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No.113 姫の怒りは怨となりて

お姫様が怒ってるように見えないって?

それはどうでしょうね

纏った魔力をバネのように使うことで急加速。


『スイッチ!!』


「スイッ……チ!?えちょっ、早っ!?引くよ、モノさん!」


「は、はいっ!」


ヨウちゃんが驚きながらも交代してくれる。それに合わせるようにモノくんも後ろに下がる。


『“ヘイトデスポイル”!“アルジス”!』


敵視強奪とルーンストーンを使ったギミック破壊。それから龍人の前で跳躍して───


『“ペネトレイトウィーカー”!!』


逆鱗を掠るように回し蹴り。


微かに怯んだその隙を逃さずに逆鱗に対して赤い剣で連撃を叩き込む。



コメント:


:う、わ

:わ、わぁ……

:えぐ……

:絶対痛いって…

:龍人もよろめいてるもん



地上に降りて少し離れたボクを龍人が睨めつける。


「ゴォ……!!」


『“魔力纏”』


突進してきた龍人の軍刀を赤黒い魔力と共に真っ向から受ける。


その直後、強烈な違和感。


『……軽い』


「!?」


少し力を入れて剣を払うと簡単に龍人が吹き飛んだ。


『……どうして、こんなに軽いかな』


体格は龍人のほうが上。なのに異常なほどに軽かった。それこそ、羽のように。


…でも、その原因はすぐに思い当たった。


『魔力か』


ボクが纏っていた魔力。あれがボクの怒りに反応して筋力そのものを強化してる。


それを考えてる間にボクに飛んでくる魔力弾。


軌道を読んで回避したあと予感がして剣を立てるとそこに龍人が突っ込んできた。


『……』


「ゴァ…ッ!!」


多分、この形態でも相当力は強いんだろうけど。魔力を纏ったボクは簡単に軍刀を弾いて対処していく。


元々“魔力纏”を始めとした想撃のキーとなるスキルは時間持続バフスキルだから、想撃のキーとして利用しなければバフスキルとしての挙動を示すんだよね。


……まぁ、自動的に想撃っぽくなってるのが今のボクの現状ではあるけど。たぶんシステムからは想撃として認識されてないからバフ効果を解除されてないんだと思う。


『……』


ふと。


何かが呼んでいる、気がした。


龍人の逆鱗を剣で強く突いて怯ませたあと。


『……“リリース・リコレクション”』


半ば自動的に。解放の言葉を唱える。


その瞬間、ボクのポケットからドス黒い液体のようなものが溢れた。



コメント:


:!?

:!?!?

:何々何々!?

:黒……っ!?

:何これ何これ……!?

:姫、大丈夫!?なにもない!?



ボクの方にはなにもない。けど、そのドス黒い液体のようなものはどんどん増殖していく。


というか、これは………


『……もしかして、“怨霊”?』



コメント:


:おん………えっ?

:おんりょう……?

:音量……なわけないよね

:違うだろ…

:てことは怨霊?え???

:確かに姫の記術石には怨霊の技もあった気がするけど……



…解放後、呼べば現れるのは知っている。けど、解放してすぐに怨霊として現れることはこれまで一度もなかった。


ボクの記術石“霊現象”で現れる霊は大きく分けて3種類。


中立霊。7回戦でボクが使った“物体浮遊現象”に力を貸してくれた悪戯好きの霊や、他者に強く干渉しようとしない霊がこれにあたる。色は霊によって様々。


善霊。主に守護霊が該当する。護りや優しさなど正の感情エネルギーを持つ霊。正の感情エネルギーを持つ霊だからこそ輝くような白を持つ。


悪霊。怨霊や呪霊はここに該当する。怒りや憎しみなど負の感情エネルギーを持つ霊。負の感情エネルギーを持つ霊だからこそこういった黒を持つ。


……とはいえ、ボクが霊界の姫であるからか善霊も中立霊も悪霊もボクの支配下…支配下?にはあるんだけど。


ボクは支配してるつもりないんだけど、ボクと同じように霊を視認できるヨウちゃん曰く、“無意識に姫が多種多様な霊を魅了して支配下に置いてる”らしい。よく分かんないけど。


いつもと違う反応。いつもと違う現象。……その、トリガーとなりそうなものと言えば。


『……ボクの怒り、かな。』


怒り。霊のではなく、ボクの。


ボク自身の怒りに呼応して怨霊が直接目覚めた。……考えすぎかな。


…まぁ、いっか。


『手伝ってくれるの?』


ボクがそう問いかけると怨霊が蠢く。


やがて、その怨霊はある形を作り出した。



コメント:


:ひっ

:ひぇ

:ひ、人の……顔……!?

:いやぁぁぁぁ!?

:ひぇぇっ!!

:マジでたまに姫ってばガチホラーなんだよぉぉぉぉ!!!

:怖すぎてうちの子泣き始めちゃったんだけど……!?



……それは、本当にごめんねと思う。


そして、その現れた顔はボクの方を向いて頷いてまたその形を崩した。


『……ありがとう。』


怨霊に向けたその言葉のあと、小さく息を吐く。


『…怖がっちゃった子に関しては後でまた埋め合わせするから、今回に関しては我慢してほしい。怨霊達がいなくなったら声をかけるからそれまで目を閉じてるとかしてて?』



コメント:


:おねがいしますっ!

:おねがいします!

:おねがいひめさま!

:姫も大変だろうに……

:姫からしても予想外のことだろうにちゃんとアフターケアしてくれるのね……



当然。だってボクの力のせいだからね。


……さて。


『───第一怨霊、召雷(しょうらい)。』


その言葉に、怨霊の間に雷が奔り始める。


『───第二怨霊、召炎(しょうえん)。』


その言葉に、怨霊が炎を纏う。


『───第三怨霊、召命(しょうめい)。』


異質な黒い霧が、怨霊から吹き出す。


『……ん?』


ふと、右手に持っていた赤い剣が震えているのに気がついた。


これは……怯え、というよりは。


『……一緒に戦いたいの?』


ボクの呟きが聞こえたのか、剣の震えが止まった。


『肯定と見なしていいのかな…?』


震えはない。……多分、肯定でいいんだと思う。


怨霊の方を見ると拒絶するような意思は見られない。


……姫の御心のままに。そう言われているかのような。


『……』


少し悩んでから怨霊に支えられて宙に浮く。


『道真公の雷霆(らいてい)。崇徳院の焼尽(しょうじん)。将門公の呪殺(じゅさつ)───此度その威顕すは大いなる3つの荒御魂(あらみたま)。』


ボクの視界が怨霊で埋め尽くされる。喰われる、というよりは包まれて持ち上げられてる感じ?


『その目覚めは大なる災いを呼ぶという。その目覚めは連なる災いを呼ぶという。その目覚めは謎多き災いを呼ぶという───災いは、今ここに顕現する。』


ゴロゴロ、と雷の音がする。視界の中に炎がちらつく。さっきと同じ顔が現れて、また消える。


視界が少し開けたとき、ボクは龍人の見上げる姿から龍人よりも高い場所にいることに気がつく。


周りには黒。まるで霧のような……いや、雲のような密度の黒。


更に龍人から少し離れた場所を見ると、明らかに大きさが小さいみんなの姿。


遠近法。加えて、みんなより高い場所ということはここは空。空に見つかりやすいものと言えば雲。


……ボクがいるのは、()()()()()()()()()()()()()


ふと龍人を見ると、土の球体に覆われたような状態になっていた。


……あれは


『…“スアロ”、かな』


“スアロ”。ななみちゃんが教えてくれてた土の原始魔法。土壁を生成する魔法だけど、それを全方位に展開したことで土の球状防御壁にしたってところかな。


でも。ボクに従ってくれる霊達なら、あんな土壁程度簡単に貫ける。


『行くよ、みんな』


そう呟いて赤い剣を掲げる。


『“怨霊雷霆現象”。“怨霊焼尽現象”。“怨霊呪殺現象”。“赤薔薇の剣”。』


……でも1つだけ、保険として───そして、後押しとして。


『“魔力纏”───合わせ技』


そこまで口にした途端、赤い剣に雷が落ちた。



コメント:


:!?

:っ!?

:雷が…

:姫に落ちた!?

:ちょっ、姫大丈夫なの!?

:HPは……減って、無い?

:ねぇまって、運営配信の方見てみたら姫の持ってる剣が雷纏ってるんだけど…!?

:雷……?

:剣に……雷…?

:……まさか

:雷〇しか!?



うん、ごめんね?それ関係ない。


……とはいっても、反応をちゃんと返しているだけの余裕はほぼない。


菅原道真公の雷、崇徳院の火、平将門公の呪に加えていつの間にか怨霊の力に染まったのか“黒薔薇の剣”とも言えそうな風貌の剣……それからボクの怒りと保険で纏った魔力が相乗効果を生み出して今にも暴れ出しそう。


もっとも、簡単に制御不可能になるつもりはないけど。


大きく息を吐いてから左手を剣の柄に添える。


『愚かなる者よ。恐ろしき御魂を怒らせた罰を知るといい。もはや霊界の姫にも止められぬ、その恐ろしき憤怒を。』


雷と、火と、呪と。三大怨霊以外の怨霊が赤薔薇の剣と組み合わさってできた“黒薔薇の剣”と。


それから、バレないかなとか頭の隅で思いながらも。


『“転生秘剣(てんしょうひけん)───』


“花神流鳴剣術 濃紺(のうこん)の刃・真打 死憑雨(しのつきあめ)呪浸(のろいひたし)”を、発動させる。


それと同時に───行け、というかの如く背中を押される感覚と足場にしろ、というかの如く雲が若干硬質化する感覚。


その意思に感謝しつつ、怨霊の作り出した足場を蹴って雲から飛び出す。


『───火雷雨(ほのいかづちのあめ)-転輪呪花(てんりんのろいばな)-”!!!』


ボクが剣を振るうと同時に3つの力が解き放たれたのを視た。


純白の稲光が天空を照らす。切り裂く雷鳴が周囲に轟く。


真紅の劫火が大地を焦がす。燃え盛る猛火が燼滅を顕す。


漆黒の豪雨が呪詛を降らす。降り注ぐ怨恨が病魔を呼ぶ。


三大怨霊のそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


そして、土壁に剣が衝突するとその増幅された破壊力が一気に土壁へと殺到する。


「……ウ、グォ……ッ」


うめき声のようなものが土壁の先から微かに聞こえる。


当然といえば当然。本職が堅牢防壁師だからわかる。非常に高い破壊力をその防御力だけで防ぎきるのは相当な負荷がかかる。その負荷を軽減するためには衝撃を逃がす技が必要だ。


でも、龍人はその技を使えない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()


それなら。


『───押し通す』


ボクの言葉に反応したかのように怨霊がさらにその力を増幅させる。


そしてその怨霊達がボクの背後に翼を形作り、ボクの身体を加速させる。


「───ゴ、ウゴォォォォォ!!」

『引き、裂けぇぇぇぇぇ!!!』



コメント:


:うわわわわわ!?

:別視点見たら姫の周囲ヤバいんですけど!?

:すっごい嵐!!

:運営配信は姫を追いかけてるから姫の姿見えるけど、それ以外の視点だと黒い暴風雨に隠れて姫の姿が見えん!!

:てか姫の姿見える運営配信でもよく分からん漆黒の翼生やしてる!!

:あの翼、悪魔の翼にしか見えないけど多分違うよな……?

:姫……大丈夫だよね…!?



心配してくれるのはありがたいな、と思っていたら変化が訪れる。


具体的には、ボクの剣が土壁に沈み始める。


龍人の“スアロ”の力を、ボク達の力が上回り始めた証拠だ。


「ゴォォァ、ァァァァァァ!!!!!」


全力で防ごうとするような絶叫が聞こえるけど。


『───っ!!!!!』


程なくしてボクの剣は、土壁を引き裂き。龍人の鱗を引き裂き。龍人の肉を引き裂き───


───パリン、と何かが割れるような音が2()()


そうして、ボクの足は大地を踏んだ。



コメント:


:………

:………

:………

:姫……?

:姫…?



少しだけ呼吸を整えて立ち上がり、剣を振り払う。


『……流れる時は新しきを古きに変え。気高き(いかずち)は古きを砕き。揺らめく炎は古きを溶かし。(したた)る雨は(けが)れを(すす)ぎ。揺蕩(たゆた)(のろい)は新しきを型取り。咲き誇る花は新しきを生み───広大なる空は総てを受け入れる。』


ボクの声に怨霊達が明確な形を失う。


『……そしてまた。流れる時は新しきを古きに変える。新しきと古きは循環し、これを輪廻の理という───』


そこまで告げてから龍人の方を振り向く。


『霊鳴姫秘蔵の技が1つ、“転生秘剣・火雷雨 -転輪呪花-”。お粗末様でした。』


ボクがそこまで言うと、龍人が前のめりにドサリと倒れた。


そうしたあと黒い光がボクの周りに現れる。


『……ありがとう、皆。ボクに力を貸してくれて。皆のおかげで助かった。』


ボクがそう言うと、黒い光と空に浮かんでいた黒い雲が一点に集まって───1つの石を形成した。


記術石“霊現象”。…ボクの、記術石。


それを手にとって大事にストレージへとしまう。


『……本当に、ありがとう。』


怨霊達のいなくなったその場は、さっきまでの黒が嘘のように晴れ渡っていた。

だいぶヤバい技を使っているお姫様。

霊界のお姫様……霊界を統治するお姫様が抱いた怒りだからって三大怨霊が全面協力するのはやりすぎたかなとちょっと思う部分はありますけど……それだけ愛されてる姫様だっていうことで。はい。

あとあまり意味はないですけど“転生秘剣・火雷雨 -転輪呪花-”を放った後の文章をおいておきます。



流れる時は新しきを古きに変え

気高き(いかずち)は古きを砕き

揺らめく炎は古きを溶かし

(したた)る雨は(けが)れを(すす)

揺蕩(たゆた)(のろい)は新しきを型取り

咲き誇る花は新しきを生み

広大なる空は総てを受け入れる


そしてまた。流れる時は新しきを古きに変える

新しきと古きは循環し、これを輪廻の理という

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