No.3 妻達の提案
性転換するようになってしまった彼方さん。
奥さんからの提案とは…?
私の“突発性性転換症候群:少女化型”が発覚してから数日。
とりあえず身体の採寸をして妻や妹、娘と一緒に女の子用の服を買いに行ったり、性転換のトリガーを把握するために女の子になったりおじさんに戻ったりということをしてた。
その後に私の各職場にも顔を出して、事情を説明したけど別に退職とかにはならなかった。幸いと言っていいのかよく分かんないけど、私としては結構ありがたい。私、今の職業気に入ってるし。
ちなみに、先述の通りこの世界に“魔法”はない…とされてる。でも、性転換時の現象は魔法といった方が分かりやすいんだよね。具体的に表現するなら、P○O2のファッション変更やVRCh○tのアバター変更みたいな感じでポン、と姿が変わる。煙幕みたいなのが現れるわけでもなく、ポン、といきなり変わる。初回性転換時だけ服はそのままだけど、それ以降の性転換時には前回性転換した時に着てた服がそのまま維持されるんだよね。…しばらく性転換しなかった場合、見方によれば数日同じ服を着続けているように見えるんだけど。
あと、性転換後の身体もちゃんと成長する。この辺りは人によるんだけど、私の場合は成長するみたい。…でも、勘だけど今以上に身長が伸びるかっていうと微妙な気もする……うん、気にしないようにする。
それから、女の子の服を着ることに抵抗はほとんどない。いや元々可愛い服好きだったのもあるし、よく女装してたのもあるけど、ここまで抵抗なくなるのは予想外。私の“少女化型”は姿、話し方だけじゃなくて感性まで女の子に変えるとか聞いたことあるからそれが理由なのかな?
とまぁ、色々と調べて早数日。“PCの前に座る”が女の子になるトリガーになってた私は女の子になった状態のまま奈々と通話を繋ぎながらゲームをしてたんだけど。
〔…ねぇ、あなた?〕
「うん?なぁに、奈々?」
〔───Vtuberになってみない?〕
「……えっ?」
そんなことを、宣われました。
実際、私はVtuber達の動画を見るのは好きだったし、私の主職は副業も許可されてるからVtuberとは言わずとも気にはなっていた活動ではあるんだよね。
そもそも、今までも主職関係で擬似的なVtuberみたいなことはしてたわけで。ヘッドセットにWebカメラ、ハンドトラッキング機材……結構配信機材なら揃ってるんだよ。本格的な設備は流石にないけど。
「仮にVtuberになるとしても3Dモデルや2Dモデルはどうするの?」
〔その辺り、愛ちゃんと相談したのだけれど。3Dモデルは私が作る。2Dモデルは愛ちゃんが作るという割り振りで合意して貰えてるわ。〕
「ちょっと待って私の知らないところで何やってるの!?」
奈々が“愛ちゃん”と呼んだのは私の妹、“愛海”のこと。…性転換後の身長的に、それから性転換後の身体の年齢的に私の方が妹感強いんだけど。
〔埋めるならまずは外堀からっていうじゃない?〕
「いやそれはそうだけどさ……」
〔結もあなたへの台本提供に乗り気だから喜ぶと思うわよ?あの子、以前からあなたに台本を書きたいって言ってたもの。〕
「ねぇ、奈々。結まで巻き込むの…?あの子まだ小学生だよ…?」
〔私のせいというより本人の希望なの、これ……私と愛ちゃんがあなたのVtuber化について話しているのを聞いて結も混ざってきたんだもの……〕
「えー……」
結というのは私と奈々の娘で、小学生ながら台本を作るのが好きな天才少女。私や奈々からの評価じゃなくて周りの評価ね、これ。流石にネット上で活動してはいないけれど、本人の希望で奈々を経由して台本提供をしてる。結本人が楽しいならそれで私はいいんだけどさ……変な火の粉は私と奈々が払うし。
「……ホント、誰に似たんだろ……少なくとも私じゃない気がする」
〔あら、そう?私はあなた似だと思うけど。〕
「いや、絶対奈々似でしょ。だって私才能ないもん。」
〔…本当にそうかしら〕
奈々って才能の塊みたいな存在だからね。それから結も、愛海も。
〔ちなみにあなたの職場にも連絡したけれど、仮にVtuberになった場合、仕事の時にもVtuberとしての姿や名乗りを使ってもいいそうよ。〕
上司ぃぃぃぃぃ!!!あとで絶対問いただすから…
「はぁ……本当に外堀埋められてるなぁ。」
〔あとはあなたの意志だけよ?〕
「……分かったよ、やるよ。でも足りない機材とか依頼料とかどうするの?私、奈々と愛海のペンネームは聞いたことあるけど料金は知らないよ?」
特に依頼することもないから調べたことない。
〔あ、料金は要らないわよ?私も愛ちゃんも趣味全開で作るから流石にね。〕
「馬鹿なの?ちゃんと払うよ。えっと……」
奈々と愛海のペンネームを調べて依頼料金を調べる。2人ともプロだから料金は設定されてる。うん、普通に払えるね。
「……後で払っておくからちゃんと受けとること。」
〔別に、そんな…〕
「いいから受け取って」
〔………はい〕
「よろしい。」
強めに圧かけて言ったら素直に従ってくれた。夫婦、兄妹というのは置いておいて2人ともプロ絵師、っていうかそもそも結構有名な人だからね?
「…それで、足りない機材は?」
〔そうね……ひとまずこっちで分かる限りの機材リストは送るから…そこから足りないものを抽出して購入っていう感じになると思うの。〕
「それが一番いいのかな……できるならパソコンのスペックとか書いておいてほしいな。」
〔任せて。一緒に送っておく。〕
「……あと、1個提案があるんだけど。」
私がその提案を口にしてみると、奈々が少し悩むような声を上げた。
〔……私は別にいいわ。愛ちゃんにも確認は取ってみるけど多分大丈夫だと思う。だけど、相手はどうなのかしら…〕
「私からも細かい事情は話しておくけど、最終的にはそっちで決めてほしいんだけど……ダメ、かな。」
〔……分かった。あなたからの連絡があったら後で連絡を取ってみる。〕
「ありがと。」
さて、あとは……
「……そういえば、モデルってどれくらいで出来上がるの?」
〔2ヶ月で仕上げるわ。〕
「……無理はしないでよ?無理して奈々が倒れたら私、いやだよ?」
特に奈々はただでさえ私より忙しいんだから…
〔平気よ。〕
「……莉愛に料理とか頼んでおくね。」
莉愛というのは私の義妹で、料理が結構上手。奈々が無理しそうなの察したときは料理とか色々頼んでる。
〔あ、ちょうどいいわ。莉愛ちゃんにも頼みたいことがあったの。〕
「……R18台本かぁ…」
結が担当できない台本、年齢制限がかかるようなものは莉愛が担当してるから……なんか、私の家族だいたい何かしらVtuberに関わる気がする。この先。
〔とりあえずモデル作りに入るわね。納品まで見せないけれどいい?〕
「うん、大丈夫だよ。」
〔……もう、話し方が本当に女の子ね。娘がもう1人できたみたい。〕
「Vtuberとしてはママの1人になるんだから合ってるんじゃない?」
〔………〕
沈黙。……え、間違ってないよね?
「奈々?」
〔えぇ、そうね……〕
「……もしかして私が奈々のことママって呼ぶの嫌だった?」
〔いいえ?そのままでいいわ。……個人的な意見だけど、あなたは無理にキャラを作らずに振る舞ってもいいと思うわよ。じゃあ、また。〕
「あ、うん、また……」
通話が切れる。……うーん?
どうしてこうなった?で埋め尽くされてるでしょうね、ホント。
あ、ちなみに調べたら彼方さんの職業は場合によっては副業が許可されるらしいです。