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HARU  作者: 白野子猫
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黒いキューブ



一人暮らしのアパートに帰りコートを脱ぎテレビを点けるとアーティストのKEIが歌っていた。


KEI。日本のアーティストで不動の(キング)として君臨した彼は今は春人と面識がある男性だ。


類稀な作詞作曲とタイトルのセンスにカッコいい曲も切ない曲も世界的にヒットする曲もマルチに作り歌いこなす天才だった。容姿は飛び抜けてイケメンという訳ではないが愛嬌があり大らかな男性だ。


玉城春人37歳。18歳の時に両親から貰った100万を握りしめて単身東京に引っ越した。5万円のアパートに住みパチンコ店でアルバイトをしながらアイドル養成所に通いダンス、歌を習い地下アイドルとしてデビューして3年後にファンが上げた動画が1000万再生を超えCDデビューをして注目をされたが5年後解散した。


春人は自分のルックスとスタイル、そして歌声に自信があったが上手い人はゴロゴロいて結局売れるには曲に恵まれる事だけだった。


大嫌いなプロデューサーとも寝たのに曲には恵まれず解散後も事務所に所属はしていたが26歳を過ぎた元アイドルと組む人は居らず仕事もなかったのでホストで働きもした。


ホストでは1年でNo.1になり32歳まで働き、貯めていたお金で茨城県の水戸駅近くにカフェをオープンさせると若い子に人気が出て2店舗を経営して現在も黒字経営で安定した収入を得て買った2LDKのマンションに1人で住んでいる。


yasuと会ったのはメジャーデビューして2年目。歌番組で共演した時に楽屋へ挨拶をした。


年は春人と5つしか違わなくKEIは18の時にデビューして以来ヒットを出し続けていたので会えた時は単純に嬉しかったがアイドルに向いてないと言われた事で大嫌いになり同時に妬んだが曲は愛していた。


ソファーに座りテレビを観るとKEIの引退ライブの様子の一部を放送している。


KEIは42歳で引退の理由は明かされてないので様々な憶測が飛び交うが芸能事務所で働く友達から聞いた情報によると結婚している男性の故郷のアメリカで暮らす為だという噂が流れているらしい。


42歳なのに若々しく春人よりも若く見えて春人は自分の顔に手を当てた。


あんなに自身があった顔は年を取りシミや目には小皺も出来ているがそれでも綺麗な容姿をしているが春人は老いに勝てない現状が悔しかった。


美容クリニックに毎月通い、洋服代に生活費とカフェの収入だけでは足りない。唯一良いのはマンション代が無い事くらいだ。


春人は席を立ち洗面所へ行きお湯の設定をすると洋服を脱ぎお風呂場を開けると浴槽とシャワーの取っ手の間に黒いキューブが浮いていた。


「何これ…」


春人は黒いキューブに触れた。


気付くとエレベーターの中に立っていた。ボタンは上と下と開と閉のボタンだけ。裸だったので少し冷えて身体を手で覆った。


「いらっしゃいませ…あっ」


ドアが開くと多国籍の男性4人がいてそのうちの日本人の男性が挨拶をすると分かりやすく目線を外して奥の部屋へと入って行く。その間春人は下半身を手で隠してエレベーターを降りた。


奥の部屋からタオルを持って男性は春人の方へ小走りで駆け寄って来た。


「どうぞ」


「…ありがとうございます」


春人は会釈をしてタオルを腰に巻いた。


「寒くありませんか?」


男性は自分が来ているスーツの上着を春人に掛けた。甘いコロンの匂いがくすぐったく純粋な好意が嬉しかった。


「あの、ここはどこですか?」


「ここはお客様の夢を叶える場所でございます。私お客様の担当をさせて頂きます。中田と申します」


中田は七三の髪型で眼鏡を掛けて如何にも真面目そうな男だが優しい笑顔は魅力的な男性だった。


エレベーターを降りて男性の後に着いて行くとカウンター席の椅子を引いてくれて春人は座った。


中田はカウンターの向こう側に座ると1枚の紙を取り出した。


「願いを叶える前にこちらにご記入をお願いします」


春人は紙を見た。No.1356と書かれた紙には国、名前、年齢、生年月日、住所を書く欄がある。


「これって夢ですか?」


「エレベーターを降りたら夢かどうか分かりますよ」


意味深に言う中田にありすはエレベーターを降りたら目が覚めると解釈して紙に記入をして中田に渡した。中田は紙を受け取りパソコンに入力して手を止めた。


「それでは玉城様の願いは?」


「二十歳の誕生日に今の記憶を持ったまま戻って宝くじの1等のチケットとアーティストKEIが作詞作曲した曲全てとKEI作詞作曲の才能を私が貰ってアーティストになりたいです」


春人は己の欲望を言った。中田はパソコンに入力して打ち終わったのか手を止めた。


「他には何か追加したい事はありますか?」


「幸せになりたいです」


「玉城さんの幸せとは?」


「アーティストとして成功して素敵な彼氏がいる事ですかね」


「旦那さんは欲しくないんですか?」


「良い縁があれば欲しいですけど私理想が高くて」


「理想は?」


「優しくてイケメンでパワハラもモラハラもしなくて仕事に理解のある人でお金に困ってない人がいいです」


中田はパソコンに入力した。


「では乗ってきたエレベーターに乗り下のボタンを押して下さい。二十歳の誕生日の朝に戻ってますよ」


中田に言われて春人は会釈をして上着を返すと立ち上がりエレベーターのドアの上にHaruto Tamashiroと表示がされていた。春人はエレベーターに乗るとドアが閉まり下と書かれているボタンを押した。




ご速読ありがとうございます。

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