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No.86 記述の魔法

こっちもこっちで6000字とか超えてるので前話と合わせたら20000字行ってたんだろうなと

万華鏡まで放ち終わったななみお姉ちゃんは緩やかに地面まで降りてフローティングボードからも降りた。


そして静かにリザードマンロードの軍刀が届かない位置まで歩いて近づき、雪が積もっている彼岸花に触れてから微笑む。



コメント:


:うっ

:

:

:

:やb

姫華日奈子:

神凪:

:可わe

:[English]

:[English]

姫乃あかりん:う、ぐぅ、ぅぅ……

:だめだっt

:

:

:

:

:



……はっ。意識飛んでた……


配信の方を見るとななみお姉ちゃんがカメラの方をじっと見てた。


〔……はっ。オイ解説、起きろ!!!〕


〔へぁっ!?…私、意識飛んでました?〕


〔ぽいな…不意打ちの微笑みはヤベェって……〕


運営さん達が動き出すと小さく息を吐いてからリザードマンロードに向き直るななみお姉ちゃん。…待っててくれたみたいだね。


その向き直ったななみお姉ちゃんは左手を挙手するかのように掲げた。


〘───主なき者よ。〙


その声は───静かなこの空間でははっきりと響く。


〘形与えられし者よ───その力、再び振るいたいと願うならば我が願いに応じることで新たなる器を与えよう。〙


〔その詠唱は───〕


〘綴じよ、綴じよ、綴じよ───石板に刻み、魔書へ記し、錠前を施すが如く。ただ一時(ひととき)形なき力に戻り、新たなる器を形成せん。されど与えられた形は喪われるものならず、主命に応じ再び汝に顕れるものなり。〙



コメント:


:これは……

:何の詠唱だ……?

:聞いたことない……

:そもそも詠晶石を使う人があまりいない

:確かに

:……でもこれ詠晶石関連よな?

:多分そう

:だと思う

:嘘……これって

:ん?

:知ってるのか?

:“高度固定化”……



〘解けよ、解けよ、解けよ───花弁が開き、記憶に映り、鍵詩を詠うが如く。汝が主命に応じるならば、新たなる姿とともに汝は再びこの地に顕れる。〙


そこで言葉を切って息を深く吐く。


〘かつて形なき無垢なる力よ。我、構築者たる花園ななみの声と魂の導きのもと───姫川ユウを主君とし、新たなる力となれ!!〙


〘えっ!?〙


あ、ユウさんの驚く声が聞こえた。



コメント:


:!?

:え!?

:ななみちゃん!?



〘構築者の名の下に、これを汝に課す願いとする!!姫川ユウの刃となり、盾となり、新たなる姿を定める一助とならんことを───!!〙


その詠唱がなされると同時に、一斉に花や雪、星が揺れた。


〘───“クリスタル・セキュア”!!!〙


その瞬間。


総てが、凍った。



コメント:


:!?

:うわっ!?

:ナニコレ!?

:氷……!?

:違うこれ、水晶……!?

:“クリスタル・セキュア”……やっぱり高度固定化だ…!

:高度固定化ってなんぞ!?

:高度起動と対になるもの……!元々“固定化”っていうのは詠晶石での詠唱を固定……言い換えれば“保存”することができるんだけど、その純度がかなり高いの!!

:……えっと?

:つまり?

:保存したのを使えば今の魔法をそのままの火力で使えるってこと!!ちなみにセキュア自体にダメージ判定あるからこれも攻撃になる……!

:は

:はぁ!?

:[English]なんと!(原文:wtf)



そこまでチャットが流れたところで結晶と結晶に覆われてた術式が総て砕け散る。その衝撃でリザードマンロードが体勢を崩して倒れ込む。


その砕け散った結晶の煌めきがななみお姉ちゃんの左手に集まって、詠晶石と同じ大きさの結晶を作り出した。


「す、すごい……」


〔い、イマのだけでごっそり1割半を持っていきやがッタ……〕


〔なんという想撃火力……“高度固定化”まで使えるのは予想外ですよ……?しかも主人を自分にしないなんて……〕


〔…主人を自分にしないとドーナルんだ?〕


〔今ななみちゃんが持っている石……“記術石”というのですが、それではななみちゃん自身が起動を命じたとしても術式が起動しなくなります。…一応例外はありますが、ほぼデメリットしかないような行動ですね。もしななみちゃんが同じ術を使おうとするならば1から組み直さなければいけません。〕


〔……まじかよ……コレと同じものをもう一度……?〕


そんな運営さん達の驚愕を気にしないというように、ななみお姉ちゃんはユウさんに生成された石を差し出した。


〘はい、これー。〙


〘え?えっ…と……ボクがもらっていいの…?さっきの詠唱でも思ったけど…〙


〘この記術石、元はユウさんの詠晶石なんだし当然じゃないかなー…私はこれに命を吹き込んだだけだよー。〙


〘そ、そう……なのかな…?〙


〘そうだよー。……というか、見せ場みたいなの取っちゃってるわけだから遠慮なく貰ってほしいんだけどー…〙



コメント:


:いや草

:草

:気にしてたんか

:気にしてたんやね

:実際受け取るしかないんよな、主人が姫に設定されたわけだから

:そうね

:言われてみればそうね



〘うー……分かった…なんかすっごく気になるけど貰うね……大切に使うね…?〙


〘うん、どうぞー。名前は付けてないからユウさんが付けてあげるんだよー?〙


〘あ、うん……ねぇ、今度ななみちゃんに何かプレゼントしたいけど何かある…?さすがに元々あげたものに対して貰ったものが大きすぎて……こういうのって本人に聞くようなものじゃないんだけどさ…〙


そんな言葉にななみお姉ちゃんが苦笑い。


ともかくななみお姉ちゃんが差し出した記術石をユウさんが受け取ってその話は終了かな。


〘グ、ルルル………〙


そこに割り込むようなリザードマンロードの唸り声。それを聞き取ったと同時に全員の視線がリザードマンロードに向き、ななみお姉ちゃんの目つきが鋭くなる。


〘……しぶといね。割と全力で叩き込んだはずなのにまだ生きてるんだ。…まぁ、この身体になってから想撃使ったのが初めてだったから火力不足だったかもしれないけど……〙


火力不足なんかじゃないはず。想撃において参照されるのは……大まかに言ってしまえば()()()()()()()()()()()。たとえ思考回路が書き換わっても魂は同一……このゲームには突発性性転換症候群のプレイヤーは他にもいて、そのプレイヤーが男性女性どちらで想撃を使っても火力が変わらないって話だから女の子になったくらいで火力が下がるわけない。


火力が下がった原因は別にある、はず。



コメント:


:切り替えはっや

:切り替え早いな

:一瞬ほのぼのしたと思ったら即座にピリッとしたよ

:……てかあれで火力不足??

:火力不足……?

:CL1でHELL個体を9割弱削るのが火力不足なわけ……

:……言うてうちらななみちゃんの想撃火力知らんね?

:あ

:言われてみれば

:知ってそうなのは日奈子ママと神凪ママ……か?

:どうだろ

:香月ママとかゆなママとかもわんちゃん

姫華日奈子:情報が少なすぎて確定できないわ

神凪:日奈子さんに同じく

:ふむふむ

:情報過小

花咲香月:私そもそもこのゲームやったことないです

夢咲ゆな:香月と同じく

:なるほど

:そりゃわからんわな

:んでさらっとゆなママもいることが判明してるのよ

姫華日奈子:とはいえここまで火力下がるものかしら……いつもより大分ダメージ出てないわね。何か不調だったかしら…

:うんやばかった

:いつもよりダメージ出てないって

:可能性としてはいつもは10割削ってるなこれ



「……若干誤魔化しておきましたけどこれでいいんですかね…」


「改造されてるかもしれないっていうのは私が予測で言ってるだけなので問題ないと思います。…下手に混乱させるよりはいいかと。」


それに、もし改造されてるならななみお姉ちゃんが気づいてるはず。…多分、確証がないから言わないだけで。


〘……人の目が多い中で目立ちたくないんだけど…って、今更だよね。攻撃の全対処に加えて大技の見切り、結晶化状態での戦闘。果ては詠晶石を使った多重弾幕にその固定化。目立ってないわけがないか……〙


…それはそう。


〘……なら遠慮は無用、かな?正直な話、心像石はすごく苦手だからそれは本当に最後の手段。だから───〙


そう言ってななみお姉ちゃんはウィンドウを開いて操作、何かを取り出す。


詠晶石のようで詠晶石ではないもの。


〔あれは……記術石。〕


〔ナンで……〕


〘本来のアカウントで記術石をコピーし、メッセージで送ることでこの石を持っているたった一度だけこのアカウントで使えるようにしたもの。……今の私が持つ、たった1度きりの奥の手。〙


そのななみお姉ちゃんの言葉に解説さんが息を呑む。


〔───記術石の複製!!主人以外が記術石を起動させる事のできる“例外”……!ですがそれは本来の記術石よりもかなり劣化しているはず…!〕


〔劣化…ってドレくらいだ?〕


〔ええと、大体7割…その程度の火力しかでないはずです……!〕


……確かにそのくらいの火力しか出せないはず。


〘日奈子ママの協力でCL1でのコレの火力は確認済みだし……って、あ。〙


そこまで言ってななみお姉ちゃんが私達の方を向く。


〘えーと、ちょっとホラー気味…グロテスク系?だと思うから怖いの苦手な人は目を瞑ってるといいよー。〙



コメント:


:ホラー気味?

:ホラー気味……?

:しかもグロいのね

:言うてそこまででしょ

:さすがにR18にはならんやろ?

:流血沙汰はないだろうからなぁ

:全年齢対象だからねこれ



〘んー、忠告はしたからねー?…さてと。〙


詠晶石と同じように記術石を前に出すななみお姉ちゃん。大きく息を吐いてからリザードマンロードを見据える。


〘“リリース・リコレクション”〙


その宣言がされると、記術石が光を放つと同時に幾何学模様が現れた。


〔“追憶解放”……記術石に刻まれた術式全体の力、もしくは記術石を構成する術式の一部を開く宣言。〕


解説さんの言葉のあと、その記術石の幾何学模様はまるで糸がほどけるかのように分解されていって、空中に消えていく。


光を放っていた記術石自体も粒子を振りまいて分解されていき───ピンク色のノイズのような光がななみお姉ちゃんの胸の前に残った。


左腕を一度曲げてその光に手を当て、光を押し上げるように腕を伸ばす。


その途端、光の色が赤に変わって───


グチュッ、と。非常に生々しい音が響いた。



コメント:


:グチュ?

:グチュ…?

:なんだ今の音

:なに今の……空耳?

:なんかすっごい生々しい音しなかった?

:なんか…咀嚼するようなそんな感じの音よね

:咀嚼……すり潰す……なんだろね、生肉…とか挽肉を潰すような…

:あー……

:言われてみればハンバーグこねる時とかの音に似てるかも



チャットが流れて───さらにグチュッ、グチャッ、と2回音が響く。


〘───喰らい尽くせ〙


その言葉に反応したかのように、赤い光がドクンと跳ねる。


〘“桜迷宮”〙


宣言された途端───赤い光から真っ赤な龍が飛び出した。


〘ギュルォァァァァ!!〙

〘ジギャァァァァァ!!〙

〘ミャズォォォォォ!!〙

〘ペギィァァァァァ!!〙

〘リギャァァァァァ!!〙

〘ガギャリャァァァ!!〙

〘ドリャァァァァァ!!〙

〘ラミルラミレラァ!!〙

〘ピュルルルルルル!!〙


それも1頭だけじゃなくて9頭も。


…なんか咆哮の癖強くない??


そんなことを思ってたら龍の1頭がこっちを向いた。



コメント:


:ひっ

:ひぇっ

:こっち見ないで

:美味しくないよー!

:怖い……!!



〘よそ見してはダメよ。ただ標的となる相手にのみ集中なさい。〙


その諭すようなななみお姉ちゃんの声に龍が私達の方から視線を外し、リザードマンロードに喰らいついた。


〘それは迷宮に宿りし恐ろしき魔物。踏み入れしものを喰らうおぞましき化生。一度足を踏み入れ、帰るべき道を見失い、気力尽き果てたならば。迷宮に宿る化生に喰われその生涯を終えるが定め───〙


そう話している間にも何度も何度もリザードマンロードに喰い付く9頭の龍。


〘迷宮の魔として具現せし血塗れの九頭龍よ。眼前の敵を喰らい尽くせ───肉片一片たりとも残さぬように!!!〙


その叫びに呼応してか、9頭の竜が一斉にリザードマンロードから離れて空に上がり───


9頭揃って螺旋を描いて落下。


その先端はリザードマンロードの脳天を捉えて衝突。そこから糸がバラけるかのように纏まりが歪んで少し上空に退いたと思うと、合体して1頭篦巨大な龍となってリザードマンロードを頭から丸呑みした。



コメント:


:ひえっ……

:えっ…ぐ……

:想像の数倍エグい

:こんな可愛い女の子がこんなエグい技使ってるってマジ……?

:これ配信で使われてる映像がA指定だからこれで済んでるけどZ指定で見てたら……

:想像しただけでグロいなおい

:これどんな魔法刻んだらこうなるんだろ……

:んー…結構複雑な術式組んでそう

:ただどんな術式組んだかは全くわからん

:“サクラメイキュウ”って言ったよね……

:桜迷宮なのか櫻迷宮なのか

:同じ意味やぞそれ

:佐倉迷宮……違うかさすがに。じゃあ咲良…?

:余計意味わからんな

:そもそも迷宮じゃない可能性もある……?

:迷宮じゃない“めいきゅう”ってなんぞ?

:命宮とかってこと?



迷宮で合ってるんだよね……確かひいおじいちゃんの家の方にある桜から入れる“迷宮異界”がモチーフになってたはず。


迷宮異界っていうのはその名の通り迷宮で、現実世界とは位相がズレた場所にある資格を持たない人間では入ることのできない場所。


この資格はただ単純に霊力を用いて迷宮異界の門に正常に干渉できるかできないかだから霊能力は関係ない。だからお姉ちゃんもママも入場資格はある。


桜が迷宮異界の入り口になってて、迷宮内でもいくつもの桜が植えられていて花を咲かせているから“桜迷宮”。名付けとしては分かりやすいよね。


…確かにあそこに龍いたけど……色は赤じゃなくてピンクや白なんだよね。桜の龍だから。……私が知らないだけかなぁ。


そんなことを思っているうちに赤い龍は役目を終えたのか粒子になってその場から消滅した。


〘……〙


消滅したその跡地には地に伏したリザードマンロードの姿。姿が残ってるということはまだ生きてる。


その残りHPは───1ドット。


〘嘘、だろ……〙


〘あと、たった1ドットだけ……?〙


〘ななみちゃんがあれだけやってくれたのにまだ倒れないの……?〙


〘どれだけしぶといんですか、こいつ……!〙


〘ななみちゃんにだって限界あるはずなのに……!〙


その光景に参加プレイヤーさん達から悲鳴のような声が上がってた。



コメント:


:というかそもそもななみちゃんに限界きておかしくないだろ……!

:むしろとっくに限界迎えててもおかしくないでしょ!?やってることがやってることなんだから…!

:姫との約束破らないためにたったの1度も被弾できないのが姫の力を借りてた時以外ずっと続いてるんだもん、今ここで倒れたっておかしくない……!!

:ななみちゃんがやったことをざっと整理……パーティーが持ち直すまでリザードマンロードの攻撃の全対処、持ち直したあとも大技の全見切りと対処方法指示、リザードマンロードの結晶化後は結晶化状態での戦闘……加えてリザードマンロードが全快したことを受けて高度起動させた詠晶石を使った多重弾幕にその高度固定化、そして今記術石を使った追憶解放……追記するけどななみちゃんはCL1なので難易度HELLのリザードマンロードの攻撃がどれか1つでも掠ったら死ぬ状態、かつ結晶化状態から後は自分が死ねば姫も死ぬっていう姫の命まで背負ってる状況

:改めて文字に起こされるとななみちゃんがやってたことがヤバすぎる

:CL1で、なおかつ1撃も貰えない状況で姫の命背負ってるのが割とやばい

:ななみちゃんにかかってる負荷絶対やばいって……!!



チャット欄の声をよそにななみお姉ちゃんは首を傾げて───


〘……おかしいな。〙


───そんなななみお姉ちゃんの呟きが、静かに響いた。

記術石“桜迷宮”:“花咲大迷宮”、“神樹万年桜”、“九頭桜花龍”といった様々な術式を構築し、高度固定化した記術石。構築元となった詠晶石は精錬(リファイン)のランク15。

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