No.111 想撃の仕様
前話の続きの説明回です。
待たせてしまうことが多いのに待ってくれている人がいるのは本当にありがたいです…
〔……でもリリアンさん、これってイメージスキャナの仕様…ですよね?〕
〔そうですね、完全に仕様です。〕
〔仕様なんカイ……〕
〔はい。…というより元々そういうコンセプトで作り上げたものですからこちらが想定した正常な動作を行ってるだけなんですよね……ゲーム上のスキルをイメージで強化するのも予想の範囲内です。〕
〔ソーなるとどんだけグリッチっぽくても詰められねーゾ…〕
コメント:
:草すぎる
:さすがに大草原
:ドリームシリーズコアプログラム開発者御本人から仕様だと言われちゃ何も詰められねぇ
:それをグリッチと言っていいのか悩みそうやな
:どっちかというとバグの利用じゃなくて仕様の利用……いや悪用?だからねぇ
:果たして悪用なのか否か
:多分この感じだとリリアンさんに修正するつもりとかないだろうから正常な利用なんだろうな
そのチャットに少しだけリリアンちゃんがムッとしたような表情になる。
〔……そもそもあそこまで強力な技になってるのはななみさん自身の力ですよ。〕
〔そうなんですか?〕
〔そうなんカ?〕
〔はい。イメージによって構築された技はゲーム内に規定されたスキルよりも性能が不安定ですから。〕
〔……?〕
コメント:
:ん?
:んん?
:どゆこと??
〔ゲーム内に規定されたスキルはゲーム内で正式に規定されてるので安定した性能を出せるんです。対してイメージによって構築された技はゲーム内で正式に規定されてない…言わば違法スキルとも言えるものですから性能が安定しないんです。〕
そう言ってリリアンちゃんがゲームの映る画面を見る。
〔詳しく説明すれば、イメージによって構築された技はまずその技を成立させるためのイメージのエネルギーが必要です。これが足りなければその技がゲーム内に顕れる事がありません。〕
〔ふむ……〕
〔次にそのイメージで構築された技を弱化、もしくは強化するためのエネルギーが必要です。属性、威力、貫通性能に衝撃性能……これらを付加するためのエネルギーですね。〕
〔……〕
〔最後にイメージで構築された技を制御するためのエネルギーが必要です。制御できない力ほど危ういものはありませんから。もし制御できなければ暴走や自爆……味方への被害など、何が起こってもおかしくありません。〕
そこまで言ってリリアンちゃんが息を吐く。
〔私はとある理由でななみさんの手の内をいくつか把握してますが、その全てで彼女は非常に高水準の力を持っています。〕
そう言ったあと、少し微妙な表情をして口を開く。
〔……ごめんなさい、あまりこういうことは言うべきではないのでしょうけれど……はっきり言いますと、彼女は化け物です。…いえ、彼女だけではないですね。日奈子先生も、神凪先生も…日奈子先生とななみさんの娘ちゃんでさえも化け物級です。彼女らは私の想定した出力を簡単に超えていきましたから。〕
〔……マジカヨ〕
その実況さんの反応を見て結が苦笑い。
「すごく引かれてる……まぁいいけど…」
「結は化け物呼びのこといいの?」
「うん。私が化け物なのは間違いないことだもん。」
「莉愛ちゃんはそういう意味で言ったんじゃないと思うけれど…」
「うん。大丈夫、分かってるから。気にしてないよ?」
そう言ったあと、少し困ったような表情をして私を見る。
「たとえ化け物だとしても、それを全部受け入れて一緒にいてくれる人がいるから。私は大丈夫だよ、ママ。」
「……そう?」
「うん!」
……結が自分のことを化け物だと言うのは…多分だけれど、結の持つ霊能力由来なのよね…
結が操る“霊糸”の本質。結が嫌がるそれは、幼い結の心に影を落としてたとしても不思議ではないのだもの。
コメント:
:う、うわぁ……
:化け物呼びで草が生えそうだが微妙に生やせん
:改めて仕様を聞くとななみちゃんのやってることやばくてなぁ…
:成立させるためのエネルギー、強化するためのエネルギー、制御させるためのエネルギー……多分だけど一番少なくて済むのは成立させるためのエネルギーなんだろうな
:確かに
:そうかも
:説明された順に必要なエネルギーが多くなっていく感じかな?
:で、そう考えるとななみちゃんは超火力を叩き出すための膨大なエネルギーを暴走しないようにさらに膨大なエネルギーでちゃんと制御してるってわけだ……
:……これは化け物呼び不可避だろ
:どんだけエネルギー使われてるか分かったものじゃないけどそれを乱発してるななみちゃんの凄さよ
:んでリリアンさんの言葉が確かなら日奈子先生と神凪先生も同じ事が出来ると……
:そしてななみちゃんの娘ちゃんも同じ事が出来ると……?
神凪:否定はしないよ
姫華日奈子:否定はしないわよ……娘も否定しないみたい
:えぇ……
:えー……
:娘ちゃんは最低限否定してほしかったんですけど
:わかる
:わかる…
:お気持ち、わかりますよ
:娘ちゃんって確か小学生よな……さすがに否定してくれないと割と心が折れそう
:ねー
「………なんか悪いことしちゃったかな…」
「さぁ……どうかしらね」
「でもできるのは間違いないからねー」
…結の場合、ルーン魔術がそもそも想撃と似た動きをするからできるできないでいえば“できる”になっちゃうのよね……
もっとも、結も花神流を使える上に虹の剣についても知っているから同じ事ができるのは間違いないのだけれど。
〘これでトドメ!!“魔力剣”───〙
その魔力剣を宣言されたあと、剣が真っ赤に輝いた。
〘───“ピアースウィーカー・ノーネ”、リヴェロ・トレンタ!!〙
〔………は?〕
コメント:
:は?
:は??
:へ????
ミトロジア辻本:…………えっ
:八岐大蛇が……
:ぶっ飛んだ……!?
:あんな巨体どうやって……!!
:つーかHPもぶっ飛んだぞ……!?
:まだ2割近くあったはずのHP消し飛んだんだけど……!
:うっそ……
:しかもノーネって……
:九重スキル……最上位級のスキルだよ!?なんで……!?
「流石はお姉ちゃんというかなんというか……」
「そうねぇ……」
弱点に対する超高速の九連撃。それが今ななみちゃんが放った技。
ノーネというのはこのゲームの中で九重を指す言葉の1つで、同じ攻撃を9回重ねることを指す。
重ねる言葉はそれぞれデュア、トリパラ、クォート、クィール、セクルナ、セプタス、オクティ、ノーネ、ディール。もちろんだけど重ねれば重ねるほど火力は高くなる。
九重スキル……と呼ばれてはいるけれど、正確にはそういうスキル群はないし、そういうスキル名ではないのよね。
“マルチプル”や“ワイドエリア”のような後から拡張させるようなスキルではなくて、スキルを突き詰めた先にある強化形態……というのが正しいのかしら。
“マルチプル”や“ワイドエリア”は結構早い段階で出てくるけれど、デュアを始めとした元のスキルを重ねるスキルは取得条件としてその前の段階のスキルの総合スキル熟練度20000.0を要求してくるもの。
「まぁお兄ちゃんだし……」
「それで納得できちゃう私達も私達なんだろうけど……」
「それで納得できるのがお兄ちゃんだからね…」
……私と結と愛ちゃんの会話に他の皆は首を傾げてるわね……さっきもあったけれど。
リリアンちゃんも気づいているから動揺した表情はしてないわね…
〔イメージによるゲーム内スキルの強制起動…〕
〔は?〕
〔単純に言えばそれが今ななみさんがやったことです。さらにそこに加速させた攻撃速度……大分やってることは凄まじいですよ。〕
そうなのよねぇ……
コメント:
:スキルの……
:きょうせいきどう……?
:え?
:えっと……
:待ってそんなこともできんの!?
:イメージを乗せて攻撃力を上げるとか防御力を上げるとかができるのは知ってたけどそんなこともできるの!?
〔よく皆さんが使ってる強化詠唱は恐らくですが発動させたスキルに乗った力をごく一部強化に利用してるだけだと思われます。それに対してななみさんが今やったのはイメージで構築した技としてスキルを起動させるというもの。拡張の幅は広いですよ。〕
〔そういうものなんカ……〕
〔先程日奈子先生もおっしゃってましたが、スキルデータというのは秘伝書ですから。開発記録という形が明確に残っているか定かではない秘伝書を…言ってしまえばイメージで構築した技の材料の一部として扱えるのなら、スキルデータという形が明確に残る秘伝書を材料の一部にできないわけがありませんから。〕
〔なるほど……〕
〔更に言えばななみさんは自分が該当するスキルを持っていないことでわざと不安定な状態にして拡張の余地を確保してると思われますけど……と、これはただの私の憶測ですので本当のところどうなのかはななみさん本人か日奈子先生に聞いてくださいね。〕
待って莉愛ちゃん、そこで私に振るの……?
コメント:
:どうなんでしょうか日奈子先生
:どうなんですか日奈子先生
姫華日奈子:いやわかるわけないでしょうよ……できても予測だけよ
:それもそうか
:そっか
:予測だけでもいいから聞きたい
:確かに
:気になる
えぇ……
「本当に予測しかできないけれどいいのかしら……」
「一番お兄ちゃんを理解してるの奈々義姉だし結構真に近いと思うよ?」
「…理解、ね……」
……私は本当に加奈を……いえ、彼方さんを理解できているのかしら。…時々不安になるのよね。
加奈は私のことをよく理解しているのが見て取れるけれど……私はどうなのかしら。
コメント:
神凪:日奈子さん今ちょっと集中してるから急かさないであげてね
:はーい
:ほーい
正直助かるわ……
改めてななみちゃんの動きに集中する。
〘祟!“魔力剣”!〙
〘おう、“魔力剣”!〙
祟が応えると魔力の輝きが本来よりも強くなる。
〘…気いつけろよ、ななみ!!〙
〘分かってる!!〙
そう言いつつも剣に宿るは先ほどよりも強い真っ赤な光。
なんというか……大量の血が噴き出すようなそんな感じのライトエフェクト。
〘───“ピアースウィーカー・ノーネ”、リヴェロ・セッサンタ!!!!!〙
〘ッ!?ゴァァァァァァァァァァ!!!!!〙
その高速で急所に叩き込まれた九連撃に龍が悶え苦しむ。
HPも一気に消し飛んで第四形態になる寸前のHPに。その火力にチャット欄が騒然となったけれど、当然と言えば当然の結果。
だって、今ななみちゃんが言ったのはLivello sessanta. Livelloというのはイタリア語で“レベル”。sessantaというのはイタリア語で60。
つまりななみちゃんが想撃として使ったのは“ピアースウィーカー・ノーネ Lv.60”。そんなスキルを叩き込まれれば無属性の耐性が消えてる龍にはひとたまりもないでしょうね。
ちなみに八岐大蛇を倒した時に使ったのは“ピアースウィーカー・ノーネ Lv.30”になるわね。
……そんなスキルを使ったななみちゃんだけれど、その表情に自慢気なものは見えない。
どちらかと言えば、あれは……
「……焦り、かしらね…」
焦り。少なくとも私にはそう見える。
でもそれは予測を求められたことではないし、何に対して焦っているのかは……分かるけれど、それはななみちゃん自身が話すべきだと思うわね。
「……そうね、予測を立てるとするなら…」
正直な話、合っているかはわからないけれど。
コメント:
姫華日奈子:わざと取得しなかったわけじゃなくて取得できないのはわかりきっていることだからいいとして……
:あっ
:あ
:あー…
:え?
:ん?
:どゆこと?
:そっすね
:そうだわ
:そういやプレイヤー自身が強すぎてななみちゃんがCL1の状態で7回戦参加してたの忘れてたわ…
:!?
:はい!?
:そうなの!?
:おっと7回戦の時にいなかった人らか
:やってること真面目にやばかったんで後でアーカイブ見てきてください
:今も大分やってることやばいのは…まぁ何も言わん
:確かに
姫華日奈子:……とりあえず続けるわよ?
:すんませんお願いします
:あ
:すみません
姫華日奈子:通常の“ピアースウィーカー”だと火力が足りなさすぎるから想撃として無理矢理高位のスキルを再現した、が正しいのかしらね……ウィーカースキルって結構技の構造が単純だから再現するのにも虹の剣ほど労力はかからないでしょうし
:あー……
:あぁ……
:そういやウィーカースキルって元々全部単発スキルか
:そういやそうね
:デュア以上にしなければ単発なのよね
:それでも大分やってることがヤバいんだよなぁ
:ねー
姫華日奈子:技の構造が単純だとはいってもウィーカースキルの真の力である弱点特効攻撃の力がちゃんと残ってるかはわからないわよ?
:そうだとしても大分ヤバいって
:てか多分その力残ってますぜ
:ね
姫華日奈子:そう?
流石にそこまで認識させられたかしら……
〔……どちらかと言えば最初の一撃にだけ弱点特効の性質が残ってそうなんですけどね。〕
〔……どういうコトだ、リリアンサンよ?〕
実況さんの言葉に少し呆れたかのように息を吐くリリアンちゃん。
〔だって、“ピアースウィーカー”と宣言してはいるわけですから。弱点特効攻撃の一撃目以外はただただ火力が高いだけの貫通攻撃な可能性がありませんか?〕
〔……言われてみれば、そうですね?〕
〔ソーダな、言われてみりャちゃんと宣言してんだよナ……〕
コメント:
:確かに
:確かに……
:言われてやっと気づいたけど確かにちゃんと“ピアースウィーカー”って宣言はしてたな
:リリアンさんさっき強制起動って言ってたけど本当のそのスキルそのものじゃないって可能性もあるのか
:一応想撃であってスキルではない……ない、んだろうからなぁ
:うわこれ色々な可能性あって難しいな……
:ね
そうよね……
「……あの、奈々さん」
「うん?どうしたの、奏さん?」
私が問い返すと少し言いにくそうにしながら奏さんが口を開いた。
「…ずっと気になってたんですけど……“もし途中で私が動けなくなったり意識がなくなったりしたらその時は皆をお願い”って一体どういうことでしょう……」
「……あぁ」
そのことね…
「結構単純な話ね。主な理由は加奈の活動限界時刻を越えた場合の布石……強制就寝になった場合の布石よ。」
……高純度の想撃を用いてでも高位スキルを使う理由もそう。あの子の表情に映る焦りもそう。
あの子は───自分が動けなくなるということを一番危惧している。
「“自分の身体の制御を乗っ取ってでも戦え”。それが加奈が妖刀に指示したことになるわ。」
「……でも、それって危険なんじゃ…このゲームの妖刀って確か所有者の魂を啜るって聞いてますけど…?」
「そうね……それをしないと信用している証でもあるのか……あるいは…」
……あるいは、あの子自身がそれを望んでいるのか。
…なんて、ね。
「……?」
「ごめんなさいね、忘れてちょうだい。」
「あ、はい……奈々さんがそう言うなら…」
さすがにそんな話をするのは重すぎるもの、話すべきじゃないわね。
ななみちゃん達に対峙する相手の方は第三形態になった直後に攻撃されてすぐに第四形態に移行。大きさが縮んだからか参加する他の子たちの表情には少しホッとした表情も見えるわね。
ふと時計を見ると時刻は19時18分を指していた。
「……残る活動可能時間は既に1時間を切ってるわ。……その間に、倒せればいいのだけど。」
さっきの想撃の連発でかなり消耗したようで、ななみちゃんは龍人から目を逸らさないようにしながらも呼吸を整えているように見える。
…どうか、無事でいてくれますように。
何かと捨て身に近い状態で戦ってるななみちゃんでした。
長々と書きすぎるのもあれかと思って第三形態は飛ばさせたんですけどそのためには一気に全HPの15%以上を消し飛ばす攻撃が必要で、それだけの火力を叩き出せそうかつ単純な構造の技を選択した感じです。
何気に二回目の“ピアースウィーカー・ノーネ”の時には祟にも“魔力剣”を使ってもらっているのは想撃の負担を一部肩代わりしてもらうという意味もあったりします。




