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No.23 採寸に向かう

新章にしようかどうか迷ったんですが結局新章にすることにしました。

章と章の区切りをどのあたりにすればいいかよく悩みます。

ガタン、ゴトンと車体が揺れる。昔からあまり変わらない電車の揺れ。


〔まもなく、間々田。間々田。お出口は左側です。The next station is Mamada. The doors on the left side to open.〕


「…この次が小山ね。」


「そうだね…香月先生……じゃなくて、咲月さん達との合流地点。どんな人達なんだろうね。」


「楽しみかしら?」


「それは、まぁ。好きな絵師さんなのは変わりないわけだし。」


実は何気に2人に会ったことがない。コミケに行ってもすれ違いのようになることが多かったからね。だから今日が初対面になる。


「奈々は会ったことあるんだっけ?」


「見かけた程度かしら…あまり印象はないわ。通話で話していた時も顔出し拒否されたもの……名前が大きいのは私も一応把握しているから気にしないようにしたけれど。」


「…そうか…」


そんな話をしていると電車が止まる。間々田駅に着いたみたいだ。


「短いとはいえ、寝そうだね。」


「電車って不思議よね…短くても眠くなるんだもの。」


「それは確かに。…寝ててもいいよ、咲月さん達が来たら起こすから。」


「いいえ、起きてるわよ。こうして一緒に電車に揺られるのも久しぶりじゃない。まして、宇都宮まで採寸に行くのなんていつ振りかしら?」


「高校以来だよ。…やっぱり、懐かしいね。」


そう言いつつ、スマートフォンを操作して咲月さんにメッセージを送る。宇都宮線15両編成普通電車宇都宮行───その2号車、ボックス席に僕と奈々はいる。結は今日はお留守番。一昨日に続いて愛海が来てくれたから任せてきた。メッセージを送ったところで電車が再度動き出す。


ちなみに今日の服装は白い半袖シャツに青い長ズボンというシンプルめの構成にしている。奈々は白いワイシャツに青色のフレアスカート、胸元に水色のリボンという学生に近い姿。…いやまぁ、僕と並んで歩いていると親子のようにしか見えないからカモフラージュ的にはいいのかもしれないんだけども。


奈々も僕も日焼け対策で紺色のカーディガンをその上から羽織るから、光の反射はそれなりに抑えられる。あと日焼けしたくない。


学生に近い奈々の服装だが、僕達のいた高校の基準となる女子生徒制服と似ているが、若干デザインが違うから当時の制服ではないのは確かだ。もっとも、基準となっている女子生徒制服を着ている人はあまりいなかったが。僕が知ってる校長先生で一番ノリがいい…というか適当というか、そういう校長が母校の校長だからね……確か今年還暦じゃなかっただろうか、あの人……僕の勤務する学校にたまに顔を出しに来るから今でも顔を合わせる機会は多いんだが、まだまだ元気なんだよな……


あとたまにコミケとか行ってるの知ってるぞ、僕。奈々も新刊を買いに来た校長を見てビックリしたらしい。


「……そういえばあなた。莉愛ちゃんから……来た?」


その奈々の問いで何を言っているのか分かった。


「あぁ……アーティファルの企業案件の事か。僕のところにも来たよ。」


「…どう思う?あなたの意見を聞きたいの。」


「……アーティファルも義理ではあるとはいえ家族の名前を使って騙すなんて事をするほど馬鹿じゃない。それに、莉愛に確認を取ったけど僕達を推薦したのは確からしい。受けても問題ないと思うよ、僕は。」


「あなたがそう言うなら、きっと大丈夫ね。」


そう言って奈々がため息をつく。それと同時に電車が止まる。


「おっと……小山だね。」


「えぇ、そうね。」


僕達の住む古河からたった3駅。それだけ進めば既に茨城県ではなく栃木県だ。本当に茨城県の端だね。


「あの……すみません」


「…うん?」


声に通路の方を向くと、2人の女性が立っていた。白髪の女性と黒髪の女性。どちらもまだ若い。


「えっと、“花神 奈々”さん……で間違いありませんか?」


「え?えぇ、そうよ?」


「……よかった……会えたよ、悠奈……」


「……落ち着いて、咲月。…えっと……」


白髪の女性が僕の方を見る。


「あぁ、僕は“花神 彼方”だよ。“花園 七海”……いや、“かなた”、と名乗った方が分かりやすいかな?」


「……本当に男性だったんですね。…と、申しわけありません名乗り遅れました───」


「名乗りは後にして座ってもらった方がいいだろう。ずっと立っているのも辛いだろう?」


「…それでは、お言葉に甘えて。」


「私も失礼します…」


そうしてボックス席が4人で埋まり、とりあえず自己紹介することになった。周囲に人が少なかったのは助かるね。


「それではお二人とも、初めまして。“夢咲ゆな”こと“夢川 悠奈”です。」


「同じく、“花咲香月”こと“香川 咲月”です。えっと、今日はよろしくお願いします…」


「こちらこそ初めまして。“姫華日奈子”、“夢園ヒナ”こと“花神 奈々”よ。」


「初めまして、“花園七海”こと“花神 彼方”です。まぁ、今はそう見えないのは分かっているから無理に合致させようとしないで構わないよ。」


性転換していないから合致させるのは難しいだろうからね。


「えっと…神凪先生は……」


「ミコちゃんなら今日は来てないわよ。私達の娘の面倒を見てもらっているから。」


「コミケであれば会えるから数週間後には確実に会えるよ。その前に何か会う口実を作るのも一手なんだが……」


「いえ、そこまでしていただかなくても…!」


「そうかい?それなら別にいいんだが…」


改めて2人をよく見る。悠奈さんが白のワンピース、咲月さんが黒のワンピース。色だけが違い、デザインは同じ。これは……


「「双子コーデ?」」


「…よく分かりましたね」


「というかお2人息ぴったり……」


「伊達に20年一緒にいないわよ。ね、あなた。」


「そうだね。」


「……悠奈、なんか口の中甘いんだけど…」


「……私も……視線の動かし方、完璧にシンクロしてたし…」


……視線の動かし方はただの偶然な気がするのだけどね。…ふむ。


「苦いポッキーであれば持っているけれど、食べるかい?」


「……どうしてそんなのを持っているんです?」


「僕達を見た人は大体口の中が甘いと言うから。」

「私達を見た人は大体口の中が甘いと言うから。」


綺麗に言葉が重なった僕達を見て悠奈さんがため息をついた。


「……少し、羨ましいです。」


「そう?」


「…私も、悠奈と一緒で少し羨ましいって思います。同時に、そんな関係にすごく憧れます…」


「…そう、面と向かって言われると少し照れるんだが。」


「「……可愛い」」


「でしょう?」


「やめてくれ、恥ずかしい…」


今は完全に素だからトリガーは踏まないが、恥ずかしいのには変わらない。“演技中に恥ずかしがる”がトリガーだから何か演技をしていたら性転換していたけれども。


ちなみにポッキーについてだが、夏はそのまま持ち歩くとチョコが溶けてしまうから保冷バッグに保冷剤と共に入れて持ち歩いている。別にクーラーボックスとかでもいいんだが、あれは場所を必要とするからね…



…とまぁ、雑談をしばらくしながら30分ほど。僕達は宇都宮駅に到着した。


「さて…咲月さんと悠奈さんはお昼は?」


「先に食べてきちゃいました。」


「…私もです。」


「ふむ。どうする、奈々?」


「そのまま行っても大丈夫よ。」


「分かった、ならそのまま行こうか。」


僕も奈々もあまり食欲はない方だから気にならない程度であればそのまま行動する癖がある。…あまり良くないとは思っているんだがね。


宇都宮駅周辺で目的の車を見つけ、窓を軽くたたく。それに気づいた運転手は窓を開けてくれる。


「おぉ、彼方くん。久しぶりだね。奈々さんも、お元気そうで。」


「ご無沙汰してます、田中さん。」


「お久しぶりです、田中さん。田中さんもお元気そうで何よりです。」


「はっはっは、私も割と歳は行っているとはいえまだまだ現役ですよ?」


その田中さんが僕の背後に視線を向ける。


「そちらのお嬢さん方は?まさか浮k───」


「そんなわけないでしょう。」


「…ですわなぁ。彼方くんと奈々さんのお互いの溺愛っぷりは社内でも有名ですからな。そうそう崩れんでしょう。」


そう言って笑う田中さん。小さくため息をついた後、咲月さんと悠奈さんに視線を向ける。


「こちら、“田中(たなか) 浩一(こういち)”さん。今日これから行くメーカーさんへ送迎してくれるドライバーさん。」


「ご紹介に預かりました、田中といいます。先程はからかってしまって申し訳ありませんな。代表より聞いております、今回初めて採寸を行うお嬢さん方ですな?」


「よ、よろしくお願いします…!“香川 咲月”です…!」


「“夢川 悠奈”です…今日はよろしくお願いします。」


「はっは、採寸するのは私じゃありませんよ。私はただの送迎ドライバー、送り迎えをするだけの人間ですぞ。ひとまず皆さん乗ってくだされ、彼方くんは助手席でいいですかな?」


「えぇ、お願いします。」


そう答えて僕は助手席に。後ろの座席には咲月さん、奈々、悠奈さんの順で乗った。それを確認した田中さんが車を出す。


「いやはや、彼方くん含めて4人と聞いたときは、愛海ちゃんや結ちゃんまで来たらどうしようかと思いましたよ。」


「定員オーバーですか…」


「ですです。それでもまぁ、彼方くんの言葉を信じて普通車にしたんですがね。」


古河を出る前に田中さんには連絡しておいた。その時に4人と言っておいたから、少し迷ったのだろう。


「あの、奈々さん。彼方さんと…田中さん、でしたっけ。お二人はお知り合いなんですか?」


「え?…私も詳しくは知らないけれど、小学生の頃からの付き合いだと聞いたことあるわよ?そうよね、あなた?」


「そうだね。」


「正確には彼方くんが物心つく前からなんですがね。彼方くんのお爺さんにはよくしてもらったものですよ。」


「…物心つく前からというのは初耳なんですが?」


「言ってませんでしたからな。それに、彼方くんも覚えておらんでしょう。」


「…まぁ。」


それは事実なので仕方がない。


「小学校と言えば……修二くんがこちらに来ているんですよ、彼方くん。」


「彼が?」


「はい。まぁ、修二くんには今日彼方くんが来ることは知らされてないんですがね。」


「…なんとなく理由は分かりますけど、どんな反応するでしょうね……」


「はっはっは。それが楽しみで知らせていないのもあるのでしょうなぁ。」


「たまに意地悪なところ出てませんかね、ホント…」


ため息をついたと同時に1つ思い出した。


「そういえば、今回の夏コミは祖父が来るそうですよ。」


「おぉ!彼方くんのお爺さんが…それはぜひ行かなくては!…と言いたいところではあるのですが、当日休みが取れますかな…」


「さぁ…」


「まぁ、休みが取れなかった場合は彼方くんにお願いしましょうかね。それと奈々さん…」


「来れなかった場合の新刊なら今度届けに行くわ。」


「それは凄くありがたい。妻も娘も、奈々さんの新刊は楽しみにしてますのでね…」


「…あの、失礼だと思うんですが、彼方さんのお爺さんっておいくつなんですか…?」


咲月さんの質問に少し悩んでから口を開く。


「僕の計算が正しければ77歳だね。祖母も同じく、だ。」


「私が52歳で彼方くんのお父さんの2つ下の後輩ですからな。…もう私も還暦が近いんですなぁ。おっと、着きましたぞ。」


昔の話とかをしているといつの間にか目的地に着いていたみたいだ。


「宇都宮駅からそこまで遠くないわよね、やっぱり…」


「そうですな。特に彼方くんと奈々さんはよく歩いてきますから、歩いてくることも可能だったでしょう。それでも今回利用したのは………いや、やめておきましょう。200円です。」


「「安っ!?」」


咲月さんと悠奈さんが驚く。…まぁ、ここのは初めて使えば誰だってこうなる。


「そりゃまぁ、タクシーじゃなくて送迎ですし。」


「送ってもらう場所によって値段は変わるが、基本的には1,000円以下で送ってくれるよ。」


「ただし、出発点か到着点のどちらかがここの系列でなければいけませんがね。」


支払いを済ませて車を降りる。僕達全員が降りると田中さんは駐車場に停めてきます、と言って走り去っていった。


「…さて。咲月さん、悠奈さん。ここが僕達の衣装を作ってくれるメーカーさん───MilkyRain(ミルキーレイン)さんだよ。」


「ミルキー……えっ!?あ、あのMilkyRainですか!?」


「え…そ、そんな有名企業に……?」


「あまり硬くならない方がいいと思うわよ。ここの人達って基本緩いから気を張りすぎてると疲れてしまうわ。」


…実際、僕と奈々は身長の関係とかもあって昔からよく利用していたから、なんというか実家のような安心感があるのだが…咲月さんと悠奈さんの反応を見るに、そうもいかないものだろうか。


「「……奈々さんと彼方さんって一体何者…?」」


はて。奈々はともかく僕はただの一般人な気がするが。

ちなみに電車は割とちゃんと調べました…

雪降ったあとだったから寒かった……

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