No.116 桜の巫女と狐の巫女
なんか……なんか納得いってないんですけど!!
そろそろ待ってくれている人達に本気で申し訳なくて罪悪感に押し潰されそうなので投稿します!!
変なところあったら遠慮なく指摘してください!!
〔……なんだこリャ〕
〔凄まじいですね……〕
コメント:
:桜の巫女と狐の巫女の競演……なのか共演なのか
:別に競ってるわけでもないし共演でいいんじゃないかね
:姫は男の娘だから巫女ではないけど……まぁいいか、んな些細なこと
:些細?
:些細……?
:些細ではない気がするがもういいやってなるわ
:可愛ければそれでヨシ!
:ヨシ……?
:ヨシ……なのか?
:神職の人聞いたら怒るんじゃなかろうか
:実際の話……姫が木属性、ヨウちゃんが火属性だから良い感じに木生火の関係になってダメージ上げてそうやね
:でもこれ2人とも攻撃型だよな…?
:多分
:攻撃型同士でダメージの奪い合いになってないのは長年の絆を感じる
:もう10年もの付き合いになるんだもんな、2人って……
:だよなぁ
〔というか、ヨウさんの強化なんて初めて見たんですが?〕
〔ソーなのか?〕
〔えぇ。彼女、強化盛装はあまり使いませんから…〕
コメント:
:確かに
:確かにね
:ヨウちゃんって“術式変化”の方を多用するからあまり見ないよね
:術式変化ねぇ……
:あれ、昔誰かが恥ずかしくないのか聞いたらヨウちゃん黙ったよね
:んね
:一応気にはするらしいね
:一応言われない限りは気にしないようにしている模様?
:気にしすぎて負けたらどうしようもないから、とかって言ってた
:ヨウちゃんって割とメンタル強いよなぁ……
〔……デ。リリアンさんはさっきから何しテンだ〕
……まぁ、確かに気になる。
リリアンお姉ちゃん、ずっとキーボード叩いてるし。
〔え?あぁ…サーバーへの負荷とVRマシンへの負荷を調べてるだけですよ。特にななみさんとユウさんの負荷は凄まじいものになっているはずですから。〕
〔ほーん…?〕
〔……本当は管理者権限でドリームスキャナと繋げられないかと思ってたんですが流石にやめました〕
〔それはヤメトき……っつーか、リリアンさんの管理者権限、っテェと……〕
〔…総合管理者権限、ですかね?〕
〔いえ外部管理者権限ですけど……〕
コメント:
:あ、外部なの?
:外部なんか
:外部なのか
:てっきり総合だと
:確かに
:実際ドリームシリーズだと総合管理者だもんな…
:てかリリアンさんの口振りからしてイメージスキャナにも外部管理者権限存在してるんだ?
:あ、言われてみれば確かに
〔ドリームシリーズは自社製ですから。それと、イメージスキャナにも一応外部管理者権限は存在してます。…ドリームシリーズの方と同じで特殊認証必要ですけど。〕
〔特殊認証ネぇ……ま、いいか。それより…〕
実況さんがゲーム画面───恐らく龍に纏わりついている紫色の炎に視線を向ける。
〔ナンだあの炎〕
〔さぁ〕
〔ヨウさんが紫色の護符を放ったら現れたのは見えましたがそれ以上は…〕
〔何も宣言してませんでしたし記術石由来ですかね?〕
〔記術石ネェ。…こーいう時はリスナーの方が知ってるか?〕
コメント:
:おう
:おうよ
:護符“怨恨紫炎縛符”やな
:ヨウちゃんの保有する記術石である“九尾狐”の:で出現する護符の一つ───“怨恨紫炎縛符”
:効果は名前の通り、かつ見ての通りで紫の炎で相手を縛る
:ちなみに実体はないけど簡単に逃れることはできなくなってるらしい
〔おう…マジカ〕
〔怨念……怨霊とかの類なのでしょうか?〕
コメント:
:んー…
:一応怨霊は姫の管轄なんよな
:ねー
:そういやリーダーズの管轄分野って微妙に不明瞭な部分あるよな
:あー
:妖怪も神様も極論を言えば“霊”ではあるからなぁ
:どうやって区分分けしてんだろ
:なんか前に言ってた気もするけど……
:んーと…ヨウちゃんが言ってた話ではどうだっけ
:確か明確な肉体があればマナちゃんが管轄する“魔者”、神格が存在すればシンちゃんが管轄する“神”、明確な形があればヨウちゃんが管轄する“妖怪”、明確な形がなければユウちゃんが管轄する“霊体”として区分分けしてるんじゃなかったっけ?
:シンちゃんて
:シンちゃんて……一応あの人も神様やぞ
:あの方男の人だぞ……
:忘れるなかれ、姫も男の娘…
:人間は何処の区分なんですかねぇ
:一応普通の人間は魔者……に該当するらしいけどそもそもスポットライブのライバーに普通の人間おらんのや……
:マナちゃんも魔女だから普通の人間とは言い難いしな…
:基本みんな人化態持ってるだけだもんなぁ……
〘グォァァァァァ!!!〙
咆哮……
〘ユウさん狙いでフォーコが来る〙
〘了解っ!〙
〘ななみちゃんはなんで分かるのホントに…〙
〘そんなこと言ってそこで留まってるとヨウさん狙いでメタロが来るから避けて〙
〘あ、はい〙
その指示を聞いた2人が墨で出来たオブジェクトから跳ぶと火柱のあとに遅れて鉄塔が生成された。
〘ホントに来たよ…〙
〘すごいよね…〙
〘お二人共、新しいオブジェクトを描画しましたので使ってくださいませ…!〙
〘支援もかけ直しておきますね…!〙
〘ヨミさんもリンネさんもサポートがホントにすごい……〙
ユウさんとヨウさん以外は画面に映ってないからお姉ちゃんのルーンストーンから話してるんだよね、これ…
コメント:
:2人ともだいぶ高レベルだからな
:リンネちゃんとヨミさんはソロよりもマルチでその力を発揮するタイプだからねぇ
:元より支援系プレイヤーはマルチで輝くのが基本なのであって支援系プレイヤーがソロでだいぶ戦えるこのゲームが異常な気もするでな
:あー
:うーん
〘んー……ヨミさん、空中に壁って作れる?〙
〘壁…ですか?作れますが…一体?〙
〘壁を足場に空中で方向転換する気?〙
〘ななみちゃん正解。2層構造で……1層目は普通だけど、2層目はドロドロな感じがいいかな?強い衝撃を受けると1層目が割れる感じにしてくれると拘束とかしやすいかなぁ〙
〘ドロドロ……〙
コメント:
:がたっ
:ガタッ
:ガタッ
:姫ぇ!!
:ねぇ姫、わざとじゃないよねぇ!?
:無防備すぎるってぇ!!
〘いや、ヌルヌルとかネバネバって言わなかっただけまだマシじゃない…?〙
〔ア、コレ自配信でもツッコまれたナ?〕
〔でしょうね……〕
「ドロドロ……?」
「深く突っ込まないほうがいいわよ、結。」
「あ、うん…」
あ、ママがこう言うってことは18歳以上の描写関連だ……流血とかじゃない方の…
存在そのものは認識してるけど苦手意識あるんだよね…あと今の私が触れるべきじゃないっていうのも。
〘わ、わかりました。指定されたオブジェクトの生成をしますね……と言ってもどうすれば…〙
〘そもそも姫、ドロドロした壁なんて作れるの?〙
〘描写師は作れるって聞いたことあるんだけど……〙
確かに私も聞いたことある……
〘ヨミさんは和色魔染描写師だよね?“染液粘化”っていうスキル持ってない?〙
〘え……っと。確かにそんなスキル取ったような気がしますけども…〙
〘待ってくださいななみちゃん、和色魔染描写師って何です??〙
〘……待って逆になんでカナさんが知らないの?〙
〘いや先輩が和色描写師なのは知っていますが魔染とは…?〙
コメント:
:なんだそれ
:なんやそれ
:確か和筆……和色を専門に使う魔染描写師のことだったはず
:魔染描写師ってなんやねん
:魔染描写師ってのはヨミさんみたいにスキルで使う色を指定する描写師のことや
:本来描写師は絵の具とか必要なんやけどスキルで色を否定することによって絵の具を用意する必要がなくなるんよ
:普通の描写師と違ってMPが続く限り永遠に描き続けられるのが魔染描写師……ま、普通の描写師がまずいないって話はある
:ほへー
:ちな、洋色描写師の例はここにおらんけど“絵魔師”のマナちゃんやな
〘な、なるほど……それで、染液粘化というのは…?〙
お姉ちゃんの声から魔染描写師の説明を聞いたカナさんの声が更に質問を重ねた。
でもその質問に答えたのはお姉ちゃんの声じゃなくて───
〘カナさんは平塗りをご存知ですね?〙
〘平塗り……?って、確か美術の授業とかでやった記憶が……結構大量の絵の具を使う塗り方ですよね?〙
〘えぇ、それです。大量の絵の具を使う関係上、その染色液は物理的に“重く”なりやすいのです。絵の具に対して溶解水の量を多くすれば、それは軽くなるのですが…そこは今は関係ありませんよね。〙
一瞬そこで声が途切れる。
〘“墨染”。カナさんは知っていると思いますが、着色スキルで付けた染色液は通常このようにサラサラとしていて平塗り向きではありません。どちらかと言えば風景画などに向いている染色液なのです。〙
〘そう……ですね?〙
〘ですが、ここに“染液粘化”を加えると……このように。〙
〔……コッチにゃミエねーな〕
〔ですね。視点カメラ変えておけばよかったかもです…〕
〘…要するに、“染液粘化”とは平塗り用の染色液にするスキルなのです。〙
〘なるほど…〙
〘知ってはいたんだね、ヨミさん……〙
〘えぇ、知識としては……使ったことはほとんどないのですが。生成できるオブジェクトも通常より重いですし。〙
〘まぁその生成物、液体……準固体?みたいな感じだからね。重いに決まってるよ。〙
〘……ななみ様の知識量ものすごい気がするのですが…?〙
〘そうでもないよ?ていうか様付け……まぁいいや〙
〘いや本当にすごいと思いますけど…〙
コメント:
:すごい通り越して大分異常域なきがする
:なんかななみちゃんこのゲーム内に存在する全スキル知ってそうで怖い……
:確かに
:確蟹
:ほんとそうね
:てか様付けいいのね
:思った
:でもななみちゃんって運営側の人間じゃないよね…?
〔違うハズだよナ……〕
〔えぇ、少なくともこのゲームの運営の人間ではないはずですね……〕
コメント:
姫華日奈子:このゲームではただの長時間プレイヤーなだけよ
:はえー……
:はぇ……
:……このゲームでは?
:このゲームでは……?
:って?
:なんだ???
〔まぁ…私、案件でテストプレイお願いしてますし……〕
〔アー……〕
〔そういえばそうでしたね……あれって日程決まってるんですか?〕
〔予定では年末までにはβテストを開くつもりですよ。〕
〔オープンなんか?クローズなんか?……って、ノリで聞いちまったがこれ聞いてもよかっタンか?〕
少し不安そうな表情をした実況さんにリリアンお姉ちゃんが小さく笑う。
〔問題ないですよ、今回制作中のゲームの情報共有に関しては私がほぼ全権限持ってますし…社長からも自由に発信していいと言伝されていますから。〕
〔お、おう〕
〔βテストですが、現段階では一応クローズ……様子を見てオープンにしましょうとの話になっていますね。〕
〔……ホントあんたらって企業秘密って言うことねぇよなぁ……〕
〔そうですね……〕
〔……あの、私から話を始めておいてですけどこっちのゲームの話題に戻りませんか?〕
〔……ですね〕
〔ソーダな…〕
コメント:
:そやな
:せやな
:割と興味深い話題だったけど戻らんとな
:そういや姫もヨウちゃんも魔法使わずに飛んどらん?
:そういえば確かに
:あれってなんじゃろ
:姫のはわかんないけどヨウちゃんのは“変幻妖狐の紫炎羽衣”が理由やんね
:なんそれ……って思ったけどヨウちゃんのあの炎か
:そそ
:あれこそがヨウちゃんの記術石の強化盛装の本質……本体やな
:護符はあくまで付属品みたいなもので本体はあの炎なんよな……
:てかヨウちゃんってそう見ると記術石も含めて全身変形装備みたいなもんよな
:確かに
:全身変形……
:全身変形かぁ
:全身変形装備とかいうロマンの塊みたいな言葉……
:言いたいことは分からんでもない
:古来から変形はロマンの塊やからな
:でもヨウちゃんのそれは相当扱い難しそうやぞ
:んね
:今は鎧みたいに身体に纏ってるけど…
〘ヨウちゃん!〙
〘ありがと!〙
ユウさんが攻撃して花が集まったところに紫色の炎を纏った鎌を叩き込むヨウさん。
花が炎に反応して火の力を強める木生火を引き起こしてダメージが増える。
〘姫!その花って撃てる!?〙
〘分かんない、けど多分攻撃付随効果だから無理!!〙
〘なら、これで!!〙
ヨウさんが片手を龍の方に突き出すと紫の炎が弾のように発射されて、龍に直撃する。
〘グルルル……!〙
コメント:
:今みたいに炎を武器に移動させて属性エンチャだったり属性弾みたいに使うこともできるわけだ
:あとは飛ぶ斬撃みたいにもできるって話よ
:ほへー……
:はぇ……
:てかヨウちゃん、姫との相性良すぎんか
:確かに
:それは確かに
:本来ユウちゃんが水属性でヨウちゃんが火属性だから相性良くないはずなんだけど攻撃付随効果が木属性だから偶然相性が良くなってる感じかなぁ
:あー……
:うーん…?
:いやそれだけではない気がするのよね
:確かに属性相性で見るとヨウちゃんが姫に不利なんだけどこれに関しては属性相性以前に本人達の精神相性の問題な気がする
:まぁ言うて10年以上の付き合いですし
:まぁねぇ
:割とガチな信頼感じ取れるもんな
:知ってるか?これでも連携精度は2人とも自分の配偶者……旦那様、奥様よりは劣ってるんだぜ…?
:これでも……
:これでもなぁ
:あれはマジで阿吽の呼吸
:なんも会話してねーもん
:声の合図なくただ目線で会話してるもんな
:時には目線すらなく完璧に合わせるからな
:てかスルーしてたけど“攻撃付随効果”ってなんやねん
:それ
:何それ
〔攻撃付随効果っていうのは攻撃に合わせて発生する属性ダメージや状態異常蓄積、特殊ギミックとかをまとめた言葉ですね。〕
〔一応チュートリアルとカニも書いてアルよな?〕
〔まぁ……読まない人多いでしょうし〕
コメント:
:はへー
:はえ
:……まぁ
:チュートリアルはあんま読まんな……
:まぁ、そう考えると姫の使ってる記術石は花の特殊ギミック、ヨウちゃんの使ってる記術石は火の属性ダメージ…ってなるのかねぇ
:あんまり属性ダメージは攻撃付随効果って呼ばれないけどね
:ねー
:にしても……魔術的な変形を起こす記術石と物理的な変形を起こす双剣か……
:まじで全身変形装備なんやなぁ
:そういやヨウちゃんは記術石の方の変形を“'擬似変質”って言ってたかも……
:変質?
:変質……?
〔……変質、ねぇ。〕
〔変質はこのゲームに存在する変形とは別のシステムではありますが……〕
そこまで言って少し悩む表情になる運営さん。
〔……ドーなんだろーな?〕
〔…さぁ……使い手次第ですから。〕
〔使ってくれレバ割とありがタイ部分はあるが…運次第カ〕
コメント:
:運次第……
:運次第?
〘“魔力纏”───皆、爆音に注意して!!〙
その言葉にヨウさんが耳を塞ぐ。
〘全員耳塞いで!!!早く!!!〙
それとほぼ同時に似たお姉ちゃんの警告が響く。
〔解説!!音量下げロ!!!!〕
〔は、はいっ!〕
魔力が電気のようなエフェクトに変わったのを見て急いで会場内にいる全員の耳に見えない糸を張り巡らせて───
〘───っ!!〙
ガァァァァァン!!
〘ゴァァァ!?〙
「っ!?」
「「「ひゃっ!?」」」
ユウさんが刀を振ると同時に雷が落ちたような凄く大きな音がして、龍が怯む。
……この場所の人達は糸で保護したからこの程度で済んでるけど。
コメント:
:ぎゃぁぁぁぁぁ!!
:うわぁぁぁぁぁ!!
:耳がぁぁぁぁぁ!!
:あれ何も聞こえない……
:あれ音ないなった
:やっべ油断してた……
:あっぶね間一髪
〘〜〜〜〜!相変わらずその技すごい音だね、姫!〙
ちょっとした文句を言いながらもヨウさんが怯んだ龍に攻撃する。それを見ながら糸を解除。
……それにしても、ユウさんが使ったあの技は…
「「“空鳴”…」」
技の名前を呟くと愛海お姉ちゃんと声が被って顔を見合わせる。
「「だよね……」」
愛海お姉ちゃんといっしょにため息をつく。
花神流礼剣術 黄の一刃 空鳴。
礼剣術は鳴剣術とは逆の活人剣に位置する技。
属性としては“土”。さっき起こった通り轟音を発する技なんだけど、その轟音そのものに防御判定……正確には打撃判定が存在する。…こんな風に言うとゲームみたいだけど、実際に霊力で打撃を発生させてるわけだからなんとも。
そもそも、花神流の活人剣と活人拳は最少の死者で済ませる、ではなく相手を無力化することに重点を置いた技が多いんだよね。
空鳴もそう。音の防壁によって相手の攻撃を防ぎ、轟音によって相手の聴覚に異常を起こす…最低でも相手を怯ませる。
無力化されたのがたった一瞬だけでも、戦いの中での一瞬の隙は命取りになるから……一つの見方をすれば確殺のための布石となる技。
それにしても……
「……ユウさんって秘奥義まで使えたりしないよね…」
「どうだろう…使える人は使えるから……結ちゃんだって使えるでしょ?」
「一応……?」
一応、大分習得はしているはずだから私も秘奥義を使えなくはないのは確か。でもまだうまく安定はしないし、ちゃんと使えたとしてもそれなりに時間がかかっちゃう。だから…
「…まだ、実戦向きではないかなぁ…どっちかというと“黒羽刻死蝶”の方を多用しちゃう気がする」
「黒羽……結ちゃんの“紬技”だっけ。」
その言葉に小さく頷く。
紬技というのは使い手が編み出す新たな技のこと。
今までユウさんが使ってるのは全部花神流の開祖が編み出して遺した技で、それ以降の人が編み出した技はない、らしいんだよね。
花神流の歴史として伝わってるのが間違ってる可能性はなくはないけど……実際花神流は1000年以上前からあるって話だし。
明確なのは120年くらい前から明確に花神流として伝えられてる技は変わってないって話。これは愛海お姉ちゃんもパパも言ってたから間違いないはず。
……一応、生きてる人が使っている花神流の技自体は全部見せてもらってるから、花神家直系のみで言えばひいおじいちゃんの技までは私も知ってる。それを見て思ったのは人それぞれ紬技はあってもそれが次代に継がれてることはない。
花神流使用者全員に共通しているのは技の得意不得意はあれど開祖が編み出したとされる技を主体に使っているということ。これは今配信で使ってるユウさんにも同じことが言えるよね。
パパの推測では恐らく紬技には個人ごとの霊力の性質───例えば私なら“放射”と“接続”、愛海お姉ちゃんなら“形成”と“分解”、パパは“無形”でママが“流動”───が関係してて、それが少しでもズレると紬技を扱うのが難しくなる……もしくは使えても別物になってしまう、とのこと。
逆に開祖の技は“無形”の性質を持つ霊力で形作られてるから誰でも扱えるんじゃないかって話。
だって、花神流において“無”というのは“基盤”を表すものだから。
……まぁ、それはともかく。
〘“魔力剣”、“魔力纏”……ならびに“妖炎纏・一”───姫!!〙
〘───ここっ!!〙
ユウさんが刀で突いたところに花びらが集って───
〘いいよっ!〙
〘ありがと!───“獄憎怨・業火狩り【魂纏】”!!!〙
その花が集った場所にヨウさんの紫色の炎を纏った大鎌の刃が突き立てられる。
花に反応して紫の炎が燃え広がる。
……なんだろ、あの技…
コメント:
:こん……?
:こん…?
:コンコン…?
:お、魂纏術
:魂纏術だ
:魂纏術やんな
:なんか久しぶりに見た気がするわ
:それ
:確かに本物は久しぶりに見たな
:…えっと?
:誰か説明を……
:おっとすまん
:すまそ
:魂纏術ってのは今ヨウちゃんが使ってる紫色の炎を想撃に上乗せする技だな
:だいたい使う時は“妖炎纏”って宣言してるからわかりやすい
:今みたいに“強化”を使ってる時にたまに使うのが基本だから実はあまり見れることはないな
:ヨウちゃん曰く出力は全部で九段階、ただヨウちゃん自身も現状は第七段階までしか制御できないって断言してる相当な暴れ馬
:魂纏術自体はだいぶ前からあるんだけど1/3の御前試合でも使われたのは今年が初めてだから知らん人もいるか
:あれは姫も本気で驚いてたなぁ
:ずっとこのゲームでしか使えなかった技だからねぇ
:去年の11月だっけ、やっとスポットライブ運営の仮想世界や他のゲームで使えるようになったらしくて凄く嬉しそうに報告してたの覚えてるわ
:それでも扱えるのは第一段階だけだって話だから
……なんていうか。すごく努力したんだろうな、ってなんとなく思う。
花神流もそうなんだけど、システム上に規定されてない技をシステム上でちゃんと動作させるのって並大抵の努力でできるようなものじゃない。
私の“ルーン魔術”や今回の戦いで何回か出てきてる“記術石”は既にシステム上に“型”として認識されているから若干のアシストがかかって、純度100%の想撃よりは使うのが遥かに楽だったりする。
でも、それはあくまでこのゲームでの話。他のゲーム…他の仮想世界じゃそうはいかない。
チャット欄で話に上がったスポットライブ運営の仮想世界は私も行ったことあるから分かるけど、あそこでイメージによる攻撃を使うには一切のアシストなくイメージを制御しないといけない。とはいえメインシステムがドリームシリーズに近いのか分かんないけど若干難易度が低いのも事実。でも、絶対に“簡単”じゃない。
だから、その“魂纏術”って呼ばれてる技が他の世界でもちゃんと機能するってことはヨウさん自身がすごく努力したという証になる。
…というか、そもそもあんな高頻度かつ高精度で想撃を発動できてるお姉ちゃんとユウさんがまずおかしいわけで。多分ヨウさんは割と普通か普通よりも上なんだと私は思う。
〘っ───!!!〙
〘ギャォォォ!!!〙
そんなヨウさんの技は龍の鱗を大きく抉って、龍に対して非常に大きなダメージを与えた。
……ここまで大分順調。まだまだ残る体力は多いけど、それは個体上仕方のないこと。
……気になることと言えば。
「いくらなんでも順調すぎる……」
「順調すぎる……?」
「ですか?」
悠奈さんと咲月さんの声に頷く。
「恐らくなんですが、相手はモンスター制御の根幹となる自由行動選択AI自体に介入はしてないはずです。自由行動選択AIは下手に弄るとモンスターが動かなくなるそうですから…ということは大技があまり使われてないのはモンスター側の判断となります。」
「えっと…?」
「大技を使う条件は既に満たされている、と考えていいと思います。それを何処で発動させるか、という問題ですが…」
………そう。既に条件は満たされている。満たされているのだから、いつ何処で発動されてもおかしくない。
「大丈夫。お兄ちゃんならきっと…」
「その普通はわからない大技の予兆を……きっと見破るのでしょうね、加奈なら……」
……そう、だよね…
勢いは大事!!!




