No.28 久しぶりのモデル案件?
これって実質スカウト?
そんなことを思う私なのでした。
「それで……神代さん、話って何でしょう?」
私が神代さんの方を向いてそう聞くと神代さんは驚いたような表情をした。
「聞こえてたのかね、加奈ちゃん。」
「自己暗示にかかっている最中でも声は記憶できますし。」
大体、自力で暗示を解除できる時点で暗示自体はそこまで強くない。解除できない時は誰かに強制的に解除してもらうしかないし。
……近いうちに自力で解除できない案件がありそうな気がするけど。
「……そうだな。何も隠さずに言おう。加奈ちゃん、モデルとしての仕事を引き受けてくれないだろうか。」
「……モデル…かぁ。」
「Vtuberとして顔出しに不安があるのは分かるんだが、できればお願いしたい。というか、Vtuberとしての企業案件として受けてもらっても構わない。その際の報酬として、新衣装のデザインもこちらで提供するのも私としては構わない。」
「企業案件…企業案件って私何すればいいか分かってない…」
奈々は知ってるかな、と思って奈々の方を見ると、私の視線に気が付いて小さく頷いた。
「動画撮るとか配信するとかでいいはずよ?少なくとも私はそれしかしてないわ。…もともと私はVtuberではないから、加奈の場合はもっと違うかもしれないけれど…そもそも加奈、実写で出るのは問題ないのかしら?」
「実写で出るの自体は別に……身長とか体格とか同一なわけだから、ウィッグとかで髪色変えて同じ衣装用意すれば花園七海にはなれるわけだし。」
さっきみたいにね、と私が言うと神代さんと奈々に苦笑いされた。…実際、お化粧はしてないけどほとんど花園七海だったし。
「…確かに。確かに、ななみちゃんを現実に引き出すことは可能なのか…」
「問題があるとすれば、私が私の状態で……加奈の状態でモデルのお仕事をしたことがないこと…確かに昔ヒールとか履いたことあるけど、それは昔の話だから…」
「「……あー」」
そうなんだよね。昔、モデルのお仕事……というか、お手伝いでモデルっぽいことしてた時にヒール履いたことあるんだけど、それは昔の話であってしばらく履いてないから…何より身体が変わってるから色々と…ね?
「ふむ……少し難しいな。……早着替えショーウィンドウ…Vtuberとしてのモデルにデータ化したこちらの商品を重ねてみるとかできるだろうか…」
「…神代さん?そもそもの話だけれど、テーマは双子のコーディネートですよね?私はVtuberモデルを持ってないのですし、実写しか撮る方法はなないと思うのですが?」
「そういえば奈々ってVtuberデビューするつもりってないの?」
「………」
…あれ?なんか変なこと聞いた?
「…どうしようかしら……ってずっと思ってるのよね。転生したところで受け入れてくれるのかしら…」
「奈々ちゃんは有名なクリエイターであるのと同時に有名配信者だからね……方向転換は怖いか…」
「…あー。私は最初からVtuberになってるわけだもんね………そういえば、私が案件受けたところで何か影響あるんです?」
だって、今の私のチャンネルって仮数だから実数がわかんないよ?
「各動画の高評価数を見てみたが、どれも9000超とかなりの数だからね……どこまで影響するかは未知数だが、損はしないと思ってるよ。」
「「え?」」
高評価数9000超…?
「……と、とりあえず受けること自体は問題ないです。…私は。さっき奈々が言ってましたけど双子のコーディネートなんですよね?“双子コーデ”というわけじゃなくて“双子”のコーディネート。私の相手は一体…?」
「お相手は奈々ちゃんにお願いするよ。加奈ちゃんもその方が気楽だろう?」
「…うん。」
「それで、どちらで動きたい?」
……どちらで…か。
「……七海で動かさせてください。」
「分かった。では、ななみちゃんの企業案件の動画に関してだが……そうだね。奈々ちゃん、奈々ちゃんにも案件は出した方がいいのかな?」
「いえ、私は姫華日奈子で出るので夢園ヒナとしての案件として出さなくて大丈夫です。夢園ヒナとして企業案件はあまり受けませんから…」
「ふむ。ならばななみちゃんのみで大丈夫か。とはいえ依頼報酬は奈々ちゃんにもちゃんと出させてもらうよ。…それでななみちゃんの動画は……わかりやすいのはイメージビデオだろうか…?」
そう呟いた後、神代さんは私をじっと見つめてきた。
「…あの、何か?」
「加奈ちゃん……身体の柔らかさってどうなってるんだい?…変な意味じゃなくて、柔軟性って意味だけども…」
「…………柔軟性、かぁ」
そういえば前屈とか開脚とかやってないね?…まぁ。
「女の子らしく…って言っていいのか、女の子座りはできますよ?」
「以前からできるだろう、それ……」
「そういえばあなたって昔から身体柔らかいわよね…」
よく言われる。だって今でも女の子座りできるし。性転換前で。
「この辺りは要相談になるか……他に何か心配なことはあるかな?」
「あー………家族以外がいる場所でカメラを向けられることに対してこの身体がどう反応するかがちょっと…」
「…ふむ。」
実際、誰かにカメラを向けられるのと自撮りのように自分でカメラを向けるのはちょっと感覚が違うし……それと、家族以外がいるのといないのとでもまたちょっと違う気がする。そんなことを考えていたら、奈々がふと思いついたように口を開いた。
「……それなら、加奈?私とオフコラボしてみない?」
「奈々と?」
「正確には“夢園ヒナ”と…だけれど。案件自体が実写になるのだから、実写の姿を映すにはいい練習になるかと思うけれど。」
「あー…なるほど。」
「…正直な話を言っていいかい?実際、ななみちゃんの姿と加奈ちゃんの姿は髪色だけが違うような感じだ。カラーバリエーション…というか、大きな変化は髪色の変化だけと考えればメイクのみしてそのまま配信しても問題ない気がするが…どうしようか。」
もちろん衣装はこちらで貸し出すことも可能だが、と神代さんは付け加えた。
「衣装は貸し出し…の方がいいと思います、その方が色々見られていい気がするので。…視聴者的にも、会社的にも…」
「君のメンタルは考慮してるかね。」
「…多分、大丈夫だと思います。」
未知数だから…何とも言えない。
「…あの」
不意に横から声がした。声の方を向くと、咲月さんが私達の方を見ていた。
「オフコラボの件…それと、イメージビデオの件。私も、一緒にやらせてもらえませんか?」
「「「え?」」」
唐突すぎて私達は困惑した。
「…えっと、どうしてかな?」
「MilkyRainは主にオーダーメイドが多いと聞いてますから…その、MilkyRainのデザイナーさんでも奈々さんでもない人間のデザインを作るのも一手なのではないかと……思ったんです…けど……」
「…ふむ。金額はともかくとはいえ、オーダーメイド衣装依頼は来る者拒まずがこの会社の信念。衣装として生産しないのであれば金額も特にかからない……デザインの提供自体、こちらとしては有難い申し出でもある…のだが、咲月さん側には何もメリットもないような…」
神代さんの言うことは間違ってない。デザインの提供のみということは咲月さんには提供するデザインを描くという体力の消費しか残らないはず。
……長期的なことで言えば、オーダーメイドで作りたいけどデザインがないっていうお客さんに対していくつかのデザインを提示して、その際にお客さんに選ばれれば使用料みたいな感じで支払われるからメリットの方が大きいとも取れるんだけど。
「……えっと、その……じ、実は、ななみちゃんの配信してるときを近くで見ていたくて……でも、何もしないのも申し訳なくて、ですね……」
「「……なるほど」」
要求に対する対価が気になるんだ……
「えっと……特に対価なんてなくても言ってくれれば見せたんですけど……」
「…あと、純粋に配信自体に興味があって……その。この際だから一緒に出てみたいなって…」
「…………」
昔を思い出すなぁ…
「も、もちろん反対されれば諦めますけど…」
「……私は……別に良いけど。奈々は?」
「特に反対しないわよ。神代さんは?」
「私も構わないよ。…ふむ、満場一致……ということでオフコラボとイメージビデオに関わるのは問題ないか…」
私はその言葉に頷いたあと、咲月さんを見た。
「そういえば、咲月さんはオフコラボに出るんですよね?そうなると顔出しは……」
「あ、問題ないです。」
「………即答だったわね…大本は私とななみちゃんのオフコラボだから私も出るけれど、大丈夫かしら?」
「…はい。がんばります。……まだちょっと怖いですけど…」
「……無理はしちゃダメだよ?」
「……無理はしちゃダメよ?」
私と奈々が同時に言うと、神代さんと咲月さんが小さく笑った。
「……本当に仲がいいんですね…」
「奈々ちゃん、加奈ちゃん。…オフコラボとイメージビデオの時、甘々な雰囲気はできるだけ出さないように気を付けてくれよ……」
「…努力するわ。」
「わ、私も……」
私も奈々も何度も言われてることだけど、私と奈々がペアになったときの雰囲気って基本的に甘いらしいんだよね。いや、恋愛系の演技だったら適役なんだろうけどそうじゃないと浮いちゃうというか…なんというか。
ともかく、採寸が進まないからという理由もあって鶴丸さんを起こして、咲月さんは話があるっていうことで咲月さんが起こしてくれた悠奈さんに先に採寸行ってもらって。
オフコラボの詳細とか詰め終わって、全員の採寸が終わって……修二くんが起きたところでやっと、今日予定していた全部が終わった。
うみゃぁ…割と疲れた…
何気に実写出演自体は抵抗がない加奈ちゃんです。




