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百物語の消えた語り部

作者: ウォーカー
掲載日:2022/10/03

 百物語。

複数人で集まって、怪談や不思議な話をしていくこと。

火のついたロウソクを百本並べて、

話を一つ終える度にロウソクの火を一本ずつ消していく。

そうして百本のロウソクの火を全て消し終わった時、

超常的な何かが起こるとされている。



 今から数年前のこと。

夜の学校に十人ほどの生徒たちが集まって、百物語をしていた。

百物語をする生徒たちは興味半分、恐怖半分といった風で、

おっかなびっくり、話を披露してはロウソクの火を消していく。

すると、百話目の話が終わったはずなのに、

どうしたことか火のついたロウソクが一本余っていた。

「火のついたロウソクが一本残ってるぞ。まだ話をしていないのは誰だ?」

暗い夜の教室の中で、生徒たちがお互いの顔を伺う。

しかし、誰も名乗り出る者はいない。

誰かが新たに話を始めるでもなく、静寂の時が流れた。

仕方がなく、誰かが新たに話を始めようとした、その時。

教室の空気が急に騒ぎ出し、虚空にぽっかりと真っ黒な大穴が穿うがたれた。

大穴からは、見たことがないような怪異たちが何匹も飛び出して、

教室の中を飛びまわり暴れまわり始めた。

逃げ惑う生徒たち。

教室の外へ逃げようとするが、しかしドアや窓は固く閉じられていて開かない。

やがて、人の世に飽いたらしい怪異たちが、大穴の向こうに帰っていった後、

教室からは一人の生徒が姿を消していた。

いなくなったのは、百話目を話した生徒。

引っ込み思案で、百物語にも嫌々参加させられてのことだった。

残された生徒たちはすぐに学校に届け出て、

警察や学校の先生、親も総出で捜索が始まった。

しかし、行方不明になった生徒が見つかることはなかった。

実はその生徒は重い病を患っていた、ということが明らかになって、

病を苦にした末の失踪だろうという結論になり捜索は打ち切られた。



そうして、それから数年後の現在。

百物語中に生徒が行方不明になったのと同じ校舎で、

生徒たちが集まって百物語をしようとしていた。


 ボロボロの学校の校舎。

十人ほどの生徒たちが集まって、百物語をしようとしていた。

生徒が行方不明になった百物語をどうしても再現したい、

という生徒の要望で、同じ学校の生徒たちが集められていた。

そんな生徒たちの中に、その男子生徒がいた。

その男子生徒は転校生。

人見知りをする性格のせいか、友達と呼べる相手もいない。

それを見かねた他の生徒たちによって、

半ば駆り出されるようにして百物語に参加させられていた。

生徒たちがその男子生徒に向かって言う。

「おい、お前。最後の百話目はお前がやれ。」

「どうして僕が?」

「それは、お前が転校生だからだ。」

「やれやれ、また僕だけ仲間はずれか。わかったよ。」

そんなやり取りがあって、

その男子生徒は百物語の最後の百話目の話をすることになった。

百物語をする準備のために、火のついたロウソクが並べられていく。

すると、デタラメに並べられたロウソクを見て、

その男子生徒が珍しく口を挟んだ。

「ちょっと待って。

 ロウソクを何本並べてあるか数えやすいように並べた方がいい。

 そうすれば今何話目か間違えないだろうから。

 間違えると、大変なことになる。」

「・・・わかった。

 お前のいう通りにしよう。」

そうして、その男子生徒の提案で百本のロウソクがきれいに並べられて、

いよいよ百物語が始められた。


 百物語が始まって、生徒たちは思い思いの話を披露していった。

学校のトイレに現れるお化けの話。

取り壊されたはずの旧校舎が突然現れる話。

階段に本来は無いはずの十三段目が現れる話。

などなど。

生徒たちは自分の話が終わる度にロウソクの火を消していく。

そんな様子を、転校生のその男子生徒は、膝を抱えてぼぅっと眺めていた。

他の生徒たちの話が、耳を右から左に抜けていく。

「背中から呼ぶ声がする。

 後ろを振り返ると、そこには、首が長く伸びた女がいましたとさ。

 ひゅ~どろどろどろ。」

そう話す生徒の首が、長く長く伸びてとぐろを巻いていった。

「振り返った男には、顔がありませんでしたとさ。

 ひゅ~どろどろどろ。」

そう話す生徒の顔は目も口もない、のっぺらぼうだった。

夜の闇のせいなのか、その男子生徒の目には、

怪談を披露する生徒たちが化け物のような姿に見えている。

そうして百物語は終盤へと近付いていった。


九十五話目。

「実は、百物語というのは、異界への門を開く儀式なんだ。

 正規の手順を経ないと、異界への門の制御が利かなくなってしまう。

 そうなると、異界への門を通った怪異が凶暴化して、

 人を襲ったり、さらっていくこともあるんだ。」

九十六話目。

「この世には元より怪異が住んでいる。

 過去に異界への門を越えてやってきた奴とかな。

 その昔、そんな怪異の一人が、ちょっとしたいたずらを思いついた。

 百物語のロウソクに化けて、

 ロウソクの本数を数え間違えさせてやろうってな。

 正規の手順を経なかった場合は、異界への門は制御が利かなくなる。

 そうして異界への門が開きっぱなしになっている間に、

 自分はそこを通って元の世界へ帰ろう、そう思ったんだ。」

九十七話目。

「その昔、そんな無邪気な怪異のいたずらで百物語が失敗して、

 一人の生徒が怪異によって異界にさらわれていった。

 異界への門が閉じた後、かわいそうなその生徒は人の世に帰れなくなった。」

九十八話目。

「怪異たちに悪気は無かった。

 いつもは閉じたままの門が、たまたま開いているのを見つけたら、

 誰だって中を覗き込むだろう?

 そこに生き物がいたから、連れて帰ってしまっただけ。

 だって、その生き物は独りぼっちで寂しそうにしていたから。」

九十九話目。

「しかし、人間は異界では長く生きられない。

 人の世と怪異の世では、時間の進み方も何もかもが違うから。

 弱っていく人間の姿を見て、なんとかできないかと怪異たちは考えた。

 そして、一つの方法を思いついた。

 怪異の世で百物語をすれば、

 異界への門を開くことができるのではないか?ってな。

 そうすれば、さらってきた人間を、

 人の世に帰してやることができるかもしれない。」


果たしてこれは怪談なのか、あるいは不思議な話なのか。

取り留めのない話を聞いていて、その男子生徒は頭を抱えていた。

頭痛がする。頭が割れるように痛い。

しかし、それよりも、何かの記憶が頭の中に湧いて出てくる。

自分はいつからここにいる?

家はどこ?家族はどこにいる?

・・・わからない。

思えば、自分はもうずっとこの学校のような場所にいるような気がする。

授業内容はいつも同じ。

学校の授業の真似事のような、へんてこな授業を受けている。

今、周囲にいる他の生徒たちの姿は、自分と同じようでどこか違う。

首が長くとぐろを巻いていたり、顔に目も口もないのっぺらぼうだったり、

顔よりも口の方が大きく裂けて開いていたり。

あれは百物語によって錯覚させられたのではなく、事実なのだ。

事実として、人ではない何かが目の前にいる。

その男子生徒が顔を上げると、周囲には他の生徒たちが集まっていて、

頭を抱えているその男子生徒を見つめていた。

生徒たちが次々に口を開く。

「さあ、次はお前の番だ。」

「お前で丁度、百話目。これで異界への門が開く。」

「お前の話を聞かせてくれ。」

厳かな儀式のような雰囲気で、断ってはいけない何かを感じさせる。

その男子生徒はゆっくりと頷いて、百物語の百話目を始めた。


 百話目。これは、僕の話。

その昔、夜の学校にみんなで集まって百物語をしていた。

百物語が進んでいって、百話目が終わった時。

火のついたロウソクを百本消し終わったはずだったのに、

そこにはまだ火のついたロウソクが一本残っていた。

今にして思えば、それは怪異がロウソクの姿に化けていたのだろう。

その事に気がつかなかった僕たちは、誤って百一話目を話し始めてしまった。

百物語で百一話目を話すのは、重大な手順違反。

正規の手順を経なかったことで、現れた異界への門は制御不能になった。

異界への門からは怪異たちがとめどなく溢れ出てきて、

教室の中を飛び回り、暴れ遊び回った。

そして、遊び飽きた怪異たちが異界への門から帰っていく時、

戯れに一人の生徒をさらっていった。

集まった生徒たちの中で一人だけ寂しそうにしていたから、

怪異たちにとっては、その生徒を助け出したつもりだったのかもしれない。

それが、僕。

僕は異界、つまりはこの怪異の世に連れてこられた。

もちろん、悪意があってのことではなかったので、

怪異たちに取って喰われたりはしなかった。

でも、人間が怪異の世で生きていくのには無理があった。

人の世と怪異の世では、時の流れも何もかもが違うのだから。

そうして僕は、怪異の世に馴染むことができず、

一人っきりで身体を蝕まれていった。

元より病を患っていた僕は、日に日に衰弱していった。

すると、僕のことを心配してくれた怪異たちは、

僕の身体の一部を怪異の身体にすることで、

怪異の世でも生きられるようにしてくれた。

そして、人の世を思って寂しがる僕のために、

僕の記憶を封印し、学校そっくりの場所を作って、

再び人の世に戻ることができるようになるまでの間、

そこに通わせてくれていたんだ。


百物語の百話目。

その男子生徒は自分自身の話を話し終わった。

すると、黙って聞いていた怪異たちは微笑んでいうのだった。

「どうやら無事に記憶の封印は解けたみたいだな。

 お前の言う通り、

 お前がこっちにくることになったのは、

 俺たちの悪ふざけが原因だ。

 でも、悪気があってのことじゃなかったんだ。許して欲しい。

 俺たちはただ、人間の友達が欲しかっただけだったんだ。

 お前が一人で寂しそうにしていたから、連れてきただけだったんだ。」

「そうだ。

 それで俺たちはお前にお詫びがしたくって、

 お前を人の世に帰す方法を考えていたんだ。」

「そうして思いついたのが、百物語だ。

 人の世で百物語をすると、異界への門、

 つまりはこちらである怪異の世への門が開く。

 だとすれば、ここ怪異の世で百物語をすれば異界への門、

 つまりは人の世への門が開くんじゃないかってな。」

「百物語の手順を調べるの、結構大変だったんだぜ。

 でも、その甲斐があったよ。

 さあ、最後のロウソクの火を消してみてくれ。」

怪異たちに囲まれたその男子生徒の前には、火のついた最後のロウソク。

その男子生徒が確認するように周囲を見ると、怪異たちは穏やかに頷いていた。

ふっとロウソクの火を吹き消す。

すると、あの日と同じ真っ黒な大穴が虚空に口を開けたのだった。


 今、その男子生徒がいるここ怪異の世で、異界への門が開いた。

この大穴の先は異界、つまりは人の世に通じているはず。

しかし、その男子生徒は動くことができない。

本当にこの大穴に飛び込んで大丈夫なのか?

そもそもここは本当に怪異の世?

では、今まで友達だと思っていたのは、人間ではなく怪異だったのか?

とても常識では計れないような記憶が蘇って、

すぐには結論を出せようはずもない。

思考の輪に囚われそうになるその男子生徒の尻を、怪異たちが引っ叩いた。

「ほら!怖気づいている時間はないぞ。

 早く、その異界への門に飛び込むんだ。」

「百物語の正規の手続きを経たとはいえ、

 異界への門はいつ閉じるかわからない。」

「今回が上手くいったからといって、次も上手くいく保証はないんだ。

 さあ、早く。」

ゆっくり別れを惜しんでいる暇もなさそうだ。

その男子生徒は頷いて返し、真っ黒な大穴へと身を躍らせた。

大穴の中で振り返ると、怪異たちと目が合う。

お互いに視線を交わしただけだが、友達同士の別れの挨拶には十分だった。

やがて、上下左右もわからないぐちゃぐちゃに飲み込まれ、

その男子生徒は意識を失った。


 その男子生徒が目を覚ますと、そこは見慣れた学校の校舎の中だった。

構造こそ見慣れてはいるものの、学校の校舎はピカピカに綺麗になっている。

人の気配はなく、窓の外が真っ暗であるところから、

今が夜遅くであることが伺えた。

軋む身体を起こす。

車酔いのような目眩はあるが、身体に大きな異常は無さそうだ。

視線を泳がせて教室の中を見てみるが、

異界への門は既に閉じたようで、大穴は見当たらなかった。

それから、その男子生徒は、見回りに来た警備員によって保護された。

十年も前に学校で行方不明になった生徒が、

当時そのままの年格好でひょっこりと姿を現したとして、

学校は大騒ぎになった。

どうやらこれが、怪異の世で長く過ごした影響らしい。

すぐにその男子生徒は病院へ運ばれた。

間もなく、知らせを受けた両親が病院にやってきて、

その男子生徒のことを涙を流して抱きしめてくれたのだった。

そうしてその男子生徒は、家族の元へ帰ることができた。



 それから数カ月後。

その男子生徒は再び学校へ通うことができるようになり、

今では友達が何人もできるようになっていた。

身体の不調が長かったことなど感じさせないような快活さ。

怪異と友達になれたのだから、人間とも友達になることができるはず。

長い怪異の世での生活が、その男子生徒に自信を持たせてくれていた。

その男子生徒の生活を変えたのは、そんな自信だけではなく。

怪異の世から人の世に帰ってみると、

その男子生徒の身体を蝕んでいた病が、いつの間にか完治していた。

不治の病とされていたので、完治していたことがわかった時は、

その男子生徒や家族のみならず、医者も目を白黒させていた。

病の悩みが無くなったその男子生徒は、友達にも恵まれ、

学校生活を存分に満喫するのだった。



 ある日の夜、学校。

十人ほどの生徒たちが、こっそりと教室に集まっていた。

そんな生徒たちの中心に、その男子生徒がいた。

目的はもちろん、百物語をするため。

集まった生徒たちはさっそく百物語の準備をしていく。

今度はロウソクの本数を数え間違えないように、きれいに本数を揃えて並べて。

そうして準備は終わり、百物語が始まった。

集まった生徒たちの精一杯の怪談を耳にしながら、その男子生徒は思う。

異界への門が開いたら、怪異たちと何を話そう。

まずは病気を治してくれたお礼を伝えたい。

百物語は瞬く間に進んで、もうすぐ百話目。

その男子生徒の番だった。

「これは、僕の話なんだけど・・・」

その男子生徒は、自分が怪異の世へ行った時のあの話をした。

固唾を飲んで聞き入る生徒たち。

百話目が終わって、その男子生徒はロウソクの火を吹き消す。

すると、虚空にぽっかりと異界への門が口を開けていく。

そして、真っ黒な大穴の中の向こうでは、

懐かしい見慣れた怪異たちが顔を覗かせていたのだった。



終わり。


 百物語に一度失敗した生徒の話でした。


コックリさんにしろ百物語にしろ、手順を間違えるとたたりがあると聞きます。

この物語では、百物語の手順を間違えてただひどい目に遭うのではなく、

その後に続く話にしようと思いました。

百物語は百話目を話した人に良いことが起こるともされるので、

作中では男子生徒の病気が結果として良くなるようにしました。


百物語の手順を間違えて、怪異の世に連れて行かれて、

それでもなお人の世に戻ることができる。

そのために、怪異の方も百物語をするということを考えました。


お読み頂きありがとうございました。


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