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No.107 開戦の狼煙

大変お待たせいたしました…

8回戦、始まります

『“メタルバレット”』


私から少し離れたななみちゃんはそう宣言して目の前に金属の球を出現させた。


『……今の私に』


小さく、それでいて確かに声が聞こえた。


『今の、私に。できることは、本当に少ない。』


ポツリと呟いたようなその声は、可愛らしさを保ちながらも重く響く。


『ういさんみたいな炸裂弾を撃ちたくても、そもそものバレットのスキルレベルが低すぎるが故に扱いにくい。連射、連続詠唱なんてもってのほか、私の魔力が足りなくなる。』


それはただの事実確認なんだろう。自己確認なんだろう。それでも───それは、私に……いや、私達に酷く重くのしかかる。


『───それでも。私は持ち得る刃を振るうのみ。』


そう言って息を吐くななみちゃん。


『───“魔力弾速度増幅バレットスピードブースト”、環状展開。』


ななみちゃんがそう呟くと、ななみちゃんと龍人の間に1つのピンク色の輪っかが出来上がった。それを見て私達の間にざわめきが起こる。


───環状魔法陣。実際の話、これだけでも高等技術。このゲームの規定魔法陣は円形魔法陣だから、それをプレイヤーの意思で変形させてることになる。


姫曰く慣れると簡単らしいんだけど……私は姫に教えてもらっても上手く理解できてない。


感覚としては、タスキみたいな平べったい輪っかになっているものに魔法陣の魔力を流し込む感じらしいんだけど……


…“自分の魔力”ならともかく、“魔法陣の魔力”って言われても。


姫も根気強く習得に付き合ってくれてるんだけどね。なんか申し訳ないと思いつつ。


『……かつて、誰かが言ったという。』


…?


『“常識破りの死神”が遺した技術の1つ。ういさんの多重連環魔法陣を更に多重化し、魔力消費など度外視で形作られたもの。もはやそれは銃ではなく砲と呼ぶべき代物。魔力弾の加速を突き詰めた速射砲。魔力弾の炸裂を突き詰めた炸裂砲。多重連環魔法陣を用いて構築した、単なる射撃魔法とは到底思えぬ火力を出す技術。』



コメント:


:……それって

:なんだっけ……

:聞いたことあるかも

:名前……名前あった気がする

:うーんと……



みんなは心当たりありそう?


『“魔力弾速度増幅バレットスピードブースト”。……超多重連環魔法陣とも言えるその在り方から、人はそれをこう呼んだ───』


ななみちゃんのスキル宣言に合わせて今度はメタルバレットの方に円形魔法陣が展開されて淡く光る。…これが普通の反応なんだけどな。


『───“射出機(カタパルト)”、あるいは“砲身(バレル)”と。』


カタパルト……確かに、環状魔法陣を繋げればそう見えるかもしれない。


『……ほっ』


そんな可愛らしい声が聞こえてななみちゃんに目を向けると───


「……えぇ」


大鎚を軽々と持ち上げてるその姿。多分、“クルードアイアンラージハンマー”。


「いや確かに可愛い女の子が大きな武器使うのロマンと言えばロマンだけどさ……」



コメント:


:草

:ヨウちゃんの反応が草なんだよな

:でもなんか分からなくもないけど

:ね

:あの大鎚いつの間に

:あれ一番弱いやつ?

:多分

:ショップ売りのやつか



……何気要求STR10くらいだっけ、あれ。


軽いって思われると思うけどそもそも“クルードアイアン”って一番最初の……初期状態の武器だからね。某狩ゲーで言えば“骨”に当たる武器。


『魔力抑えたいから魔力弾性網(マジックゴムネット)を大鎚で代用するよー、と。』


代用になるの……と思ったところでななみちゃんがメタルバレットを手に取った。そういえば物理干渉属性あるんだっけ。


左手にメタルバレット。右手に大鎚。


『んーっと、狙いを定めて───』


じーっと龍人を見つめたあと息を吐いて、メタルバレットを真上に投げて大鎚を振りかぶる───


「……まさか」



コメント:


:え

:ちょ

:まって

:あれって

:うそでしょ

:サーブショット!?

:打つつもりか!?鉄球を!?



『───ふっ!!!』


その予想通り。ななみちゃんはメタルバレットを大鎚で打った。


それは打った時の衝撃とななみちゃんが先にかけてた“魔力弾速度増幅”の効果で通常よりも早く飛び、“魔力弾速度増幅”の環状魔法陣に───


「───」


───今だ、と直感する。


理由なんてわからない。でも、今だと思った。


開きっぱなしにしていたクエストメニューの準備完了ボタンを押すと一瞬“準備OK!”の文字が見えたあと、ウインドウが自動的に消える。



コメント:


:お?

:おっ!

:はじまるよー

:はじめるよー

:頑張って……!

:頑張えー!!



3。それを見たみんなに緊張が走ったのを感じた。


2。環状魔法陣を通過した魔力弾は更に加速する。


1。龍人の硬直が解け、息を吸う───


「ゴ───ォッ!?」


───QUEST STARTの文字が弾けたと同時に、咆哮。本来ならそうなるはずだけど、咆哮をキャンセルされて龍人の体力がいきなり減った。


それは何故かというと、ななみちゃんが打ったメタルバレットが硬直とHP保護が切れて咆哮しようとした龍人の口の中に入り込んだから。


『ナイスタイミングだよー、ヨウさん。』


そんな声が聞こえてななみちゃんの方を向く。いつの間にか大鎚は消してて、頭を押さえてた。


『ていうか…本当に弱いな、今の私。ダメージあるなら今のだけでも1%は削るつもりだったんだけど。まさかのその1/1000かー。ごめんねー、祟。期待外れで。』


「いや……なんも言ってねーよ……」


『……ま。弱いとはいえヨウさんのタイミングが良かったから“次”に派生できるけどねー。』


そう言ってななみちゃんは左手を龍人に向けた。


『なんでわざわざ普通の鉄球じゃなくて魔力弾にしたか教えてあげるよー。』


……言われてみれば、確かに。金属性の魔力弾を使うくらいなら、魔力消費なんて存在しない鉄球や石ころを使えばいい話。


加速させる魔法スキルにしたって、魔力弾以外の弾を加速させるスキルだってあるんだから。


『“魔力弾拡散炸裂(バレットバースト)”』


指を鳴らすのと同時に行われた宣言に合わせて、ボンって音がした。


それと同時に龍人のHPが少し大きめに減り、少し遅れてパリンと何かが割れたような音。


「ゴ、ガ……」



コメント:


:魔力弾の炸裂……

:炸裂……

:なんか龍人の口から煙が……



…確かに、なんだろあの煙。


『どんなに外側にある鱗が硬かろうと、どんなに外側の殻が堅かろうと。大抵の場合、内側を……内臓を硬くすることはできない。狙うこと自体が難しいからさっきは書かなかったけど……大抵のモンスターに共通する弱点だよー。』


『逆にそうじゃないモンスターって?』


『ゴーレムとかドール、スケルトンなんかの生き物としての“生体内臓”が存在しないタイプ。』


『あー……』


『まぁ心臓に当たる“動力核”とか神経に当たる“動作回路”みたいなのは存在するから体内爆発系が完全に無意味とはいえないんだけどねー。』


そうなんだ……


『……それはそれとして。今ので例のクリスタルが一個壊れたねー。』


え?


『クリスタルの破壊は外にクリスタルが出現したときだけしかできないのが基本だけど、体内からならいつでも破壊できるんだよねー。まぁ何が壊れたのかが分からないのが難点だけど───祟!!!』


「おう!!!」


いきなり叫んで妖刀を抜いたかと思うと、ガキンという音と共に妖刀で火を纏った大剣を受け止めていた。


『復帰後初手“プラスファイア”、か……』


「基本に忠実というかなんというかよぉ……」


『……いけるよね、祟?』


「ハッ!!おいななみ、テメェ誰に向かって物言ってやがんだ!!!」


『───だよねっ!!』


その互いの信頼感を感じられる掛け合いのあと、キィンという鋭い音とともに龍人が吹き飛ばされる。


ななみちゃんはというと妖刀を振った状態で龍人を見据えていた。


「ゴゥッ……!!」


「す、すごい……」



コメント:


:龍人が一方的に吹き飛んだってことはあの体格差を覆したのか……

:これが妖刀の力……?

:恐らくななみちゃんの素質も関係するんだろうな

:多分ほとんどななみちゃんの力なんだろうなぁ……妖刀はそこまで力出してないと思うよ

:見た感じななみちゃんって連撃重視だと思うから多分STRはそこまで高くなくて体捌きとかでなんとかしてそう

:十分ありえそうなんだよなぁ…



『まだ敵視は私に向いてるんでしょ?だったら相手してあげるよ。』


「……ゴァァァァァ!!!」


挑発に対して咆哮し、ななみちゃんに襲いかかる龍人。


その龍人の大剣を正確に弾いて完全に無力化していくのは幾ら使っているものがかの有名な“火の妖刀”だとしても並大抵の技術じゃない。


……って、ボーッとしてる場合じゃない!!


「全員散開!!弱点付与ができる人は各自弱点の追加を!!」


「で、できる限り支援します!!皆さん、全力で戦ってください!!」


「にゃぁ!!(頑張ろう!!)」


『ななみちゃん、ボクもサポート入る!!』


『お願い!でもその前に───“アルジス”!!』


ななみちゃんが指で下向きの矛みたいな模様を描いて宣言すると、バキン、という音がした。


───遺跡系のダメージ無効ギミック解除。それも、()()()()()()()()使()()()()()


『今の───』


『ギミックは解除した!!これで皆の攻撃がちゃんと通るようになるはず!!敵視も私に向きやすくなるから攻撃しやすいと思う!!』


その言葉を聞いてカナさんが反応した。


「───私を始めとする回復師はななみちゃんのHPとMPの回復を最優先!!ルーン魔術によるギミック解除、及びギミック貫通が可能なななみちゃんのMPは絶対に切らさないでください!!」


「環境オブジェクトを描画します!うまく使って攻撃の一助にしてくださいませ!!」


「攻撃する人達は上位攻撃スキルの過剰使用に注意!!下位攻撃スキルを中心に立ち回ってください!!」


Vtuberそれぞれの指示が通ったところで恐らく今イベント最後であろう戦闘が始まった。


……いや、最後じゃないとちょっと心折れるかもしれない。

ななみちゃんの自己評価は本気で低いです。

原因は……まぁ、ここまで読んでくれてる方なら何となく思い当たるでしょう。

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