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No.62 不幸の正体

なんか最近文字数多い気がする……気のせいかな?

家庭訪問回はこれで終わり。

「ヤクヅキ……ですか?」


部屋の威圧感への対処が終わったあと。リビングで奏さんを襲う不幸の正体を告げた私に奏さんが問い返す。


終わったあとすぐに帰ろうとしたんだけど、奏さんからお昼ご飯を食べていきませんかって言われて、それなら話したいことがあるから……っていうことで今に至る。


テーブルに着いてるのは私と奏さんだけで、奈々と結と愛海と咲月さんと悠奈さんは正座してゲームしてる。


奏さんがよければ一緒にやりませんか、って言って出してきたゲームなんだけどね。対処後の試運転にはちょうどいいと思う。


…っと、考えが逸れた。


「そう、“厄憑(やくづき)”。厄が取り憑く、って書いて“厄憑”。奏さんはそれなんだよ。」


「厄が……取り憑く。」


反芻するように呟く奏さん。


「あの、それってどういう…」


「厄憑っていうのは本来規定された年齢に訪れるはずの本厄がずっと付き纏っている状態のこと。奏さんって数えで……?」


「えっと、21歳です。」


「だったら、今は最初の後厄を過ぎたあとなはず。それにも関わらず不幸が降りかかり続ける…それ以前に最初の前厄すら訪れていないのに不幸が降りかかり続ける。…厄憑の典型的な特徴だよ。」


「……ええと」


「簡単に言えば、ずっと厄年に囚われている状態って考えればいいんだよ。そして、厄年故に不幸をもたらし続ける。」


「……対策とかって」


「一番分かりやすいのは厄除守かな。でも、それも本厄と重なってしまえばあまり意味をなさない。一昨年とか厄除守買ってもあまり変わらなかったんじゃない?」


「……はい。」


「だと思った。あ、でも厄除守の意味がなかったってわけじゃないから安心してね。」


暗い表情になった理由を察してそう言うと奏さんが首を傾げた。


「…そう、なんですか?」


「うん。厄除守を買う理由である本厄は除けられてるわけだからね。逆に厄除守買ってなかったら何が起こってたか。」


「……何が起こってたんですか?」


「さぁ……そこまでは。でも、下手したら命を落としてたかもね。」


「え……」


「あくまで可能性の話だよ。単純計算で本厄2倍だからね。」


私の言葉に奏さんが顔を青くする。


「…まぁ、今回対処したからこれから先は大丈夫……って、言いたいところなんだけどね。」


「けど…?」


「今回、この戸室に漂う厄とその原因である核、それから奏さんを取り巻く厄には対処したけど、厄憑の核である奏さん自身には何もしてないのと……奏さんの場合、ちょっと特殊でさ。最悪のケースで考えて……1週間。1週間もすればまた元通りになる。」


「……いっ、1週間…ですか?いくらなんでも早すぎじゃ……」


「奏さんが言いたいこともわかるよ。…私達も全力でやってるんだけどね。奏さんみたいな状態だとどうしてもね。」


「……私みたいな状態?」


首を傾げる奏さんに長く息を吐く。


「───“厄寄物(やくよせもの)”」


「やく…よせ?」


「うん。読んで字の如く、厄を引き寄せる物。加えて、奏さんは“厄撒物(やくまきもの)”でもある。」


「やくまき……」


「こっちは厄を撒き散らす物。対象となるのが人物であろうと物品であろうと、字としては物品を示す“物”が使われるんだけど……とりあえずそれは置いておくとして。本来、この2つが同一の存在に対して共存することはほぼありえない。なぜなら、効果が真逆だから。効果が真逆だからこそ、相殺し合って厄寄物でも厄撒物でもない状態に落ち着いてしまう。……本来であれば。」


そこまで言ってから奏さんが用意してくれていたお茶を一口飲む。


「……でも、稀に……極稀に、相殺し合わずに共存することがある。厄寄物であり、厄撒物であることが。」


「それが、私…ということですか?」


「うん。すっごく稀少なケースなんだけどね。奏さんはここに住んでどれくらい?」


「えっ…と……中学生には一人暮らし始めましたから8年くらいですかね。」


「8年か……その8年の間、奏さんはこの戸室でずっと厄を撒き散らしてたわけになるんだけど。その厄の収束点が今日対処した厄の核なのね。」


「厄の…収束」


「うん。ちなみに結が霊力の糸で行く手を阻んでくれてたのは厄の塊。結達への攻撃もそうだけど、何より奏さんに取り憑こうとしてたから。」


「…えっ」


「私と愛海が使った鈴の共振と同じだよ。重ね合わせれば重ね合わせるほど効力は高くなる。今回対処した厄の核もそう、奏さんの厄と8年の間蓄積されてた厄が一部重なり合うことでより強力な不幸を引き起こしてた。いつもの状態でもほんの一部だったのに、もしも結が対応せずにそのまま厄の塊に取り憑かれてたら……どうなってただろうね。」


「……どう、なってましたか?」


「予測でしか言えないからなんとも……あと今回に関しては考えたくないかな。」


正直考えたくないね。


「……結ちゃんが対応できなかった場合とかって、考えてあったんですか?」


「緊急の以外は特には考えてないよ。…結なら十分に対応できると思ってたし、何より結のことを信じてたからね。」


「信じてた……」


「結果、特に被害も出ずに今に至るわけだし。結果良ければ全て良し、っていうでしょ?まぁ、結果が良いと言っていいのかはちょっと疑問だけどね。」


「そう、なんですね…」


「表面上の問題しか解決してないからね。」


……そう、根本的な問題は解決してない。


「“厄寄物”と“厄撒物”の共存、か……」


「…先生?」


「……ねぇ、奏さん。」


「はっ、はい」


「この先、奏さんにとってすごく辛いことを言うけれど……もし嫌だったら、私のことを嫌っていいからね。それくらい、すごく失礼なことを言うのはわかってるから。でも、最後まで聞いてほしい。」


「……………えっ…?」


理解が追いついてない奏さんを見ながら大きく息を吐く。


「厄憑。厄に好かれ、厄に憑かれた存在。性別も種族も年齢も関係なく、憑かれた頃から常に厄が付き纏う。奏さんを襲う不幸の大きな原因。」


「…厄憑」


「厄寄物。読んで字の如く厄を引き寄せる物。厄寄物が生物であるならば、厄を引き寄せた生物に対してその厄が降りかかる。物品であるならば所有者に対してその厄が降りかかる。…奏さんを襲う不幸のもう一つの原因。」


「もう一つの……原因?」


「厄憑かつ厄寄物であるが故に一般的な厄除の効果が薄い。一般的な厄除が許容できる厄の量を大幅に上回ってしまっている。故に奏さんは各神社で“無理だ”と匙を投げられる。」


「───!」


「厄撒物。読んで字の如く厄を撒き散らす物。厄撒物の周囲に厄を撒き散らし、周囲に対して厄を降りかける。…奏さんの心を蝕む原因。」


「私の、心……?」


「奏さんの周囲で不幸が起こる原因。……奏さんがいたから、そこで不幸が起こった。」


「っ……」


奏さんの表情が歪む。……これが口撃なことくらい私だってわかってる。


「厄憑。厄寄物。厄撒物。厄に対する変化を起こす三性質。引き寄せ、定着させ、撒き散らす。この三性質を持つあなたを表現するとなればこの言葉がまさしく的を射るのだろう───」


……次の言葉が、最大の……最悪の、口撃になることも、また。


「───あなたは今生まれるべきではなかったのだと。結論となる言葉だけを急げばこのような言葉になる。」


「っ…!!」


私の言葉に奏さんの身体が強く震える。空気が、凍る。全ての音がどこかに置いていかれたかのような錯覚に陥る。


「……ただし」


「………?」


「ただし。それを黙って見ている私達じゃない。それを解消する方法が、私達には存在する。」


「……ぇ」


「厄のせいのみで生まれるべきではなかったなどと言わせない。過ぎ去った時間は変えられずとも、未だ来ぬ時間は変えられる。」


「……」


「……星月奏さん。あなたは、どうしたい?今のまま、常に不幸のまま生きるか……不幸を弱めて、未来を変えるか。」


「未来……」


「………この選択は当人に委ねられる。私達に選択へ介入する権限はない。…縛る時間もない、ゆっくりと考えると良い。」


「……」


そこまで言ってからゆっくりと息を吐く。


……やっぱり苦手だね、説明は。でもやらないと駄目だからね。


…私は補佐。巫覡本人が嫌われるよりも、私が嫌われる方が支障を及ぼさない。その巫覡が愛海や結、奈々といった私の大切な人であるならば、私は自ら進んでその責務を受け持つ。


相手に自覚させ、相手を深く傷つけ、相手に選択をさせる。私の心が軋んでも、大切な人が巫覡を担当する限りこの仕事は全うする。


私の心が傷つくよりも、大切な人が傷つくのを見るほうが嫌だから。


「…私は……」


「………」


…でも、私にとって。奏さんも、大切な教え子だ。まぁ、こんな事言ってる時点で担当教師失格だろうけど。


大切な人を明確に傷つける意思を持って追い詰める言葉を放つのは、余計に心が軋む。


「…私は………」


「……」


「……お願い、します」


「…!」


「過去はなかったことにはならずとも……これから起こることを少しでも変えられるのなら……周りの人に、大きな被害を出さなくて済むようになるのなら……お願い、します。」


「……ん、分かった。」


答えを聞いて大きく息を吐く。


「言っておくけど、できるのは無効化じゃなくて抑制。だから、奏さんに降りかかる厄が全部なくなるわけじゃない。それでも、一般的な厄の量にはなる。それだけは理解しておいてね。」


「はい。……ありがとうございます、何から何まで…」


「お礼を言われることなんて何もしてないよ。むしろ他人にされて嫌なことをした側だからね。」


ていうか……


「嫌じゃないの?私と話してるの。」


「嫌じゃありません。かなた先生が何の意味もなく他人のことを傷つけたりしない人だって、分かってますから。」


「……そう。」


……そっか。


「さてと。奏さんのその厄をどうにかするとなると、華麗神社まで行かないとね。」


「…えっ」


「ただの厄憑だけであれば他の神社借りてもいいんだけどね。そこまでの厄となると華麗神社まで行かないと不十分なんだよ。」


「は、はぁ……」


「というわけで…奏さん、余裕ある期間はある?日数にして2、3日くらいかな。私達の帰省と重ねられるんだったらそれでもいいんだけど……」


「え、ええと……」


話を詰めていくと、私達の帰省と重ねても特に問題ないことが分かった。


それなら、ということで帰省に合わせて華麗神社に向かうことにする。ここから華麗神社ってかなり遠いからできればあまり頻繁に往復したくはないんだよね。


……分家の人に会うのも嫌だし。


「…まぁ、こんなものかな……それにしても、私達の帰省に合わせて本当に良かったの?」


「あ…はい。偶然お休みですから……」


「そう?無理してない?」


「…先生のご実家に行くのはちょっと緊張しますけど…大丈夫、です。それに…今まで迷惑かけてるのに、これ以上迷惑かけるわけにも…」


「迷惑だなんて、そんな。私は私にできることをしてるだけだよ。」


…ただ、それだけ。それだけでしかない。


「……ところで…結論だけ急げば、って言ってましたけど詳細を解説するとどうなるんですか?」


「え?あー……今はもうあまり明確なこと言えないから何とも言えないんだけど……それでもいい?」


「はい。」


「ん、分かった。…まず、厄憑っていうのがそもそも“罰”だとされてる説があるんだよ。」


「…罰?」


奏さんの言葉にうなずく。


「そ、罰。それもただの罰じゃない、”神罰“に類するもの。」


「神罰、ですか……」


「ちなみに厄憑に対して何かをして私達花神が何かあったとかはないから安心してね?」


「そうなんですね……」


「…で、話を戻すと。厄憑の人間が生まれる条件とされるのが2つ。」


そう言って指を一本立てる。


「1つ。“早く生まれること”。」


「は、早く生まれる…ですか?」


「そう。早産、って言われるやつがほとんどかな。既定の時刻以降に生を受けなかったことが神の怒りを買う、とも。」


「は、はぁ……」


「…で、2つ目が…“死から生までが早すぎる”……つまり死者の世界にいる時間が短すぎる、ってこと。」


「……???」


あ、奏さんが理解追いついてないなこれ…


「死後、魂が転生するまでのサイクルが短すぎるってことだね。魂によってはもとから早いサイクルのもあるらしいんだけど、そのサイクル…所要時間を満たさないで転生しちゃったってこと。」


「…そうなるとどうなるんですか?」


「んー……私もよく知らないから何とも言えないけど、魂の浄化が終わりきらずに転生するから“穢れ”が残ったままなんだとか。この“穢れ”が厄憑を引き起こす原因になってるんだとか?」


…まぁ、ここまで言ったところで…


「実際私も理解してる現象じゃないんだよね、これ。」


「そうなんですか?」


「そもそも厄憑ってよくわかってない現象でもあるからね、話半分に聞いててもらってよかったんだよ?」


「あ、そうなんですね…」


「だって花神の先代までが残した文献の中に残ってる話だからね、私が話したの。今となってはそれを調べることのできる霊能力を持つ人がいなくて調べることができないんだよ。」


「なるほど……」


表情がよくわからないって表情してるなぁ…


「…あ、そうだ。私達が帰った後でいいから配信試してみてね。」


「へ?えっ…と…?」


「厄祓いの術とは別に愛海が護符を作って貼っておいてくれてるから。気休め程度にしかならないかもだけど、配信は問題なくできるようになってるはずだよ。…今、結達がちゃんとゲームできてるのからも分かると思うけど。」


そう言って私と奏さんの視線が結達に向く。やってるのは相当昔の格闘ゲーム。奏さんは出してくる時にしばらくやってると電源が落ちてしまうのですが、って言ってたけどプレイし始めてから電源は落ちてない。


……あと結、ちょっとは……というかもうちょっと手加減してあげて?さっきから無双状態で咲月さんと悠奈さんが放心状態なんだよ。


「……言われてみれば…コントローラーの接続が切れた様子もないですね。」


「流石に有線コントローラーの接続って切れなくない?」


「ハードそのものが古いですから……母が使っていたものですし。」


「あー……劣化で駄目になるのか…でもそれって不幸と関係なくない?」


「それが以前修理に出してるのでそうでもなくて…修理から返ってきたあとも特に変わらない状態で…」


「……なるほどね。」


今は昔のゲーム機の修理もまたメーカーで引き受けてくれるようになったから、簡単に壊れるようなことにはならないはず。


にも関わらず特に変わらないと言うことはそれは“不幸”なんだろうね。元々のハードの耐久力とかは一旦置いておくとして。


……割と厄に限らず霊体って機械に影響及ぼしやすいから。


「……あと結ちゃん強すぎません?ゲームし始めてから1ラウンドも負けてないですよね?」


「実際格闘ゲーム強いよ、あの子は。……なんで30年前のコマンドに対応できてるか疑問だけど。」


ホントになんで?だって私達が小さい頃に発売されたゲームだよ?結が産まれる20年前のゲームなんだよ……?


その後は私と奏さんも混ざって一緒に色々なゲームやったけど、格闘ゲームに関しては誰一人として結には勝てなかった。


「それにしても奏さん、星河先生として活動してた頃から知ってるけどホント凄い数ゲーム持ってるね。今のから昔のまでいっぱい……しかも当時のハードと当時のソフトっていう。」


「ゲームは好きですから……昔のゲームも買い集めるのは好きなんです。…リメイクや移植よりも元々のをやりたいっていうのはあるので。」


「だからハードが違うけれど同じソフトなのがいくつかあるのね。…気持ちは分かるけれど。」


「私も分かる……なんかオリジナル版でやりたいよね。」


「そうですよね……移植がダメってわけじゃありませんけど、当時の不便さや当時の画質の悪さとかいいですよね……」


「「「分かる……」」」


「なんでそこ4人で共感してんの……お兄ちゃんとお義姉ちゃんはともかく結ちゃんまで……」


「仲良し親子……」


「いいなぁ……」


とまぁ、そんな話を交えながら遊んでたらいつの間にか17時。遊んでる間ずっと何も起こらなくて奏さんがびっくりしてた。


流石にかなり長居しちゃったから今日のところはこれでお開き。奏さんは先生がいるから不幸が起こってないのかな、とか言ってたから私達が帰ったあとにしばらくゲームするみたい。


「ごめんね、長く居ちゃって。」


「い、いえ……今日はすごく楽しかったので。こんなに楽しかったのは久しぶりでした。」


「そう?楽しんでもらえたのなら私はいいんだけど……」


「…いつか、先生と…ななみちゃんとコラボ配信とかできるでしょうか。」


「できるよ。日程調整は必要だけどね。」


「……ですね。…あ」


何かを思い出したような表情になった奏さんの首を傾げる。


「そういえば先生はもう私の先生じゃないんでしたっけ……これからどう呼べばいいでしょう。」


「え?…あー………そういえばそう言ったんだっけね。」


後任の情報はまだ回ってないんだっけか。んー…


「……ま、いっか。隠すことでもないし。」


「え?」


「後任の話。聞かれたら答えてもいいよって校長先生から言われてるから奏さんには教えておくね。───通信教育授業後任担当者の名前は“花園七海”。…だから、何も変わらないよ。ただ単に名義が変わるだけ。」


「…えっ」


「性転換するトリガーの影響で通信授業を長時間担当するのが難しくなっちゃったからね。正直な話、名義変更になるだけだよ。…Vtuberとしての名前と姿を使うのは校長先生の采配だけど。」


「……そう、なんですね…先生なのは、変わらないんだ……」


そう呟いたと同時にその場で座り込んだ。


「よ、よかったぁ……」


「…?」


「ああいえ、新しい先生と打ち解けるかずっと不安で…すみません。」


「あー…ごめんね?」


「い、いえ……でもそうなると……なんと呼べばいいのでしょう…」


「呼びやすい呼び方でいいよ。あ、でも”かなた先生“は駄目ね。」


私がそう言うと、奏さんは分かっています、と言って小さく笑った。


「それじゃあ、また明日。えっと、秋葉原で集合でいいんだよね?」


「はい。すみません、本当ならもっと近い場所がありますのに、私の我儘で…」


「別に気にしないよ。みんなは…」


「大丈夫よ。」

「大丈夫!」

「大丈夫だよ?」

「大丈夫です。」

「大丈夫、です…」


「…だってさ。」


「…そう、ですか…ありがとうございます。本当に皆さん私に対してもお優しくて…」


そういう奏さんに苦笑い。


「あまり自分のこと下げないの…って私が言うことじゃないか。」


「鏡見なさいよ、あなたは…」


「ごめんごめん。」


私がそう言うと奏さんが小さく笑った。


「ごめんなさい、思わず…それでは皆さん、また明日。明日も会えるのを楽しみにしています。」


…あ。


「…ねぇ、加奈?今の言葉……」


「…だね。」


「へ……?」


「気づいてないならいいや。なんでもないよ。…明日、寝不足で倒れるとか起こさないように気をつけるんだよ?」


「遠足じゃないんですから……でも、はい。気をつけます。」


「ん、よろしい。」


そう言って別れて、私達はホテルへの帰路についた。


「…本当に星河先生なのね、あの子。」


「だねー。」


多分奏さんが無意識に言ったあの言葉。あれは星河先生の配信を終わるときの最後の言葉だった。昔のリスナーとしては懐かしい気分になるね。


それと……今日の奏さんの言葉総てに“邪”はなかった。ということは、お世辞でもなんでもなく、ただ本心で話してくれてた。あそこまで澄んでいるなら、余計な心配はいらないだろうね。

結論の言葉を急いだ際、“あなたは生まれるべきではなかった”ではなく“あなたは今生まれるべきではなかった”なのがちょっとキモです。

つまりは“あなたはこの世に生まれるには早すぎた”。生まれること自体を否定しているわけではなく生まれる時間を否定しているのがあの結論になります。

なお奏さんが出してきた“昔のゲーム機”は作中時間から30年前…つまり1997年までのゲーム機なので初代PlaySt〇tionとかスー〇ーファミコンとかそのあたりになります。どうして適応できてるんですかね結ちゃんは…

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