No.51 コミケ準備中!
キャラ設定更新しておきたいんですけどどのあたりがいいものか…
悩みどころです。
「結ー、ちゃんと準備できてるー?」
コミケ前々日の8月11日。私と結はコミケに行く準備をしていた。私は結の様子見に来たところだけど。
「んー……ちょっと難航中……」
「そう?まぁまだ焦る時間じゃないからゆっくり考えるんだよ。」
「うん……」
結が悩んでるのって実は理由があって……結が産まれたあとってほとんど一般参加だったから日帰りとか1泊くらいで帰れたんだよね。
だから東京に長居───と言っても1週間くらいかな───するのは初めてだったりする。実際、私がどこかへ行くのなら結も一緒に連れて行くのは基本なんだけど……今回はオフコラボの時にMilkyRainに行ったメンバーだけじゃなくて莉愛とお父さんも行くってことだから本気で結を1人にしちゃうからね。お父さんも行くってことはお母さんも来るだろうし。
実質、今回のコミケは花神家総出みたいな参加になる。奈々と愛海はサークル主、私は売り子、莉愛は企業ブーススタッフ、お父さんとおじいちゃんはコスプレイヤーでお母さんはカメラマンだけど。
……何だろね、この編成。来年になったら結もこの枠に入るんだろうな、とか思う。可能性としてはサークル主、次点で売り子かな?…ただの勘だけど、悪い予感だけじゃなくてこういうのも割と当たるんだよね、私。その影響か昔は予言者とか言われてたり……おばあちゃんの方がもっとすごいんだけどね。
あ、おじいちゃんはもう愛海達の方に着いたって。昨日連絡あった。コミケや東京観光とかで10日くらい滞在したあと、おじいちゃんが帰るのに合わせて私達も帰省できるように色々と予約は取ったみたい。
………なんか、愛海に聞いた話だと咲月さんと悠奈さんにも一緒に来るか誘ってたらしいけど、どうなるんだろう…一応言うと咲月さんと悠奈さんを含めた……えっと、10人、おじいちゃんが片道だから9.5人分かな?その人数分の往復費用を出すことくらいはできるから2人が一緒に来ることは特に大きい問題ではないのだけど。
「そろそろお昼だから食べたいのあったら教えて?」
「う、うーん……おうどん…」
「種類は?」
「冷やし……の、きつね……」
「はーい。……その他トッピングのご注文などはございませんか?」
「…わかめでお願い」
あ、結の雰囲気が変わった。
「確認させていただきます、冷やしきつねうどんが1つ、トッピングとしてわかめが1つでよろしいですか?」
結が頷いたのを確認して私も頷く。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ、お嬢様。」
「…お姉ちゃん」
結の部屋をあとにしようとした時に結に呼び止められる。
「……ありがと、起こしてくれて」
「……ちょっと意識朦朧としてたっぽいからね。悩んでるのはいいけど熱中症とか脱水症状に気をつけるんだよ。」
「うん。…気をつける。」
その言葉に小さく笑って私は階段を降りる。
今、私がやったのは結を演技モードにして意識を引き戻す方法。私と奈々が学生時代に演劇やってたのは教えてなかったんだけど、結も演技系に興味持ったんだよね。
私みたいな自己暗示変化じゃなくて普通に演じる方だけど……それでも、いつもの時と演技中だと雰囲気が変わる。そして、演技モードに入ると大抵の場合は意識が覚醒する。だからこれで意識が朦朧としてる状態から戻せるっていう感じ。
……あ、さっきの私のお店の人みたいな対応は学生時代に私がやってたやつ。文化祭のコスプレカフェと…あと中学生時代は休日に奈々達の部活に注文聞きに行ってからご飯作って持っていくことあったんだよね。
それがあったからかメイドさんや執事さんは自己暗示なしでもスラスラと言葉が出てくる。もう動きが身体に染み付いちゃってるんだよね。……こういうのって他にもあるんだけど、今は関係ないからいっか。
「さてと……うどんときつねあげだね。」
きつねあげは昨日偶然用意したのがあるからそれで大丈夫。で、冷やしうどんだから一度茹でて水で締める方向性だね。
めんつゆはつゆ1:水3。薬味として万能ねぎを刻んでおいて……どんぶりにうどんを1玉ときつねあげを1枚、刻んだ万能ねぎを入れてめんつゆを注いだら完成。
「結ー!できたよー!」
「はーい!」
結を呼ぶ私の声に返る、さっきとはまるで違う元気な声。うん、大丈夫そうだね。
それから少ししたら降りてきて、一緒にきつねうどんを食べて………色々頭を捻りながらそれぞれ持っていくものを決めて、玄関に持っていくものを置いたらそれぞれ自室に。
……あ、今日の服装はメイド服だったよ。メイド服にも色々種類があるけど、今回はクラシカルメイド。例に漏れずこれもMilkyRain製。そういえば神代さんが装備関連でアーティファルからMilkyRainに協力依頼が来たとか言ってたっけ…
「……」
株式会社アーティファル。社名は人工遺物を意味する“アーティファクト”を由来としてる。主にVRゲームとその周辺機器を手掛けるゲームメーカー。その中心となっている商品は完全接続型VRゲームハードと“夢シリーズ”、“ドリームシリーズ”などと呼ばれている1つのゲームシリーズ。
多種多様なスキルと夢をテーマにした特殊なゲーム性に惹かれる人は多く、作品を遊んでいればその作品で遊んでいたデータが次回作に使われることもあるため人によっては誰かを導く際に越えるべき障害になれた気がして嬉しいのだとか。次回作以降に使われるか否かはオプションで設定可能なので完全に無断というわけではない。実際利用規約にも書いてあるし、そのオプションを設定する時に再度その旨の確認はされるし、公式サイトでも重要事項として掲載されてるからね。
なお、以前の作品から次の作品へのコンバートは不可。ただし、プレイ特典としていくつかのアイテムや称号なんかが貰える。称号はともかくアイテムはゲーム内で入手困難だったりゲーム内で入手不可能だったり…それは様々。
「夢……か」
夢をテーマにした、ということからアニメや別のゲームに出てくるキャラクターが敵や味方として現れることがある。味方ならドリームタッグ、敵ならドリームマッチっていうやつだね。有名なのは○リトくんやな○はさん、ガ○コイン神父にアル○さん、リ○ウさんに加えてその他歴代Vtuberさん達とかかな。……私も戦ったことあるけど非常に強い。そもそも強いからこそ有名になってるというか。勝てれば特殊なアイテムだったりスキル、称号なんかがもらえたりするんだけど……どうやってあの強さ再現してるんだろうね。
あ、でも弱すぎて有名な人が1人いるね。……このドリームマッチで一番弱いのはとある1人のVtuberさん。さっきも言った通り“弱すぎる”。他のVtuberさんたちや作品キャラ達は差はあると言えどそれなりに強いのに、そのVtuberさんだけは“弱い”の一言。体力はそれなりにあるのに攻撃してくる素振り…どころか戦う素振りすら見せないから初心者用のサンドバックか何かなんじゃないか、とか言われてる……んだけど。
「………あの子……ただ弱いのとはちょっと違う気がするんだよね……」
PCの前に座り、ドリームシリーズの攻略情報サイトを開いてそのVtuberさんの名前でドリームマッチ報告を検索。今日もあの子は倒されてるみたいで、対戦記録のコメントに“やっぱ雑魚すぎ、なんでコイツいんの?まぁ経験値旨いからいいけどさ”とかっていうコメントが見受けられる。
このVtuberさん本人がこのことに対して何も言ってないからそのリスナーさん達も何か言うことはできなくて、何もできない状況なんだっけ。
〔あ、初見さんいらっしゃいませこんばんは〜。えと……“初見、ドリームマッチのお前弱すぎなんだけどなんかいる意味あんの?www”……あー…〕
PCから流れ出したのはそのVtuberさんの声。無意識に切り抜きを開いていたみたい。
〔意味…意味……どうだろうね。少なくとも私がそこにいることが意味なんじゃないのかな。私が弱い、って話だけどそれは私も認知してるし、アーティファルさんにもそのまま許可出してるから私に意味を問われてもね。私に聞くよりアーティファルさんに聞くべきなんじゃない?〕
そう言って彼女は小さく息を吐く。
〔私のことをどう使うかは自由だよ。リスナーさん達の中にはその私を愛でてる人もいるんだっけ…人それぞれ…使いたいように使えばいいよ。〕
…そこで切り抜きは終わってる。
実際このVtuberさんもドリームシリーズのゲームはやってて、ドリームマッチで自分自身には当たってる。なんというか…自分殺し?をしている切り抜き動画とかは上がってた。それでもその弱さに関するVtuberさん自身のコメントは特になかったんだけど…
「ただ弱いだけじゃない……何か、理由がある気がするんだよね。…あの弱さ。」
弱い弱いと酷評されても上方修正されない弱さ。弱さの割に不自然なほどに多い経験値量。Vtuber本人がその弱さを認識しつつも特に気にしてるようでもない現状。
まるで───
「……まるで、何かを待っているかのような……」
そんな感じがなんとなくする。……考えすぎなのかな。
そんな事考えていたら通知音。
「……ん。奈々の配信?珍しいね、こんな時間から…」
現時刻18時。奈々はいつももう少し遅い時間から始めるんだけど…
「……せっかくだから結と一緒に見よっかな。」
そう呟いて私は結の部屋に向かった。
ドリームシリーズは開発側が思いついたこととかを色々詰め込んでるんですよねー…この世界は著作権関係もコラボに対するハードルも緩いらしいです。
…実際にこんなゲームができるとは思ってないですけどやれるならやってみたいよねってちょっと思う。
こういうのってお祭りゲー?って言うんですかね?
ちなみに過去作のプレイヤーデータが次作以降に使われるっていうのは過去作のプレイヤーのデータを使った敵がその次回作以降のプレイヤーの前に立ちはだかるっていう意味ですね。場合によっては過去作の自分と戦う可能性もあります。
……まぁ、強すぎるプレイヤーのデータは流石に出てこないんですけど…
……え?ドリームマッチに出てくる○リトくんは十分強いんじゃないかって?
…それ以上の化け物級プレイヤーがいるんですよ、ドリームシリーズには……




