No.63 ゲームイベント
久しぶりのゲーム回。
ただ今回は若干の導入的な意味合いで。
いつの間にか東京6日目。8月17日火曜日。
なんか濃いなぁ、とか思いつつ……
「おはようございます、皆さん。」
「ん、おはよ、奏さん。」
「おはよう、奏さん。」
「おはようございます、奏さん!」
「おはよー、奏さん。」
「「お、おはようございます……」」
私達は一昨日の約束通り秋葉原にいる。
……あ、今日の奏さん、私と結と奈々の3人と服装おんなじ。白いワンピースに紺のレースパーカー、水色のリボンが巻かれた白のキャペリン。それに気づいた奏さんも少しびっくりした表情をした。
日焼け、痛いもんね。奏さんはアルビノらしいから尚更。
「そういえば昨日どうだった?」
「あ、えーと……特に問題はなく。夜に配信画面も作ってみたんですけど起きても消えてなかったです。」
「…そ、そう…?」
「今まで作っても作っても消えてたので……これでまた配信ができると思うと…」
「……そっか。昔の配信からも伝わってきてたけど…本当に配信が好きなんだね。」
「はい!……あまりにも不幸続きだったのと、そのせいもあってかろくに絵も描けなくなって……スマートフォンとかタブレットが壊れたタイミングで心が折れてしまって…それで、配信はやめてしまったんですけど。」
……そうだったんだ。
「…それでもやっぱり、全部は諦められなくて。それで、リハビリとしてアナログで絵を描きながら少しずつ配信環境を再構築して…今に至るんです。」
「そうなのね……配信だけじゃなくて絵を描くも好きなのね、あなたは。」
「…うぅ、奈々さんに言われるのはやっぱりちょっと恥ずかしいです…」
「「分かる……」」
「分からないでちょうだいよ、もう……私だってただの普通の絵師兼配信者でしかないのよ?」
「「「ダウト。」」」
「嘘って……私より愛ちゃんの方がよっぽど特殊だと思うのだけれど?」
「まぁそれは家系がねー…」
霊能力者の家系、それも本家だからね…
「……ま、家系関係や技術関係抜きにしたら奈々も愛海も結もただの一人の女の子だよ。…私は特殊すぎるから違うけど。」
「それは……まぁ、はい…」
「……加奈さんの場合は…明確に違いますもんね。」
「流石に私は元男性だからね。いや一応今も男性ではあるんだけど。」
「突発性性転換症候群って可逆型TSですもんね。普通なら不可逆型TSになりそうなものですけど。」
「んー……ほとんど不可逆型TSみたいな人もいるよ?私も実際近いし。」
戻る方法が戻る方法だからね、私の場合。
……と、そんな話をしていたら目的地であるイベント会場に辿り着いた。
「わー……すっごいナニコレ。」
「流石というかなんというか……」
イベントのライブ会場。それが表現にはピッタリだと思う。中央に設置された4枚の巨大モニターを囲むようにして大量の椅子が配置されてる。
いやまぁ、ゲーム公式と主要Vtuberの配信枠はあるらしくて、ゲーム公式の配信が巨大モニターに映し出されるらしいからライブ会場であることには変わらないんだけど。
「抽選当たるといいなぁ…でも、私デュエルになったら勝てるかな……?」
「結は補助メインだもんね。」
「どちらかと言うとみんなで協力して勝ちたいもん。…スキル構成からちょっとした二つ名付けられてるけど。」
あー…あれかぁ。
「二つ名……ですか。」
「二つ名持ちなんてそうそういないんじゃ……」
「そうでもないかと…割と結構いると思いますけど……まぁ、悪い意味を込められたのは少ないですかね?」
そんな話をしながら私達は受付を済ませる。それぞれ番号札と専用のタブレットを貰って、会場に入場する。なんかこのタブレットで参加プレイヤーのステータスを確認できたり、ゲーム公式の配信枠にチャット打てたりするっぽい。
プレイヤーのステータス、っていっても保有スキルは確認できなくて、PR、PL、CLのレベル系とHP、MP、STR、VIT、DEX、AGI、INT、FAT、WEIのスペック系が確認できる。
「えーと……すみません、加奈さん。このゲーム私詳しくないので色々教えて欲しいのですけど…」
「ん?いいけど…まずどこが気になるの?」
「…このFATとWEIってステータスなんですか…?どっちも重さ関連…?」
「FATとWEI?…あー。」
「それ間違えやすいやつ……」
咲月さんの質問に奏さんと苦笑いして説明を始める。
FATはfate……“運命”のステータス。どうしてこれLUCにしなかったんだ、っていう質問が運営に届いたらしいんだけど、ステータス値が高い=幸運ってわけじゃないかららしい。
WEIはweighted……“加重”のステータス。わざわざこのステータス用意するって珍しいんだけど、落下攻撃とかのしかかりとかの攻撃に補正が入るんだよね。
ちなみに初期ステータス…CL1はHPが180でMPが60、それ以外が1。低めなのかどうかちょっと分かんないけど、結と奈々曰く低いらしい。
まぁ2人は魔法主体だからMP無いのは辛いんだろうけど…魔力継続回復スキルとかもあるからね。
「……そういえば、今回選ばれるのは“デュエルモード”、“VSボスバトルモード”、“ボスバトルルームモード”だっけ?」
「そうですね。難易度はNORMAL、HARD、PROFESSIONAL、NIGHTMARE、HELLの5種類から選ばれるそうです。……HELLの確率は低いらしいですけど。」
それを聞いてちょっと苦笑い。
PRACTICE、EASY、NORMAL、HARD、PROFESSIONAL、NIGHTMARE、HELL、ANOMALY、PHANTASM、ABYSS、LIMIT、UNLIMITED。このゲームの選択可能な難易度はこの12種類。
さらに特殊な条件を達成することでEXTRAの難易度に挑むことができる。
それからまだ他にも難易度関連はあるんだけど…今回は関係ないっぽいから除外。
運営からの情報では、ほとんどのキャラクターはCL100以下で、CL100以上200以下が25%、CL200+に到達しているキャラクターに関しては全キャラクター中1%未満とかって話。
つまり───今回のイベントで出てくる最高難度、HELLというのは半数以上のプレイヤーでは太刀打ちできないということになる。
〔レディーース&ジェントルメーン!本日は皆様ヨーコソお集まりいただきましたぁ。これより、本イベントの開会式を始めさせていただきマァス。〕
「あ、始まった。」
「始まった……」
運営さんの声が響いたとともに会場が沸く。私達の席って高所だから見下ろす形になるんだけど、ペンライト持ってる人とかいるし実質アイドルとかのライブじゃない?
〔それではルール説明!まず重要なのが、本イベントはモードの指定ができまセン!対人モード以外に関しては難易度と相手の指定もできナイのさ!総ては運が物を言う……ランダムで決まったそれは取り消しが効かねぇ!低確率にしてるとはいえ、最高難度に当たっちまったら……ま、それも醍醐味ってヤツサァ!〕
「…低確率ってどれくらいなんだろ。」
「1%くらいだそうですよ。」
「1%……十分当たりそうだけど。」
「そうですか?」
「単純計算で100回引けば1回当たる…今回のイベントって49戦だから当たらないとは限らないかな。」
まぁ天井と呼ばれるものがないタイプのガチャだろうからそれを引き当てた人はかなりの不運か幸運か……
〔アー、難易度っつってもあの難易度は普通にしてあるからそこは安心してくれな。アレはやるプレイヤーがあまりいねぇし。〕
「いやまぁそれはそうでしょと。」
「あまりアレ変える人いないもんね…」
〔んで、今回出てくるモードは3つ!まず唯一の対人モードである“デュエルモード”はリーダーとなるVtuberとそれぞれ1対1で戦っていただきマス!今回選ばれたVtuber7人は誰もかもこのゲームのプレイヤー上位層ダ、あまり舐めてかかると痛い目見るゼィ?あ、火力調整はするから安心してくれな。〕
「上位層……なんですか?」
「全員CL100超えてますよ。」
「……なるほど。」
「CL100は25%なんでしたね……」
「“彼”と当たれば苦戦は必至でしょうね…」
……“彼”かぁ。
〔“VSボスバトルモード”は知っての通りボスとの1対多!けど、取巻きを召喚してくるタイプや範囲攻撃するタイプがいるから要注意サ!最後に“ボスバトルルームモード”はボスとの1対1の連戦の後に大ボスとの1対多が待ち構えるモード!もちろん、ボスや取巻きを倒せば経験値は手に入るから上手く使っていくんだな!難易度が高くなれば高くなるほど経験値は旨いが、相手の強さも上がるってこと、理解しておくんだな!〕
今回はその難易度もランダムなんだがな、って笑う運営さん。
〔今回組むパーティもランダム、このイベントはほとんどが運に左右される!うまく連携をとって相手と戦いまショウ!〕
プレイヤー自身の対応力が求められるっていうのは野良ならいつだって同じかな。
〔それはそろそろ……今回のリーダーとなるVtuberの紹介に移りマス!〕
「「「うぉぉぉぉ!」」」
〔まず1人目!個人勢の新星!CL124、“鈴川リンネ“!緊張せずに頑張れヨ!〕
〔こんにちは…え、えっと、がんばりますっ。〕
「頑張れー!」
「応援してるー!」
「リンネちゃん大好きー!」
〔……アー、言い忘れてたが会場内の声、こっちに聞こえてるからな……〕
「「「「「………えっ」」」」」
〔はぅぅ……///〕
「「「「「〔アッ〕」」」」」
……なんか尊死した声聞こえたんだけど。悠奈さんの方を見ると悠奈さんも尊死してた…
……っていうか私あの人…リンネさん?のこと知らないな……新星って言ってたしほんとに最近デビューした人なのかな?
〔気を取り直して2人目行くゼェ!孤高の個人勢!CL130、“白黒モノ”!!こっちから案件振っといてだケドお前さん大丈夫なんか?〕
〔…俺、パーティプレイ初めてなんですけどリーダーなんて大丈夫なんですかね。〕
〔ヤッぱ筋金入りのソロプレイヤーだなぁ!?PLsだけでPL80行ってんのは伊達じゃねぇな、オイ!!〕
「頑張ってー!」
「応援してるー!」
〔あはは……ありがとう、できる限り頑張ります……〕
「「「「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」」」」
〔おうっふ…女性人気がスゲェや……〕
〔緊張する……マルチプレイ克服しなきゃ……〕
ゲームは上手なんだけどマルチプレイ苦手なんだっけな、あの人……
〔3人目!異色の個人勢!CL149の“化猫”、“りりにゃん”!……いや割と強ぇなこの猫!?〕
〔にゃーん!…にゃー…(こんにちはー!…ねぇ…)〕
〔いや悪かったって、そんなに威嚇しないでくれよー…〕
なんか威嚇されてる……
りりにゃんさんは猫耳少女なんだよね。で、猫の鳴き声しか話さないVtuber。代わりにその鳴き声を人語テキストに変換する機能を使ってるとかなんとか……
〔4人目!もうはちじ所属1期生!CL152の“歌人”、“音越ヨミ”!今日は何を詠むんだい?〕
〔そうですねぇ…何を詠みましょうか……ふふふ、楽しみになさってくださいませ。〕
〔アンタやっぱ若干コエーヨ…〕
「怖いっす」
「若干怖いっす」
「圧を感じる…」
すっごい圧。あの人って確か“大筆”使い?このゲームって結構特殊な武器もあるけど特殊なものはそれだけ扱いにくかったはず…
〔5人目!スポットライブ所属1期生!CL155の“雪見狐”、“怨狐ヨウ”!頼むからこっちは呪わないでくれYO!?〕
〔そんなことしないよー!?っていうか無理だし!!えっと、みんながんばろーね!〕
「ヨウちゃ!!」
「がんばえー!!」
えーと…ヨウさんはオールラウンダーだったよね…確かいろいろ使ってた覚えあるよ?
“スポットライブ”の派閥の一つ、“妖怪組”のリーダーを務めていて、狐……妖狐モチーフのVtuber。基本的に人に化けてるって話。“雪見狐”の由来はその身体の白さで、雪景色とかの背景にするとどこにいるかわからなくなるんだとか。
〔6人目!もうはちじ所属4期生!CL159の“聖母”、“静歩カナ”!今宵はどんな撲殺を見せてくれるのか!?〕
〔皆さんこんにちは……って、撲殺する気ありませんからね!?〕
〔え、だってあんたSTR……〕
〔あぁぁぁぁぁ!!言わないでくださいっ!!可愛い武器使いたくて上げただけなので割と気にしてるんですっ!!〕
〔おっ、おう……〕
「STRバレるんで意味ないっす聖母様ー!」
「リスナーは知ってるんで隠しても無駄っすー!」
「一部から撲殺天使って言われてまっせ聖母様ー!」
〔うっ……な、なんかどんどん二つ名酷くなってませんか…?〕
〔回復師なのに前線張るのが原因じゃないかねぇ。〕
わ、何気にリスナーさん達からの指摘が入ってる……
〔そして最後に本イベント最大CLのリーダー行くぜー───!!〕
それを聞いた途端、私と奈々と結と愛海、それから奏さんは軽く耳を塞いだ。
〔スポットライブ所属1期生!CL180の“幽霊姫”、“姫川ユウ”だぁぁぁ!!〕
〔み、みんな、こんにちは!ボクと力を合わせて頑張ろー!〕
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
〔ひゃわっう!?〕
「う、うるっさ!?」
会場を揺らすかのような声に咲月さんと悠奈さんが耳を塞ぐ。画面の中のユウさんも驚いて耳を塞いでるね。
……まぁ。
「まぁユウさんだからね…」
「可愛い、鋭い、賢い、上手い、強いの五拍子揃ったユウさんだもの。こうなるわよ…このあたりは加奈も似ているところがあるわよね。」
「そうかな……」
……ま。それはそれとして…
「なんで最上位難度にHELLが選ばれてるのか何となくわかったかな。」
「え?」
「そうですか?」
「ん……多分、ユウさんなら中央ライン越えのHELLでもパーティメンバーを守りきれると思ったんじゃないかな。他のリーダーさん達も中央ライン越えはしてるし、パーティ全体の実力があればHELLもいける難易度だよ。」
「先生、ユウさんのキャラスペックって確か……」
「配信でやってるキャラと同じならVIT主体のINT、STR、DEX重視。魔法物理両刀の堅牢防壁師構成なはず。」
「…なるほど。マルチで真価を発揮するタイプですね。」
「ソロプレイでの配信も多いはずだからソロでも弱くない、どころか強いほうだよ。」
〔それでは1回戦を始めマス!まず、運営配信に乗るパーティは───こちら!〕
ルーレットが回って、Vtuberさんの顔と名前が出る。
〔運営配信は静歩カナさん!続いて今回選ばれるプレイヤーは………コ・チ・ラ!〕
運営さんの言葉にスロットが回り、合図とともに止まる。
「あ、私だ。」
初手で結かぁ。
〔ハイ!表示された番号を持った人は別室に移動してくだサイ!Go,Go,Go!!!〕
「それじゃあ、お姉ちゃん、ママ、行ってくるね。」
「気をつけていくのよ?」
「無理はしないようにね?」
「うん!」
「……まぁ、結なら無理せずとも楽に戦える気がするけど…」
私がそう言ったら結は苦笑いして別室に向かった。
「……さて、どうなるかな。」
魔術師タイプの高速補助師。それが結の主な戦い方。だからこそ、こういうパーティ戦では相性がいい。
問題は、何が相手になるか……かな。
最初は結ちゃんから。
どんな戦闘を見せてくれるのか……
…なお戦闘描写は苦手です。




