No.47 とりあえず起こす、話はそれから。
スパチャ額ってどれくらいが普通なのかなって思う私です。
とりあえず登録者2万とかで1枠100万超えるのはおかしいのだと思ってます。
けどこの世界って色々と緩いのよね…
奈々が配信が切れたことを確認してる間に……とりあえず愛海を起こそうかな。
「てぃっ」
「あぅっ」
倒れてる愛海の隣でしゃがんで軽く一撃。この子は元々耐性が高いからそれだけで意識は戻る。実際に今の軽い衝撃だけで意識が戻ったらしくて、ゆっくりだけど身体は起こしたし。
…でも、ちょっと目が半開きだから私を認識できてるか怪しいかな?
「私が見える?愛海。」
「うーん……一応…やっぱりお兄ちゃん火力高くなってるよ……」
「そう?」
「自覚ないんだね……」
「だって自分で知覚できることじゃないし。」
「……それもそっか。」
そう言ったあと、愛海は立ち上がる。私も立ち上がるけど、今の状態だと愛海の方が背が高いからちょっと見上げる形に。
「さてと……わたしはまず何をすればいいの?」
「ん……とりあえずMilkyRain中を回って尊死した人がいたら起こしたげて。結構な人が尊死したと思うから結と協力してやった方がいいかも。」
「…結ちゃん、気付けすごく巧いもんね……流石はお兄ちゃんと奈々お義姉ちゃんの娘というか…」
「私は巧いつもりないんだけど…」
「特に痛みらしい痛みも感じず意識を取り戻させるとかできるのに?わたしの気付けだと結構痛いって聞くよ?」
「そう言われてもね…」
実際巧いつもりはないし。
「とりあえず、咲月さんと悠奈さんを起こしたら私と奈々も合流するから結と一緒にMilkyRain中を回っててくれる?」
「ということは結ちゃんも尊死してると思うからまずは結ちゃんを起こしに行くところからだよね……わかったよ、それで動く。」
「あ、途中で神代さんと詩織さん見つけたらこの部屋に来るよう言っておいて。」
「神代さんと……詩織さんも?」
「うん。さっき食堂で会ってね。配信が終わったら教えてほしいって言われてたんだけど……」
…まぁ、多分尊死してるよねってことで。
「神代さんを呼んでくる理由は……さっきの聞いてれば分かるでしょ?」
「問い詰めるんだね…分かった、行ってくるね。」
「お願いね。」
私の言葉に頷いた愛海は扉の前まで行く───けどそこで私の方を振り向いた。
「……と、そうだ。行く前に…お兄ちゃん。」
「んー?」
「その姿のまま2人の気付けするつもり?」
その姿……って
「……ウェディングドレスのこと?」
「そう。……わたしと奈々お義姉ちゃんはともかく、2人はまだまだ耐性低いんだから意識が戻った瞬間尊死する可能性あるよ?」
「……あぁ、なるほど」
言われてみればそうだね……
「ということは奈々の白無垢も危ないかな?」
「そこまではわかんないけど……赤面してる2人は相当ヤバいのはわかる。」
「そうなんだ……」
「……っていうかお兄ちゃん、さっきの恥ずかしさどこ行ったの?」
「慣れた」
「……」
じっと見つめてくる愛海に対して首を傾げる。
「お兄ちゃん……女の子になった直後も言ったけど慣れるの早すぎなんだってばぁ……もっと恥ずかしがってるの見ていたかったよぉ……」
そんなこと言われてもなぁ……演劇部にいた頃、異性役とか一人多役とかやることあったしこのあたりの対応力……というか適応力?は割と重要だったわけで…
あとプリンセスラインのウェディングドレスに合わせてヒール履いてるのにそこまで痛みないし、私が花嫁さんの衣装着てるってことに実感が湧かないというか。
……今後またこの衣装着ることになりそうな予感がするから今のうちに慣れておいたほうがいい気がするというか。
「うぅぅ……いいもん、莉愛ちゃんの作ってるゲームが正式サービス開始されたらいろんな服着てもらうんだもん……」
「今でも色々着てるんだけどそれは……」
「うぅー!行ってくる!!」
そう言って愛海は部屋から出ていった。
「……ま、着せ替え人形にされるのは別にいいんだけどね…頻度多いと疲れるけど……」
……さて、と。
「奈々、2人の容態は?」
「ダメね……完全に意識が飛んでるわ。このままだと丸一日起きないんじゃないかしら。」
「気付け必須かぁ…」
小さく息を吐いて抱き合っている咲月さんとゆなさんに近づく。
「……まぁ、ここまで意識が飛ぶと自然回復か気付けによる強制回復のどっちかだもんね。」
「えぇ……でも、抱き合っているということは誰かがこの方法を教えたのでしょうけど…」
「そうだねー…“精神攻撃への特効薬は愛する人との触れ合い”。そもそも尊死っていうのは精神に対して過大な負荷がかかって、そのキャパシティオーバーで引き起こされてるものだからね……だから自己暗示で幾分か軽減できるわけだし。」
まぁ、これを教えたの十中八九愛海なんだろうけど……
「でも、これって逆に恥死を引き起こす可能性もあるから扱いが難しいんだよね。」
「…………実際に体験してるから何も言わないわ。」
うん……奈々には昔やったことがあるね。結局気付けで起こした記憶ある。
「それより……咲月さんって悠奈さんと抱き合ってる間も何度か尊死してたけどすぐに復帰してたよね?」
「えぇ、そうね……そこから導き出されることといえば、よね?」
……咲月さんは悠奈さんに無意識下で好意を持っている、か…
……えー………
「……これって私達が知っちゃって良かったことなのかな。」
「さぁ……どうなのかしら。」
咲月さん、全くこの感情気づいてなさそうなんだよね。どうしたものかなぁ……現状維持しか選択は取れない気がするけど。
「……とりあえず、奈々。」
「どうしたの?」
「……着替えよっか、そろそろ…」
「………あぁ、このままだと気付けしてもリスキルになりそうだものね……」
「よく分かるね……」
「だって加奈が可愛いんだもの……」
「いやいや……奈々の方が可愛いよ?白無垢だと美しい系になりそうだけど……」
「加奈の方が……って、これ言い合いになるだけね。早く着替えましょう。………このままだと襲いそうだし」
うん、小声で言ってるけど聞こえてるからね。この部屋すっごく静かだし。
……別に襲われてもいいけど、流石にここだとね。
ということで一度別室に行ってそれぞれ着替え。着替えるために使ってた方の別室には試着室がいくつかあって、ちゃんと人ごとにカーテンとかで仕切れるようになってる。
今更だけど、今日の女の子側のコーデは灰色のブラウスに焦茶色のチェックスカート、灰色のニーソックス。全体的に少し暗めに揃えてみた。
対する奈々のコーデは白色のブラウスに黄土色のチェックスカートで白色のニーソックス。全体的に明るめの揃えかな?
それぞれ試着室から出てきて服装を見て、顔を見合わせてちょっと苦笑い。
「一緒の家から出たわけじゃないのにどうしてコーデ傾向が重なってるのかしらね。」
「そうだねー。」
私はなんというか……一心同体?みたいで嬉しいし、お揃いみたいで嬉しいけど。
……もうこのままでいいかな、なんて考えがよぎるけど、色々説明しないとだしちゃんと2人を起こしてあげなくちゃね。
「さ、とりあえず2人を起こしに行こ?」
「…そうね。このままでもいいかとも思ったけれど、ダメよね。」
「…同じこと考えてたんだ……ね、奈々」
「?」
「今なら誰も見てないから……」
手を繋いで、顔を近づけてそのまま唇を塞ぐ。私の方が数cm低いからちょっとだけ背伸びする形になるんだけど。
あの日、私達に依頼として提示されたのは“双子のコーディネート”。“双子コーデ”ではなく“双子のコーディネート”。モデルは双子であるかそう見間違う瓜二つでなくてはならない企画。その企画の対象者として選ばれるほどに私と奈々は瓜二つ。だから…ね?
「「…っ……///」」
顔を離すと奈々の顔が真っ赤。多分私の顔も真っ赤になってると思う。顔すごく熱いし。
「さ、ささ、気付けやろう!?」
「え、えぇ、そうね…!」
うー、大胆すぎたかな……すっごく恥ずかしい…
咲月さんと悠奈さんが気絶している部屋に戻って、落ち着くために深呼吸。
「奈々、咲月さんの方お願いしてもいい?」
「えぇ、大丈夫よ。悠奈さんの方が深いものね?」
「そ。」
尊死耐性と一撃での尊死深度は比例する。尊死深度が深ければ深いほど意識を戻させるのは難しくなる。
私自身そこまで巧いとは思ってないけど、奈々よりも気付けをしてる回数は多いから。難しい方は私がやる。
「……んしょっと」
「ぅっ……う、ううん……」
ん。意識戻った…正確には意識が戻り始めたね。もう少し経てば自動的に通常の状態に移行するからこれで大丈夫。奈々の方は……問題ないかな。
「う、うぅん……?」
「あ、悠奈さん起きた?」
「…………んぇ………ぇ………と」
「……んー…ちょっと顔近づけるよ?」
「ぁぇ……?」
悠奈さんの顔に私の顔を近づけて目を見る。
意識は戻ってるっぽいけどまだ焦点が合ってない……寝起きと同じ状態だね、これ。
「うーん……」
「…さつ…き……?」
あ。咲月さんの声がしたと同時に一気に覚醒状態になった。
「……ぁえ?な、え、加奈……さん?」
「あ、ごめんね近くにいて。えっと……何があったか思い出せる?」
「え…………と」
気付けで起こすとたまに全部は覚えてないんだよね。多分、尊死状態からの復帰時間で色々処理してるのを気付けすることで強制停止させて起こしてるからなんだと思うんだけど。
「………あっ。」
あ、思い出したっぽい。
「あの……本当にすみません……ご迷惑をおかけしました…」
「ほとんど想定内だったから大丈夫だよ。」
「想定内……ですか」
「……神代さんが用意してきた時点でなんとなく想像できちゃって…」
「……あぁ………なるほど」
…昔、演劇部関係でウェディングドレスじゃないけどドレスを着たことはあって。その時、奈々と愛海が尊死してたの覚えてるからこうなるんじゃないかなって……
あと、時間かかった理由に奈々を起こしてたのもあるんだよね…
「さてと……咲月さんも起きた?」
「はい、その……本当にご迷惑をおかけしました…私からお願いしたオフコラボでしたのに……奈々さんも、本当に申し訳ありません…」
「私は特に問題ないわよ。加奈は?」
「私も特に問題ないよ。また今度コラボできた時は一緒に挨拶しよう、って最後に言ったでしょ?」
「その……また、コラボしてくれるんですか?」
「もちろん。咲月さんだけじゃなくて悠奈さんも大丈夫だよ?」
「私も……?」
「うん。」
「ただ、気になるのは……よね?」
奈々の言葉に苦笑い。
「気になるのは尊死耐性の低さだね…」
「「うっ……」」
「でも、こればかりは慣れだから仕方ないよ。しばらくは尊死し続けるしかないね。」
「そうね……死んで慣れろ、だなんてまるで死にゲーだけれど……」
「あ、確かに。」
「………本当に死ななければいいですけど」
「一応死人が出たことはないわよ。ただ、尊死から復帰するまでにかなり時間がかかる人はいるけれど……」
そのあたりは人によるからなぁ…
「さてと……私と奈々はこれから気付け必要な人がいないか見回ってくるから、咲月さんと悠奈さんはこの部屋で楽にしてて?」
「え…と、いいんですか…?」
「病み上がり……とは少し違うのだけれど、似たような状態だから楽にしてたほうがいいわ。」
「そうそう、途中で倒れられちゃってもだからね。」
「……それでは、お言葉に甘えて…」
その言葉に頷いて、私達は部屋を後にした。
MilkyRain従業員全員の気付けが終わったのはそれから2時間くらい後のこと。
Q.
なんで気付けできるの?
A.
加奈・愛海「「気付けは花神家の基本技術だから……」」
奈々「彼方さんに習ったのよ。」
結「パパに習ったの。」
とのことで……




