No.10 推しが可愛すぎて辛い
割と今更なんですが、私が書く作品だと“異世界(=主人公たちが本来いる世界とは別の世界)に繋がる”という現象がデフォルトになってます。
それはこの作品も例外ではなく、絶対に“何か”が異世界に繋がっています。
…とまぁ、関係あるかどうかわからないお話でした。この作品の中で異世界のお話をするか実は分かりませんし。
……あ、一応伝えておきますが突発性性転換症候群は異世界由来のものじゃないですよ。
…それと。
当作品の総合評価が120Ptを越えていました。皆様ありがとうございます。
…うれしいと同時に、少し怖いです。
午後4時。色々とあった仕事を大部分終わらせて、とあるチャンネルを開く。
“花園ななみ/HanazonoNanami”。私こと花神奈々の夫のチャンネル。未視聴の動画が二本。
「すでに動画撮ってたのね……初動画に餃子の皮とかこれまた懐かしいものを選んだのね。覚えてるの?」
学生時代はよく作ってたのを思い出す。あの時は時間がありすぎるからってよく作ってくれてたのよね。結婚後はあまり作ってくれなかったから実は少しだけ寂しかったのよね…
「これは…あ、次動画に続くのね、流石に。あの人もそこまで適当じゃないから皮を作って終わりじゃないみたい。」
餃子の作り方だけ知りたいっていう人もいるものね。皮だけで1時間はかかるからいい判断なのかしら…
『みんなー、こんにちはー!今日は餃子を作るんだけどー…今回の動画では餃子の皮だけ作るよー!えーと…ちゃぷた?の使い方わからなかったから、動画単位で分けさせてもらうねー!』
「…!」
自己紹介動画でも思ったけれど、明らかに声や話し方が変わってる。20年近くあの人を知る私ですら本当に娘なのだと錯覚させるほどの演技。本人はほぼ無意識なのだろうけれど。…なんというか、ほんと…
「あなたっていう人は…」
いつも私を誉めてくれてたのを思い出しながら苦笑いする。これに関してはあなたの方が凄いわよ、ホント…
…っていうかチャプターの使い方知らなかったのね、あの人。今度教えておこうかしら…演技じゃなくてこれは素だものね…多分。
…そして、キッチン低めにしててよかったわ。身長が私と同じくらいの今のあの人でも楽に使えるものね…
「……そういえば、あの人の性転換後って栗色の髪だったわね。私からの遺伝……なわけはないと思うけど…」
…遺伝だったらもう私の実娘よね……と、そんなことを思ってたら既に終盤になってたわ。
『これで餃子の皮は完成だよー!ちょっと形はいびつだけど…手作りだからしょうがないねー…好評ならこの生地から作るのもシリーズ化みたいなのしていくけど、どうなんだろ…?』
あぁぁぁ……あっあっあっ……
『この動画の投稿から1時間置いて餃子本編も投稿されるからよかったらそっちもよろしくねー!』
………(絶命)
リンコーン
「…ぅ」
……チャイムの音?パソコンに繋がるようになってるからそこから通話は繋げられる。だからそれで応答する。
「……はい」
〔あ、奈々ー?私が来たよー。〕
「……加奈…?」
画面に映っていたのは私の夫。…の、性転換後の姿。夫達が住んでる場所とここはそれなりに近いから徒歩でも来れるのは知っているけど。…性転換後だと体力も落ちているし辛いんじゃないかしら…
「待っていて、今開けるわ。」
〔あ、うん。〕
一瞬可愛さで死にかけたのは置いておいて、扉の解錠と出迎えに行く。扉を開けると、ビニール袋を身体の前で持った加奈がそこにいた。
「おはよー…じゃないか。こうやって実際に会うのは久しぶりだっけ?」
「…え、えぇ……そうね。…とりあえず早く上がってらっしゃい、まだ暑いでしょう?」
「あ、うん。お邪魔します。」
いきなり過ぎて理解が追い付いていないけれど、とりあえず加奈を家の中に迎え入れる。
好きな人が女の子になって、突然家に訪問してくるって…考えてみればどんな状況なの?
「それで……どうして女の子の状態で来たの?」
「途中で“疲労する”のトリガー踏んじゃいそうだったから、動画投稿終わった後から自己暗示維持してきたの。道端でいきなり性転換しても知らない人は困るでしょ?」
「…まぁ、そうね……」
“突発性性転換症候群”はそれなりに有名とはいえ、珍しい症状だもの。特に、加奈が発症した“少女化型”は症例がほとんど見つかっていない非常に稀有な症状と聞いてる。
「それにしても、どうして急に?連絡も何もなかったわよね?」
「え?私、連絡入れたよ?」
「え……?」
加奈の言葉に急いでコミュニケーションツールを確認する。ダイレクトメッセージ、“かなた”の場所に1件の通知マーク。
「ほ、本当に入ってる……」
「まぁ忙しいもんね、奈々は…洗い物も…結構溜まってるねー…」
少し呆れたような声で言う加奈に私は恥ずかしくなる。
「少し休んでて、その間に洗い物とか料理とか済ませちゃうから。」
「ありがとう……って、料理?」
私が聞き返すと加奈は小さく笑った。
「餃子、好きだったでしょ?動画撮ってる時、作り方を思い出してね。せっかくだから奈々にも作りに行ってあげようかと思って。」
様子を見に来るついでなんだけどね、と言った後に洗い物を始める加奈。私が餃子を好きだった、って……
「……覚えてたのね。」
「んー?まぁね。作り方は忘れてたけど、奈々との思い出だけはずっと鮮明に残ってたから。」
……この人は…
「……今日も推しが尊い……今日も可愛い……推しが可愛すぎて辛い……」
「奈々って昔からそれ言ってるよねー。」
「…嫁にしたい……」
「あの、私戸籍上あなたの夫なんですが??」
そう言った加奈は小さくため息をつきながら洗い物に戻った。
───今日も正常。今日も推しは平常運転で私を尊死させに来ています。(再絶命)
奈々さんは昔から可愛いものが好きで、中学3年生まで身長150cm未満だった可愛いものが似合う彼方さんが最推しです(高校生になって急に身長が伸びた後も女装は似合うので最推しなのは変わらず)。
そんな彼方さんが加奈ちゃんになって昔のような身長に戻り、女の子になったことで更に可愛さが上がったことで尊死しやすくなっています。
さらに、彼方さん(加奈ちゃん)は昔から音域が非常に広く、演技力も高い人だったので余計にダメージが大きくなっています。
なお、No.3のお話の時に初めて加奈ちゃんから“ママ”って言われたときに(加奈ちゃんからするとただの問いかけだったとはいえ)軽く尊死してかけてました(実際これが一瞬無言だった理由)。なので下手に演技をされると身がもたないと思い演技なしを提案したというわけです。
…無駄だったようですが。
そしてそんな奈々さんからコメント。
奈々「推しと結婚するとある意味天国である意味地獄……(三度絶命)」
……何度今話で死ぬのよ、この人…この先大丈夫かな?




