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No.27 加奈の尊死火力

不穏?

…いいえ、ただの爆弾です。

…そういえば今日ってひな祭りだっけ…

「───んっ…!!あ、危なかった…」


『えー…大丈夫ー?日奈子ママー。』


天使が話しかけてくる……いえ、本当は天使の羽とか生えていないのだけど、それを幻視する。鶴丸さんはこれにやられたのね……


……というか、なんでななみちゃんの衣装用意してたのかしら……一応愛ちゃんから伝えてはいると聞いてはいたけれど、用意してるとは思わなかったわ……尊死耐性の自己暗示でギリギリ耐えられたから良いけれど…


とりあえず……咲月さんと悠奈さんは、と。


「悠奈、しっかり!しっかり!!」


「あうあうあう……」


咲月さんはまだ耐えたみたいだけれど、悠奈さんは瀕死になってるわね…悠奈さんの方はとりあえず咲月さんに任せておいていいかしら。


「ななみちゃん、いい?」


『んー?なぁに、日奈子ママー?』


「今、自己暗示はどれくらいかけてるの?」


『えー?えーとー…これしかかけてないよー?』


「……なるほど。“花園ななみであれ”、しかかけてないのね。」


それでこの火力は流石は加奈というべきなのかしら。昔から尊死製造器と言われていたこの人だけれど、女の子になってからというもの火力が段違いに上がっているような…?気のせいなのかしら。


「最低だ……最低だ……」


そんなことを考えているとき、未だに落ち込んでいる男の姿が目に入った。神代さんの方に目を向けると、悶絶したままの姿で私と視線は合った。視線の動かし方で何をしたいのか伝えると、頷いてくれる。…やっていいのね?分かったわ。最も実行は加奈だけれど…


「ねぇ、ななみちゃん?…の方がいい?加奈の方がいい?」


『んー?ななみでいいよー?』


「分かったわ。それで、ななみちゃん。あそこの男の人…修二さん、だったわね?あの人を元気づけることってできるかしら?」


『修二くんのことを元気づけるのー?うーん…私にできるかなー…』


「大丈夫よ、あなたなら。あ、でも…そうね。」


加奈…ななみちゃんの方がいいかしら。ななみちゃんにできるだけ近づいて、ななみちゃんにだけ声が聞こえるようにする。


「自己暗示を1つ、追加してみて?追加する暗示は……“幼女”。具体的に言えば7歳くらいの女の子。」


『幼女ー?…うん、分かったー。』


そう言ってななみちゃんが目を瞑る。これは彼方さん…加奈もだけど、自己暗示をかける時の基本姿勢。この人の凄いところは基本姿勢からの自己暗示が早いことやその自己暗示を別種類で重ね掛けすることができる点かしらね。


『……できたよー、ママー?』


「うっ…!?」


声が少しふにゃふにゃになる。それと同時にママ単呼びになったことでより破壊力が上がって尊死しそうになる。


でも尊死するわけにはいかないから尊死耐性の自己暗示を更に重ねてどうにか意識を保って……ななみちゃんは自己暗示がちゃんとかかったみたい。とりあえず…確認。


「ななみちゃん、私が認識できる?それから、自己暗示を認識することはできる?」


『できるー!だいじょうぶだよ、ママー!』


「なら大丈夫ね。心の準備ができたら行ってらっしゃい。」


『うん!ななみ、がんばる!』


うん。…そういえば思い出したのだけど、彼方さんの幼女自己暗示って凄く破壊力高かったのよね。…昔から。単純に私が弱いだけ、というのもあるのかもしれないけれど………今更だけど、少し修二さんが不安になってきたわね…


加奈自身143cmで、10歳の女の子と同じくらいの身長。7歳の女の子とは20cm近い身長差があるけど…あの人の能力ならそれを自動的に補完してくれるはず。


私から離れたあと、修二さんに近づいてしゃがむ。


「最低だ……最低だ……」


『───ねぇねぇ、修二おにいちゃん。』


「………?」


『元気…出して?おにいちゃんが元気ないと、なんだかさみしいよ…?』


「さみ…しい…?」


あ、ちゃんと反応あるわね……さっき…双子のコーディネート企画用で使いたい服のデータを私が確認している間に神代さんが軽く話しかけてたけれど、全く反応なかったもの。


あの人の声には大体の人が反応するから初恋の人の声だから……って訳じゃないと思うのよね。あの人の声って心に届くというか、身体の芯まで届くというか……特に囁き声は染み渡るかのように届くのよね。…囁きASMRが今から心配だけど。


『うん。おにいちゃんが元気ないとね、なんだか火が消えるみたいで、雨が降るみたいで……なんだかすごくさみしい。だからおねがい、元気だして…?』


「火が消える……」


『元気がないからおにいちゃんじゃないなんて言わないけど…ななみは元気な修二おにいちゃんが好きだよ?』


「………」


……ん?


『修二おにいちゃん?』


「…………」


……あ。


「ななみちゃん、ちょっとこっちいらっしゃい。」


『う、うん、わかった!』


ななみちゃんを呼んで私のいた場所に来させて、私は修二さんの方に行く。その状態を見ると、間違いなく…


「………尊死してるわね。…無言で。」


無言尊死なんて初めて見たわね……


「……やれやれ、彼の演技力は相変わらず……女の子になっても健在、か。」


「神代さん。…生きてたのね……」


「割とギリギリだがね…さて、少し話をする前に……奈々ちゃん、彼女の暗示を解いてくれるかい?あのままだと……その。」


確実に被害が大きくなるわね…咲月さんと悠奈さんは既に瀕死だし、鶴丸さんもさっきよりぐったりしてるわ。…信じられるかしら、これ流れ弾なのよ?だってあの子が言っていたのは“おにいちゃん”。標的となるのは男性で、この場に男性は性転換前の加奈を除けば神代父子だけ。女性は含まれていなかったのだから、流れ弾でこうなってるのよ。……私自身も辛いところがあるから、戻ってもらった方がいいわね。


「ななみちゃん、聞こえる?」


『なぁに、ママ?』


「自己暗示の解除、できる?“幼女”だけじゃなくて“花園ななみであれ”も解除していいわ。」


『うん、わかった!』


そう言って目を閉じて───少しして目を開ける。


「解除できたよ、奈々。」


「いつも思うけれど切替早いわよね…」


「そう?」


そんなつもりはないけど、と加奈は呟く。


あ、ちなみに“幼女”の自己暗示が入ってるときに私をママと呼んだりお姉ちゃんと呼んだりするのは全く抵抗ないらしいわね。演技に専念してるから抵抗も羞恥心もないとか……そういうものかしら。

彼方さん、これ昔から…それも割と無自覚でやってるんですよ…

…凄いというか強いというか。

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