた…解説は?〕
〔自分もなんとか…〕
〔じゃ、アッチに繋げるぜ?〕
実況さんがやっと復帰してゲームの方への音声通信が再度起動される。
〔待たせたな!マジで色々アクシデントあったがお疲れ様ァ!〕
〘そんなに待ってないような気がするけどー…〙
〔そーか?…まぁイイヤ、とりあえずMVPの認定からいく…ところなんだが……〕
……?
〔……その前にななみちゃんにチョイと聞きたいことがあんだが、イイか?〕
〘んー?なぁにー?〙
〔ななみちゃんが最後に使ったワザ……ありゃ“神速剣”、だよナ?〕
コメント:
:神速剣……
:神速剣……だよなぁ
:ちなみにそれ何?聞いたことないんだけど
:知らんなぁ
:名前しか知らないなぁ
:ホントに昔のプレイヤーさん以外知らない可能性あるのかな
〔“風雷轟一剣”……またの名を“神速剣”。このゲームにおける通り名文化の発祥、一番最初に通り名を与えられた“常識破りの死神”が想撃実装当初の2012年に編み出し、遺した想撃十六派の一つ。このゲームで使える想撃の最高位ともされており、常識破りの死神が使っていたことから“神技”とも呼ばれているものですが……まさか、“常識破りの死神”が現れなくなってから10年以上も経って再び目の当たりにする時が来ようとは。〕
〘……よく知ってるねー、解説さん。〙
〔当時のプレイヤーたちの憧れですからね、想撃十六派は……それはともかく……〕
解説さんの言葉にななみお姉ちゃんが頷く。
〘うん、間違いないよー。“風雷轟一剣 弐ノ型 網斬”。それが私が使った技の名前だよー?〙
〔網斬……〕
〔弐ノ型……ですか。確か、各派につき5つの技があると聞いていますが……〕
〘間違いないよー?“壱ノ型 閃”、“弐ノ型 網斬”、“参ノ型 避雷針”、“肆ノ型 天網蜘網”、“伍ノ型 天陣星座線”……これが“風雷轟一剣”だよねー。〙
〔詳しいナ……〕
〘図書館にあったよー?〙
〔ソースは図書館カイ……〕
〔そういえば置いてましたっけ、秘伝書みたいな感じで。〕
〔初耳だぞオイ…〕
〔今言われるまで忘れてましたし…〕
〔忘れんナヨ……〕
そう言って実況さんがため息をついた。
〔…それはそれとして、ダ。ナンでななみちゃんが神速剣を使えるんダ?〕
〘……あー…〙
コメント:
:言われてみれば確かに
:やっぱ謎が多いのよな、ななみちゃん
:最高位、ってなるとなぁ
:しかも魔力纏使ったことからもちゃんと想撃になってるんだよな
:んー……
〘うーん……秘密、かなー?〙
〘〘〘〘〘〔〔〔ミ゜〕〕〕〙〙〙〙〙
コメント:
:ミ゜
:ミ゜
:ミ゜
:
:
:
:ミ゜
:ミ゜
〘……あっ。〙
〘…ななみちゃん……ほぼ無意識に尊死攻撃振ったね…多分ほぼ最大火力…?〙
〘うっ、ごめんなさいー…ていうか、ユウさんホントに強いねー?心傷撃で弱ってるはずなのに耐えられるんだー…〙
……はっ。
意識飛んでたよ……秘密のジェスチャーは強いって……
ママと愛海お姉ちゃんもどうにか復帰したみたい。
〘〘〘〘〘〔〔〔「「「「「……………」」」」」〕〕〕〙〙〙〙〙
うわぁ、死屍累々………っていうのかな、これ。配信内外問わずほぼ全員やられてる……復帰済んだのは私とママと愛海お姉ちゃんくらいで、無傷なのがユウさんだけ。
……逆になんでユウさんあんなに耐性高いんだろ…
〘ボクの枠にいるリスナーさん達もみんなやられてる…〙
〘……数人復帰してきてはいるみたいだけど一瞬でも全滅しちゃったみたいー…?〙
〘かもね…〙
〘……うーん。こんなに火力高かったかなー。〙
〘…火力高いというよりはもしかして制御しきれてないのかも?〙
〘あー……そもそもの火力自体が上がってるってことー?〙
ユウさんが頷くとお姉ちゃんが頭を押さえた。
〘女の子になった影響かなー……〙
〘多分?……ん、ボクもなんとか調子戻ったし…解説さん達が復帰すれば進められるだろうけど…問題はこっちの皆な気もする…〙
〘あ、じゃあこっちの皆は気付けしておくねー。〙
〘……仮想世界で気付け……あ、効くんだっけ一応。〙
〘現実世界よりは効きにくいんだけどねー。……っと。そういえばCL上がったからスキル取れるんだっけ…〙
そう呟いてお姉ちゃんはウインドウを開いて軽く操作。
〘………こんなものかなー。私の戦闘スタイル上”MP自動回復”と“魔力纏”、“魔力剣”はとりあえず必須かなー。〙
〘逆にそれだけあればななみちゃんは十分なほど戦えるんじゃなくて……?ていうか操作速いね?やっぱり手慣れてるよね、ななみちゃん。〙
〘まぁ本来のデータだと伊達にゲーム初期からやってないからー。〙
〘そういうこと言っていいの?〙
〘これに関しては隠してるわけじゃないからねー。えーと……“魔力纏”〙
お姉ちゃんの宣言に応じてスキルが起動する。
〘あ、ここフィールド扱いなのか……〙
〘魔力纏が正常に起動したってことはフィールド扱いだねー?ただ……えっと〙
ウィンドウを開いて状態を確認するお姉ちゃん。
〘……うん、一応一瞬だけ街扱いにしたのか状態異常とか体力・魔力消耗とか全部なくなってるねー。〙
〘ボクとななみちゃんの繋がりも切れてるってことだよね?〙
〘…さっきも思ったけど言い方ー。勘違いさせるような言い方よくないよー?ユウさん既婚者でしょー?〙
〘うっ……それよく指摘される…〙
〘まったくもー。あかりんさん以外に靡かないって言われるほどあかりんさんのことが大好きで大切に思ってるんだから他の人に勘違いさせるようなこと言わないのー。〙
〘善処します……〙
コメント:
:戻ってきたら姫がお説教されててわろた
:やっと戻ってこれたと思ったらお惚気なのかお説教なのか分からんもの聞かされてワロタ
:やっぱななみちゃんってママ適性あるわ……
:ママ……
:相手が姫だからママっていうかお世話係のメイド…みたいな?
:あー…
:メイド、執事あたりか……
:ななみちゃんって執事が正しいのかねぇ
:んー?
:元執事の現メイド?か?STS症で女の子になってるわけだし
:ななみちゃんってお屋敷のメイドだったらちゃんと愛情持って主人の御子息・御令嬢に接してそう
:あ、なんとなくわかる
:それ分かるかも
:仕事は完璧で教育は厳格、だけどただ堅物なだけじゃなくてちゃんとできたことはちゃんと褒めてくれそう
:分かる……
:お坊ちゃまに恋心寄せられてそう……
:お嬢様に憧れと思われてそう……
:なんでそんな解像度高いねん……
:それな
「厳格……厳格、かなぁ?正直厳しく言われたことってない気がするけど……」
実娘としては教育が厳格だと思ったことはないんだけど…
「違うわよ、結。それはあなたが厳しく言うまでもなくやってはいけないことをやらないからなのよ?私も加奈も軽く注意するだけで終わってしまうから少し困惑はしているのだけれど…」
「……あ、厳しく言わない原因って私なんだ…」
「そうよ……っていうのもおかしい気がするけれどそうなのよ?…それにしてもメイド…ねぇ。」
……メイドかぁ。
「ななみちゃんに着せてみたいね、メイド服。」
「ななみちゃん状態でも多分似合うわよね……ゆなさん達と相談にはなるけれどデザイン案くらいは作っておこうかしら……」
「問題はどんなメイド服にするかじゃない?」
「そうなのよね…」
「現実と同じのはダメなの、ママ?」
「現実と同じ……というとあの子がよく着てるのはクラシカルかヴィクトリアンかしら?…ダメではないけれど他のデザインでも似合いそうなのよね……」
一緒に暮らしてないのに着ている服が分かるのすごいよね、ママ……
〔………はっ。ヤッベェどれくらい経っタ!?…オイ、起きろ解説ゥ!!〕
〔へぁっ!?えー、と……〕
〔おかえりなさいませ。……私も今起きたばかりですけど。〕
コメント:
:お、実況席戻ってきた
:戻ってきたな
:姫の枠もだんだん戻ってきたらしい
:ほぇ
:はぇー
:え、もしかしてうちらが一番早かった?
:かも?
:遡ってみたけど姫はそもそも尊死してないから俺らの大敗やぞ
:あっ
:あ……
:待ってなんでユウ姫そんな耐性強いわけ?
:確かに
:あれすら耐えるんだ…
〘耐性強い理由知らないからね?〙
〔耐性鍛える方法とかあレバ聞きたかったガ…姫川ユウもわからねぇカ。〕
〔相当きついですもんね……〕
慣れしかないと思うけど…
〔……そういえば……あまりにななみちゃんが自然にやっていたので忘れていましたが……〕
〔あん?〕
〔先程の想撃十六派なんですが、あまりに難しすぎてゲームシステムでのサポート付きで再現するのがほとんどなんですよね…風雷轟一剣であれば加速系スキルの最上位付近である“多重超神速 Lv.80”が前提スキルとなるはずです。〕
コメント:
:はい?
:多重超神速??
:レベル80…?
:え?このゲームってスキルレベル20が上限なんじゃないの?
:確かに
:1回戦の時にそんな話してたもんな
〔……Lv.80、ネェ?っつーことはそれ以前に大前提となるスキルが存在すんじゃネーカ。〕
〔えぇ……“スキルレベル上限解放”スキルが必須スキルになりますね。〕
〔アレって確か習得条件相当キツかったヨーナ気がするんダガ?〕
実際“スキルレベル上限解放”は習得条件厳しめだよね……私は習得してるんだけど…
〔そうでもしないと風雷轟一剣は再現できないんですよ。…風雷轟一剣よりも更に速い“雷雷合一剣”は更に上位スキルの“多重超光速”が必要になりますし。〕
〔……“神鳴剣”カ〕
コメント:
:え、どゆことどゆこと……
:実際マジでヤバイ人なんだよな、“常識破りの死神”って……
:想撃を再現するためだけにスキルが新たに作られるくらいにはやばい人なんだよな……
:しかもスキルだけじゃまだ足りなさげなのが余計にそのヤバさに拍車をかけてるんだよなぁ…
:あと昔……12年前か?運営側からの依頼で想撃十六派に関するインタビューを受けた際に“自分の想撃はまだ未完成だ”って言ってたらしいね
:えぇ…?
:未完成……?
:てかななみちゃんって魔力纏以外のスキル無しで神速剣を使ったってことはマジもんの神速剣を使ったってことだよな……
:あ……
:言われてみればそうじゃん
〔なんでマジもん使えるか聞いても答えてもらえネェダローシ……しゃあねーナ、次に進めッカ。〕
〔そのほうがいい気がしますね……〕
聞いたら多分また同じ惨状になるからね…
〔んデ。MVP認定を聞きたいんダガ……姫川ユウ?〕
〘……ななみちゃん……だとボクは思うんだけど……〙
〘私じゃない気がするの私だけー?〙
〘……どうなんだろう。〙
〔…正直ムズくね?〕
〔こちらから見ても皆さんそれぞれでかなり凄かったですからね……〕
コメント:
:確かに
:確かに……
:かなり高度な戦闘だったもんなぁ……
:切り抜き確定不可避だもんなぁ
:ていうか有名切り抜き師さん達が既に切り抜き準備してるよ
:これななみちゃんの視点で見れなかったのが若干悔やまれる…
:それ
:あ、それ切り抜き師さんがレスパーティで嘆いてた
:あと鳥肌やばすぎて切り抜きが進まないとかも言ってた
〘う、うーん……〙
〔悩むダローな、コレは…〕
〔ですね……〕
〔……んじゃ、姫川ユウが悩んデル間ななみちゃんにちょいと聞いてイーカ?〕
〘……んー?私ー?〙
あ、お姉ちゃんちょっと気を抜いてた?
〔おーよ。…いつの間にかステータスポイント振られてるんダガ、今ノデどこまでCL上がったンダ?〕
〘えー?えーと……CL114まで上がったよー?〙
〔…凄まじいですね〕
コメント:
:改めて見るとえげつねぇ……
:1→114……かぁ
:CL差による経験値ブーストとLAボーナス……重なるとヤベーな
:あとこれ店舗版だったはずだから店舗版ボーナスも重なるのか
:んーと……LAボーナスで1.5倍、店舗版ボーナスで1.2倍……キャラクター経験値1.8倍か?
:すげぇ……
:いきなりそんだけの経験値注がれて操りきれるんか、ななみちゃん……?
:……いや、操りきれそうじゃね?
:さっき“スペックシェア”でCL170の姫の高ステータスにいきなり切り替わっても完璧に順応してたもんな…
〔……デ、ダ。大迷惑かけちまった訳だからなんか欲しいもんあったら言ってクレ?〕
〔ちなみにこれは皆さんも同じですがななみちゃんは選択肢の幅が広いので時間かかりそうなんですよね…〕
〔ナ。とりあえずななみちゃんに関してはかけた迷惑の度合いが違うダローから出せるやつナラなんでもいいゾ?〕
コメント:
:ん?今
:今…
:今なんでもするって……
〔何デモするとは言ってネェ!!〕
〔出せるやつなら、とは言いましたけどね。〕
〘んー……結構無茶なやつでもいいのー?〙
〔え?まぁ、構いませんが……〕
〘そっかー…んーと……〙
お姉ちゃんが悩む表情をする。
〘……じゃあ、“妖刀・祟”〙
コメント:
:ひっ
:ひぇっ!?
:えっ!?
:妖刀…!?
:それって……
:確か……
〔……ソノ、銘は……〕
〔“単一武器”…このゲームに1本しか存在しない武器群に存在する武器の一種、ですね……加えて、かつて“常識破りの死神”が使ったと記録が残る“火の妖刀”……ですね…〕
コメント:
:単一武器……
:単一武器ってなると出せなくない?
:ゲーム内に1本しかないから単一武器なわけでそれが複数ってなると……
〔……いや。単一武器でも誰かプレイヤーが持っていなければ出せるんですよ。ですから……ちょっと調べてみますね。〕
そう言って解説さんがホロキーボードを叩く。
〔……あ。所有者欄が空欄になってますので誰も所有していませんね。〕
〔マジで?〕
〔えぇ。えーと……“禁域の森”に安置されてるようです。〕
〔禁域の森っつーと……元々火の妖刀が置いてアッタ場所か?〕
〔そうだったと記憶してますよ。〕
〘単一武器はクエスト報酬とかじゃなくてゲーム内のどこかに安置されてるんだっけー?〙
お姉ちゃんの言葉に解説さんが頷く。
〔他にも、所有者が半年以上ログインしていない場合は所有者の手元から離れて最初にあった場所に戻るんですよ。〕
〔かなり特殊な武器なんだヨナ、単一武器ッテ。〕
コメント:
:確か武器自体にAIが積まれてるんだっけか?
:意思持つ武器なんだよな、確か
:聞いた話では敵として存在する単一武器を撃破することで主人として認められるとかもあった気がするけど
:あー
:意思持つ武器だから武器とプレイヤーの意思が合わさることでより強力になる可能性を秘めてるやつなぁ
:そんな使い方できる人聞いたことないけど
〔一応、単一武器の敵化もありますね。〕
〔敵化武器はマジで現れねぇケドな。……ま、とりあえず……ななみちゃん、“妖刀・祟”で本当にいいんだな?アイツ、割と扱い難しいッテ聞くゼ?〕
〘ん、いいよー?……ていうかくれるのー?〙
〔オー、請われたカラにはナ。…テカ、軽く言うなヨナ……〕
〔軽すぎですよね……〕
〔ナ。……ンデ、姫川ユウは決まったカ?〕
実況さんの言葉にユウさんが頷く。
〘すごく悩んだけどやっぱりななみちゃんかな……ななみちゃん抜きだとこのクエスト成功できなかったと思うし。〙
コメント:
:せやなぁ
:せやねぇ
:確かにそうなんよなぁ
:このクエストの成功全てに関わってたもんな、ななみちゃんって
:言われてみれば
:最初は無理だと思ったけど蓋を開けてみれば……って感じだもんね
:ななみちゃんのこのヤバさよ
〔んー……となるとMVP報酬ナンだが……さっきも言ったヨウに選択幅が広すぎんだヨナ……〕
〔……そういえば、初期武器が細剣なのにさっき選択したのは刀なんですね?〕
コメント:
:あ、言われてみれば
:確かに?
:そういやそうじゃん
:そうね
:あ、でも神速剣って刀でやったほうがそれっぽいからそれもあってとか?
:あー
:あー……
:あとはななみちゃんって抜刀術使えるからそういう点で言うと刀の方が似合ってるのかもしれない?
:なるほどね
:ありえなくはないよね
:あと細剣を短剣みたいな使い方したときもあったから、もしかしたら短剣も似合うのかも…
:……ホントに選択幅広いな、ななみちゃん……
:ねー
:これは運営も迷うわ
〔……なもんでナンかあるかい?…あ、流石にマタ単一武器はヤメてくれヨ?〕
〘流石にしないよー?“妖刀・祟”は何でもいいって言ったからリクエストしただけだからねー。…流石に通るとは思わなかったけどー。〙
あ、お姉ちゃんも予想外だったっぽい?
〔ななみちゃんには本当に大迷惑をおかけしてしまいましたからね……あ、他の皆さんも欲しいものあれば考えておいてください。流石に単一武器ほどまでは難しいですが伝説級武器くらいまでならご用意しますので。あとついでにゲーム内通貨も謝罪金として配布させていただきます…〕
〘〘〘〘〘えぇ……?〙〙〙〙〙
〘伝説級武器ってそんなぽんぽん出していいものですかね…?〙
コメント:
:まぁ……うん…
:ディルズさんの気持ちはわかる
:そもそも破壊不可の武器って時点で割とバランスブレイカー味あるんだよな…
:そのほぼ最上位に位置する伝説級までってそれもうほぼ全武器okってことなんだよ……
:まぁそれだけ迷惑かけたって思ってるんだろうね
:まぁ……ねぇ…
:マジでこの運営陣いい人すぎでしょ
:きっちり詫び石の如くゲーム内通貨もくれるんやね……
:しかもそれついでかいな
:金額ヤバそう……
:メンテ後の詫び石もあるからさらに金額跳ねそう
:あー…
:あー………
:このゲーム、ガチャとかないから詫び石とか必要ないような気がするのにね
:しかもこのゲーム、詫び石1回1回が途轍もなくデカいんだよなぁ…
:回数経る毎に詫び石どんどん大きくなってる印象
:今回はどこまで行くのやら…
そこからしばらく時間がかかって、お姉ちゃんが受け取る報酬を決めたところで報酬贈呈が行われる。
〔……んで、コレが件の“妖刀・祟”だ。〕
その実況さんの言葉でお姉ちゃんの前に一本の刀が現れる。
コメント:
:あれが……
:妖刀……
:常識破りの死神が使っていた刀……
:確か……所有者を祟り、魂を喰い尽くすとかっていうフレーバーテキストあった気がする
:こっわ
:怖ぁ……
お姉ちゃんはその刀を手にとって少しだけ抜いた。
〘……あ?〙
どこからか───いや、刀から声がした。
「「「「「シャベッタァァァァァァァ!?」」」」」
あ、うるさい………
コメント:
:キェェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!
:キェェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!
:シャベッタァァァァァァァ!?
:おう、初めて見たやつはそういう反応するわ
:新鮮だなぁ
:単一武器は喋るんよ
:“意思持つ武器”ってのはそういうことよ
:付喪神とはまた違うと思うけど喋るんよなぁ
結構知ってる人いたんだ……私は初めて見たけど話には聞いてたから……
〘……ッ!?テメェッ……!?〙
〘こんにちは。……あ、もしかして?〙
〘忘れるわけねぇ!!その魂を……その昏い魂を!!オレが忘れるわけねぇだろうが、オイ!!〙
……え?
〘テメェ、オレを封印してから今まで何してやがった!!どうして今頃オレの前に再び現れた!!!〙
〘あー……〙
コメント:
:え?
:え???
:再び……?
〘答えやがれ、ハ───〙
〘その名前で呼ばないでねー?ここにいる私は違うからー。〙
〘ッ───!!チッ!!!わぁったよ!!…ご主人。コレでいいか?〙
〘ん、オッケー。〙
〘…ったく、昔っからテメェといると調子狂うぜ……〙
コメント:
:昔……から?
:って……
:……えっ!?もしかしてななみちゃんって“妖刀・祟”の元主人!?
:うっそ!?
:えっ!?ってことはななみちゃん……
:常識破りの死神ってこと…?
:……いや、それ以降にも所有者がいたはずだから断定はできないな
:うんうん
〘………んで?なんでまたオレを?〙
〘必要になったからー…じゃ、だめー?〙
〘……別にいいけどよ。その話し方なんだよ。〙
〘気にしないでー?〙
〘気になるわ、ボケ。…ま、テメェがそう言うなら気にしないように努力はするけどよ。〙
〘ありがとねー。〙
〔スッゲ、気難しいって聞くアイツを速攻黙らせタゾ……〕
〔なるほど、元所有者……それなら言う事聞きやすいんですかね。〕
〔サーナ。…うーっと…〕
実況さんが軽く伸びをする。
〔んじゃ、贈呈も終わったことだしコレにて7回戦は全部終了になるゼー!!マジで長い間お疲れサマー!!〕
〔ホントに長くかかりましたね……〕
コメント:
:んね
:ホント長かった
:マジで長かった……
:すっごいドキドキしたけどほんとね……
:マジでゆっくり休んでほしいわ
〔いやほんとにナー。んじゃ、順々にログアウトして───〕
コメント:
静歩カナ:すみません、緊急事態です!!
〔───あん?〕
カナさん?
コメント:
:え
:何々
:どしたの
鈴川リンネ:すみません、あまりにも凄すぎてみんな見入ってて……
怨狐ヨウ:ごめんなさいリーダー、もっと早くに伝えるべきだった…!
白黒モノ:ごめんなさい、こんな状況で7回戦に見入ってる場合じゃなかった……!
りりにゃん:にゃー!!!!!にゃー!!!!!にゃー!!!!!にゃー!!!!!
音越ヨミ:枠立てしてるVtuber全員で各リスナーによる伝書鳩を駆使してどうにか状況は把握できたんですけどかなりまずいかもです……!!
:待ってりりにゃんさんいつも通りだな!?
:安心感ある……んだけどいつもより切羽詰まってそうな感じがすごい
:一体何が……!?
〔おいおい、一体全体どうしたってンダ!?〕
〘ヨウちゃん?一体何があったの?〙
流石に異常事態。それは伝書鳩を駆使して状況を把握するという一手を打つまでには。
基本的にVtuberさん達は伝書鳩を容認しない。それは配信の邪魔になるから、だったはず。
……ユウさんみたいな例外はいるけど。
それなのにVtuber全員でそれを使ったのは異常事態以外の何物でもない。
特にりりにゃんさんは伝書鳩を許さないタイプの人のはず。
〔オイ、静歩カナ!!代表して報告頼ム!〕
実況さんの叫びにカナさんの返答を待つ。
コメント:
静歩カナ:ログアウト、できません!!私達Vtuberだけじゃない、全員です!!今さっきお母様がログインしてくると言ったきり戻ってこないので被害は全プレイヤーに及んでいるかもしれません!!
その文字列が流れた途端、お姉ちゃんの目付きが険しいものになった。
最後が不穏の気配。
書いてる最中に思ったんですけど、ガチャ要素のないゲームで詫び石が存在するゲームって実際に存在しましたっけ?
ともあれこの章と今年の更新はこれにて最後になります。次の章も長くなりそうでそろそろななみちゃんにも配信させたいとは思っているのだけど…(現状性転換もバ美肉おじさんも関係ないような状態になってる気がする…)
それでは皆様よいお年を。




