No.75 7回戦準備中
クエスト準備中……
〔おーう、どんどんと入ってきてるナァ。〕
〔そうですね…それに偶然だと思いますが皆さんかなりの猛者ですよ。〕
コメント:
:ここまで参加者全員CL100〜125なのすごい
:割と猛者達集まっとる……
:これHELLも行けるんでね?
:確かに
:確かに?
:うーん…?
:どうだろ……
:遺跡系だった場合とかがなぁ…
:あと不安なのは大技。アレって基本的に適正レベル帯以下のキャラクターは回避するか防御するかしないとHP消し飛ぶような性能してるから。
:えぇ…
:適正レベル帯とは
:大技ねぇ…回避不可はあまりないけど防御不可は割とあるんよね
:はへー…
〔元々大技は適正レベル帯以下かつVIT100以下であれば正しい行動をしないと死亡するような一つの壁のような設計なので大技を受けて死亡するのは実は割と正しいんですよ。技によっては強制気絶で留めるといったものもありますが。〕
〔アンタって時々鬼だよナ……〕
〔予備動作とかはちゃんとありますからそこまで鬼畜な難易度にはしてないはずですよ?あとよく観察すれば初見でも避けれます。〕
〔フ〇ムの毒沼をヒャッハー言いながら嬉々として渡るようなヤツに言われてもYO……説得力ゼロだっつーの。〕
〔関係ありませんよ。それに、大体の攻略情報はゲーム内にありますし。〕
コメント:
:まさかの解説者死にゲー民
:あの毒沼を嬉々として渡るって…えぇ
:しかもなんかモヒカンになってなかった?
:てか攻略情報がゲーム内にある?ってどういうこと?
:それ
:確かに
〔ゲーム内の攻略情報でしたらウイさんが話してましたが図書館に高確率でありますよ。あとは遺跡ですかね。〕
〔図書館って娯楽だけの施設じゃないノナ…〕
〔えぇ、まぁ。〕
コメント:
:ほへー…
:図書館に情報あったんか……
:割とあそこ調べないこと多いもんなぁ
:ってことはそこをよく調べてるっぽいういちゃんは色々知ってそうね
:単字魔術師だし遺跡にある攻略情報のこともよく知ってそう
:若いのにすごいなぁ……
:街中とかで聞いたら何か情報教えてくれるのかな…
:どうだろ…?
「……はぁ。」
小さくため息をついて手元のタブレットを操作する。
コメント:
:一応、遺跡探索クエストなんかで発見した攻略情報については情報屋さんに匿名かつ無料で共有してるので詳しくは情報屋さんに聞いてくださいね?クエスト中はともかく街中で話しかけられても私はあまり反応しないので…
:ん?
:うん??
:あれ、これもしかしてういちゃん?
:そうですけど
:あそっか、参加できたってことは会場にいるから俺達のチャット全部見えてるのか…
:てかういちゃん街中だと反応しないのね
:もしかしたらボイチャ切ってるのかも?
:あー…
:あり得る
:ボイスどころかテキストも基本切ってます
:お、おう
:おわぁ
〔うーん…文面からして少し嫌がってそうですからあまり追求しないであげてくださいね。〕
〔まぁ女の子だしナァ。〕
「……他人と関わるのが嫌なわけじゃないけど悪名が広まってるから自衛の意味も込めて切ってるんだよね…」
「そうなんですね…」
「そうなんです。…あと、私が直接情報を共有してる情報屋さんって私自身の知り合いで、その情報屋さんからさらに他の情報屋さんに共有してもらってる状態なんですよ。」
そこまで言うと奏さんが疑問気な声を出しました。
「……そういえば匿名情報提供ってお金払わないとダメじゃなかったですっけ。」
「ダメですよ?なので共有時に指定されたお金をきちんと払って匿名にしてもらってます。」
「ちゃんとしてるといえばいいのか小さい子から結構な金額を貰っていく情報屋さんを非難すればいいのか…」
「正当な取引ですから情報屋さんを非難するのは間違ってますよ。」
「…そう、ですか………そうですか……結ちゃんが気にしてないならいいんですけど…」
確かに結構高額だけどあまり気にしてはないかなぁ…
「えっと……その情報屋さんの情報提供者を匿名にする料金って一体どれくらいで…?」
「1情報あたり300,000フィネ……日本円に換算すれば最悪の場合で10,000円ですね。」
「「……えっ。」」
「結ちゃんの言う通りで…店舗版の1プレイが100円で、それでもらえる追加支給が3,000フィネですから1つの情報を匿名にするのにかかるのは10,000円相当なんです…」
「でもそれって全部を現実のお金で賄おうとした場合で、普通にプレイしてたら割と貯まってる金額ですよ。」
「家庭版でもCL15くらいでプレイヤーホーム買えるくらいにはお金貯まるものね…」
「ちょっと待ってくださいなんかおかしいです、確かプレイヤーホームって軽く10M……10,000,000フィネはしましたよね?それだけの金額CL15で貯まる、というか貯められるものでしたっけ?」
「……貯まるわよね、結?」
「うん、貯まるよ…?」
ちなみに奏さんが言った10,000,000フィネって日本円換算で大体33.4万円くらいだから現実の家と比べると全然安い。いや33万円が高いのはよく分かってるけど。
フィネ→日本円はフィネ÷30で出るし、逆に日本円→フィネは日本円×30で出る感じ。まぁゲーム内と現実だと通貨の価値がまるで違うし、店舗版1プレイ時の100円でもらえる最低金額が3000フィネなだけで場合によっては50,000フィネとか貰える時あるらしいし……
…日本円とフィネの為替レートはさておき、とりあえずその10,000,000フィネがCL15で貯まらないってことは……
「お金の稼ぎ方間違ってる人多いのかな…?」
「可能性はあるかもしれないわね…」
「そもそもCL15までで受けられるクエストにそんな高額稼げるクエストなんてないですよね…?」
……うん?
「PRACTICEにありますよ?」
「PRACTICEにあるわよ?」
「PRACTICEにあるよ?」
「……えっ?PRACTICEですか?」
「「「PRACTICE。」」」
「適正CL1の難易度であるあのPRACTICEですか?」
「そのPRACTICEよ?」
「一応他の難易度にも同じようにお金が稼げるクエストはありますけど、比較的楽に稼げるのはPRACTICEですかね…」
「お兄ちゃんみたいに慣れてる人ならABYSSのクエストに行くこともあるかな?」
「そ、そうなんですね……ABYSSって適正CL180なんですけど…」
あのクエスト、あまり敵らしい敵は出てこないから極端な話をすれば護衛みたいな感じで高いCLの人を1人連れていけば大体は安心って加奈お姉ちゃんも言ってたっけな……
難易度が上がれば上がるほど得られる金額も多くなるけど、赤の他人に迷惑をかけるのはよくないから仲間内で行くか一人で行くかかな、とも言ってたけど。
……それはそれとして。
「遅いなぁ…加奈お姉ちゃん。」
「えぇ、遅いわね…何かあったのかしら。」
その私とママの疑問は運営さん側も感じてたみたいで。
〔最後の一人、遅ぇな?なんかトラブった?〕
〔ちゃんと反応は返ってくるので既にログインはしているみたいですけどね。もうしばらく待って動きがなければ直接部屋を見に行ってみましょうか。〕
〔オンラインになってんなら問題はなさそうだけどナ…頼むわ。〕
〔えぇ……っと、言ってたら来たようですね。〕
〔おっ、そうか…やっと始められる…な……〕
コメント:
:ん?
:あ?
:い?
:う?
:え?
:え
:え?
:お??
:はっ?
:うん???
:ふぁっ?
:?????
実況さんの声が萎んでいったその原因。チャット欄が大困惑に陥ってるその原因───
〘ごめんなさいっ!!アカウント間違えちゃいました…!!〙
実体化早々土下座する少女。
〔な、なな、なぁ………!?〕
〔花園ななみ、ちゃん……!?〕
Vtuberとしてのお姉ちゃん───ななみお姉ちゃんが、そこにいた。
「「いやなんでななみちゃんっ!?」」
「いつものアカウントとVtuberとしてのアカウントで間違えちゃったのね……」
ママのその言葉でやっと思い出す。
「……あ、そういえば加奈お姉ちゃんってカードデザイン一緒にしてたんだっけ。」
「そうね……あのデザインは加奈のお気に入りだもの。」
「複数アカウント作るときでも結構同じデザインにしちゃうよね…」
愛海お姉ちゃんの言葉に少し苦笑い。
このゲームのアカウントカードのデザインって結構種類があって……フレーム、バックグラウンド、アート、エフェクト、ネームプレートを組み合わせて1枚のカードを作るんだよね。
アートとエフェクトはどちらか1方を2枚重ねることもできる……まぁ、プリクラの編集みたいな感じだと思えば特に問題はないかな。
数多あるカードのデザインの中でも特に人気なのが“花畑”、“楽譜”、“絵本”だっていう話。
ちなみに、加奈お姉ちゃんの好きなデザインっていうのが“フレーム:レース(白)”、“バックグラウンド:空(晴れ)”、“アート:花畑(乱咲・カラフル)”、“エフェクト:なし”、“ネームプレート:蔓”の組み合わせ。これは昔から変わってないって言ってた。
〘は、花園ななみちゃん…?〙
〘ほ、本物……?〙
その言葉に加奈お姉ちゃん…じゃなくて、ななみお姉ちゃんは小さく頷いて口を開く。
〘うん、本物だよー?1回戦の時に実況さんと解説さんがウイちゃんが私に似てるって言ってたのもバッチリ聞いてたよー。〙
〔やっべ聞かれてた…〕
〔聞かれてましたか……〕
〔ンデ、こっちまっすぐ見てるあたり俺達の視線に気づいてるよナ……〕
〘……虚空見つめてるのってもしかして…〙
〘20……40万人軽く超えるくらいの視線をそこから感じるからー…〙
コメント:
:バレテーラ
:バレてる……
:あかんコレ本物だわ
:なお現在同接44万
:40万人とか超えると数えるの面倒そうね
:多分10万人超えたら10万人単位で把握してるんじゃないかな
〘え、あ、え……と…〙
〘なんで……?〙
〘配信でやろうと思ってこのゲームのアカウントは取ってたんだよー。…別のアカウント使うつもりで来てたからこっち起動させちゃってさっきすごく焦っちゃってー…それで遅くなっちゃったんだよねー。〙
〔あ、それで遅かったんですね…〕
〔ま、まぁ元々使うのと間違えると焦るヨナ…〕
……ななみお姉ちゃんの焦りって多分それだけじゃないと思う…
〘あとー……本当にごめんなさいっ、多分今回私役に立てないと思うのー…〙
〔え?〕
〘どうしてですか?〙
〘ななみちゃんなら何も問題ないような気がするけど…?〙
〘えーっと…配信見てる人にはもうわかってるんじゃないかなー…?私のステータス……〙
〘ななみちゃんのステータス…?〙
〘えっと、今パーティーメンバーの皆には開示するねー?〙
そう言ってななみお姉ちゃんがそう言ってウインドウを開く。実況席の人達もその言葉でななみお姉ちゃんの情報を見る───
〔………あ。〕
〔あ……お……オイオイオイ!?CL1じゃねぇか!?〕
コメント:
:えっ
:マジで
:CL1!?
:バリバリ初期状態やんけ!!
:ごめん、さっきHELL行けんじゃねとか言ってたけど絶対無理だわ!!
:いや待て、PRとか高い可能性も……
:馬鹿か、いくらPR高かろうがCL1でHELLは無謀の一言だぞ!?
〔PR、PL、CL全てが1なので正真正銘初期状態ですね…〕
〔武器は……細剣?………初期武器にコレ選ぶ時点で割と玄人の気配するんだガ……〕
〔物理武器の中でも特に刺突と速度に特化してる武器……ですからね。〕
そう言ったあと解説の人が不安そうな表情をしながら画面を見た。
〔……ななみちゃんの別のアカウントがどのようなものかわからない以上、ななみちゃん自身の実力が測れませんね…〕
〔別のアカウント、ナァ……ゲームが上手いのは動画でわかってるんダガ、このゲームみたいな完全接続型の情報はマダないからナ……〕
実況の人がそう言って息をつく。
〔おーし!気を取り直してクエストを決めるぜーい!クエストルーレット、カモーン!!〕
コメント:
:テンション高ぁ
:テンションたっか
:多分ビックリした反動だろうな
:まぁまさかななみちゃんがいるなんて思わなかったわけで
:1回戦でういちゃんがななみちゃんに似てるって話をしてたら7回戦でななみちゃん本人が出てきちゃうっていう
〔ちょいうるせぇぞ、チャット欄!?〕
「実際偶然だけれどウイってななみちゃんの実娘だものね……」
「うん……“ウイ”ってまだ仮の名前だからななみお姉ちゃんの実娘として名乗って良いのかわからないけど…」
私の“UI”っていうのはゲームで使ってるプレイヤー名であって、実際の活動者名として認識してるわけじゃないから“花園ななみ”の娘とは言いにくいんだよね…
“花神加奈”と“花神結”は現実の血で“親子”として繋がっていても、“花園ななみ”と“UI”では“配信者”と“視聴者”くらい…もしくはもっと遠い関係になっちゃうし。存在する領域が違うから。
……考えすぎ、なのかな。でも、加奈お姉ちゃんがななみお姉ちゃんである間、私は…UIは自信を持って“花園ななみの娘だ”って思うことはできない。それはなんとなく自覚してる。
UIの部分を花神結に変えると娘であることに自信を持てるんだけど…この認識ズレみたいなのはよくわかんない。
ちなみにUIが加奈お姉ちゃんの娘だと強く自信を持って認識できるのは加奈お姉ちゃんのプレイヤー名である“神無”。10月を示す“神無月”じゃないからちょっと不安になる名前だけど。
〔さーテ、今回のクエストはー……あ?〕
〔……あっ。〕
うん……?
コメント:
:あっ
:あ
:あ…………
:えぇ……
:うせやん……
〔へ、HELL……出ちまった…〕
〔よ、よりにもよって……ここで、ですか……〕
実況席の人達の言葉にちゃんとルーレットの画面を見る。
Game mode:VS Boss
Difficulty level:HELL
Boss name:The Lizardman Lord
「Lizardman Lord……“蜥蜴人間の君主”、かぁ。」
「あ……あ……あぁ…!」
「奏さん?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
「えっと…落ち着いて?誰も怒ってないから……」
「だって、私、私のせいで……!」
「「「「「奏さんのせい……?」」」」」
何かしたっけ……
「私の不幸に、先生を巻き込んじゃって……!こんな大舞台で…!」
「……あ。」
そういえば、奏さんって“厄撒物”だっけ…
「大丈夫よ、奏さん。」
「でも…!間違えて使ったアカウントのCL1でHELLなんて不幸でしかないじゃないですか…!先生が結ちゃんみたいにすごくても、いくらなんでも無理です…!」
「んー…」
…私みたいにすごい、かぁ。
「そもそも、加奈お姉ちゃんはこれを不幸だと思ってないと思いますよ?」
「………え?」
あ、奏さんが少し落ち着いた。
「奏さんもこのゲームのプレイヤーならわかるはずよ?加奈の…いえ、ななみちゃんの表情。絶望してる表情かしら?」
「表情……?だって、CL1でHELLなんて無茶で…………えっ?」
画面に映るななみお姉ちゃんの表情は無表情。…無表情というか、あれは集中してる表情だね。戦意なんて削がれてない。
むしろ表情が絶望に染まっているのは他のプレイヤーさん達の方。ユウさんはちょっと違って少し不安そうな感じだけ。
「な、なんで……なんで……??絶望するどころか、戦り合う気なんですか…?」
「……奏さん。私の戦いを、凄いと思いました?」
「へ?あ、はい…」
「……私程度の戦いを、本当に?」
「て、程度……?というか、あれは誰が見ても凄いと思うものじゃ…」
その答えを聞いて小さくため息。
配信内ではルーレットを回し直すか、武器を貸し出すかとか話されてて……あ、今ななみお姉ちゃんに貸出拒否された。
「私程度の戦いを凄いというのでしたら───今からあなた達は異次元の戦いを観ることになるでしょう。」
「い、異次元……?」
私が頷くと同時にママが口を開く。
「……加奈は。私や結、愛ちゃんの3人の誰よりも強い。…戦いの次元そのものが違うわ。」
〔んじゃ、すまねぇがスタートだ…!……なぁ、コレ推しだからとかなんも関係なく補填考えとこーぜ……〕
〔えぇ…流石にコレは申し訳ないですからね…このパーティの皆さんには何か考えましょう……〕
「この戦い……お兄ちゃん1人なら。…勝てるよ、多分。」
「え……」
愛海お姉ちゃんの声が聞こえたところでクエストが始まって、ボスモンスターが顕現する。
The Lizardman Lord───蜥蜴人間の君主。大きな軍刀を持った身長300cmはあるかのような蜥蜴人間。
その軍刀から繰り出される攻撃と、フィールド全体に広がる大技が非常に脅威とされるボスモンスター。
実際、LizardmanやGoblinのような亜人型モンスターは苦手な人が多いんだよね。あとはSlimeやGelなんかの粘体型とTentacleやOctopusなんかの軟体型。
……粘体型と軟体型は大体原因が物理軽減と衣装破壊だけど。人型や亜人型は純粋にプレイヤーと同じ動きをしてくるから強力な存在なわけで。
…私?衣装破壊攻撃は避ければいいだけだから別にそこまでじゃないかな?元より遠距離主体だし、近接で戦うとしても実は結構遅い攻撃だし。
話を戻して、“君主”となると……それは、同じ種族の“最強”に近しい存在となる。
CL1が難易度HELLかつ種族内最強の亜人型に挑むなど無謀。それは視聴者さんたちの言う通り。
それでもお姉ちゃんは───
ということで次話からはまたクエストの話になりますよー。
なお、ざっとななみちゃんの状況を説明すれば初期装備でゲーム終盤のボスと戦うような状況です。ななみちゃんはただのやらかしだけど。
難易度HARDで本気を出してなかった結ちゃんが“異次元”というそのななみちゃんの強さって…




