No.20 奈々の帰宅
奈々さん登場!
時間がかかるなぁとは思いつつ。
未だに文章量の加減は分かりません。
GoSの初撮影を終えた次の日。私は編集をしながら人を待っていた。
「…うぅ……分かりきってはいたけど編集も辛い…」
…ただし涙目で。仕方ないじゃん、本当に虫はダメなんだよ……一応サングラスとかかけて見えにくくしてるけど、あんまり効果はないかな……
…あと。
「意識失ってた時に叫んでたことなんて分かんないって……」
私が言った記憶がないことが映像に記録されてた。カットする必要もなさそうだから別にいいかな。
ちなみに、私達が住んでるこの家って個人の部屋の壁と窓は全部防音壁と防音窓になってるからよほど大きな声で叫ばなければ外部に音が漏れることはないんだよね。私が歌うの好きだったのもあってこうしたんだけど。部屋の外部と内部を電話とかを使わずに声を通すなら、扉を開けたままにしておくか……扉に付けられてる小窓を開けるかになるかな。
リンコーン
それで、インターホンの通知音は各部屋に届くようになってる。通話自体はキッチンまで行かないとできないんだけど、こちらが反応したことを知らせることはできる。具体的には外のドアホンに機械音声で“少々お待ちください”って言わせることができる。
「対応待機申請……っと」
その機械音声対応を入れてから部屋を出てキッチンに。相手の姿を確認して玄関に向かう。玄関の鍵を開けて扉を開けるとそこには見覚えのある姿。
「おはよ、奈々。」
「おはよう、加奈。お邪魔します……が正しいのかしら、私って…」
「ただいまでもいいんじゃない?」
私の妻、奈々。いまは私の方が背が低いから、奈々をちょっと見上げる感じになるね。
「…それなら。ただいま、加奈。」
「おかえりなさい、奈々。」
……久しぶりに、この家に一家全員が揃ったね。
「外、暑かったでしょ?先にお風呂にする?それともご飯にする?」
「……身構えたわよ、一瞬。」
「…………やってあげようか?」
「いえ……というか、分かってて言ってるわね?」
「もちろん。何年の付き合いだと思ってんの。」
「…20年ね。」
そうだよー、と笑いながら数歩退く。それを見て奈々が玄関の鍵を閉めて、靴を脱いで土間から上がってきた。
「この家のお風呂の場所は覚えてるよね?そこを……っと」
お風呂の場所を確認しようとした時、不意に奈々に引っ張られて体勢を崩した。そのまま奈々に身体を預けるように抱きしめられる形に。
「…奈々?」
「………」
「………」
ここ玄関なんだけど…まぁ、いっか。
体から力を抜いて完全に奈々に身体を委ねる。
……落ち着く。
「───奈。加奈。」
「……んぅ…?」
「あぁ、目が覚めたかしら?」
気がつくと私は奈々の腕から解放されていて、揺すり起こされていた。
「ごめん、私寝ちゃってたんだね…」
「いえ、私は別にいいのよ。気にしないで。」
辺りを見渡して、奈々を見上げる。
「30分ほどよ。そこまで寝ていないわ。」
「…そっか。」
そんな会話をしていると、お風呂の方から足音がした。
「あっ、加奈お姉ちゃんおはよー!」
「おはよ、結。…えっと、もしかして……」
結の部屋からお風呂まで行くには玄関付近を通る必要があるんだけど。奈々が来たときのインターホンの通知は結の方にも届いてるはずだから、まず奈々を探すと思うわけで……
「えへへ……すごく安心したような顔で寝てるの見ちゃった。」
「やっぱり……」
何となくそんな気はしてた。
「…とりあえず、奈々はお風呂かご飯かどっちを先にするの?」
「そうね…先にお風呂に入ろうかしら。」
「せっかくだからママと加奈お姉ちゃん、2人で一緒に入ったら?」
「「………はぇ?」」
結…?一瞬理解追い付かなかったよ?いや確かにこの家のお風呂それなりに大きいけど。
「……さ、流石に遠慮しておくわ……私が何をしでかすか分からないもの…」
「逆に何をするつもりなの、奈々は…」
「………」
あ、目を逸らした。まぁいいや、結の前だし深く追究しないであげよ。…大体分かるけど。
「じゃあ、私は居間で奈々のこと待ってるね。お風呂出たら声かけて。」
「えぇ、分かったわ。」
私が立ち上がると奈々も立ち上がって、それぞれ目的の場所に向かった。
「あ、ママー。ちょっとお風呂熱いかも…?」
「大丈夫よ、結。私もお風呂の温度高い方だもの。」
そういえば奈々ってお風呂の温度45℃だっけ。私は43℃で結は41℃。……覚えてるものだね。
───花神奈々視点
「……ふぅ」
かなり久しぶりにこの家のお風呂に浸かって一息つく。
「……広いわね」
私が1人で暮らしている家よりも、ずっと。いえ、元々この家は私とあの人…彼方さんと、それから子供達とで住むつもりだったから当然なのだけど……
「……はぁぁぁ……」
大きく息を吐いて身体の力を抜く。
「……自制……できてよかったぁ………」
あの人、女の子になったことでより可愛くなっているんだもの……本当に自制できてよかったわ……
あの人のことが推しである以前に、私はあの人のことが好きだから。だからこそ、抑えが効くか分からなかった。一度抑えが効いたとしても、次は抑えが効くかどうか分からない。いつか抑えが効かなくなって、あの人のことを滅茶苦茶にしてしまうのが…すごく、怖い。…だから、嫌われるかもしれないという危険を冒してでも別居という方法をとった。
……正解だったかは分からない。けれど、あの人は…彼方さんは、加奈になっている時でも以前と変わらず接してくれている。
もっと怖いのが、女の子になったことで昔より可愛さが増していること。私が可愛いものが好きなことは知っているはずだし、可愛いものに弱いこととあの人自身に弱いことは理解しているはず。時々会うだけでも私は私を抑えきれないかもしれない。
「………私の身体、もつかしら…」
今日と明日、私はここで寝泊まりする。今日はとある目的でここに来てるし、明日は加奈と香月さん達とで採寸に行くから。……あの人を襲ってしまわないか、それが本当に心配ね…
……実際、いまさっき結に加奈と一緒にお風呂に入るか提案された時とか危なかったもの……
「……あの人を襲ってしまうのも時間の問題なのかしら…それが彼方さんの時なのか、加奈の時なのかはわからないけれど。」
…そんなことが起こらなければいいけれど。
……それはそれとして。今回の私の目的。
「……加奈の“悩みの種”。解消してあげないと…ね。」
あの人が私の考えていることがなんとなく分かるように、私もあの人の考えていることがなんとなく分かる。突発性性転換症候群になって、最初に身体の採寸をしたときからずっととある悩みを抱えていることも。
その悩みは……きっと、私にしか解決できないから。
お風呂に~のくだりで立場逆じゃない?と思った方。多分正解です。今話だと見た目百合でどちらが妻でどちらが夫か分かりにくくなってますが、加奈ちゃんこと彼方さんが夫で奈々さんが妻ですので。
実際のところ、攻めと受けの概念で話しますと、彼方さんはどちらかといえば受け側の人間です。対して、奈々さんはどちらかといえば攻め側の人間です。
ちなみに彼方さんは例のアレを言うと奈々さんに襲われかねないことも理解しています。それでもあえて言ってる部分は実際あります。
…え、攻めの反対は受けじゃないって?……え?違うの?