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No.21 奈々の目的

今更ですが作品内の日付は7月26日の月曜日です。

…定期的に書いておかないと私でも忘れそうです。

奈々がお風呂から出た後は一緒に冷やし中華を作ってお昼ご飯にした。流石に麺は手打ちじゃなくて市販のだよ。


奈々って別に料理下手じゃないし、料理嫌いでもないからね。むしろ上手な方だと思うし、好きな方だって言ってた。家事も嫌いじゃないわけだし。


それでも3週間前に奈々の家に行ったとき、洗い物とか溜まってたのは色々やってて手が回らないから。忙しい時はそういう風になるから私としてはすごく心配。頑張り屋さんなんだから、もう…


それで───今は奈々に洗い物を任せて、私は自室で動画編集中。私がやるって言ったんだけど奈々に押しきられちゃったんだよね…何しててもいいから自分の部屋で待ってて、って言われたからとりあえずGoSの動画編集してるけど…


「……うぅ」


辛い……虫って私が苦手なだけじゃなくて結も奈々も苦手なんだよね……虫が大丈夫なのは愛海と…あとゆーくん…奈々の弟君くらいかな…


幸い、ブラインドタッチ…じゃなくてタッチタイピングはできるからね。目を瞑って音だけ聞いて、それを字幕に起こすくらいは。効果とかつけるのは無理だけど…



コンコン



「はーい」


「入るわね。」


「どーぞ!」


いくら防音仕様の扉でもノックの音は通る。で、小窓も開けたままだったから音は内部に通る。PCをスリープモードにしたところで奈々が私の部屋に入ってきた。


「……加奈の部屋に入るのも久しぶりね。以前より可愛いもの増えた?」


「あ、うん。少しだけだけど。」


キーボードも可愛くなったからね。以前のだと大きくて使いにくかったから、小さいのにしたの。


「ふふ……落ち着くわね。」


「落ち着くよねー。お腹いっぱいになったところだし、一緒に寝ちゃう?」


「………遠慮しておくわ…」


「…そう……」


表情で葛藤してるの丸分かりなんだけどね。


……別に私は、奈々になら襲われたっていいのに。


「…それで、今日は何の用事で来たの?明日の採寸のことだけなら今日から泊まりがけで来る必要もないでしょ?わざわざ用事があるってことで空いてる日を聞いてるし。」


「加奈って時々鋭いわよね……」


「そもそも採寸の話自体は昨日決まったことだからね。」


2日後に来てもらっていいっていうお相手さんもお相手さんかもだけど。


「…ええと…こっちを向いて、目を閉じてくれるかしら?手は膝の上に乗せておいてちょうだい。」


「え?…まぁ、いいけど。」


奈々に言われた通りに椅子ごと奈々に向き合い、手を膝に乗せて目を閉じる。


「目を開けていい、って私が言うまで開けちゃダメよ?」


「う、うん。」


…人によるけど、目を閉じると他の感覚が研ぎ澄まされるんだけどね。私の場合は主に聴覚と触覚。GoSを視界無しでプレイできてるのはこれのお陰。


奈々のいた場所で何かを漁るような音。発信源の高さは床から大体2cm範囲。カバンを持って部屋に入ってきてたからそれだね。


次いで私に近づく足音…と、部屋の外に足音。この部屋の外の音……結?確かに開けっぱなしだった気がするけど……あ、慌てた感じで階段降りていった。


それから左手に触れられる感覚。続いて甘い香りと口許に触れる柔らかいものの感覚。甘い香りは家のシャンプーだね。……それで…


「…目を開けていいわよ」


「んっ…」


目を開けるとほんのり紅くなった奈々の顔が目の前にあった。…まぁ、うん。その…………うん。


「……うん?」


左手に違和感を感じて左手を挙げる。そして、その違いにすぐに気がつく。


「───ぁ……どう、して……?」


左手の薬指にキラリと光る指輪。…私が性転換すると失ってしまうもの。


───私と奈々の、結婚指輪。


奈々の左手を見るとちゃんと指輪が嵌められてる。だから奈々の指輪じゃない。指輪のデザインは性転換前のと一緒だけど、今の私の指の大きさに合わせて小さくなってるみたい……


「どう…して……?」


「…見てれば分かったわ。指輪がないこと、ずっと気にしてたじゃない。だから───もう一組、用意したの。」


そう言って奈々が手元の指輪ケースから取り出したのはもう1つの指輪。受け取って見てみると、それは奈々の嵌めてる指輪のデザインだった。私の指輪のデザインも、奈々の指輪のデザインも…よく覚えてる。それと完全に一致するけど…


「……このデザイン、よく残ってたね…」


「だって、捨ててないもの。何かあったときのためにずっと残してたわ。まさか、こういう形で使う時が来るなんて思わなかったけれど。」


「……」


視界が歪む。これは───涙、だよね…?


「奈々…」


「うん?」


「ありがとう…」


「……私は何もしてないわよ?」


「何もしてないわけ……ない。」


何もしてなかったら…なんで、私があってほしかったものをわざわざ用意して、持ってきてくれるの……?


「……泣いてもいいわよ。」


「ふぇぇぇっ……」


奈々の声が心に染みる。声を合図に涙が溢れる。歪んだ視界のすみで、奈々が扉を閉めたのが分かった。


「……」


「ふぇぇぇぇ…!」


泣いてる間、奈々は静かに私のことを見ていてくれた。



……そうして、しばらく泣いたあと。落ち着くと同時に恥ずかしさが込み上げてくるのは仕方ないと思うんだ。だって私32歳男性だよ?…この姿じゃ説得力ないけど、一応。


…やっぱり私、涙脆くなってるのかな…?女性になったから?それとも子供になったから?性転換前と比べて、感情の制御がうまくいかない気がする。


「…改めて……ありがとう、奈々。」


「…いえ、私は特に大したことはしてないわよ。」


「……そう言いつつ、新しい指輪も重ね付けしてくれるのホント……」


「あなたが男性の時でも、女の子の時でも、あなたとの結婚の証は身に着けていたいもの。あなたもそうでしょう?」


「……うぅ。」


事実だから何も言い返せないよぅ……


「ホント……大好き。」


「っ……私も大好きよ。」


「ねぇ、今、尊死しかけたでしょ。」


「なんで気づくのよ。」


ちょっと違和感あったから気付くよ。…まったく、もう。


……でも、私は…


「奈々?」


「うん?どうし───」


「…ん、しょ。」


「わっ、ちょっと、加奈!?急に…!」


「…えへへ♪」


「アッ、かわ───」


私は───そんな奈々が、本当に大好きです。

結婚指輪を新調……というか、新しく作って加奈ちゃんに贈る、というのが奈々さんが彼方さん達の住む家に来た理由でした。

口の中が甘くなるってこういうことかしら…

前話後書きでも書きましたが、彼方さんはどちらかといえば受け側の人間です。彼方さん自身は奈々さんになら襲われてもいいと思っていますし、もっと踏み込んで言うと奈々さんになら壊されてもいいと思ってます。

これが狂った愛なのか純愛なのか。私にはよく分かりません。

それで…加奈ちゃんは状態が“子供”ですので非常に感情の制御が緩くなっています。なので自分の感情を隠し通すことが難しいです。このあたりも多分指輪がないことで悩んでいることに気づかれた要因かもですね。

描写してませんが、実は悩みがあること自体には奈々さん以外も気付いてます。ほとんど一緒にいる結ちゃんが筆頭ですかね。ですが、その悩みの原因である“結婚指輪がないこと”へ一瞬で辿り着いたのは奈々さんだけです。愛の力ってすごい。

ちなみに最後は加奈ちゃんが奈々さんの正面から抱き着いたんですけど。…母娘にしか見えない気がするのは気のせいですか。

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