No.41 2人のママとオフコラボ!③
執筆当初は今話と前話が一緒だったのですが執筆中に10000字を越えたので別の話に分けたという裏話があります。
それでも7000字とか行ってるんですけどね
ジャスミンティーを飲んで少し一息。ななみちゃんの頭を優しく撫でながら口を開く。
「…さっきも言ったけれど、ななみちゃんの命に別状はないわ。これはななみちゃんの処理能力を越えたことによるオーバーヒート状態みたいなものよ。正確にはトランス状態なのだけれど。」
「オーバーヒート……ですか?」
「えぇ…そんな認識でいいわよね、ミコちゃん?」
「大体合ってるよー。オーバーヒート状態は思考が不安定になってる状態。トランス状態は自意識が弱くて本能とか暗示とかに支配されてるような状態。」
「暗示に…支配。」
「聞いてないかもしれないけど、ななみちゃんはいつも配信前に自己暗示をかける。“花園ななみであれ”、っていうね。それでいつもの配信とかの状態になる。」
そこまで言ってミコちゃんがななみちゃんをみる。
「でも、ななみちゃんってパニックになると自己暗示を重ね掛けする癖があってさ。それで重ね掛けしすぎて自我……自己?を喪失、さっきみたいなトランス状態に陥るってわけ。」
コメント:
:はぇー…
:なるほど
:なるほど……
「……ななみちゃん本人の意識は停止していて、ななみちゃんにかかった暗示がななみちゃんの身体を動かしているのが現状よ。もっとも、この状態になったことに気がついたのは私もさっき目覚めてからなのだけれど……」
そう告げてからななみちゃんの顔に触れる。
「……こんな状態でもななみちゃんは話しかければ言葉を返すわ。でも、それはななみちゃんであってななみちゃんではないの。私達が会話しているいつものななみちゃんではなく、ななみちゃんをななみちゃんとしている“暗示”そのもの。それを証明する方法は……」
そこまで言ってから香月さんに視線を向ける。
「…香月さんは確か採寸したあの日、ななみちゃんが暗示をかけたまま戻って来たときは意識があったわよね?」
「あ…はい。ゆなを介抱するのに手間取ってたらその後に尊死させられた気がします。」
「なら、私のななみちゃんに対する問いとななみちゃんの答えは聞いてたわよね。」
頷く香月さんに小さくため息をつく。
「……いい、香月さん。死ぬ気で、意地でも尊死に耐えなさい。ゆなさんは言い方がきつくて申し訳ないけれど最初から期待してないから尊死するたびにミコちゃんに起こしてもらいなさい。」
「うっ…ご、ご迷惑をかけます……」
「大丈夫、意識飛んだら何度でも起こしてあげるから!任せて!」
コメント:
:ヒナママ…?
:言い方キツすぎん?
:ちょっと酷くない?…って言いたいところだけど
:今までのゆなママ見てたらそうとしか言えないのが……
:ゆなママもそれを完全に自覚してるっぽくてなんも言えない…
「リスナーの皆さんにも言っておくわね。さっきのを見てわかると思うけれど、ななみちゃんのトランス状態での火力は凄まじいものよ。若干とはいえ耐性がある私はおろか、比較的耐性があるミコちゃんですら一撃で尊死させるほどに。だからこそ言葉選びは慎重にしないと途中で私が尊死しかねない。」
「ちなみに、わたしさっき軽く“意識飛んだら何度でも起こしてあげる”って言ったけど、わたしも耐えるのに必死になるから場合によってはわたしも死ぬよ。」
「…それが、今回は私達にだけではなく全方位に向けた無差別攻撃として放たれる……言いたいことは、わかるわね?」
コメント:
:ひぇっ
:ひっ
:俺達精霊も標的ってことか……
:つまり俺達も死ぬ気で耐えろと
:できるか…?
:無理
:無理だろ
:無理だっ
:無理で
:無理に
:無理だ
:無理な
:無理なら
「なんで形容動詞活用してるのよあなたたちは…」
統率力高すぎないかしら…
コメント:
:なん……だと…?
:バレた……だと…?
:バレたか…
MilkyRain神代純:君達統率力高すぎないかい?
:うぇっ!?
:神代さん!?
:ウェイ!?ナズェミテルンディス!?
:オ〇ドゥル語が飛び出したぞ…
:なっっっっっっつぅ……
MilkyRain神代純:ヒナちゃん、報告。ななみちゃんの尊死の余波は正面玄関受付にも広がったらしい。私は彼女達の介抱に向かうからしばらくそちらに戻れない。
:ひぇっ
:どんだけ被害広がったんだ……
ホント、すごく被害が広がってるわね…
「…香月さん、覚悟はいい?始めるわよ?」
「……お願い、します。」
その言葉に私はななみちゃんを見つめ、1度深呼吸する。
「……ななみちゃん、聞こえる?」
『……ママ?どうしたの?』
「「うっ……ぐっ……」」
「…ゆなさん、起こすよー。」
「はうっ」
ゆなさんは一度落ちたみたいね……私と香月さんはギリギリ耐えて、ミコちゃんもどうにか耐えたみたい。
それを確認した後、その言葉を告げる。
「…ななみちゃん。今、自己暗示はどれくらいかけてるの?」
つい先日、ななみちゃんに質問した時と同じ言葉を。
『……?じこ……あんじ?なにそれ……?』
「っ……!?」
香月さんが驚いたような表情をしたのを確認。ゆなさんは…尊死してるわね。
「ゆなさん、起こすよー」
「はぅぅっ」
ゆなさんが起きたのを確認してから、もう1つ問いかける。
「……あなたの、本当の名前は?言える?」
「え、ちょっ、ヒナさん!?」
コメント:
:えっ
:待って
:ヒナママ!?
静歩カナ:ヒナさん!?
:本名暴露はまずいんじゃ!?
:本名公開はまずいですよヒナママ!!
チャット欄でざわついてるのを見ながらななみちゃんの反応を待つ。
───そう、これは一種の禁じ手。扱い方を間違えれば配信者を破滅させる一手。
……だけど、トランス状態のこの人なら。
『……本当の、名前?本当も何も……私の名前は花園ななみだよ、ママ?』
「えっ……!?」
首をこてんと傾げながら答えるななみちゃんに香月さんが絶句する。
「ありがとうね、ななみちゃん。」
私がそう言うとななみちゃんはまた俯いた。
「ど、どどど、どういうことですか!?だって、ななみちゃんの本名は……!」
言葉にしかけた香月さんが慌てて口を押さえる。その様子を見て私は深く頷く。
「えぇ、香月さんが知ってるもので間違いないわよ。」
コメント:
:香月ママ、ななみちゃんの本名知ってんだ…
:ヒナママも知ってるっぽいね
:じゃあなんで驚いて…?
:もしかして今ななみちゃんが言ったのが本名じゃなかった…?
:てことは本名公開されなくて一安心?
:さすがに本名を活動名とする人は少ないでしょ…
:異世界人RPしてた人も異世界上の本名で活動してるわけじゃなかったって話もあるし
:じゃあ、今の質問の真意は……
「…トランス状態の時。暗示が身体を動かしているとは話したわね?」
「…はい。」
「ということは、今のななみちゃんの本体は“自意識”ではなく“暗示”なのよ。ななみちゃん自身の意識が本体なのはあくまで通常時。だけど、トランス状態になると暗示が本体となる……」
「暗示が本体……」
「そう。暗示が本体。本体が暗示。」
「……汝は我、我は汝みたいですね。」
コメント:
:ペル〇ナァ!
:ななみちゃんはペル〇ナだった…!?
静歩カナ:もう一人の自分……Vtuberに限らず活動者はそれが間違いとは言い切れないのがなんとも…
:難しいところ
:バ美肉おじさんとかは美少女になっている時間が長すぎて心まで美少女になってしまうとかって聞くし
:※個人差があります
「…ちょっと近いかもしれないけれど違うかしら。」
「というと…?」
「そうね……結論を言うわ。暗示そのものが本体であるが故に、自分が暗示そのものであると認識できなくなるのよ。」
私の言葉に香月さんが固まった。
「えっ……と………それって……」
「自分自身がその存在であると完璧に思い込む。別の誰かを演じる、ではなく自分自身が本人だと完全に認識する。」
コメント:
:え?
:待って?
:それって……
:……成り代わり?
:自己意識の塗りつぶし!?
:人格崩壊を引き起こしかけてるってこと!?
:ヒナママ、それってかなり危険なんじゃないの!?
「あの、それってかなり危険じゃ……」
「普通だったらそうなのでしょうね。普通であればななみちゃん自身の人格が崩壊するわ。」
「でも、ななみちゃんはこれに慣れてるのかよくわかんないけど一度も人格崩壊を引き起こしたことはないよ。少なくともわたしが見てる限りは一度も。ヒナさんは…」
「ないわね。ついでに、私の弟も同じことできるけれど人格崩壊に陥ったことはないわね。」
「そ、そうなんですね……」
若干引き気味の香月さんに苦笑いしながらななみちゃんに視線を向ける。
「とはいえ……こうなったらななみちゃんは自分の意志で自己暗示を解除することはできないわ。……トランス状態を解除しても記憶は残るタイプだから少し時間がかかるかもだけれど今の状態を思い出すと思うけれど…」
でもごくまれにトランス状態中の記憶が戻らない時もあるって言ってたかしら…?あと、元に戻った直後はトランス状態に入る少し前の記憶もなくなってるときがあるとか…
コメント:
:記憶残るの!?
:そうなの!?
:てか思ったけど神凪ママとヒナママ、ななみちゃんに詳しすぎん?
:たしかに
:それな
「あの……元に戻す方法はあるんですか?」
「あるわよ、ちゃんと。……というか、そろそろ元に戻したほうがいいわよね。この配信、主役はななみちゃんなわけだもの。」
コメント:
:確かに
:でもどうやって?
:普通に揺すれば元に戻るのかな?
「方法を説明する前に戻しちゃうわね。」
「あ…はい。お願いします。」
香月さんがそう言ったのを聞いてから私はななみちゃんを優しく抱きしめる。
コメント:
:お?
:おっ?
:これは…?
:これはキマシ?
:キマシ?
:これはただの母娘愛じゃない?
:もしくは姉妹愛
:なんにしろてぇてぇ
:てぇてぇ……
:お前さんらこんな大変そうなときに…
「……大丈夫。大丈夫よ……何も怖くない……」
『……』
「ゆっくり、ゆっくり……落ち着いて……」
そう小さくつぶやいていると抱きしめたななみちゃんの身体から不意に力が抜けて私によりかかる。
「…っとと。」
「すぅ…………すぅ……」
「はい、これで戻ったわよ。」
コメント:
:戻った……って
:本当…?
:こんなあっさり……?
:てか……寝息?
:ホントだ、これ寝息?
:ななみちゃん、寝落ちしたってこと?
:まだ明るい時間なのに?
「これは……寝ているんですか?」
「えぇ、一時的にね。でも、普通の睡眠じゃない。そうね…パソコンとかで言う再起動と同じかしら。一度全部を停止させてからもう一度立ち上げるの。だから、数分で目覚めるわ。」
「再起動……」
「色々と処理をしすぎて負荷が強くかかってたから一度全部止めて最初の…一番標準の状態に戻そうとしてるんだよ。まぁ、起きるまで……10分くらいかな。」
「そうね……それくらいして起きてきたら元に戻ってるはずよ。…さて。」
ななみちゃんが起きる前に説明しておいたほうがいいことが1つあるわね。
「さっき方法を説明すると言ったわよね?3つあるのだけど、ちゃんと説明してあげるから聞いてちょうだい。」
「あ…はい。」
「まず1つ目は私がやった方法。ななみちゃんを“安心させる”こと。」
コメント:
:安心?
:安心させる…?
:抱きしめてただけに見えたけど…
静歩カナ:そういえば抱きしめられてたななみちゃんの表情がだんだんと穏やかになっていってましたね
:えっ
:気付いたの
:カナさん気づいたの…!?
静歩カナ:よく見てないとわからないほど微妙な変化だったので気づかなくとも仕方ないかと……
:流石だ……
:流石は聖母様…
:俺達にできなかったことを簡単にやってのける…
:そこに痺れる
:憧れる…!
静歩カナ:……あの、喜んでいいんですか、これ…
:とりあえずリラックスさせればいいのかな
カナさんのチャットに少し微笑む。
「カナさんは喜んでいいんじゃないかしら。ネタ以前に褒めてると思うわよ?勘だけれど。」
勘でしか言えないのはななみちゃんより劣っているところよね…元々こういうところに対して私はななみちゃんより下なのだけれど。
「それにしても…安心……ですか?」
「えぇ、でもこれはななみちゃんに近しい人間じゃないと成功しないわ。同じ抱きしめるであっても私と香月さんでは逆の効果が出たでしょう?」
「それは……はい、そうですね…私の場合トランス状態に陥らせてしまったわけですから…」
その回答に苦笑い。
「触れ合う時間が浅すぎて心を許しきってない、というのもあるのでしょうけど。この方法に関してはおすすめしないわ。場合によってはさらに深くトランス状態になる可能性もあるもの。」
「え……」
「今回はすぐに戻ったことから見てそこまで深くにはならなかったみたいだから大丈夫よ。…あと、とりあえず私かミコちゃんがいれば安心させる方法で元に戻せるから心配はいらないわ。」
コメント:
:ほへー…
:ヒナママと神凪ママってすごいんだなぁ…
:すごい…
:でも、ヒナママと神凪ママが近くにいなかった時はどうするの?
:確かに
:それは確かに
「チャット欄の皆さんも言ってますけど……ヒナさん達がいなかった場合はどうするんですか?」
まぁ、気になるわよね。……でも
「これってななみちゃんの動画を全部見た人でもみんな気付いてないかもしれないのだけれど、実は1度目にしてるのよ。」
コメント:
:そうなの?
:そうなの?
:そーなのかー?
:ソー〇ノ?
:ソー〇ンス?
:ジー〇ンス?
:ソーラン?
:ソーナノカー?
:ソーナン?
:遭難?
:おいばかやめろ
:すまん変換ミス
:なんか違うの混ざってなかった?
静歩カナ:そうなんですか?全動画見てますけど特にそれらしいのなかったような……
「えと…それって本当なんですか?」
「ええ。ななみちゃんのゲーム実況動画、あるわよね?GoS VRの実況Part1。あれでななみちゃんが転んだシーン…覚えてる?」
「あ……はい。覚えてますけど…」
「ななみちゃん、あそこで意識を失ってるはずよ。」
「…えっ?」
「正確にはななみちゃんが転んで、敵がななみちゃんに覆いかぶさったところから最初にゲームオーバーになるまで。つまりは泣いている間、ずっとななみちゃんは意識を失ってたはずよ?」
コメント:
:はっ?
:へっ!?
:あれで!?
:あの正確さで意識失ってたの!?
:もしかしてななみちゃんって意識失ってる中であの初見殺しを初見突破してたの!?
静歩カナ:そんな事できるんですか!?
「ななみちゃんは虫がすっごく苦手だから虫と相対するとパニックに陥りやすいんだよね……転んで動けなくなった上に覆いかぶさられたから限界を迎えて意識が飛んじゃったんだと思う。」
ミコちゃんがそこまで言ってからお茶を飲んでまた口を開く。
「……で、さっきの暗示が本体って話にも繋がるんだけど、多分あれって“花園ななみであれ”以外にも“銃士であれ”みたいな暗示が含まれてると思うんだ。それがトランス状態に陥ったことによってあの精密射撃が実現してたっていうことだとわたしは思う。」
「ちなみにゲームオーバー後の視界なし射撃は普通にななみちゃんの技術よ。ななみちゃん、結構耳が良いからできちゃうのよね……」
「そ、そうなんですか…」
そう、できちゃうのよね……
「…それで。ななみちゃんをトランス状態から戻す方法の2つ目。ななみちゃんに対して“何らかのショックを与える”、よ。」
「ショック…?」
コメント:
:ショック?
:電気ショック?
静歩カナ:あの、ヒナさん。それはもしや病気的な……?
「あ、ごめんなさい。ショックってそのまま言うとアナフィラキシーショックとかのショックになっちゃうわよね。ええと……」
「衝撃、かな?」
「そうね、ミコちゃん。何らかの衝撃を与えてあげればななみちゃんは元に戻るの。」
「衝撃…」
「ほら、GoSのゲームオーバー画面って結構派手だし音も結構大きいじゃない?あの動画ではあれがななみちゃんを元に戻す鍵になってたのよ。ななみちゃん自身の意識はないとしても脳組織は動いてる───つまり視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感と呼ばれるものはそのまま動いてるのよ。だから、その五感に対して強く衝撃を与えてあげれば……」
「……ななみちゃんは元に戻る…んですね。」
香月さんの言葉に私は頷く。
「ただ、動画にもちょっとあったけれど、この方法でもやっぱり再起動の時間は必要なの。ゲームオーバーになったあと、ななみちゃんが少しボーっとしてたのはそれが理由よ。」
コメント:
:ほぇー……
:なるほど……
:そうだったんだ…
「それで、最後の3つ目は……あまりおすすめしないけれど、“時間経過”よ。」
「…時間経過、ですか?」
「えぇ、時間経過。ななみちゃんが疲れて眠ったあと、目覚めたらトランス状態は解けてるわ。」
「ただ、その場合トランス状態中の記憶が一気に押し寄せるから羞恥で悶えることがほとんどなんだけどね……」
「…うわぁ」
コメント:
:うわぁ
:うわぁ……
:つらい…
静歩カナ:それはつらい
リリアン:すごく辛いでしょうね…
静歩カナ
強く生きてください、ななみちゃん……
\20000
…辛いらしいわよ。本当に……
以前トランス状態になって私に甘えてきたことがあったのだけど、それで私も尊死してあの人を起こすことができなくて…目覚めた時、顔を真っ赤にして布団の中に隠れてたことがあったのよね…
……まぁこれは、結が産まれるよりも前の話なのだけれどね。
「ん……んぅ…」
「……あ。」
コメント:
:お?
:声が…
:これななみちゃんの声?
:いつもよりちょっと低い?
:というかもしかしてこれが地声なのかな?
「んん……ぅ?」
ななみちゃんが動き始めたわね。目覚めが近そう。
当話スパチャ額一覧
静歩カナ \20000
当話総額 \20000
現時点総額 \321420
なんか私落ち着かせるとき毎回ジャスミンティーな気がする…
気のせい?




