No.24 採寸開始と性転換の実演
採寸してくれる企業さんに着いてから。
彼方さんと奈々さん…それから愛海さんは、この企業さんの昔からの常連です。
「いらっしゃいませ、MilkyRainへようこそ。」
ビル内に入った僕達を受付の人が迎える。
「お待ちしておりました、花神様。代表よりお話はお伺いしております。ご案内させていただきますね。」
「ありがとうございます。」
「えぇ……有名企業のビルに名前の確認もしないで通れるって…」
「彼方さんって本当に何者…?」
「ただの一般人だが…?」
「「嘘だッ!!」」
「…と、言われてもなぁ…」
僕自身は特に何も特別なことに思い当たらないわけで。
「こちらの部屋でお待ちください。すぐに担当の者が来ます───あっ」
「?」
「やぁ彼方くん、3ヵ月ぶりだね。とはいっても、その姿を見るのは結構久しぶりな気がするけれど。」
受付の人の視線の先、声の聞こえた方を向くとそこに一人の男性が立っていた。
「お久しぶりです、神代さん。よく僕が来たことに分かりましたね?」
「もうすぐ来るんじゃないかと思っていたのさ。あぁ、下がっても構わないよ。」
「はい、失礼します。」
受付の人がそう言って来た道を戻るのを確認した後、僕達は部屋の中に入った。部屋の中には既に採寸を担当してくれる鶴丸さんが色々と準備していた。
「まずはおかけください。鶴丸の準備が終わるまで少し待ちましょう。」
「「し、失礼します…」」
咲月さんと悠奈さんが緊張しながらも椅子に座る。僕と奈々も椅子に座ると、神代さんが口を開いた。
「さて…彼方くん、そちらのお二人が今日の…?」
「えぇ、そうですよ。」
「は、初めまして…!“香川 咲月”です!」
「は、初めまして…!“夢川 悠奈”です…!」
「これはこれはご丁寧に。“神代 純”です。あちらにいるのは皆さんの採寸を担当する“鶴丸 彩香”。そう硬くならず、リラックスしてください。」
「「無理です!!」」
「おぉ、久しぶりに見た光景だ。」
ここに初めて来た場合、大体こういう反応をすることが多いが…そんなにだろうか。
「咲月さんと悠奈さんもじきに慣れるわよ…」
「そういうものなんですか…?」
「少なくとも僕達の知り合いは2、3回来たら慣れてたね。」
「神代さんが緩すぎて緊張張り続けてると身がもたないらしいわよ。」
「「何それ怖い…」」
咲月さんと悠奈さんの反応に苦笑いした後、神代さんが口を開いた。
「さて、鶴丸の準備も終わったようだし…先に彼方くんから採寸を始めようか。いつ女の子になるか分からないからね。愛海ちゃんから男性時の衣装デザインも貰っているから、今の男性時のデータも取りたい。」
「ご迷惑をおかけします。…そういえば、田中さんから修二君がこちらに来ていると聞きましたが。」
「あぁ、来ているよ。そういえば今日はまだ出勤していないな……出勤したらここに来るように伝えてあるから、彼方くんを見た時にどんな反応をするか楽しみだね。」
「…神代さん、たまに意地悪なところありますよね…」
「よく言われるよ。…まぁ、私の懸念点としては修二が彼方くんと会って発狂しないかどうかだが……問題ないだろう。若干君のことがトラウマになってるみたいだがね。」
「鬼ですか、あなたは…あとトラウマになってるのは初耳なんですが。」
「君が引っ越したのは修二と最後に会った一週間後だろう?当時春休みにも入っていたから、知らないのも無理はないさ。まぁ、少し前に修二に君と会えるか聞いてみたら会えると言っていたから大丈夫だろう。」
……だといいんだが…彼と最後に会った日というと小学六年の卒業式の日か。奈々と出会って20年なら彼らと別れて20年でもある。…時間の流れは早いものだね。
それでトラウマの原因は……何となく、心当たりはある。……うん、心当たりはある。最後に会う日よりも前は特に変化がなかったから、最後に会った日が原因だと思うんだ。その日に限定して記憶を探れば……まぁ、それしか考えられないか…?
「…ともかく、採寸に行ってきますね。鶴丸さんもじっとこっちを見てますし。」
「む……あぁ、すまない。鶴丸、頼んだよ。」
「分かりました。それでは彼方さん、こちらへ。」
そうして別室に案内されて採寸される。
「ふむ……14年前とそこまで変わりませんね。」
「そうそう変わるものでも……」
「中学生時代から高校生時代を忘れたとは言わせませんよ、彼方さん?」
「……はい。」
それを言われると弱い。何せ一気に30cm近く身長が伸びたものだからね、色々と迷惑を……うん。僕と奈々の母校の校長───今更思ったがもしかして理事長もなのだろうか───と校則が非常に緩くて助かったところではある。
「…以前のデータを使ってコスプレ衣装の1つを用意してみてはいたのですが、着れそうですね。着てみます?」
「……着てみますか。」
「では私は別室にいますので、着替え終えたら教えてください。」
そう言って鶴丸さんは来た方とは別の扉を通って行った。僕はと言うと用意されている衣装を広げてみる。
「……“ガ○コイン神父”?」
なんというかその……包帯とか鈴とかから見てガ○コイン神父っぽいんだが……まぁいいか。
「……できました、鶴丸さん。」
「分かりました、すぐに行きます。」
着終わったあと鶴丸さんを呼ぶとすぐに返事があり、本当にすぐに出てきた。
「ふむ、着方は問題ないようですね。どこかきついとかはありませんか?」
「特には……違和感もそんなに。」
「誤差は5mm未満ですからね……ふむ、モノマネできますか?」
「…なるほど、君も何かに飲まれたか。狩りか、血か、それとも悪夢───」
「それはゲー○マンです。」
「血族は、医療協会の血の救いを穢し、侵す、許されない───」
「それは血族狩りア〇フレート。」
「ほう、お前、新顔だ───」
「連盟の長ヴァル〇ール。声を微妙に変えていても分かりますよ?」
「バレましたか……」
「当たり前です、貴方にブ○ボ教えたの誰だと思ってるんですか。」
鶴丸さんなんだよなぁ…この人死にゲー大好きだから特にソウルライク系は全部履修してるし全アイテム収集やら武器固定縛りやら最低レベル縛りやら色々やってるんだ…
「真面目にやってくださいね?」
「……...Beasts all over the shop... ...You'll be one them, sooner of later...」
「よしとします。…ついでにこちらも着て行かれます?」
「……なんで人〇ちゃんまで用意してるんです…?」
「これは私の趣味です。知ってますよね?」
「そうですか…とりあえず元の服装に着替えます。」
「分かりました。着替え終えたら元の部屋へ。」
そう言って鶴丸さんは元の部屋へ戻る扉に歩いて行った。僕も素早く着替えて部屋を出る。
「すみません、遅くなりました。」
「鶴丸のことだ、彼方くんに死にゲーキャラのコスプレとモノマネを頼んだんだろう。鶴丸は基本的に無表情だが色々とわかりやすいからな…」
「図星ですね。女性キャラでなくてよかったです。」
「ん?彼方くんは……いや違う、トリガー踏むところだったのか。」
「はい、“役作りのための自己暗示をかける”……もっと正確に言うなら、“女性役作りのための自己暗示をかける”がトリガーですから。」
「やれやれ…そのトリガー、非常に限定的かと思えば彼方くんに関してはそうでもないんだよな…」
神代さんがため息をつく。それに苦笑いしながら僕は元の席に戻る。直後に僕の前にお茶が差し出される。
「紅茶です。」
「ありがとうございます、鶴丸さん。」
僕が一息ついている間に神代さんは僕のデータを確認している。
「ふむ…14年前に採寸したときと変化はそれほどなし…か。……さて、と……彼方くん。」
「はい。…実演でしょう?」
「割と半信半疑だからね。彼方くんと奈々ちゃんが変な噓をつくとは思えないが…」
「私達も本当なのかまだ疑ってる部分はありますから…この眼で見た方が早いと思います。」
「分かっていますよ。僕も少し落ち着いたので始めましょうか。」
そう言って僕はティーカップを置き、軽く目を閉じる。定義───“花園 七海”。それが僕の名前。
それから自己暗示をほとんど解いて、性転換後の状態を維持できる程度にする。何気に私って一度軽い自己暗示をかけると自己暗示を解き忘れる癖があるらしくて、中々戻らないんだよね。
…目を開けると視線は低くて、少し驚いた表情の神代さんがいた。
「…驚いた。まさか本当だったとはね。」
「え…悠奈、これって現実…?」
「……つねってあげる。というか私の頬もつねって。」
「ん……」
「「……いひゃい」」
咲月さんと悠奈さんを見ながら口を開く。
「…まぁ、驚きますよね…私も驚きましたし……」
「ふむ、やはり声も一人称も完全に女の子なのか。…突発性性転換症候群。話には聞いていたが、まるで魔法だな…」
その神代さんの言葉に思わず苦笑いする。
ということで実演させてみました。
突発性性転換症候群によっておこる性転換現象は割と真面目に魔法みたいな存在になってます。
“存在している”ことを知識では知っていても“実際に見る”のはやはり違う…のだと、私は思ってます。




